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「おじちゃま、どーしてサニーはパパといっしょにくらせないの?」



ちいさなサニーのこの一言に樊瑞はコーヒーを飲むのを寸前で止めた。
自分の足元を見れば父親譲りの赤い瞳をクリクリさせてこちらを真っ直ぐ見つめている。言葉を覚えよく喋るようになって間もないが、この返答に窮する「問い」は二度目。

彼は一度視線をコーヒーに落とす。

「どーして?」

「そ、それは前にも言っただろう?サニーのパパはお仕事が忙しいからだ」

もっとも「お仕事」は世界各地で血の雨を降らせることが彼も含めたこの組織に生きる者の仕事。だが「お仕事」であることには一応間違いは無い・・・これが言い訳だとわかってもいる。

「・・・どー・・・して?」

「サニー・・・・」

しかしサニーは顔を曇らせながら真っ直ぐ樊瑞を見つめ、同じ質問を繰り返した。諭すように言われても少女にとって何ら「答え」に値しない答えであったらしい。





樊瑞にサニーを預けて以来、アルベルトが自ら子どもに会いに来ることは一度も無かった。たまに仕事の都合上この屋敷に顔を覗かせることがあるが、そんな時のサニーは顔を輝かせそわそわして落ち着きが無い。樊瑞とアルベルトが任務内容の確認を互いに行っている横で邪魔にならないよう大人しくしているのだが、父親の視界に入ろうと遠慮がちに顔を2人の間に覗かせたりもする。

サニーを預かる身の樊瑞には父親に構って欲しくて仕方が無いというのがその態度から良くわかった。アルベルトがせめて頭を撫でてやるなり「大きくなったな」くらい一言でいいから言葉をかけてやればいいものを、と思ってはいるがアルベルトは声をかけることもせず、それどころか視界に入れようともしない。必要なことが済めば背を向けて屋敷を後にするだけで娘の期待に添えることは何もしなかった。

そんな父の背中を見て赤い瞳に涙をためて泣くのを我慢しているサニー。
しっかりと抱きしめてやるのがもう1人の父親とも言うべき樊瑞の役割となっていた。

こういったことが何度かあってのサニーの「問い」である。




「どうして・・・か」

コーヒーカップをテーブルに置いてサニーにわからないように静かにつぶやくと、いつものように抱き上げて涙を流させまいとしっかりと腕を回して抱きしめてやった。

決してサニーが煩わしくなったからアルベルトが手放したわけではない、いつだったかセルバンテスに諭された(「夢に微笑んで」参照)が己の中に罪の意識が存在し、尚且つ組織の人間である自分たちの複雑で薄ら暗い『大人の勝手な事情』。サニーの特異な状況を作り出した理由は一言では説明しきれない。

「だが、そんな理由がお前の欲しい「答え」では無いはずだ。サニー・・・大丈夫だ、私はそれくらいわかっているからな」


サニーはいつしか樊瑞の体温に安心して小さな寝息を立て始めた。





※※※※※※※※※※





常に不機嫌そうな表情を隠さない男だったが、今日はいつにも増しての様相。
アルベルトは着ていた黒いコートを腕に巻きつけ樊瑞の屋敷の扉を軽くノックする。

「おおアルベルト、すまんな急な任務が入ったもので」

「・・・・・・・ふん・・・」

仏頂面のアルベルトを見て樊瑞は笑いながら目に映える色のマントを広げた。
マントの中にはサニーがいて、少し戸惑った様子でアルベルトを見上げた。

「・・・・戻りはいつだ」

「明後日の明け方にはおそらく完了して帰還できるであろう」

樊瑞はさあ、と足元のサニーを促す。
サニーは一度樊瑞の顔を見て、彼の確かな表情を見届けてからアルベルトの足元に近づいた。小さな背中には大きな赤いリュックサック、樊瑞に手伝ってもらって準備した『お泊りセット』が入っている。

昨晩は初めて父親の家に泊まれることで大はしゃぎながら『お泊りセット』の準備をしたサニーだが、今は厳しい顔の父親を前に萎縮しているのか妙に大人しい。

サニーがアルベルトの足元に行ったのを確認してからマントを翻せば樊瑞はつむじ風とともに消え去った。残された2人はしばらく沈黙を続けていたが

「私の休暇に合わせて都合よく緊急任務が入ったものだ・・・・」

アルベルトは不機嫌にじむ言葉を吐き捨て踵(きびす)を返した。




アルベルトの屋敷までの道程、2人の間に会話は無く、大股で歩く父親に置いて行かれまいと必死になってサニーは歩いた。屋敷を出てから一度も自分に振り返ることも無く我先行く父の背中、サニーはその背中だけを見つめながら小さな身体には大きな荷物となっているリュックを何度も背負い直す。

「・・・・・・・・」

自分と手を繋いで欲しい・・・と言おうかどうか悩んでいたが言い出せない。

日はゆっくりと傾き、次第に辺りは暮れなずみの色に染まっていく。

道程はやけに静かで、父親の鋭い靴音と娘の軽く小さな足音しか聞こえない。

父の大きな背中はどんどん先を行き目を離すと見えなくなりそうで

サニーはリュックを躍らせて駆け出した。




「お帰りなさいませアルベルト様」

イワンが深く頭(こうべ)を垂れて出迎え、それに一言「うむ」とアルベルトは返す。

「こんにちわ、イワン」

「サニー様、お久しぶりでございます。大きくなられましたね」

「えへへ」

アルベルトの後ろに居た汗をいっぱいかいて顔を少し紅潮させているサニーの姿に少し驚いたが、イワンは腰を下ろし片膝をつくと目線に合わせて礼をとる。

「ご夕食のご用意は既に整ってございます、サニー様はその後にごゆっくりお風呂に入られてはいかがでしょうか」

「うん!」

サニーは走って食堂へさっさと向かうアルベルトを追いかけた。そしてアルベルトが奥の上座の席に腰を下ろすとすぐ隣の子供用の席に足をかけてよじ登り、アルベルトがするのを見てから同じように真っ白いナフキンを首元に挟んだ。

「わぁ、おいしそう・・・」

イワンの手によって並べられる皿には美味しい香り漂う自慢の一品。
アルベルトはうるさいセルバンテスが押しかけない日は大抵1人で食事を取るが、この日3人で食卓を囲む形となる。彼が珍しくイワンにも同席を求めたからだ。

「よろしいのですか?」

「構わん」

娘と2人きりの状態が少々苦手なのだろうか、イワンは黙々と肉を切り口に運ぶアルベルトを横目にこっそりとそう思っていたら

「パパ・・・あのね、サニーのおにく・・・きって」

ムスッとした父親の顔を何度も見ていたのは機嫌を窺って(うかがって)いたのだろう、サニーが小さな声で・・・頼んだ。まだナイフが上手く扱えず、分厚いステーキに悪戦苦闘していたのだった。

「イワン」

アルベルトはワインを口にしてから顎をしゃくる。

「サニー・・・・パパにきってほしい」

「イワン切ってやれ」

「も、申し訳ございませんサニー様、私が考えもなしにこのままお出ししてしまったばかりに。ただちにお切りいたします」

彼は大慌てでサニーのステーキ皿を取り、華麗な手つきで子どもでも一口で食べられるサイズに切っていく。しかしサニーは・・・悲しそうに俯いていた。



夕食後、お風呂に入ったサニーはイワンに頭を洗うのを手伝ってもらい、『お泊りセット』のふかふかのパジャマに自分で着替えた。

「サニー様、ご自分でボタンも留められるのですね」

「そうよ、サニーちゃんとじぶんでできるもん」

イワンに褒められて得意げになるサニーだったが、背後で新聞を読む父親の反応は相変わらずゼロ。

「ああっサニー様、髪を乾かさないと風邪をひかれます」

そのままサニーは走り出して髪を半分濡らしたままリュックを物色し始めた。一番奥にあった一冊の絵本は昨晩樊瑞と一緒に『お泊りセット』を準備するときにアルベルトに読んでもらおうと楽しみにしていたもの。それを取り出すと黒いソファに深く座って新聞を広げている父親の側に近寄った。

「なんだ」

「これよんで」

娘の手元を一瞥すれば「ねむりひめ」と書かれた絵本。
アルベルトは溜め息をつくとまたイワンを呼びつけた。

「サニー・・・パパによんでほしいの」

「私は今忙しい、イワンに読んでもらえ」

「・・・・・・・やだ・・・」

「なに?」

聞き取れないほどの小さな拒絶の言葉、アルベルトはようやく新聞から目を離した。
そして突如

「サニーは・・・・サニーはパパによんでほしいのー!!!」

耳が痛くなるほどの高い絶叫は半分泣いているせいかもしれない。大人しいとばかり思っていた娘の信じられない声の張り上げにアルベルトは目を見開いた。

「な、なぜこの私でなければならんのだ!!」

と思いがけず大きな声で言ってみたが目の前にあるひっくりかえったスープのようにグシャグシャになった娘の顔と、まっすぐ見つめてくる自分と同じ赤い色の瞳にひるんだ。反対にサニーはは父親の剣幕に一瞬驚いて身体を硬直させたが、負けなかった。

顔をもっとグシャグシャにさせてもっと声を張り上げ
そしてありったけの力を振り絞って



「やーー!!パパはサニーのパパだもーん!!!!!」



「・・・・・・!」

その後はもう泣いて嗚咽が混じり、言葉になっていないわけのわからないことを叫ぶばかり。アルベルトも駆けつけたイワンもどうしていいのかさっぱりわからず様子を見守っていたが、サニーのヒステリーは収まりそうも無い。

業を煮やしたアルベルトは

「イワン、私はもう寝る。サニーもさっさと寝かしつけてしまえっ」

新聞を放り投げ完全に敵前逃亡の形となってしまった。






真っ暗な寝室で一人、アルベルトは椅子に座り遠くに聞こえる娘の泣き声を聞いていた。しばらくして泣き声が止んだのはイワンがどうにかしてサニーを寝かしつけたのだろう、玄関のドアが開きカギをかける音がして屋敷は自分と娘2人だけとなった。

重い溜め息を吐き、アルベルトは腰を上げ自らもようやくベッドに横たわった。
瞼を下ろしたが娘の涙で濡れる赤い瞳が自分を見ていた。

「・・・・・・・・・」

我が血を分けた子の証であるそれをアルベルトは真っ直ぐ見つめ返せない。
生まれながらにして業を背負わせてしまった後ろめたさが、見つめ返す勇気を与えようとしない。その上、一方的に親子の縁を切ってはみたが、結局親の因縁で組織入りさせる結果となった責任を自分は果たせそうに無い。

戦場で敵に背を向けたことが無いのに、娘となれば常に逃げ回っている。
娘からだけでなく自分からも。

それなのに

娘のありったけに叫んだ言葉がまだ胸に響いていた。
たぶんこれは死ぬまで一生続く『響き』だとアルベルトは確信できた。







その夜、彼は夢を見た。
久しく見ることが無かった古い夢だ。

腹が大きな妻に「子どもとは縁を切る」と言った、すると自分の意図を既に知っていたのか妻は驚く風でも無くそれどころかニッコリ笑う。




「それでもこの子は貴方の子、ご安心ください」





夢の中の自分がどんな顔をしたのか目覚めとともに忘れてしまった。





翌朝

食卓には朝早くやってきたイワンが準備したオープンオムレツと厚切りベーコンがメインのモーニングがまだ湯気を立てていた。アルベルトの起床時間に合わせた気遣いはさすがと言うべきだろう、しかしイワンは任務報告の処理のため本部に出かけ屋敷には居ない。

アルベルトは7誌もある朝刊から政治面が充実している一つだけを取り、広げようとしたが

「・・・・・?」

屋敷の奥から耳を澄まさねば聞き取れないほどの小さな泣き声がする。食卓には娘が居ない。アルベルトは新聞を投げ捨て、大股で来客用の寝室に向かった。

「サニー」

ドアを開けたとたんビクリと身体を震わせたが、サニーはパジャマ姿のまま部屋の隅っこで泣き続けていた。いったい何があったのかと一歩踏み出してそこで何かピンと来るものを感じ、アルベルトは直ぐにくしゃくしゃになっていたシーツを広げた。

「・・・・・・・・・・・・・」

どこかの誰かが「世界地図」などと形容するが初めて納得した。

「ご・・・・ヒック・・・ごめんな・・・ヒック・・・さい」

「・・・・・・・・・・・・・」

見事な「世界地図」にしばし呆然としてしまったが背後では娘が小さくなって泣き続けている。シーツを元に戻して歩み寄ってくる父親、叱られるのが怖くてずっとここで泣き続けていたサニーは身を固くした。

「お前が持ってきたリュックはどこにある」

そう言うとサニーの両脇を軽々と抱え上げ、濡らしたパジャマと下着を脱がしそれをわずかなりとも証拠隠滅を図ろうとしたシーツの上に投げ捨てる。娘が指差すリュックから着替えを取り出しパンツを穿かせて

「後は自分で着替えろ、ボタンは一人で留められると得意げに言っていただろうが」

「・・・・・・・・」

しかし娘はきょとんとした顔をするので

「どうした」

「ううん」

叱られるどころか何も言わず着替えさせてくれ、さらに聞いていなかったと思っていた自分がボタンを一人で留められることを知っていた。サニーは大急ぎで黄色いワンピースを頭から被り、アルベルトに見えるように一つずつ大きなボタンを四つ留めていった。

「よし着替えたな、私について来い」

そう言われて行った先には乾燥もできる大きな洗濯機。目の前でアルベルトがパジャマも下着もシーツもすべて丸めてそこに投げ入れ

「洗剤は・・・どれだ?わからんな・・・・乾燥はどうすれば・・・??」

何でもイワンに任せきりのつけが回ってきているのだが、アルベルトはとりあえず目に付いた適当な洗剤を景気良く入れてやはり適当なスイッチを押した。一応アタリだったらしく洗濯機は全てを綺麗に洗い流そうと必死になって回り始めた。





後は洗濯機に任せて二人は朝食をとることにした。

昨晩と同じ位置で2人は席につき、サニーがジャムがついたトーストをかじろうとしたら

「前にもやったことがあるのか?」

それがオネショについてのことだとわかってサニーは首を振った。初めてのことで余計にどうしていいのかわからず、恥ずかしい上に叱られるのが怖くて泣くしかなかった。

「ならばこの事は誰にも喋らないでおいてやる」

「ひみつにしてくれるの?ぱぱ」

「そうだ、トップシークレット扱いだ」

「とっぷ・・・ちーくれっと?」

「お前の不名誉は、この私の不名誉だからな」

トップシークレットも不名誉もサニーにはわからないが、父親のその言葉が嬉しくて「うん!」と元気良く答え大きな口でトーストにかじりついた。

その後は特に会話は無かったが、サニーは終始嬉しそうな顔をして食べている。ふと、アルベルトは1cmもあるだろう厚切りベーコンに目が行き、娘の前にもあるそれを見た。昨晩のこともあってイワンが気を利かせたのだろう、サニーのベーコンは最初から小さな一口でも食べられる大きさに切り分けられているので

ナイフに伸ばしかけた手をそのままゆで卵に向けることにした。





朝食が済んだ後、アルベルトは何事も無かったかのように真っ白になったシーツをベッドに着せてやり、パジャマもリュックに詰め込んでおいた。

「にんむかんりょう?」

自分の後ろにいる張本人がニコニコしてそう言うので

「完了だ」

と言うしかなかった。





報告処理の仕事が終わったイワンが屋敷に戻ってきたのでサニーの面倒を任せようとしたが

「サニーはパパといるの!」

と言って離れようとしない。「勝手にしろ」と言えば「うん、そーする!」とずうずうしさを増して新聞を読むアルベルトの膝に飛び乗ってきた。さっきまで「しでかした」ことにしょぼくれて泣いていたとは思えないほどはしゃいで、新聞を読むのに邪魔になるくらい忙しない。

しかし叱ることもなくアルベルトは好きにさせて、サニーがはしゃぎ疲れて大人しくなり膝の上で寝てしまってからのんびり新聞を読み出した。


昨晩のことを考えると、今ある様子はイワンにとってあまりにも不思議な光景。分を越えて何があったのか聞いてみたいくらいだったが、二人とも幸せそうに見えたのでそれ以上の詮索は止めておいた。









白身魚がメインの『お泊り』最後の晩餐が済み、イワンも屋敷をあとにして再び親子は2人きりになった。

寝室でアルベルトはベッドに横になりサイドポーチを灯りにして報告書に目を通していた、しかし先ほどから寝室に近づく気配を感じる。誰のものか考えるまでもなかったがそれはドアの前で止まってしばらく動こうとしない。

「・・・・・開いている、入って来い」

「でもサニーまたおねしょするかも・・・」

まくらと絵本を抱えたサニーが不安そうにドアから顔を覗かせたが

「ふん、その時は私がしたことにしておいてやる」

一瞬で顔を輝かせ、そのまま元気良く走ってアルベルトのベッドにダイブ。

「もう少し静かにできんのか」

「パパあのね、これよんで」

潜り込んで顔を見せたかと思えば有無を言わさぬ勢いで突き出された「ねむりひめ」。これを読まないと寝てやらないぞ、という娘の意気込みがヒシヒシと伝わってアルベルトは白旗を振るしかない。

樊瑞やイワンのように読んで聞かせる風でもなく、アルベルトはただ書かれていることを棒読みしているだけ。それでもサニーは父親の温もりと声の響きを背中に感じることができて満足だった。

「そして眠り姫は王子と・・・・ん?どうした」

いつの間にか娘は顔を上げ、赤い瞳を開いて自分をまっすぐ見つめていた。

「・・・どうしてサニーはパパといっしょにくらせないの?」

「・・・・・・・・・・・・・・・・」

アルベルトは娘から逸らすことはせず、初めて真っ直ぐ見つめ返した。
だが言葉は見つからない。しばし沈黙が流れていたが

「また『おとまり』してもいい?」

父親が返答に困っているのがわかったのか、やさしい質問に変えた。それに対して喉から絞るように「ああ」とだけ、すぐにアルベルトは「今日はもう遅いから寝ろ」とサニーに毛布を被せなおし本を閉じて最後に灯りを消した。

真っ暗な寝室。
お互いにまだ寝ていないと感じているのは気配だとかテレパシーだとかの理由ではなく、何故かそうわかるから。




アルベルトは毛布の中ゆっくりと右指を這わせ、探し回った。

ずっと待っていた小さな手をやっと見つけだし、緩く握った。

自分の手が同じ力で緩く握り返され

ようやく娘の小さな寝息が聞こえ始める。


そしてアルベルトは目を閉じた。







※※※※※※※※※







朝食はアルベルトのリクエストにより昨日と同じ、オープンオムレツと厚切りベーコン。ただ昨日と違うのは・・・

サニーは目の前で分厚いベーコンが切り分けられていくのを目を輝かせて見つめている。一つが二つとなって最後には四つ、それはサニーの一口サイズ。

「これでいいだろう、さっさと食べろ」

笑顔で頬張るサニーはデザートのフルーツヨーグルトよりも先にそれを平らげた。






樊瑞の屋敷への道程、アルベルトは相変わらず大股で歩きその後ろにリュックを背負うサニーが必死になって追いかける。道も中ほどに差し掛かったときアルベルトが急に立ち止まり、周囲を見回し始めた。そして振り返ったと同時にこちらに歩み寄る。サニーはどうしたのかと思う間もなく背中が急に軽くなったのを感じ

「まったくなんだこの荷物の量は、樊瑞のやつめ少しは考えろ」

サニーも宙に浮いた。

「いいか、これもトップシークレットだからな」

「うん」

二日前までは随分と遠くに感じていた背中が今は目の前。腕は回しきれないが広い肩にしがみついて眺めた景色はサニーの脳裏に一生焼きついた。








樊瑞がドアを開ければ

「はんずいのおじちゃま!」

『お泊り』はどうだった?と聞くまでも無い表情で駆け寄ってきたサニー。樊瑞が抱き上げて頭を撫でてやる様子をアルベルトが見ていた。

「私の娘を頼む」

「うむ」

短いやり取りが済んでアルベルトはまた背を向けて立ち去っていった。その背中を見るサニーの表情を見つめ、樊瑞はサニーが欲しかった「答え」が見つかったことを確信した。



その確信を裏付けるようにサニーはその日以降「どーしていっしょにくらせないの?」という質問はしなくなった。本当に知りたかったのは暮らせない理由ではなく、自分が父親に愛されているのか愛されていないのかこの「答え」がしっかりとサニーの心に存在している限り「理由」が何であれそれ自体に価値は無い。サニーにとって「答え」が全てだからだ。



ちなみに



サニーのおねしょはあれが最初で最後であったこと

アルベルトが以降サニーの目を見つめるのを避けなくなったこと

しばらくサニーの流行の言葉が「とっぷちーくれっと」だったこと


そしてイワンが一人、洗濯機の前で

洗剤が半分以上無くなったことに頭を捻っていることなど



蛇足であっても補足しておきたい。








END




















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