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笑って欲しい

風呂から煙が上がっているのを発見したのは、偶然通りかかった遥だった。

きなくさい臭いに風呂場を覗けばヤバイ煙が充満していて、急いでスイッチを切る。
煙が上がっていたのは、お湯がでるはずの所で…原因は『おいだき』と『お湯はり』のスイッチを桐生が間違えたことだった。

〇〇ガスに連絡して修理してもらうことにはなったが、明日になるという。
女の子である遥が一日お風呂に入れないことに我慢できるはずもなく…仕方なく、近所の健康ランドへ行くことになった。


「本当にすまなかったな…遥」

「もういいって。明日には修理屋さんが来てくれるんだし」

しょぼくれて謝る桐生に、遥はころころと笑う。
もの静かでクールな桐生がしょぼくれている姿が、可愛くてしかたない。大人に思う事ではないだろうが、まるで悪いテストを見つけられた子供のようだ。

「たまには外のお風呂もいいよ!おっきなお風呂好きだし!」

「…すまないな」

「そう思うなら帰りにアイス買ってくれればいいから?」

しっかりしてる、と桐生は頷いた。




一番近所にある健康ランドについたが、桐生は入り口の張り紙に眉をひそめた。
遥もまた、同じ張り紙にあっと口に手を当てる。

―刺青の方おことわり―

二人は顔を見合わせてきびすを返す。
こういう銭湯が有ることも知ってはいたが…桐生の背負う龍では入れない。


「本っ当にすまない…!!」

「う、ううん!平気平気!」

「……俺が外で待ってる手もあるんだが…」

「おじさんも入れる所探すの!行くよ!」

遥は桐生の手を引っ張ると、強引に刺青おことわりの健康ランドを後にした。



結局…桐生が入ることのできる銭湯は三軒ほど回っても見つからなかった。
どこもヤクザ相手には厳しい態度で、今はカタギの桐生でも背中の刺青は入り辛い。桐生も遥も、歩き回っているうちにすっかり体が冷えてしまった。

冷えきった遥の手を繋いでいた桐生は、次を最後に遥だけ入れようと心に決める。
遥が何と言おうと自分は外で待っていればいい。

「あ、あそこあったよ」

寒さに頬を赤くして嬉しそうに声を弾ませる遥を見て…桐生は申し訳なく思いたがら頷いた。



遥が見つけた銭湯は年季の入った、下町の銭湯といったたたずまいだった。
表には刺青おことわりという張り紙は無かったが、桐生は躊躇う。

「ちょっと、聞いてくるよ」

そんな桐生に、遥は軽いノリで中へ駆け込んでいった。



少しすると、遥が頭の上で丸をつくりながら戻ってくる。
夜風に冷えきっていた桐生はほっしてと、中へ入った。


ここの銭湯の店主は人の良さそうなお爺さんで、恐面の桐生を見てもどうぞどうぞと勧めてくれた。
場末の銭湯だから客は少ないし、こんなに可愛い子供さんを連れた人なら大丈夫ですよ。
その言葉に、桐生はありがたいと頭を下げた。

「じゃあ、出るときは声かけてね?」

「ああ。ちゃんと百まで数えるんだぞ?」

「わかってるよ!じゃあ後でね、おじさん!」

女湯に駆け込んでいく遥はやっぱり寒かったようで、桐生も早く温まりたいと男湯の暖簾をくぐった。

脱衣所には運よく、誰もいなかった。
人の目を気にせずシャツを脱ぎ、中へと入る。広い湯船につかると、冷えきった体がじんわりと痺れをともなって温まっていった。


「おじさ~ん!石鹸忘れちゃったから貸して~!」

足を伸ばしていると、男湯と女湯とを隔てる壁の向こうから遥が声をかけてくる。
恥ずかしいと思いつつも…男湯が貸し切り状態なのだから向こうもだろう…と、希望的観測のもと、石鹸を壁の向こうへ投げてやる。

「ありがとう~!」

「おう!」

「直ぐ返すね~!」

遥の声に混じって女の笑い声が聞こえ、少し恥ずかしかった。


きゃはは、と女湯から遥とおばさんたちが戯れる笑い声はしばらく続き…数を数える声に変わる。

「おじさ~ん!百数えた~!」

返事をするのが恥ずかしいが、

「おじさ~ん!!お~じ~さ~ん!!」

返事をしないと、遥は延々声をかけてくる。
仕方なく桐生は控え目に返事を返した。

「いま、あがる…」






ほっこりと肌から湯気が立ち昇り、水分を僅かに含んだ髪が夜風になびく。
繋いだ手がいつも以上に暖かかった。

「おじさん!約束のアイス買って!」

「冷えないか?」

「温かいから大丈夫だよ。ね?」

「しょうがないな、迷惑かけたし、いろいろ聞いてくれたもんな。…ありがとう」

たかが銭湯。
それに入るのにすら苦労するおじさんの為に頑張ってくれたのだ。
アイスくらい買ってやらなければ罰があたる。

しかし遥は不思議そうに首を傾げると…ああ、と頷いて笑った。

「変な事でお礼言うね?」

「遥…?」

「私にとっては、あんなこと当たり前だよ。おじさんに笑って欲しいから」

「将来、おじさんのお嫁さんになるんだからね」

告げられる未来にぎょっとしていると、遥はコンビニを見つけて桐生の腕を引っ張る。

「アイスアイスvv」

「あ…ああ…」


娘はマッハのスピードで成長していくもの…

桐生は間近でそれを目撃し…嬉しいような…なんだか甘酸っぱい思いで、遥に引っ張られていった。






「おじさんはこれにする?」

「ハバネロアイス…?」

「友達とコンビニにいった時から気になってたの。おじさん食べてみて?」

「お前……おねだりが日々無茶になってきてるぞ?」


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