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晩秋の風は冷たく、空は澄み切ってどこまでも高い。その青い空に向かって、黄色く染まった銀杏並木が、梢を揺らしていた。風が吹くたび、黄色い葉がさらさらと音をたて降り注ぎ、まるで別世界にいるような気分になる。
桐生一馬は、銀杏の木の下で、人を待っていた。すぐに、待ち人は現れた。
「おじさん!」
黄色いカーテンの向こうから走ってくる女性。白いスカート、青いセーター、揺れる髪。一瞬、由美と見間違うほど、母親によく似た、可愛い娘。
「ゴメンね、遅くなっちゃった」
すぐ目の前に立つ遥は、もうすっかり大人の顔だった。薄い化粧と、つやつやと輝く唇。
「おじさん、元気だった?」
「ああ」
桐生が短く答えると、遥はにこっと微笑んだ。その時、ようやっと追いついたのか、遥の後ろに大男が立った。
「遥。速いでホンマ」
かけられた声に遥が振り返る。そこには、郷田龍司が、あのスーツ姿で立っていた。
「だって、おじさん待たせちゃ悪いでしょ?」
遥は軽く言う。それから、桐生に向き直り
「彰がぐずっちゃって、家出るの遅くなっちゃったの。ほら、彰、ご挨拶」
遥に促され、龍司が一歩桐生に近付く。両手に抱きかかえたそれは、間違いなく赤ん坊だった。壊れものを扱うように、龍司はそっと、赤ん坊の顔を桐生に向ける。
「ほれ、彰。おじいちゃんやで」
言われて、桐生はその顔を覗き込んで・・・
「!」
次に見えたのは、天井だった。薄暗い天井。次に、今見ていたのが夢だと理解する。
「・・・何だったんだ、今のは」
小さく呟く。鮮明な、オールカラーの夢。あれでは、龍司と遥が結婚しているみたいではないか。しかも子供まで・・・。
桐生は頭を一つ振った。タバコでも吸うかとベッドを降りる。部屋を出て、ふと、遥の部屋をのぞいてみた。
引き戸を少し開けて覗くと、遥は布団を蹴って、何もかけずに眠っていた。寒いのか、小さな手足をひきつけて、丸くなっている。
そっと部屋に入って、桐生は布団をかけなおしてやった。黒い髪に触れて、少し微笑む。遥はまだ十歳だ。あと十年は夢の世界のようにならない。あと十年は、こんな穏やかな生活が続くはずだ。
「頼むから、あんな男と結婚しないでくれよ」
小さく言って、桐生は親馬鹿な自分に苦笑しつつ、部屋を後にした。




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