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うろほろぞ
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「ふむ、そういうことか」

「はい、お爺様がよろしければぜひ・・・あの私、一生懸命頑張りますのでどうかお願いします」

「お前のその気持ち、ワシは大事にしてやりたいと思っておる。それにこういった経験は前々からお前には必要だと思っておったのだ、よしこのワシが一つ力を貸そう。そして他の連中にも協力してくれるよう口ぞえをしておく」

カワラザキの深く皺が刻まれた顔が笑顔で緩む。
サニーは「ありがとうございますお爺様」と頼れる長老格に深く頭を下げた。

「もちろん、あの3人には内緒だからの」



※※※※※※※※※



セルバンテスによる経済学とスコーンを食べながらの美味しい紅茶の淹れ方の講義、その後はイワンによるピアノレッスンを受け、昼まではトレーニングルームにて能力訓練を行う。
と言った具合で基本的にサニーは午前中は勉強に勤しむ。昼食が済んだ午後もまた多忙な先生代わりの十傑の都合に合わせて勉強を行う場合もあるが、大抵は一人で予習復習を行ったり読書やクッキーを焼いたりの穏やかな自由時間、この流れがサニーの日課だったが・・・


午前中の任務を終え、頼まれていた資料を手渡そうと残月の執務室に訪れた樊瑞は一歩足を踏み入れる前に思わず立ち止まった。

いつもは残月という男の性格が現れているかのように整然と隙間無く書棚に並べられている本なのだが今は床一面に散乱、埃も盛大に舞っている中サニーがエプロンにマスク、右手にハタキというスタイルでせわしなく動いていた。

「・・・・な・・・何をしているのだサニー・・・・??」

「え?あ!・・・・あの・・・ざ、残月様に頼まれて、お掃除を・・・」

「掃除?何故お前がせねばならん??」

本人が行うかそれが無理なら下級エージェントに任せるのが普通だが、よりによって大事な娘も同然のサニーに汗水流させ掃除をさせるというのが納得いかない。

「おい残月!・・・ん?どこだ?残月!!サニーにわざわざこんなことをさせるな」

「お、おじ様、残月様はさきほど東の研究棟に向かわれました」

まったく、と吐き捨てて樊瑞は部屋を飛び出すその顔には、返答次第では一発ぶん殴ってやるという意気込みが表れていた。

樊瑞がいなくなったのを確認してサニーはそっと残月のデスクの下を覗き込んだ。「もう大丈夫です」と声をかけたそこには残月が窮屈そうに身体を小さくさせて収まっている。

「やれやれ危うく見つかるところであった・・・ふふ、あの勢いじゃ殴られるどころでは済まなさそうだな」

デスク下から出てきて室内を見渡してみるが・・・普段から整理を心がけこ綺麗にしているつもりでも見えない埃はいくらでも出てくるものである。それに恐ろしく膨大な書籍類を全て掻き出し一から整理し直すなど時間の都合で滅多にしないし散らばった本を元に戻すとなると・・・さすがの残月も目の前の光景に頭が痛くなりそうだ。

「これはさすがに一人では無理ではないのかサニー、私も手伝うが」

「いいえ残月様、これは元々私が頼んだ私の仕事です。必ず夕方までには終えるよう努力しますので・・・それまでお休みください」

「ふむ・・・」

こう見えてやはりアルベルトの娘、固い意志であることくらい赤い瞳を見ればわかる。本人の意志を尊重して残月はサニーの好きなようにさせることにして、1ヵ月に及ぶ任務で疲れていた自身は隣接されている小部屋で横になった。

サニーが宣言したとおり夕方には綺麗になった執務室となり、膨大な本も書棚に全て収まり種類ごとに振り分けられ、もちろん埃ひとつ落ちてはいない。見事な結果に残月は満足し「よく頑張ったな、お陰でゆっくり休むことができた。これは約束のものだ」とサニーに包み紙を手渡す。

「ありがとうございます!」

サニーは大切そうにそれを受け取り生まれて初めての「仕事」を完了させた。




※※※※※※※※※



「サニーの様子が最近おかしい」

ムッスリとした顔で樊瑞がナッツの入ったスコーンに齧りつき、横でセルバンテスはのんびりとダージリンを一口。

「そうかなぁ?サニーちゃんは相変わらず元気で可愛いよ?なぁアルベルト」

「知らん」

そしてもっとムッスリとした顔のアルベルトに苦笑。

こうして珍しく3人集まりテーブルを囲んだら話題は「サニー」がだいたい定番。

「気のせいか私を避けているように思えるのだ・・・お茶に誘っても用事があると言ってすぐにどこかへ行ってしまうし、夕ご飯が済めばさっさと自分の部屋にこもってしまう・・・何か私に隠し事でもあるのだろうか」

そういう樊瑞の「おかしい」の意味がセルバンテスにもわからないでもない。午後の空いている時間の行動が今までとは変わってきていることは、サニーの様子を注意深く見守ってきているので既に気づいていた。

「サニーちゃんとて女の子だ『秘密』のひとつやふたつくらい・・・」

「私にも教えられぬような『秘密』をか!そ・・・!そんなのは許さんぞ!!」

「樊瑞・・・スコーンの欠片を口から飛ばすな汚い」

「アルベルトお前はよくそんな悠長でいられるな。サニーが不良になってもいいのか!」

「こっちに向いて飛ばすな!」

「ふ、不良って・・・サニーちゃんを信じたまえよ魔王。君がそんなことでどうする・・・・というかせっかくのスコーンなんだから紅茶と一緒に食べて欲しいのだが」

目の前の熱い煎茶がひっくり返る勢いで樊瑞は吼える。

「うるさい!サニー!!私は許さんからなーーー!!」




※※※※※※※※※




一昨日はヒィッツカラルドの温室で薔薇に水遣り、昨日はカワラザキの茶室の掃除、そしてサニーの今日の「仕事」は十常寺の執務室で着物の繕い。

十常寺の着物はいずれも価値のある代物であるが、物持ちの良さのため年季が入っている。ところどころ穴や擦り切れがありサニーはそれらをひとつひとつ丁寧に縫い直していった。針仕事は残月やカワラザキからすでに教わっていたのでちょっとした縫いつけならできる、しかしどんなに頑張っても子どもの手、10着目に差し掛かった時には既に日が暮れようとしていたので

「サニー嬢・・・無理は甚だ身体に悪し、急ぐは要せずゆえ本日はこれにて終えて続きは明日(みょうにち)で如何(いかが)か」

「はい・・・十常寺のおじ様。でもあと一着で終わるのでどうか最後までさせてください」

あまり遅くなっては樊瑞が心配するだろう・・・そう思う十常寺の前でサニーは真剣な表情でひとつひとつ丁寧に針を刺していく。

サニーは自ら頼んで10着も縫いつけを行っている手前、責任を持って最後まで成し遂げたかった。それに中途半端な仕事で「給金」を貰うことを彼女は嫌い、無理をしてでも大人が認めてくれる働きをしたかったから。

元々は「給金」目当てで始めたバイトだったのだが・・・いつしか働いて感謝されることに彼女自身も喜びを感じてした。それにお金を受け取ることで自分がきちんと認められているのだと実感できるし、少し大人に近づけたような気がするので仕事への「やりがい」が生まれていた。

十常寺もサニーの表情を見ればそれがわからないでもない。大人ばかりに囲まれた環境のせいなのか・・・サニーは人一倍大人になることへの憧れが強いのだ。それ以上は何も言わず本人が納得するまで最後までやらせることにした。




※※※※※※※※※




「ごめんなさい・・・・・」

門限の5時を30分過ぎて屋敷に戻ってきたサニーの前には怖い顔をした樊瑞。「どうしてこんなに遅くなった」と問い詰められてもサニーは謝り、後は俯いて黙っているしかない。

「まったく・・・ん?どうしたその手は」

指に巻きつけられたたくさんの絆創膏は先ほどの針仕事の勲章。慌てて隠そうとするが手に持っていた十常寺から貰った「給金」を落としてしまう。

「金?・・・おいサニーこのお金はなんだ?」

高い音を立てて散らばった硬貨をサニーが必死になってかき集める姿を見て急に不安にかられる。お金などサニーに必要ないし持たせたことなど無い。抑えようも無い不安がどんどん膨らんでいき

「ま・・・まさか!お金を・・・サニー!私はお前をそんな子に育てた覚えはないぞ!!」

「おじ様・・・・」

それがどういう意味なのかすぐにわかったサニーは・・・悲しくなった。最後の一枚を拾うと樊瑞の顔も見ずに二階に駆け上がり自分の部屋にカギをかけてしまう。

「サニー!出てきなさい!きちんと私に説明してくれ!」

ドアを叩きながら樊瑞が叫んでいる。
説明などできるはずがない。

しばらくして諦めたのか静かになった後もサニーは下に下りようとせず、その日の夕食は結局食べなかった。とてもじゃないが樊瑞と顔を合わせられる気持ちじゃないからだ。

部屋で一人、サニーはバイトで稼いだお金を貯めていたピンクの「ブタさん貯金箱」から取り出し一枚一枚数えていった。

「ふう・・・・どうしよう・・・お金を稼ぐのがこんなに大変だったなんて・・・」

これが父の日の贈り物となるネクタイに化けるにはまだ足りそうにない。

事情をサニーから聞いたカワラザキが3人以外の他の十傑にも口ぞえをしてくれた。父の日まであの3人に内緒で掃除や手伝いなどちょっとしたバイトをサニーにさせて欲しい、そして少しでもよいからお金を働きに応じて与えて欲しいと。

気を利かせて約束以上の「給金」を手渡そうとする十傑もいたがサニーは丁重に断ってきた。気持ちは本当にありがたいが、あくまでも自分の働きに見合ったお金でないと意味が無い。どうしても自分一人の手で得た胸を張れるお金で無いと、父の日に贈り物はできないとサニーは考えていた。

「でも父の日まで頑張らなくちゃ・・・」

決意新たに数えたお金をブタさんに入れていくが・・・樊瑞の言葉がまだ胸に痛い。事情を説明できない自分も悪いのだが・・・

サニーは少しだけ自分を信じてくれなかった樊瑞を恨んだ。




※※※※※※※※※




早朝からの任務地への出立のお陰で樊瑞と顔を合わせることは無かった。長期任務となるので父の日当日までしばらくは帰ってこないのが救いのような気もするが、サニーの気持ちは晴れはしない。午前中のセルバンテスによる民族学の講義の際もその気持ちが顔に表れていたのか・・・

「悩みがあればおじ様が聞いてあげるよ?」

しかしこの事情は3人のうちの一人であるセルバンテスにも教えられない。下に俯くばかりのサニーの様子を見てセルバンテスもそれ以上訪ねようとはしなかった、ただ・・・

「実は朝早く出て行った樊瑞から聞いたけど・・・・安心したまえ、私は何があってもサニーちゃんの味方だから。全世界敵に回してもね」

ニィと歯を見せるセルバンテス、サニーは無償で受け入れてくれる気持ちに胸の痞え(つかえ)が無くなる気がする。

「それに一緒になって聞いてたアルベルトも鼻で笑ってたし。お父さんもサニーちゃんのことをちゃんと信じてるさ」

「お父様が・・・・」

一気に晴れるサニーの表情を見れば樊瑞の思い込みだったことに確信がもてる。

「樊瑞も信じてないわけじゃあないと思うがね、ただ・・・ずっとサニーちゃんを見てきたのだから急に自分の知らない秘密を持たれるのが不安なんだろうね。わかるだろう?その不安は信頼が深ければこそだ」

「・・・はい」

涙をためて頷くサニーの頭をセルバンテスは優しく撫でてやった。





※※※※※※※※※




幽鬼の温室で草むしり、怒鬼の足袋の縫い付け、カワラザキの肩叩き・・・・その日からもサニーは懸命に仕事に勤しみ少しずつではあるがお金を貯めていった。だが、あともう一稼ぎいないと買おうと思っているネクタイは3本買えない、それに父の日はもう明後日。

十傑たちが自分のために都合つけてくれるのが分かっているため無理に仕事を貰うのは気が引ける、出来れば本当に必要とされる仕事を請けたい。選り好みしている場合ではないがそこはサニーにとって譲れないところだった。

だが・・・いくら悩んでもどうしようもない現実にサニーは自分の限界を痛感。
所詮は子どもの力ではどうしようもないと本部内の大回廊をブタさん貯金箱を持ってトボトボと歩いていたら

「おい貴様、コレを縫え」

いつの間にか背後に立っていたレッドが差し出すそれは彼のトレードマークの一つである目に痛いくらいの真っ赤なマフラー。広げて見せ付けるそこには焼けたような小さな穴・・・任務中に銃撃を受けたモノだ。きょとんとしているサニーに「さっさと縫え」と押し付け側にある休憩用のソファにどっかり座り込んでしまった。

「丁寧に縫え」

「あ・・・はい」

有無を言わさぬ態度にサニーも慌てていつも持ち歩いている携帯用ソーイングセットを取り出し、出来るだけ近い色の赤い糸を選んで針に通す。レッドに見られながらで緊張するがサニーは目立たないよう丁寧に穴を縫い合わせ、出来上がったそれは穴がどこにあるかわからない仕上がりとなった。

「ふん、まぁいいだろう」

しげしげとチェックを行うと再びマフラーを首に巻きつけた、そしてスーツのポケットから一枚の紙幣を取り出すとねじ込むようにブタさんに入れようとする。

「あ・・・レッド様こんなことでお金をいただくことは出来ません!しかもこんなに、多すぎます!」

「黙れ。働きにはそれに応じた見返りがあって当然、私はそれを実行しているまでだ。良いか、これは多くも無ければ少なくもない。受け取りの拒否は私に対する侮辱、そんなこと許さぬからな」

サニーの事情をカワラザキから聞いて協力してくれた十傑たちだったが、ひとりレッドは我関せずの態度でサニーをまったく相手にしてこなかった。それが急に今日になって・・・サニーはブタさんの背中に刺さるようにクシャクシャになった紙幣を見詰め、礼を言おうと顔を上げたが・・・・すでにレッドの姿はどこにも無かった。





※※※※※※※※※





「え?『父の日』??・・・で私にも?」

「はい、セルバンテスのおじ様」

「で・・・でも私はサニーちゃんのお父さんじゃあないよ?」

「私はそう思ってはいません」

真っ直ぐ目を見て言うサニーに差し出されるネクタイを、セルバンテスは受け取った。サニーが去った後、しばし呆然としたように手にあるそれを見詰めていたがゆっくり丁寧に包み紙を開けてみる。気のせいか手が震えていた。

「サニーちゃん・・・これを買うために自分で働いてお金を稼いだそうだ」

「・・・・・・・らしいな」

「任務中にこのネクタイは・・・つけられないなぁ・・・」

「・・・・・・・・・・・・・・」

セルバンテスがネクタイをこの世の至宝のように扱っている横でアルベルトもまた包み紙を開けていく。中には品のある光沢を纏った黒いネクタイ。白く細いラインが一本縦に入ったスマートなデザインは嫌いではない。

「ふふふ・・・アルベルト。せっかくの君の泣き顔が滲んで見えるのが残念だよ」

「馬鹿か、私は泣いてなどおらん。それよりお前はさっさと顔を洗って来い」

自分が所持しているネクタイの方が遥かに高級で値が張るのはわかる、しかし「娘からの贈り物」は世界中どこを探しても売ってはいない。その価値の高さを誰よりも知るアルベルトは誰にも盗られないよう自分の懐に大切にしまいこんだ。





そして



悶々とした気持ちを胸に残したまま長い任務を終えて帰ってきた樊瑞

彼がようやくサニーの事情を知ったのはその手にネクタイを受け取った時

その後2人がどんな顔をしてどんな会話をしたのかは




想像で済ませたい。









END





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