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冒険航空会社モンタナ(モンタナ・ジョーンズ)同人小説
「 故宮の東・西太后の財宝を追え! 」
第11章  メカ・ローバー暴走す

「遅い! 遅過ぎるぞ、ギルトの弟子共は!」
 用意されたミルクティを優雅に飲み干し、ゼロ卿がティーカップを床に投げつけた。美しい陶器の食器が、金属製の床で四散する。
 そのかけらを、さも残念そうにスリムが掃除にやってきた。
「あーあ、ボス、また割っちゃって。・・・もう予備のカップはないんですよ」
「何ィ!?」
 塵取りに消えていく陶器のかけらが硬質な軽い音を立てる。
 割ってしまってから、ゼロ卿は後悔した。煙草をやらないゼロ卿にとって、口がさみしい時は、飲み物がないといられない。
 女性の呆れた溜め息が漏れる。
 メリッサは、これ見よがしにミルクティーを一口啜って、カップをソーサーに置いた。
 ゼロ卿の視線が羨ましげにメリッサのティーカップへと注がれる。しかし、ゼロ卿もプライドにかけてか、それ以上は態度に出さなかった。
「えーい、ギルトの弟子共め! 何もかも、あいつらの所為だ! 一体、何時間待たせるつもりなのだ、奴等は…!」
 怒りのやり場をなくした右手が、ステッキを振う。スリムが慌てて逃げ出すと、ゼロ卿は目標を失い、ステッキは意味もなく8を描いて空を切った。
「はっ!」
 メカ・ローバーの操縦席で、ニトロ博士が鼻に皺を寄せ不快を示す。あのステッキだが、かつて一度も老科学者には下ろされた事がない。それを知ってか、半ば外野顔でこの騒動を傍観している節がある。
 マントを翻し、ゼロ卿が展望のよい操縦室の前部に行く。その後ろ姿に向かって、メリッサが心中で一言呟いた。
「まぁ、こんなに埃が・・・」
 囚われているにしては縛られる事もなく、メリッサに対する扱いはかなり良いものがあった。軽い食事が、昨日から間隔を置ききちんと三度出ている。水は十分積んでいるのか、食後・食間の飲み物については、モンタナ達との旅行よりも頻繁に出てくる程であった。
 メカ・ローバーの両目の部分が、前面に設けられた二つの席になっている。左目の席に座るニトロ博士の横、右目の席へゼロ卿がどっかと陣取った。
「ニトロ博士」
 双眼鏡から目を離し、白衣の男がゼロ卿を睨む。
「まだじゃ」
 ニトロ博士が、短くそう答えた。
「ギルトの弟子共の姿なんぞ、何処にも見えん。ここまで戻ってくるのに手間取っておるのじゃろう。もう少し待つしか・・・」
 言いかけた言葉が、喉の奥で萎む。
 ゼロ卿が、すさまじい形相で博士を一瞥し、立ち上がった。
「ニトロ博士、お前が現状をどう分析するかなど、私には関係がないのだ。お前は、言われた事をやっておればよい。いいか!」
 ニトロ博士が、口の中で呪詛を唱える。
 しかしそれもまた、ゼロ卿の恐ろしげな態度で、二の句が告げられなくなった。
「何か文句があるのか?」
「いえいえ、・・・見張りを続ければいいんじゃろ?」
 苛々と席を立つゼロ卿の後ろ姿に、ニトロ博士もまた堪えきれない愚痴を零す。
「全く、十分おきに来おってからに・・・」
 ゼロ卿の姿が、階段下に消えた。
 日は既に東の空を離れて久しく、現地時間で11時を半分過ぎたところであった。
 ゼロ卿がモンタナ達に許した時間は、今日の朝まで。
 それが今は、もう昼近く。ゼロ卿でなくとも、確かに遅いと思ってしまう。
 メリッサは、つまらなそうに冷めかけたミルクティーを手元のスプーンでかき回す。未だ現れないモンタナ達への、メリッサなりの抗議だった。
 乾いた布でポットの下を押さえ、スリムがメリッサの様子を伺う。
「あの・・・お茶のお替わりは?」
「いえ、結構よ。ありがとう」と、メリッサはカップの上を手でそっと塞いだ。
 スリムが腰を屈め、メリッサに耳打ちする。
「ボスが最後のティーカップを割っちゃったから、お茶が余っちゃってるの。もしよかったら、飲んで」
「まぁ」
 事情を知ると、メリッサはまこと優雅な仕種で紅茶を飲み干す。白くて長い指がカップを置くと、スリムに優しく微笑んだ。
「それなら、もう一杯いただこうかしら」
「うん! 飲んで、飲んで!」
 スリムがカップに紅茶をなみなみと注ぐ。柔らかい香りが、再び辺りに広がった。
 ふと辺りを見ると、いつものメンバーに比べ1人ばかり足りない気がする。メリッサは思いついて、スリムにさりげなく尋ねてみた。
「お食事を運んで下さるのは、いつもあなたなのね。もう1人の男の方は? いないの?」
 スリムが更に、身を屈める。
「ホントは内緒なんだけど、スラムは今、買い物に行ってるんだ」
「お買い物?」
「うん。・・・ギルトの弟子共があんまりボスを待たせるでしょ。だから、ティーカップがなくなっちゃったの。こういう時は、いっつもスラムが買いに行くんだよ」
「まぁ、大変」
 メリッサは、いい加減な相槌を打った。
「でも、大丈夫だよ。バイクで出たから、すぐに戻ってくると思うんだ」
「そうなの・・・」
 メリッサは、横目で操縦席のニトロ博士を観察した。双眼鏡を覗き込み、相変わらずぶつぶつ言いながら窓の外を伺っている。
「ところで・・・」
「なに? お替わり?」
 慌てて、メリッサは両手でポットを拒んだ。
「いえ、違うの。その・・・もし、このままモンタナ達が現れなかったら、私は一体どうなるのかしら?」
「それは、オイラにはわからないよ」と、スリム。
「でも、ボスの考える事だから、きっと殺されちゃうんだよ。特に今日は、機嫌が悪いから。・・・痛かったら、大変だね」
 身の毛もよだつ可能性を、悪びれもせずいともあっさり声に出す。
 あのゼロ卿の様子ならば、本当にやりかねないと思う部分は多々あった。
 しかし、メリッサは特に動揺する風にも見せず、紅茶を一口飲むと、スリムに流し目を使う。
「ねぇ・・・」
「お替わり?」
 自信の流し目であっただけに、プライドの傷付いたメリッサの手が、微かに震える。
「レディの頼みを、聞いて下さらない?」
「うん、いいよ」
 内容も聞かないうちに、スリムが承諾をした。巨漢のスリムは、ゼロ卿の命令とスラムの入れ知恵さえなければ、大旨良心的な態度を取る。
「あっ! でも、逃がしてくれっていうのは、駄目だよ。オイラがボスに怒られちゃう」
「そんな事、わかっているわ。・・・そうではなくて、ゼロ卿に、私をどうするつもりなのか聞いてきて欲しいのよ」
 スリムがにこりと頷いた。
「そんなんなら、いいよ。ボスに聞いてきてあげる」
「ゼロ卿は、メカ・ローバーの外に出たみたいよ。外の空気でも吸っているのではなくて?」
「わかった! そいじゃあ、行ってくるね!」
 ポットを持ったまま、スリムが階下に消えていく。
 メリッサが、ニトロ博士に気付かれないよう音を静め立ち上がる。
 と、どうした事が、再びスリムが戻ってきた。慌てて席につくメリッサに、スリムが「どうしたの?」と問う。
「い、いえ・・・。何でもないわよ」
「逃げようったって、駄目だからね」
「わかっているわよ」
 スリムが、手にしているティーポットを、簡易テーブルの上に置く。
「オイラが戻ってくるまで、お替わりは自分でしててね。すぐに戻るけど」
「わかったわ」
 今度こそスリムが階段を降り、辺りは静かになった。耳をすましても、階段を昇る人の気配はしてこない。
 メリッサはそっと立ち上がると、ティーカップとポットを床に置き、簡易テーブルからテーブルクロスを外した。足音を忍ばせ、テーブルクロスを持ってニトロ博士の後ろに近付く。
「えいっ!」
 気合い一発、ニトロ博士の頭にそれを被せると、四つあるクロスの角を引っ張り手早く結んでしまった。
 不意を突かれた見張り役は、たまらない。慌てて被りものを外そうとしたが、双眼鏡を覗いていたので、両手もまたテーブルクロスに巻き込まれている。
「こらーっ! こ、これを外さんかぁ!」
 怒鳴りながらばたついてみても、手が結び目に届かないので何もできなかった。
「ちょっと失礼」
 一言断って、メリッサはニトロ博士の横からメカ・ローバーの操縦席パネルを覗き見る。
 各種メーターやボタン、レバーの類いが、席の随所に設置されていた。車しか運転した事のないメリッサには、見てもわからないものが幾つか混じっている。
 しかし、時間がない。まず、このメカ・ローバーを発進させなければ。
 メリッサは、当てずっぽうでレバーの一つを引いた。
 何も起こらない。
「そうね、まずエンジンをかけなくっちゃ」
 ぼこぼこと膨らむテーブルクロスの風船には目もくれず、メリッサは片っ端からボタンを押し始めた。
 幾つか押しているうち、操縦席に振動が走る。どうやら、エンジンがかかったようである。
 次に、目についたレバーを手当たり次第に上げ下げてみる。
「きゃあ!」
 がっくん。
 操縦席にいる2人は、宙に浮いた。
 その直後、メカ・ローバーが猛烈な速度で後退を始める。簡易テーブルが倒れ、陶器の壊れる音がした。
 袋詰めのニトロ博士とメリッサは、2人揃ってパネルに叩きつけられ息が詰まる。
 そこで、何かを押す音がした。ニトロ袋が、先程のレバーを逆に下げてしまったようだ。
「えっ?」
 今度は、後退したその勢いで、メカ・ローバーが猛進を始めた。
 ニトロ博士はシートに、メリッサは床にまたも叩きつけられる。
「あ痛ったぁ・・・」
 ようやく立ち上がり、神経質に服の埃を払う。
 操縦席では、袋を被った状態でニトロ博士がぐにゃりとしている。二度もおかしな恰好で打ちつけられた為、目を回してしまったのであろう。
 左目の操縦席に用意されたガラスから、外を眺めてみる。
 と、メカ・ローバーの胸にあった筈の昇降用タラップが収納されている事に気がついた。しかも、ゼロ卿とスリム、そしてスラムまでもが全速力で何もない畑を走っている。
 メリッサは、思案げに眉をひそめた。これでは今更外に出る訳にもいかない。
 かわいそうかとも思ったが、メリッサはそのまま当てずっぽうの操縦でメカ・ローバーを暴走させた。今止めても、悪党共の得にしかならないからである。
 操縦席の遥か下、玉乗りパンダの玉が、ゼロ卿一味のすぐ後ろにまで迫っていた。あたふたと走る姿のゼロ卿は、この上もなく滑稽に映る。
 ゼロ卿が、スリムとスラムに何がしかをわめいているらしい。盛んに後ろを振り返り、メカ・ローバーとの距離を気にしている。
「こんな騒動は、ちょっとレディには相応しくないのだけれど・・・」
 疾走するパンダの操縦席で、メリッサは首を捻った。
 先程までは、紛れもなく囚われのヒロインであったのに、今は一人メカ・ローバーを駆る操縦者。これでは、またモンタナに何か言われてしまいそうである。
 白いものが視界に入る。正体を確かめようとして、メリッサは目を細め微笑む。
 空に舞っていたのは、モンタナの操縦するケティ号の姿であった。


「おい!」
 ケティの操縦席で、モンタナは畑を爆走するメカ・ローバーにあんぐりと口を開けた。パンダ・メカは、右に左にと3人組の男達を追い回している。
 メカ・ローバーに追われているのは、ゼロ卿一味。そして、その操縦席に見えるのは、囚われている筈のメリッサではないか。
「もしかしたら、何かやらかすんじゃねェかなとは思ったけど、まぁさかここまでやってくれるとは・・・」
 モンタナの本音は、嫌味ではなく讃美だった。
「どうするの、モンタナ?」
 副操縦席に座り、アルフレッドも同じ光景をキャノピー越しに眺めている。戸惑いはモンタナ以上で、完全に思考が停止しているらしい。
「あのメカ・ローバーに乗り移る方法がありゃあ、一番なんだが」
 パンダ型メカを空から分析し、モンタナは悔しそうに舌打ちをした。
「・・・っくそう! このままじゃ何もできねェ。一旦、着地するぞ」
「ゴメンね、モンタナ。僕が君の代わりにケティを操縦できないばっかりに・・・」
「いいって」と、モンタナは陽気に首を動かした。
「俺があっちに行っちまったら、お前はこいつを着地させられねェだろう。気にすんな。離着陸は、一番難しいんだ」
 モンタナの心遣いに、アルフレッドの劣等感が少しばかり軽くなる。
「・・・メリッサが操縦してるんだ、モンタナ。ケティが潰されない所にね」
「あったりめェよ! 俺の大事なケティが、あんなのに壊させてたまるか!」
 モンタナはケティを大きく左に旋回させ、メカ・ローバーの後方に600メートルは距離が確保できるよう着地させた。 ケティを降りたモンタナ、アルフレッド、チャンの3人から、真っ赤なパンダの尻が見える。
「さぁて、どうやってあれに近付くかだが・・・」
 遠目にメリッサの奮闘ぶりを傍観していたモンタナであったが、背筋に何か走るものがある事を知った。
 メカ・ローバーの頭が、こちらを向いている。Uターンしているのである。
「モンタナさん・・・」
 チャンがモンタナの腕にしがみついた。
「わ・・・バカ! よせ、こっちに来るな! ・・・メリッサぁ!」
 メカ・ローバーの使う玉乗りの玉が、次第に大きく見えてくる。
 それに合わせ、ゼロ卿一味もモンタナ達を目標に走っていた。こちらを巻き込んで、メリッサにメカ・ローバーを止めさせようという魂胆であろう。
 600メートルの余裕など、あっという間に100をきった。
「ケティに戻れ!」
 モンタナは2人に声をかけたが、チャンが思わぬ行動に出た。
 余程驚いたのだろう、チャンはアルフレッドの手を引いて走り始めてしまったのである。
「仕方ねェ!」
 モンタナは急ぎケティを発進させる。滑走していた跡を、チャンとアルフレッド、そしてゼロ卿一味に赤パンダが追随していた。
「畜生…!」
 チャンとアルフレッドの影に、ゼロ卿一味の影が重なる。目の前の出来事ながら、モンタナには手も足も出なかった。
 5人は一緒になりながら、息も絶え絶えにメカ・ローバーの前を走っている。
 モンタナはケティの高度を下げ、メカ・ローバーの操縦席にケティの操縦席を向けてみる事にした。
 パンダ・メカの右舷から機体を近付け、正面を飛び抜ける際、メリッサと目を合わせる。
 視界を遮るようにメカ・ローバーの前を通り、右手の空へ上昇をかけた。
 一瞬の対面であったものの、上手くいったようである。
 メリッサも元々同じ事を考えていたらしく、パンダ・メカは突如スピードを落とし停止した。
「君は、本当のお嬢様だ」
 がっくんという激しい止まり方が、いかにも彼女らしい。もしニトロ博士が側にいたら、大した剣幕になっているのであろう。
 メカ・ローバーの前で、足の動かなくなった5人が転がった。今のうちにケティを着地させ、あの2人とメリッサを助け出す事ができればと、モンタナは思う。
 しかし、メカ・ローバーの操縦席でメリッサが何やらジェスチャーをしているのを見、考えが変わった。
 もう一度低空で旋回し、メリッサの動作を確認する。両手を下ろす動作の後に、腕をクロスさせる。下りてくるなというサインのつもりとモンタナは見た。
 畑に根が生えていた筈の五人が動き出す。ゼロ卿がステッキを振り回し、メリッサに向かって何かをわめいていた。
「あいつら…」
 モンタナは、ぎりりと唇を噛む。
 アルフレッドの後ろにスリムが、チャンの後ろにスラムがついた。
 悪党共の手に銃があるとしたら、メリッサもメカ・ローバーから降りない訳にはいかないであろう。アルフレッドとチャンが人質になっている。
 面白い事に、これだけ上空を旋回しながら、あのゼロ卿が一度空を見上げたきりであった。
 まず、メカ・ローバーの奪回が先決という事のようである。上空にいるモンタナには、全く以て目もくれない。
 操縦席でメリッサが、再びジェスチャーを始めた。今度は、両手を下に下ろす動作をしきりと繰り返すのみである。
 遠くから見たメリッサが、笑っているように感じられた。
「やれってか・・・」
 伝わるか、伝わらないか。モンタナはケティの操縦席からメリッサに、親指を立て、右手で精一杯のGOサインを示した。
 メリッサが、ジェスチャーを止める。どうやら、通じたらしい。
「少しばっかり危険かもしれねぇが、4の5の言ってらんねェか。・・・行くぞ、ケティ!」
 メカ・ローバーの胸が開き、昇降用のタラップが現れる。
 タラップが地面に下りた。
 メリッサが、赤パンダの胸から顔を覗かせる。
 真っ先にゼロ卿が、タラップを駆け上がろうとする。
 モンタナはタイミングを計ると、ケティの機体を真横に倒す。ケティは失速し、メカ・ローバーのタラップ下目掛け際どい低空飛行を敢行した。

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