春陽夏火
窓辺から雪の舞い散る光景を目にすることはできないというのに、肌に刺すような寒さを感じてしまう。
――民は今感じている寒さの比ではないだろう。すでに雪は降り積もり、民は扉を閉ざす。
臥牀から抜け出し、着物を羽織り窓辺に立った直後は涼しかったが、それもすぐに寒さへと変化する。
それでも――火はまだ消えていない。
「……着物一枚では冷えるぞ?」
「し……驍宗様も一枚ではお体を冷やします」
静かにそっと李斎に着物を肩にかけたのは、少し遅れて目覚めた驍宗だった。わずかに彼の熱を感じる。
「まだ熱い、がすぐに冷えるのだろうな」
「体は冷え切ります。御酒を用意いたしましょうか?」
「酒は必要ない」
そう言って背から覆い被さるように李斎を抱き締める。まだ営みの証を含んでいる熱を感じて、わずかに頬を赤らめた。
「本格的な冬がやってきますね……」
「ああ……」
窓辺からは園林しか見ることができなくても、雲海の上であっても冬の空気は漂ってくる。
「春に近い冬だと私は思っておりますが」
「春に近き冬、とは……」
「戴にとって冬は過酷です、が主上がおります。ですから妖魔が蔓延ることも、近年よりも凍死者は減ることでしょう。冬は冬ですが、王という暖かな光があります。まだ辛くとも……少しずつ、辛い冬ではなく、季節を受け入れて笑顔で過ごすことのできる冬が来ると、私は思っております」
何もかも、希望の光さえもなかった昨年の冬、しかし天帝は王を戴に遣わした。
「そして、私的な話になってしまいますが」
言い辛いわけではなかった、けれどどこか気恥ずかしかったけれど、心からの言葉を告げる。
「私にも春を授けていただきました。内には夏を……」
愛しい人を得て、心には恋という熱い想いが生まれて。
春のように穏やかで暖かく、夏のように熱く興奮している心。
「それは私も……同じ想いだ」
李斎だけではなく、驍宗もまた愛しい人に出会って、多くの暖かさを生むことができた。それは心地よくて、日々の疲れを癒してくれるかのように――暖かい。
笑みを浮かべて、互いの温もりに触れてただ静かに視線を窓辺に向ける。交わす言葉もなく、静かに静かに時間を共有する。
やがて体が冷え切ってきて、驍宗は口を開いた。
「そろそろ臥牀に戻ろう、寒いだろう?」
「寒くはございません。驍宗様は暖かいですし……」
それに。
「己の中に燻る熱は冷えることはありません。その熱は体に高揚感を与えてくれます。ですから……寒くはございません」
「こんなにも手が冷えているのにか?」
少し硬い手が、女人にしては鍛えられた指に絡みつく。
「そんなに深く追求は……」
「すまない」
少し意地悪な問いだった、と反省しつつ体は冷え切っている。李斎を臥牀に導き押し倒した。髪が李斎に降り注ぐ。
「もう一度暖まるか」
「……はい」
触れられた先から熱が帯び始める。
己の中にある火が大きく燃え広がっていく。
お互いが存在し、触れ合えば寒い冬も、暖かな春と夏が幾度となく巡り続けるのだ――。
窓辺から雪の舞い散る光景を目にすることはできないというのに、肌に刺すような寒さを感じてしまう。
――民は今感じている寒さの比ではないだろう。すでに雪は降り積もり、民は扉を閉ざす。
臥牀から抜け出し、着物を羽織り窓辺に立った直後は涼しかったが、それもすぐに寒さへと変化する。
それでも――火はまだ消えていない。
「……着物一枚では冷えるぞ?」
「し……驍宗様も一枚ではお体を冷やします」
静かにそっと李斎に着物を肩にかけたのは、少し遅れて目覚めた驍宗だった。わずかに彼の熱を感じる。
「まだ熱い、がすぐに冷えるのだろうな」
「体は冷え切ります。御酒を用意いたしましょうか?」
「酒は必要ない」
そう言って背から覆い被さるように李斎を抱き締める。まだ営みの証を含んでいる熱を感じて、わずかに頬を赤らめた。
「本格的な冬がやってきますね……」
「ああ……」
窓辺からは園林しか見ることができなくても、雲海の上であっても冬の空気は漂ってくる。
「春に近い冬だと私は思っておりますが」
「春に近き冬、とは……」
「戴にとって冬は過酷です、が主上がおります。ですから妖魔が蔓延ることも、近年よりも凍死者は減ることでしょう。冬は冬ですが、王という暖かな光があります。まだ辛くとも……少しずつ、辛い冬ではなく、季節を受け入れて笑顔で過ごすことのできる冬が来ると、私は思っております」
何もかも、希望の光さえもなかった昨年の冬、しかし天帝は王を戴に遣わした。
「そして、私的な話になってしまいますが」
言い辛いわけではなかった、けれどどこか気恥ずかしかったけれど、心からの言葉を告げる。
「私にも春を授けていただきました。内には夏を……」
愛しい人を得て、心には恋という熱い想いが生まれて。
春のように穏やかで暖かく、夏のように熱く興奮している心。
「それは私も……同じ想いだ」
李斎だけではなく、驍宗もまた愛しい人に出会って、多くの暖かさを生むことができた。それは心地よくて、日々の疲れを癒してくれるかのように――暖かい。
笑みを浮かべて、互いの温もりに触れてただ静かに視線を窓辺に向ける。交わす言葉もなく、静かに静かに時間を共有する。
やがて体が冷え切ってきて、驍宗は口を開いた。
「そろそろ臥牀に戻ろう、寒いだろう?」
「寒くはございません。驍宗様は暖かいですし……」
それに。
「己の中に燻る熱は冷えることはありません。その熱は体に高揚感を与えてくれます。ですから……寒くはございません」
「こんなにも手が冷えているのにか?」
少し硬い手が、女人にしては鍛えられた指に絡みつく。
「そんなに深く追求は……」
「すまない」
少し意地悪な問いだった、と反省しつつ体は冷え切っている。李斎を臥牀に導き押し倒した。髪が李斎に降り注ぐ。
「もう一度暖まるか」
「……はい」
触れられた先から熱が帯び始める。
己の中にある火が大きく燃え広がっていく。
お互いが存在し、触れ合えば寒い冬も、暖かな春と夏が幾度となく巡り続けるのだ――。
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