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選択



―あの人は誰?
―知らない。私は知らない。



地球に再び動力が戻ってから7日。
アルベルトの忘れ形見の赤い瞳は閉じられたままで、後見人樊瑞はその傍らに佇んでいた。
「サニー」
赤い瞳の主に言葉をかけるも、返事はない。
いつもなら「おじ様」と、はにかんだ笑みを返してくるこの幼子が、今は寝台の上に表情なく横たわっている。

アルベルトが行方不明になった時、父を救うため樊瑞の力になりたいと、
サニーは自ら望み証言に立った。
サニーが十傑集の揃う場に出たのは初めての事で、その手は冷たく足は震えていた。
そこで浴びせられた策士の辛らつな言葉。
「そんな父は―」
思わず口をついて出た言葉は樊瑞によって制された。
戸惑うサニーを包み込む大きな手と優しい表情。
それにサニーは安堵する。
すべてはおじ様に任せておけばいいのだとそう思った。

しかし相手は策士諸葛孔明。
BFの威を借るその者にBFに忠誠を誓う樊瑞が逆らうすべはない。
アキレスによってサニーは捕らえられ、策士の人形としてBFに扮せられた。 
自我の封じられた状態で、それでもサニーは必死に樊瑞に助けを求めた。
サニーにあったのは樊瑞への絶対的な信頼。
"おじ様”なら必ず助けてくれるとそう信じていた。
盲目的に。
だが、樊瑞はそれを知りながら目をつぶった。
それは主に対する盲目であり、すべては十傑集混世魔王としての判断で
そこにサニーの愛する“おじ様”の姿はなかった。

そしてサニーは壮絶な父の死を目の当たりにし、術を解かれた後に意識を失った。
その意識は7日を経た現在も戻っていない。
医者の話によると意識が戻る戻らぬは本人次第との事だった。

―サニーを篤く守り育ててきたつもりがこの結果。
樊瑞は大きく息を吐き、先日のレッドとのやりとりを思い返していた。



「足でまといになった者の口から秘密が漏れぬよう始末するのは忍の鉄則。
それに素晴らしきをあのまま生かしておいて何の利がある?
BF団に。ましてBFにだ。それはいつもお主が言っていることではないか。」

十傑集の一人素晴らしきヒィッツカラルドは、敵の能力者のテレポートに巻き込まれ半身が岩と同化した。
その始末を己がつけたと報告したのは帰還したマスク・ザ・レッドだった。
詳しい経緯を聞くため、十傑集のリーダーである樊瑞はレッドを執務室に呼んだのだ。

「生き残り生き恥を晒すより、十傑集のまま散った方が奴の名誉だろう?そうは思わないか?」
レッドにそう問われた樊瑞は何も言い返すことが出来ず、ただ唸った。
眉間に刻まれる深い皺。
「反応が実にお主らしいな。」
レッドは苦笑しながら、ふと思いついたようにこう切り出した。
「そう言えばお主が育てている衝撃の娘、あれ以来意識が戻らぬと聞いたが。」
眉間の皺を益々深め、樊瑞はただ「ああ」と相槌打った。
レッドは頷き、さらに続けた。
「その幼子にとって衝撃の死はさぞかし辛きことだったのだろう。将来戦いに身をおくとわかっていながらなぜ仮初の幸せなど見せた。幸を知らなければ“不幸”になることもないというのに。」

それは樊瑞も考えるところであった。
サニーは衝撃の娘として強大な力を持っていた。
それゆえ策士からは十傑集候補としての早期育成を要請されていた。
しかし樊瑞は時期尚早だと訴え、この10年自分の下で慈しみながら娘のように育ててきた。
樊瑞はせめて幼い間だけでもサニーに人並みの幸せを味わわせてやりたいと願い、それを実行したのだった。
その結果サニーはBF団に身を置きながら、血や戦、死とは無縁の世界に生きてきた。

だが所詮は仮初の夢の城。
眩惑の死によりすべてのまぼろしは消え去り、
幼いサニーにいきなりつきつけられたのは辛い現実だった。
そしてそれをうまく受け止められずにいるうちに今度はテレパスで繋がった父までも失った。
サニーがすべてを投げ出し己の殻に籠もるのは半ば当然といえる。
―自分は間違っていたのではないか。
樊瑞は何度も自分に問うてみた。未だその答えは出ていない。

「私は生まれながらに忍として育てられたのでな。もの心ついた時にはすでに血の味を知っていたぞ。」
それを聞き、樊瑞の眉がひそめられたのを見るとレッドは再び苦笑した。
「いやいや同情は無用。それがこの身に背負った道だ。そう育ててくれた事に恩すら感じている。その幼子をお主がどうしようと勝手だが――これ以上まぼろしを見せてなんになる。
苦しめたくないと思うなら、いっそ抱いてしまえばよいではないか。快楽に身を任せるのも悪くはないぞ?」

それに―とレッドは樊瑞の耳元で囁いた。

「馬鹿な!」
思いがけず露出する己の生の感情。
不快と困惑が樊瑞を支配する。
「報告は以上だ。では失礼する。」
そんな樊瑞を他所に、レッドはそう告げると姿を消した。
口元には笑みを湛えて。
樊瑞の耳に残るレッドの言。

―仙道だった主なら閨での所作は誰よりも心得ていよう。



部屋に響く時を告げる鐘の音。
早くも7日目の日が暮れる。
外では太陽は恐ろしく赤く、そして静かに燃えている。
沈み行く太陽を見やり、樊瑞はまた大きく息を吐く。
まもなく部屋には闇が訪れようとしていた。
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