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港南区にあるマンション、ルナパレス港南のとある一室に大きな声が響き渡った。
「たっだいま~。」
この部屋の住人、天野舞耶は帰宅を告げ、履いていたロングブーツを投げるように脱ぎ捨てた。
「お帰り~~!」
少しくぐもった声がキッチンから返ってくる。
玄関を抜け、物が散乱した自室に足を踏み入れた舞耶は、途端に鼻をふんふんと鳴らし目を輝かせた。
そしてそのままキッチンに向かう。
全開にされたキッチンの扉の向こうには、薄ピンクのエプロンを纏ったルームメイト、芹沢うららがいた。

「わーー!おいしそうな甘いニオイ~~!何作ってるの?」
目をきらきらさせながら、舞耶がボールの中のクリームをすくってなめる。
「ん~~。オイシイ!」
「こらこらマーヤ、意地汚いわよぅ!そっちのなら食べていいから。
明日はバレンタインだからねぇ、チョコ作ってるのよぅ。」
「えー、もうそんな時期だっけ!すっかり忘れてたー。」

あははーと笑いながら、舞耶はテーブルの上に所狭しと置かれているできたてのチョコに攻撃を開始する。
「たくさん作ったし、マーヤも克哉さんと達哉君にあげなさいよぅ。きっと喜ぶから。」
「え~?別にいいわよ。達哉君、甘いもの嫌いそうだし、克哉さんは自分で作ってそうだし。
それに、私の食べる分減っちゃうし…。」
口のまわりをチョコレートでべたべたにしながら、舞耶が文句を言った。
「あんたってコは…。」
苦虫を噛み潰したような顔で、うららは盛大にため息をついた。
「マーヤの分はまた作ってあげるからさ、とにかく二人に持っていってあげなさい。ね?
…あ、ねぇねぇ。まだやる事があるからさ、手伝ってもらえる?」
「いいよー。口と手を洗うからちょっと待ってね。」
とてとてと、舞耶は流しに向かう。と、その足が止まった。
「あれぇ?なんかこっちのチョコ、形が変じゃない?中がからっぽ…失敗したの??
それに、ここに置いてあるのってもしかして……。」
そう言って舞耶は机の隅に置かれた小箱の中身を一つ取り出し、光にかざした。
それは光を反射し、きらきらと淡い光を放つ。
「これ、なにかに使うの?」
不思議そうに舞耶はうららを振り返る。
「うふふふ!ご名答!普通のチョコじゃありきたりだから、今年はちょっと趣向を変えまして…」
うららは楽しそうに笑い、自分の計画を話し出した。








翌日。


「チャーオ!」
勢い良くオフィスに飛び込み、うららは雇い主に声を掛けた。
「ああ。」
いつも通り、パソコンに向いたままパオフゥは振り向きもせず返事をする。
うららは背を向けたままのパオフゥに歩み寄り、その肩をぽんぽんと叩いた。
「ね、パーオ。」
「なんだ。」
「はい、コレあげる!」
振り向きざまに渡された藤の籠の中には、色とりどりのリボンをちょこんとつけた、大きさといい形といい、卵によく似た茶色いモノがいくつも入っていた。

パオフゥは首を軽くかしげ、椅子に深く座りなおし、うららを見上げる。
「こりゃなんだ?」
「チョコよぅ!今日はねぇ、バレンタインなのよぅ!」
にっこりとうららが笑う。
パオフゥはとても良い笑顔で微笑むうららに少しドギマギしながらも、皮肉を忘れない。
「いい年して菓子屋の陰謀にはまってるのか!くだらねぇなぁ!!」
「口が減らない男ねぇ、余計なお世話よぅ!ねーねー、1個選んで。」
「甘いものはいらん。」
「いいから選んでってば。」
ゆさゆさと揺さぶられ、面倒臭そうにパオフゥは籠の中から一つ、ひょいと摘み上げた。
「…じゃあ、これ。」
手にとった赤いリボンをつけたチョコを、パオフゥは手の中で転がし、そしてリボンをはずして改めてじぃっと見る。
「変わった形してんなぁ。それに、ずいぶん軽いんじゃねぇか?」
「そんなことないわよぅ。ね、食べてみてよぅ。」
「あー?選んだからもういいだろ?」
「いいじゃん、お願い~~食べて~~食べて~~。」

まるで猫のように、かわいく甘えてくるうらら。
むしろお前を喰っちまうぞと思いながら、パオフゥはそっぽを向いた。
「後でな。」
そっけない返事に、うららはぷぅっと頬を膨らませる。
「文句いわずに、今すぐに食えってのよぅ!」
渋るパオフゥの口の中に、ぐいとチョコレートを押し込んだ。
「むぐぐ!」
強引にチョコを口にねじ込まれたパオフゥは、目を白黒させながらも仕方なしにそれを噛み砕く。
「んん?」
そして眉間にしわを寄せながら、口をもごもごさせた。
「…なんだこりゃ、なんか入ってるぞ?」
きらきら目を輝かせて自分を見つめるうららに、少し戸惑いを覚えながらその異物をベェっと出す。
「なになに?何が入ってた??」
「あぁ…コインだ……っておい、こりゃあ俺の指弾じゃねぇのか!?」
「わー、大当たりじゃん!おめでとーーーー!」
「当たりって…なんだそりゃ??」
拍手をしながら喜ぶうららとは裏腹に、話が掴めないパオフゥが怪訝な顔をする。

「あのね。」
にっ、と白い歯をきらめかせうららが笑った。


「ありきたりのチョコじゃつまらないし、面白くないからオマケ付きにしてみたのよぅ。
最近流行ってるじゃない?ほら、卵形のチョコの中にオマケが入ってる~ってヤツ!
ただのオマケ入りじゃウケが悪いと思ったから、マーヤと相談していろいろ入れて
『ロシアンルーレット・チョコ』にしたわけなのよぅ。
ハズレのチョコには勾玉とか、崖ッ縁粉末、アタリにはインセンスや打出の小槌が入ってるの。
あ、普通のチョコのほうが、もちろん多いのよぅ?
ブランデー入りや、キルシュ入りや、レーズン、ナッツに…。」
「で、これは何なんだ??」
パオフゥはそう言ってコインを軽く天井へ弾く。
コインはきらっと光を反射しながら、宙を舞い、パオフゥの手の中に帰ってきた。
「それはねー、大当たりアイテムなのよぅ。大当たりはね、2個しかないの。
うららさんヴァージョンと、マーヤヴァージョンの2種類。
アタシがコインで、マーヤのはエメラルドリングが入ってるのよぅ。」
「コレが入ってるとどうなるんだ?」
「当てた人の一日メイドさんになってあげるって趣向だったのよねぇ。
炊事に家事洗濯その他諸々…、まぁ、当てた人…ご主人様のリクエスト次第かしら?」
「ふーん。リクエスト次第、ねぇ。」
パオフゥはコインをまた弾き、戻ってきた所をキャッチすると、やがて腕を組んだ。

「大当たりはねぇ、本当は克哉さんのために作ってあげたのよぅ。
ほら、克哉さんて近年稀に見る乙女じゃない?
未だにマーヤの前でモジモジしてるし。少しは二人の仲が進展するようにーって、さ。
克哉さんLUC値高いから、クジ運いいんじゃないかなって思ってこの作戦考えたんだけど…。
よくよく考えれば、これって運頼みだけのかなりの力技だし。イマイチだったわねぇ。」
手の甲を頬に当て、うららが考えるように答えた。
「ふむ…」
腕を組み、眉間にしわを寄せ俯いているパオフゥを見て、うららは慌ててチョコの入った藤の籠をパオフゥに差し出した。
「やっぱ、面白くなかった?パオがアタシの当てても、何にも楽しくないわよねぇ。
なんなら、もう一度引く?」
うららの言葉に、パオフゥはハッと顔を上げ、ぶんぶんと首を振った。
「いや、俺はこれでいい。崖ッ縁粉末やら勾玉やら引いたら洒落にならねぇ。
なにより、天野なんぞ当てちまった日にゃあ、周防が殴りこみに来るに決まってる。」
「うーん、確かに…。あーぁ、マーヤのを克哉さんが引いててくれてればいいんだけど。
そうじゃなけりゃ、全然面白くないわよぅ。意味ないわよねぇ~。」
はぁ、とうららはため息をついた。

「…」
相変わらずパオフゥは腕を組み、指先でコインをいじりながら、なにやら考え事をしている。
その姿をちらりと見、うららがまたため息をつく。
「だーかーらー、つまらなくって悪かったわよぅ。そんなふて腐れなくたっていいじゃない。
…でさ、何してほしいことある?なかったら別にいいんだけどさ、やっぱコイン当てちゃったし。
あ、そうだ!パオの代わりに外回りしてこようか。それともターゲット捕まえて……」
必死になってフォローをしようとするうららの言葉をパオフゥが制止する。
「とりあえず…」
「なぁに?」
「風呂入れてくれ。」
「お風呂?朝っぱらから?へーえ、珍しいわねぇ。朝シャン派にでもなったわけ?
ま、いいわ。沸かしてくるからちょっと待っててね、ご主人様♪」
思いもかけない変なリクエストに驚きを隠せないうららだったが、すぐにパタパタと軽い足音を響かせ、バスルームへと向かっていった。








オフィスに自分ひとりになったパオフゥは椅子に深くもたれかかり、一人ごちる。
「……ご主人様か。」
すい、とパオフゥは目を時計に向ける。
オフィスを開けるにはまだ1時間ばかりある。
「ま、1、2時間くらい開けるのが遅くなっても構わねぇしな。」
ザーザーと水が流れる音が聞こえてくる。うららが風呂掃除を始めたのだろう。
パオフゥの薄い唇が、弓なりに上がった。
「下らねぇ菓子屋の陰謀でも、こういうのなら大歓迎だ。」
手に持っていた先ほどのコインを、軽く握りなおして狙いを定める。
シュッと小気味良い音を立て、パオフゥの指から指弾が放たれた。
コインは目に見えぬほどの速さでオフィスの入り口のドア、そのノブに当り、正確にその鍵を閉めた。
「さぁて、と。」
座っていた椅子から腰をあげ、パオフゥはバスルームに向かった。


バスルームでは相変わらず、うららがたわしを片手に風呂桶をザバザバ洗っている。
パオフゥは両耳のピアスをはずし、脱衣所に放り投げた。
その音でパオフゥの姿に気付いたうららが、鼻の頭に泡をつけたまま笑う。
「もう少しで洗い終わるから、もうちょい待ってねぇ。」
「ああ」
「どうかした?手伝ってくれるの?」
「まぁな」
「ありがとー。それじゃあねぇ…」
「…」
水音が止む。




「え、ちょ、え、パオ?あ、ね、ちょ、ちょっと待ってぇーーーー!」


うららの叫び声が朝のバスルーム内に木霊した……





















**蛇足**





舞耶はうららに言われた通り、チョコを持って周防兄弟宅に訪問。
はにかみつつも嬉しそうな達哉と、顔を真っ赤にして喜ぶ克哉。
二人とも素直に籠の中から一つ選び、がぶりっとかじりついた、その結果。


克哉は極寒の勾玉入りチョコを食べ、ヒューペリオンを降ろしていたこともあり氷結効果で大ダメージ。
達哉は見事に『エメラルドリング』を引き当て、舞耶の渾身の力作の手料理でもれなく救急車のお世話に。
克哉よりも達哉のほうがLUCは高かったけれど、結果的にはどっちも不運だったってお話。








どうにもこうにも、お後がよろしくないようで。










fin.
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