あなたの側には
夕飯の席で、遥は桐生のお代わりをよそおうと茶碗を受けとり…
桐生の胸元に光ったチェーンに、そっと目をそらした。
チェーンについた、母親の指輪。
あの日から桐生は肌身離さず由美の指輪を身につけていた。
「どうした?」
「えっ!?な、なんでもない!おじさんよく食べるなぁって思って」
これは、あながち嘘の発言ではない。
桐生は遥の作る食事は毎回よく食べた。がっしりした体格は、それなりの栄養のおかげだろう。
「あ?ああ、遥の飯は旨いからな。また腕を上げたんじゃないか?」
「うん、調理実習でも先生に褒められたよ。先生よりも上手くできてるって」
「そうか。それは凄いな」
遥が褒められたことは、父親がわりの桐生にとっても嬉しいことだ。
嬉しそうに頭を撫でてくれる桐生が、遥も嬉しい。
けれど、そのたびに光るチェーンが遥の胸を痛ませた。
(お母さん…)
桐生のただ一人の、想い人。
そして遥の母親。
(おじさんはお母さんがずっと好きで、お母さんは死ぬまでおじさんが好きだった)
(それはこれからも変わらない事実)
(でも…敵わないよね)
この想いがひと欠片だって溢れないように、山盛りの茶碗を笑顔で差し出す。
「おじさんは成長期だもんね」
「馬鹿、それはお前だろ」
(あなたは私の、ただ一人の想い人)
(だから)
せめて、暖かな食卓をあなたに。
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