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イワンが真っ白い砂浜に大きなビーチパラソルを2本突き立てて、その下にいつでも休憩できるよう真っ白いロッキングチェアをパラソルを挟む形で4つ設置していく。
そして氷とフルーツ、各種ドリンクがたっぷり詰まったクーラーボックスを空け、取り出した氷をアイスピックで割りながら

「アルベルト様、熱いコーヒーもご用意できますのでお申し付けください」

「うむ」

バカンスだというのに上着を脱いだだけのスーツ姿はこの主従だけ。足元はさすがに革靴ではなく裾を折ってサンダル履き。アルベルトは真っ先にロッキングチェアに横になり、新聞を広げ自分のスタイルをとことん崩さないでいた。

ちなみにアルベルトの横で抹茶ソーダにストローを差し込む十常寺も例のスタイルのままだが、夏用の麻をふんだんに使った風通しの良い着物。幽鬼やカワラザキも日陰が良いらしく、チェアに腰掛けてイワンが作ってくれた冷えたドリンクを手に眩しそうに海を眺める。

海を遊び場にするような歳はすでに過ぎている彼らは、こうして穏やかに潮風を身体に受けるのが海の楽しみ方なのだ。

反対に海パン一丁で海に一目散なのはレッド。怒鬼も彼の後についていく。
「怒鬼、この私とどちらが早く泳げるか勝負しろ」と言われてのことで「勝負」と聞けば引き下がれない悲しい武芸者の性(サガ)・・・。



各自が海を楽しんでいたらようやく主役が登場した。

「おお、サニー。どうだ気に入った水着はあったか?」

「はい、お爺さま」

身体にかけていたバスタオルを広げ、3人に選んで買ってもらったビキニを少し顔を赤らめて披露。ビタミンカラーのストライプが海に似合う一押しのビキニだ。

「うむ、とても似合うぞ。良かったのう」

「だろう?サニーちゃんのためにあるような水着だよ」

セルバンテスを筆頭に満足げに頷く例の3人と、ちょっと顔が赤い樊瑞。サニーがちらりと父親を見ればアルベルトは肩眉を軽く上げる、そのサインを「まぁまぁだな」ということだと受け取りサニーはますます嬉しくなった。

ところが・・・

「まだ乳臭いガキにビキニなど100年早いわ」

ケチをつけるのはやはりこの男。
海から上がってきたレッドはサニーのビキニ姿を足から上まで吟味して

「おまけにツルペタ、話にならぬ」

子ども相手にこの台詞。

「つ・・・ツルペタじゃありません!・・・こ・・・これでも少しは・・・あるもん・・・」

曲がりなりにも女への成長を始める年頃なのである、失礼千万なレッドの言動にサニーも譲れない。

「は!どこにその『少し』があるのだ?せいぜいスプーン小さじ半分だろうが!」

「ちゃ、ちゃんとありますぅ!!」

大さじ一杯くらいはあると叫んでやりたいところだがサニーはぐっとこらえる。
実は雑誌で見た「夏までに間に合う!魅力的なバストを作り上げる運動」をこの一ヶ月間寝る前の10分間ずっと行ってきた、無論それは徒労に終わったわけで自分でも真面目に取り組んでしまったのが恥ずかしいとは思うが・・・大人の女を思わせる魅力的なバストに憧れればこそ。

「いいや、ない」

「あ・り・ま・す!!」

サニーをいじって喜んでるレッドと必死に言い返すサニー。
これだけで済めば小学5年生同士のたわいも無い喧嘩、他の十傑集も「やれやれ」と苦笑するだけ。

しかし

「ぬうっレッド貴様!言わせておけば・・・サニーは確かにまだツルッツルのペッタペッタかもしれんがあと10年もすればボーン!のドーン!!になるのだ!!」

ボーンのドーンはFかGのつもりなのだろう、樊瑞が手で自分の胸辺りに形作って見せるその大きさはやけにでかい。少なくともOかPだ。

「そんな保証などどこにも無いわ、こいつは一生ツルペタに決まっている」

「ええい!そんなことは無い!絶対にだ!!」

やけに必死になって反論する樊瑞はいたって真剣。その真っ直ぐな眼差しをそのままにサニーに向けて・・・

「サニー、安心しろ、この私が責任もってお前のツルペタおっぱいを必ずボーンのドーンに立派に育てあげてビキニを着れば北半球が溢れかえるくらいにしてやるからな!」

歯を白く光らせて笑うそれは普段の二割り増しの男前顔。どう育ててくれるのか小一時間問い詰めてみたいものだが本人はその具体的な手段など頭には無いと思われる。彼にとって努力と根性さえあればとりあえず何とかなり不可能など無いのである。

「ん?どうしたサニー」

傷に塩を塗りこむ発言であったと気づけないのが樊瑞の不幸。
顔を俯かせて表情は窺えないが、気のせいかサニーは小刻みに震えていた。

「よし、貴様には『まな板』の称号を与えよう。今日から『サニー・ザ・マナイタ』だ」

よせばいいのに調子にのったレッドがさらに追い討ちをしかける始末。
サニーは以前顔を俯かせたまま。


最初はまだ黙って見過ごせるレベルではあったがアルベルトはロッキングチェアからついに腰を上げた。こめかみにはドス黒く浮き上がった血管と両手に渦巻くのは2人用の衝撃波。その殺気の凄まじさを察知した2人以外の十傑たちは彼に道を譲るしかない。

「あの2人・・・死ぬな・・・」

幽鬼の言葉なのだから確かだろう。
年頃の娘に無神経すぎる発言を繰り返す不貞の輩に鉄槌を下すべく魔神が降臨。
誰もがアルベルトの顔を見てそう思った。

ところが



「ほれ、なんとか言ってみろまな板。ふははははは・・・む?」

レッドの前で俯いていたサニーの手がピクリと動く。

これがビンタの予備動作であることくらい、バレンタインの時に一度引っ叩かれた経験があるレッドにはすぐにわかった。あの時はまさか大人しいサニーが気の強さを見せるとは予想していなかったので遅れをとってしまっただけ。第一レッドは十傑集である、その身体能力及び動体視力は非常識であり最強。飛び交う弾丸の嵐の中を掻い潜るのもわけないのだからサニーのビンタなど止まって見えるも同然。

レッドは咄嗟に顔を後ろに下げてビンタを避けようとした。
もちろん余裕で避けられると・・・

すっぱーーーん!!!

この音はサニーが手を振り切った後、1秒ほど遅れて発生した音である。
つまりトップスピードが確実に音速を超えていた証明。

居合わせた十傑集は誰一人・・・サニーの手を目に捉えることは出来なかった。
音速を超えた場合に発生する空気振動、いわゆる『衝撃波』のためだろう鼓膜が痛いほど振るえ、彼らの目の前でレッドが白目を剥いて膝からゆっくりと地に倒れ伏していく。頭から立ち上る白いモノはたぶんレッドの大切なモノだと思うのだが、それはゆっくりと天に向かって昇っていった。

言葉も出せずその場にいる全員が戦慄していた中・・・

サニーはゆっくりと樊瑞に向き直る。

見せた顔は確かに笑顔だったのだが・・・

「さ・・・・サニーさん??ちょ・・・」

すっぱーーーん!!!

私はとんでもない存在を育ててしまったのではないだろうか。薄れいく意識の中そう確信しながら樊瑞は目の前に広がる花畑でレッドが手招いているのを見た。

「もう!2人とも大っ嫌い!!」

十傑集2人をを一撃で葬ったサニーの台詞。
「セルバンテスのおじさま、あっちへ行きましょ!」とほっぺを膨らませって言う顔は既に女の子ではあったが・・・見てはいけないモノを見てしまい血の気が失せているセルバンテスの腕を組むと力ない彼を引きずるようにサニーは行ってしまった。

二つの死体を前に残った十傑たちは顔を見合わせる。

「恐ろしい・・・・」

うっかり漏らした怒鬼の言葉に誰も異論は無い。
眠れる獅子の片鱗を垣間見てしまった。
サニーは衝撃のアルベルトの娘、この事実を忘れてはいけなかったのである。




一方アルベルトはやり場の無くなった衝撃波を消し去り娘の背中を遠く見送る。

薄っすらと滲む汗が彼の額を伝った。

他の連中はやはりアルベルトの娘、と思っていたが彼だけは違う。




何故なら彼は、凶悪な一撃を放つ娘に亡き妻の姿を確かに見てしまっていた・・・。








NEXT







「それではこちらが幽鬼様のスイカでございます」

客人をもてなすかのようにイワンは恭しくクーラーボックスを差し出した。そのBF団特製の特大クーラーボックスを開帳すれば中には丸々と身太りしたスイカ。山盛りのかち割り氷の中で、スイカはビールと一緒にキンキンに冷やされ眠っていた。

「おお、これは実に見事だねぇこんなに大きなスイカは滅多に・・・・5L?いや6Lサイズはあるんじゃあないかな?」

「っは!気持ち悪いくらいのでかさだ。おい幽鬼、放射能汚染ではなかろうな・・・痛っ!」

レッドが何処からともなく現れた蜂の大群に逃げ回るのを他所にイワンはテキパキと準備を整えだした。ブルーシートを広げ、スイカを静かに下ろす。そして「イベント後」に備えマイセンの小皿を人数分と同じくクーラーボックスに冷やされていたビールやワインなどを取り出し、十傑たちの好みに合わせて彼はグラスに注いでいく。そしてイワンに促され、中央に主役のサニーが立っていよいよイベントの開始となった。

「え?目隠しして・・・この、バットでスイカをたたくのですか?」

「そうだ、いいかお嬢ちゃん思いっきりやるんだぞ?」

幽鬼に手渡されたタオルと初めて手にする野球用バット。想像していた以上にワイルドなやり方、サニーは目を丸くして「本当に?」とカワラザキを見たが彼は笑顔で幽鬼に同調するように頷いただけ。

「何をぼやぼやしているのだ、貸せ、私が見本を見せてやるありがたく・・・痛っ!」

実はスイカ割りがやりたくて仕方が無いレッド。戸惑っていたサニーからバットを横取りしようとしたが・・・再び蜂の大群に襲われるハメになった。

「ぎゃー!幽鬼ぃっ貴様ぁ!!痛っちょっ・・・まっ・・・」

「さあ、サニーちゃん。おじ様も応援するから」

「そうだサニー、せっかくだから思い切ってやってみなさい」

「はいっ」

セルバンテスや樊瑞にも促されサニーはタオルで目隠ししてみた、不安よりもワクワクする気持ちの方が勝ってきてバットを握る手は自然と力がこもる。

「サニーちゃん右だ!」

「いいやちょっと左だ!そう、そこだサニー!」

「違う違うっもっと前前!」

「何を言うかセルバンテス、サニー!行き過ぎだっ後ろを向きなさい!」

一生懸命に誘導するのはいいが・・・畳み掛けるように出される2人のちぐはぐな指示に視界を奪われているサニーは混乱していた。それに気づかないまま身を乗り出して必死になっている樊瑞とセルバンテス、背後でチェアに寝そべりアルベルトはのんびりシャンパンを口にして我関せずの態度をとっていたが・・・・。

-----そこで止まれ、そうだ
-----そのまま斜め右、2時の方向に向いてバットを思い切り振り下ろせばいい

「えい!」

頭に響く声だけを信じてサニーが渾身の力を込めて振り下ろしたバットはスイカにクリーンヒット!・・・サニーはすぐに目隠しを取り去って声の主を見たが視線は新聞で遮られてしまう。

さて、サニーの渾身の力で叩かれたスイカだが、スイカは割れるどころか僅かなヒビが入っただけ。彼女の細腕で、特大スイカを完全に割り切るのは不可能かと思われたが・・・

「お?おお!割れた!割れたぞサニー!」

パチン!、と音がしたように思えた途端スイカはヒビに沿う様真っ直ぐ縦に割れ、見事な赤色の果肉を披露した。ヒビの部分以外は叩き割られたとは思えないほどやけに鋭利な断面、そこを突っ込もうとした野暮なレッドの前にヒィッツカラルドが立ちふさがる。

「ふふふ、後は私に任せたまえ」

イワンにもてるだけ皿を持たせ、その前で彼は半分とは言えかなり重量のあるそれを軽々と投げ上げた。そしてそれは彼が指を鳴らした数だけ真っ二つになっていき、手ごろなサイズに変身して皿の上に着地していく。

「む、大きさからして大味だと予想していたが・・・裏切る甘さだ」

スイカを口にした残月が感心すれば他の連中も一斉に齧りだした。

「ふむ・・・実に。斯くも甘露なる西瓜、この十常寺初の体験」

「おい幽鬼、帰ったらお前が作っているスイカを全部味見してやろう」

「やれやれ・・・30個も食べる気か」

「う~ん良く冷えてて甘くて美味しいねぇ!何よりサニーちゃんが割ってくれたスイカだ、こんなに美味しいスイカは無いよ?だろ?」

そう言うセルバンテスの横で新聞を広げて読んでいるアルベルトも満更ではなかったのか、いつの間にか全部食べきって綺麗さっぱりの皮だけを皿に置いていた。

サニーもスイカに齧り付いた。
良く冷やされたそれは確かに十分すぎるほどに甘くみずみずしい。

「・・・おいしい!スイカ割りしたスイカってこんなにおいしいんですね!」

サニーが笑えば皆それぞれの表情で笑った。

それがとても『幸せ』なことだと気づいたので、サニーは少しだけ




何故かほんの少しだけ


切なくなった。












ロッジでは夕食の準備が行われている中、水色のワンピースに着替えたサニーは夕日に染まり行く浜辺で樊瑞とともに貝殻を拾っていた。周りには誰もいない。座り込む大きさの異なる2つの影がゆっくりと長くなり、浜辺を歩くヤドカリがその上を歩いた。

サニーが貝を見つけ樊瑞に差し出して笑う。
樊瑞も貝を無骨な手で受け取り、サニーの笑顔に同じ表情で返した。
来た時に感じたサニーとの距離感は今は無い。
同じ場所にいると、彼は自分の中で感じていた。



「君は一緒に貝を拾わないのかね?」

その様子をロッジのテラスから遠巻きに眺めるアルベルトの横にセルバンテスが立った。

「私は別にいなくてもいいだろうが」

「そうかなぁ、お父さんが居た方が絵になると思うのだけど」

「樊瑞がいる、それで十分だ」

吐き捨てる風でもなく淡々とアルベルトは口にした。
暮れ行く夕日に照らされ海は金色に輝いて。
その輝きの中、既に絵は加筆の余地無く完成されている。

「・・・・・・・じゃあ私も・・・君とここで眺めていようか」

サングラスを取り外し、彼もまた観賞に撤することにした。

「セルバンテス」

「ん?何かね?」

「孔明にだいぶ恨まれたようだが・・・礼を言っておく」

アルベルトは美しい絵画から視線を逸らさぬまま。

「なぁに」

そしてセルバンテスも逸らさぬままだった。
時が止まったように思える今でさえ、確実に時は流れつつある。


2人は波の音を遠くに感じていた。










「セルバンテスのおじ様、孔明様には私からあやまっておきます」

「サニーちゃん、そんな事・・・全然気を使わなくて良いのだよ?」

本部への帰路、飛空挺の機内で窓から海を眺めながら少し日に焼けたサニーは隣のセルバンテスに言う。大人の事情が分からないほど彼女は子供でも無かったらしい。

「それとおじ様、本当にありがとうございました」

「サニーちゃん・・・・」

真っ直ぐ青い海を遠くに見詰めるサニーの表情は、セルバンテスの胸をざわつかせた。

「また・・・また私をおじ様の海に連れて行ってくださいね!そしてまた水着をたくさーん買っていただきますから!うふふ」

「あ・・・ああ!当然だとも今度は絶対あの『豹柄』のやつだ。サニーちゃんはきっと女豹になって男どもを悩殺してくれるに違いないね!はははははは!」

一転、明るい表情で笑うサニーに、セルバンテスも調子を合わせて笑い飛ばす。

「なにい!!?ゆ、許さんぞ!あの『豹柄』だけは私は許さん!サニーダメだぞあれは、着るなら私の屋敷内限定だ」

大真面目な顔で言う樊瑞はアルベルトに首を掴まれ、「お前とはじっくり話し合う必要があるようだ」と機内から引きずり出されていく。

「それならまた、お嬢ちゃんのために特大のスイカを作らないといけないなぁ」

「はい!幽鬼様お願いします!」

「そしてまた『スイカ割り』をしないとな、ふふふ」

「はい!ヒィッツカラルド様!」

「まな板には興味は無いが、スイカ付きならまた付き合ってやっても良い」

レッドの言葉に、サニーが顔を紅くして頬を膨らませれば機内は笑いに満ちた。

あの時のような胸の奥がチリチリする感覚はサニーには無く
サニーは心の底から笑った。




銀色の飛空挺はもと在るべき場所へと飛んで行き、太陽の中に滲んで消え


サニーの夏休みはこうして終わった。






END







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