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mo9
冒険航空会社モンタナ(モンタナ・ジョーンズ)同人小説
「 故宮の東・西太后の財宝を追え! 」
第9章  地下通路

 故宮の北西、北海という大きな池の中洲と池の周辺に、その北海公園はあった。北京の繁華街にある公園の中でも、比較的大きな方に入るとの事である。
 中洲に入る為の東門は、やはり夜になったので閉ざされてしまった。
「ここも駄目なのかな?」
 抱えていた鞄を抱きしめ、アルフレッドが項垂れる。
「もう8時を過ぎちゃったよ。そろそろ故宮に入らないと・・・」
 気ぜわしく足を踏み鳴らすアルフレッドには、焦りの色が表れている。
「そんな事言ってもよォ・・・」
 モンタナとて宛てはなかったが、取り敢えず周囲を見回してみた。
「こうなりゃ、池の周りから探りを入れてみるか」
「そうだね」
 止むを得ず3人は東門を離れ、南に向かって歩き出した。右回りに、北海を一周しようというのである。
 夜の北海公園は、見通しがよい割には照明が少なく、かなり暗く感じられた。夜である事も手伝ってか、道を外れると、人通りはほとんどなくなってしまう。
 池の周囲を歩いているので、右手には常に池と中洲が、そして左手には北京の繁華街があった。
 中洲の建物もそれらしいが、池の周囲にも史跡と思しき建造物がある。
 池の南東にさしかかった頃、建物の西側で、アルフレッドが立ち止まった。
「ねぇ、モンタナ! ねぇ! ここに井戸があるよ!」
「どうした!」
 モンタナは、チャンを後ろにアルフレッドが指さす場所に走り寄った。木造の建物の影で、アルフレッドが盛んに動き回っている。
「ほら、この井戸。枯れていて、もう使われてはいないんだ」
 アルフレッドが、拳程の石を井戸に投げた。水を弾く音はせず、乾いた土の音がする。
「それなのに、ほら。積み上げてある石は角がこんなに鋭くなってる」
 ふっくらとした指が、幾つもある石の隅を指した。
「なるほどね。水周りの石にしちゃ、きれいすぎらァ」
 モンタナが目の色を変える。雨に洗われてはいるものの、苔や湿気のたまった跡もない。
「怪しいな、こりゃ」
「だろう? この井戸は、1度だって水を汲み上げた事なんてないんだよ。別の目的でここに作られているんだ、おそらくは」
「入ってみるか?」
 モンタナの青い瞳が、きらりと光る。
「蝋燭に火をつけてね」
「勿論!」
 モンタナはまず蝋燭に紐を結びつけ、真横になったところで釣り合うよう調節した。その蝋燭に火を灯し井戸にゆっくりと下ろしてゆく。
 火はゆらゆらと揺れながら、次第に小さくなっていった。
「大丈夫、火は消えねェぞ」
 紐を延ばし続け、モンタナは安堵する。
「それにしても、よく火が揺れるね」
「井戸の空気が動いてるんだ。俺達の思っている通りって事かもしれねェ」
 モンタナの手から、蝋燭の重みが消えた。
「どうやら、井戸の底まで火は消えなかったようだな。次は、俺達の番だ」
「ぼ、僕達の番って・・・」
 それが自分も含まれるのだと知り、アルフレッドが途端にげんなりと頭を垂れる。
「行くっきゃねェの! ほらほら!」
 井戸の水を汲み出す為の縄をしっかりかけ直し、まずモンタナが、そしてチャンが、しんがりにアルフレッドがついて井戸の底へと下りる。
 地中の湿り気が漂ってはいたが、案の定、井戸の中には過去に水を張った形跡が何処にもなかった。
 次の目印を探しながら、チャンがアルフレッドに問う。
「この井戸に不審を抱いた者はいなかったのでしょうか?」
「もしかしたら、いたのかもしれません。ただ・・・」
「ただ?」
「井戸を調べるのには、危険が伴います。悪戯に事故を引き起こすべきではないと考えたのなら、誰も入ってはこなかったでしょう。この井戸を調べるのは、我々が最初という事になるのだと思います」
「よく考えていますね」
「それだけに、いわくありげな井戸という気がしませんか?」
「はい」
 モンタナは、井戸の底と、筒状になった側面の石を一つ一つ調べてみた。他に比べて浮き上がっている石、色や形の違う石がありはしないかを、丁寧にライターの明りで確かめる。
「人が通れる位のものはある筈なんだが・・・」
 井戸の底に跪き、一番底寄りの石一列を順に比較してみる。大きさはほぼ同じ、色もこれといった違いはない。
 が、おかしな事に気がついた。石と石の繋ぎ目が、妙に狭いものが幾つか続いている。石同士の隙間がほとんどないものは、1、2、3・・・、全部で5箇所もあった。
 ライターを近付けてみると、火が異様に煽られて揺れる。この近くから、風が吹き出している場所があるからであろう。
「見つけたぞ」
「えっ!」
 アルフレッドとチャンが腰を屈め、モンタナの手元に吸い寄せられる。
「刻み目を入れてあるが、こりゃ、一つの石を6つに見せているだけだぞ。・・・動かせるかもしれねェ」
 モンタナの手が慎重に、六連の石のそれぞれ端を押した。アルフレッドとチャンは、固唾を飲んで見守っている。
 モンタナは、石を押し続けた。風が来るのだ、この向こうに空間がある事を疑う根拠は何処にもない。
 重い手応えに、自分のやり方への疑問は出てくる。
 が、モンタナは口の端を曲げにやりとした。石の擦れる音がしたのだ。
 かたん。一見して横6つに並んだ石組が、するりとそこだけ奥へとへこむ。油断なく押してゆくと、やがてすっぽりと石の姿はなくなってしまう。
 下に、一列、石6つ分の穴ができた。幅にして約90センチ。大人が通るには問題のない幅だろうか。
 押せるところまで押しきった時、井戸全体が微かに震えた。
「モンタナ!」
 驚いたアルフレッドが、背中にしがみついてくる。チャンは、両手で短剣の入った鞄をしっかりと抱えていた。井戸を見回すばかりで、戸惑いの余り声すらでない。
「慌てるな、罠じゃねェ!」
 モンタナは井戸の穴を睨んで、一喝した。
 横長の穴がライターの明りの下、壁面の一部が一斉に奥へとへこみ、少しづつ口を開けてゆく。
 ライターの火が揺れた。
「あったな、秘密の入り口が」
「ああ!」
 へこんだ壁面は上へと持ち上がり、やがて完全に見えなくなった。後には、横が90センチ、縦が180ばかりの入り口が現れ、トンネルが更に奥へと続いている。真っ暗で今は何も見えないが、人の利用した形跡は、きっと何処かにある筈であった。
 モンタナは背負っていたリュックを下ろし、カンテラを取り出し、ライターの火を移す。
 カンテラは、ランタンとは異なり一方行だけを強く照らしてくれる。洞窟などの探検には欠かす事のできない照明として、モンタナは愛用していた。
 井戸に、ぱあっと明りが点る。
「行くぞ」
 カンテラを掲げ、モンタナは先に立ってトンネルに侵入する。
「モ、モンタナぁ・・・」
 距離ができあがらないうちにアルフレッドが、そしてチャンが後ろについて、トンネルの中に全員が入った。
 井戸の入り口を潜ると、途端にカンテラの明りが暗く感じられる。
「広くなったんだ!」と、アルフレッド。
「こりゃ、スゲェや」
 トンネル特有の圧迫感が消失し、周囲が開けた。計ってみると、幅も高さも、車一台が余裕で通れる程の空間を確保してある。
 アルフレッドは、壁に手を触れ、その表面の滑らかさに驚いた。
 天井などの表面は土の層が剥き出しになっているのではなく、粘土を塗り表面を仕上げた跡がある。足元には白い敷石を並べ、随分と手を加えた様子を伺う事ができた。
 それにしても、大した手間のかけようである。
「何でこんなに広いんだろう?」
 カンテラをあちこちに翳しながら、モンタナは先を急いだ。
「大勢の人間が通るのに必要だったのかな」
「それもあるけど…」
 アルフレッドがチャンと共に、すぐ後ろにまで追いついた。
「敷石を見てごらんよ、モンタナ。真ん中の石と両脇の石と、色が違うだろう」
 カンテラで照らしながら、モンタナは敷石を踵で蹴る。
「色どころか、大きさも形も違うじゃねぇか。ってェ事は…」
「そう。このトンネルは、一度完成してから、幅を広げ直しているんだ。それも随分と後になってからね」
「土が沢山出るから、何をやってるのかバレちまうだろう」
 カンテラを掲げたまま、モンタナは手を叩いた。
「それもあって、井戸なんだな! 土を何度も掘り直すって事にすりゃあ、不思議がる奴ぁいねぇ」
「だと思うよ」、アルフレッドが周囲を見回した。
「抜け穴を掘っているのがバレては困る。でも、やらずにはいられない。そんな事情があったんだ。…この幅、それに高さ。籠が通ると考えれば、筋が通るかもしれない」
「籠? 人が肩に担いでいく、あの乗り物の事か」
「その通り。もし、これが故宮にまで繋がっているのだとしたら、清の王族の女性が利用したという証拠になるかもしれないんだよ!」
「清の人間は、籠を使ってこの中を移動したってェのか? てめェで歩きゃいいのによ」
 先を照らして歩きながら、モンタナは呆れ天を向く。
「男はそれでもいいんだよ。抜け穴を使うなんて時は、よっぽどの緊急時だ。移動する人数は少ないに越した事はない。穴も小さい方がいい筈なんだ。土の量で、誰に知れてしまうかもわからないしね。」
 アルフレッドがチャンに目配せをすると、チャンは「纏足の事ですね」と答えた。
「纏足? 何だいそりゃ?」
「満州民族の風習です」と、チャンが笑顔で説明する。
「女性の足を小さく纏めてしまうもので、これにより、女性は履物を履いて長く歩く事ができなくなると言われています」
「随分とひどい事をするもんだな」
「女性から男性に近付く機会を減らすのが目的とか」
「・・・なぁるほどね、それで籠な訳か・・・」
 間を置いてから、モンタナは相槌を打った。跡目争いからきた教訓なのか、単に男の都合なのか。今一つピンとこない感覚なので、モンタナの反応はクールである。
 飛行艇のケティと冒険程に心を揺り動かしてくれる刺激を、モンタナはまだ他に知らなかった。
 そもそも男の喜びとは、空に、大地に、海に、そして未開の謎に挑む事ではないのか。女性であるメリッサまでもが冒険を好む性分である為、モンタナは他の人間も冒険が嫌いではなかろうと勝手に誤解する傾向がある。
 それがつまりはどういう事を指すのか、モンタナは全くわかっていない。
「輿を使うと、天井はもっと高くしなくちゃいけない。だから、籠を使ってここまできたんだと、僕は推理するんだ」
「へぃへぃ・・・」
 後ろで講釈をたれる得意げな従兄弟に、モンタナは投槍な返事をした。
 モンタナにとっては、男の都合よりも、この先がどうなっているかに興味が沸いてくる。
 トンネルは緩やかな蛇行をしながら、依然尽きる事なく先へと続いている様子だった。幅は狭くなるでもなく、広くなるでもなく、カンテラに照らされただけその正体を明かしてゆく。
 一体どの位の距離を歩いただろうか。アルフレッドの口数が少なくなって、久しいような気もする。チャンは、トンネルに入った時と同様、すっかり黙りこくってしまった。
 三人の足音と息遣いだけが、広いトンネルにこだまする。
 このトンネルが何かの抜け道だとしても、故宮にまで通じているという証拠は、誰一人握っていない。たった10分・20分この中で過ごしただけなのに、自分のしている事に自信がなくなってくる。
 北京の何処か別の場所に出てしまいやしないか、それどころか行き止まりだったらどうしよう。アルフレッドやチャンの胸には、止むを得ないとはいえ、疑惑の芽が育ちつつあった。
 トンネルの暗さは、中にいる者の闘志に水を差す。それが、アルフレッドとチャンにはえらく堪えていた。
 カンテラを掲げ、モンタナはひたすら前に進む。モンタナはこのような時、思考を停止させ勘だけを働かせる。
 冒険の失敗の中でも、自身との葛藤に負ける事を一番格好の悪いものと思っているからに他ならない。
 そんなモンタナの勘に、警鐘が鳴り響いた。トンネルの行く手に天井の四角い箇所がある。奥行きは4メートル強、そこだけが壁も天井も石で覆われている。
「おかしいな・・・」
 念の為に、モンタナは一度足を止めた。
「大丈夫だよ」と反論するのはアルフレッド。
「皇帝とその一族が使っていた抜け道なら、罠なんかある訳がない。自分達が危なくなるんだ、そんな事はしやしないって」
「しっかしなァ・・・」
 ずかずかとモンタナを抜くアルフレッドが、空気の圧迫感で足を止めた。
 四角いトンネルのその向こうには、今まで通りの粘土で覆われた半円形のトンネルが始まっている。しかし、それも5メートルばかりの話。突如トンネルは終わっていた。
 モンタナはカンテラを翳す。灰色に磨かれた岩が殊更白く光を跳ね返した。大きな一枚岩が、行く手を塞いでいるのである。
 時計を見、アルフレッドがモンタナの判断を仰ぐ。ここで悪戯に時間を過ごし、時間を無駄遣いしたくはない。
「どうしますか?」
 チャンの問いに、アルフレッドが唸り声で答えた。
「この石を動かす仕掛けも、きっとこの近くにある筈だ」
 モンタナは、四角いトンネルの手前から岩の手前まで、周辺をくまなく調べてみた。
 粘土に覆われた壁の何処かにスイッチかそれに代わるものがきっとある。そう信じて、モンタナの調査はしばらく続いた。
 モンタナが姿勢を変える度に、カンテラの照らし具合が変化する。ある時は足元を照らし、またある時は天井近くが明るくなる。
 敷石で踵を回す音がしなくなった。
「おい、2人共、こっちに来てみろ」
「えっ? 何、何?」
 アルフレッドとチャンがカンテラに吸い寄せられると、モンタナは壁の一角を指さした。
 5メートルしかない粘土の壁の中間地点、ちょうど腰の辺りの高さに四角い石が埋め込まれている。そこに何かの印と小さな穴が穿たれていた。
 穴の大きさは、大人の拳大。奥行は見た目以上にありそうであった。
「穴の上にある、この印は何だ?」
 モンタナは、印の周囲にぐるりと円を描いた。
 赤い光を放つそれが、カンテラの光を怪しく弾く。
「こ・・・、これは、宝石だよ! きっとルビーだ」
「ルビー? 何で、こんなところに・・・」
 言いかけてから、モンタナははっとした。アルフレッドと顔を見合わせ、同時にチャンへ視線を移す。
 度肝を抜いたのは、チャンだった。話が一向に飲み込めずにいる。
「わ、私が何か・・・」
「チャンさん」アルフレッドが切り出した。
「鳳凰の短剣ですよ。きっと、ここの鍵になっているんです」
 チャンが、まさかという顔をした。
 アルフレッドが、尚も食い下がる。
「この穴を見て下さい。ちょうど短剣の大きさに似てはいませんか? もし、ここが清の皇帝に関わりのある抜け道なら、鍵はその一族と信頼のおける部下にしか扱う事ができなかったでしょう」
「それが、二振りの短剣だと・・・?」
「鳳凰の短剣には、鳳凰の目にルビーが使われていました。これ以上に相応しい鍵があるでしょうか?」
 チャンは、しばらくの間無言だった。預かり物を道具として使う事には、依然抵抗があるようである。
「チャンさん、一度でいいんです。僕達に試させて下さい」
 チャンが、アルフレッドと、そしてモンタナの目を正面から覗き込んでくる。真意を探ろうとするようにも感じられるその眼差しにも、2人は決して怯まなかった。
 息を吐き、チャンが苦笑する。
「・・・わかりました。やってみましょう」
 鞄を置き、チャンが跪いて厳かに布をはぐると、鳳凰の短剣をアルフレッドに手渡す。
「頼むぜ、アルフレッド」
 モンタナがアルフレッドを手伝うつもりで、その手元をカンテラでしっかりと照らす。
「やってみるよ」
 アルフレッドが、コの字型の鍔にいる鳳凰の向きを確認し、頭が上になるようにして鞘ごと穴に差し込んでみた。
 時折ひっかかりかりあるものの、ほぼ抵抗もなく短剣が入っていく事に、3人は驚いた。
 穴の大きさは、短剣の鞘よりも一回り大きい程度。それなのに、ぐらつくでもなく、短剣は差し込む程に、手元が確かになってゆく。
 鞘を飾る黄金の輝きが、ほとんど穴の奥へと消えてしまった。鍔のところまであと1・2センチというところで、アルフレッドの手に、抵抗感が戻ってきた。
 アルフレッドが押す事を諦めると、「回してみろ」とモンタナは囃立てる。
 時計回しに捻るアルフレッドが、喜色を浮かべた。鳳凰の短剣が、穴で小さな円を描く。
 すると、どうであろうか。砂の擦れる耳障りな音がしたかと思うと、行く手を阻む大きな岩は、左にゆっくりと移動を始めた。トンネルの右側から、その先の抜け道が黒く顔を覗かせてくる。
「やった! やったよ!」
 モンタナはアルフレッドと、互いの手をぶつけ合い成功を喜んだ。
 呆然とするチャンにも、2人は祝福を送る。
 カンテラの明りを受けているチャンの表情が、次第に緩んできた。
「お流石です、アルフレッド先生!」
「いえ、それ程では・・・」
「よし、先を急ぐぞ」
 モンタナは障害物のなくなったトンネルの、更にその先へ顎をしゃくる。
 先程の岩が塞いでいた部分にさしかかると、モンタナはまたも石の光沢にカンテラを掲げる。
 やはりと言うべきか、岩で塞いでいる部分だけが四角いトンネルを形成していた。4メートル強という奥行きも、すぐ後ろにある四角いトンネルと全く同じである。
 もし、トンネルの中でこの巨大な岩に前後を塞がれてしまったら、おそらくは生きて地上には出られまい。
 モンタナは、背筋に寒気が走るのを覚えた。
 アルフレッドがついてくる。そして、チャンが鍵穴から鳳凰の短剣を抜き、2人の後ろで手を振った。
「おい!」
 モンタナは、カンテラをアルフレッドに預け、急ぎチャンを連れに戻る。
 短剣を抜いた途端に、開いた筈の岩の戸が元の場所に戻り始めたではないか。
 砂を踏みつける容赦のない岩の音がする。モンタナはチャンを引き寄せるようにして先導しながら隙間を抜けた。
 ようやく通り抜けた男達の後ろで、岩が容赦なくトンネルを分断する。閉まりきった時の実に重そうな音が、チャンの顔を蒼白にした。
「もう大丈夫だ、チャンさん」
 その肩を優しく叩くモンタナの笑顔には、まだまだ余裕が感じられる。
 礼を言葉にしようとしたチャンであったが、それはすぐにはできなかった。
 4メートルの厚みを持つ岩に挟まれたかもしれないのである。心を乱すなというのが、無理な話かもしれない。
 モンタナは、気持ちだけを受け取って、アルフレッドからカンテラを取り上げると、再び先頭に立った。
「何で、あそこだけに四角いトンネルを2箇所も設けたんだろう?」
 従兄弟と友人の無事に安堵し、アルフレッドが歩きながら問う。
「そんなの決まってんだろう」と、モンタナは一蹴した。
「決まってるって、何が?」
「もしあの穴に、鳳凰の短剣以外のものを入れてみろ。後ろも塞がれて、俺達は一生あそこに閉じ込められっぱなしだ」
「それじゃあ、あの岩の仕掛けは・・・」
「一つは、扉。そしてもう一つは、罠ってとこだな」
 罠と聞いて、アルフレッドが言葉を飲んだ。
「罠って・・・」
「あの鳳凰の短剣がありゃ、順風満帆。怖がる事ァねぇだろ?何を心配してんだよ。」
「考えてみてよ、モンタナ。故宮から脱出する時、あの岩を、こちら側からどうやって開けるの? 鍵穴は、向こうなんだよ!」
 モンタナは、鼻を鳴らした。
「気がつかなかったのか? 鍵穴は、こちら側にもちゃんとあったよ」
 アルフレッドが脱力する。
「あっそう・・・」
 岩の扉を潜って間もなく、3人は突き当たりにぶつかった。

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