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真っ暗な部屋。
ふたつ灯る小さな火。
寄り添うふたつの影。





「ね、おじさん。もう消して良い?」

「ちょ、ちょっと待った!ええっと…よし、大丈夫だ。」



遥が頬にかかる髪を掻きあげ、フッと火に息を吹き掛けると同時にフラッシュとシャッターが下りた。



「私、変な顔で写ってない?」

「ん?えっ…と。」

「貸して、おじさん。…うーん、ちょっと変だけど記念だもんね!」






そう、今日は遥16歳の誕生日。






「おめでとう。」


優しく微笑む桐生に、遥は「有り難う」と照れたように笑った。




遥は、この年で凄まじい人生を歩んできた。
親との別れ、衝撃の出会い。殺人現場の目撃や誘拐は何度となくあった。それこそ、命賭けだった事も多々ある。
しかし少女はいつも明るい笑顔を絶やさず、皆を慕っていた。

そんな少女を、いつも危険な目に遭わせてしまうのは全て己のせいだと桐生は悔んだ事もある。
そんな彼を救ったのは遥自身の強さと優しさだった。




そんな少女が、今日16歳になった。



もう遥と出会って七年が経つのか。
長いようで短い、密度の濃い七年だったように思う。
この七年で何が始まり、何が終わっただろう。
誰と出会い、誰と別れ、誰と拳を交え、誰と酒を汲み交し…。

桐生は電気を点けると、煙草に火をつけながらフッと笑った。




「どうしたの?急に笑って。」

「ん…俺も年食う訳だと思ってな。」

「そう?おじさんはまだまだ若いと思うけど…。」



遥は子首を傾げながらも、ケーキを切り、お皿に分ける。




「やっぱりワンホールのケーキだと余っちゃうね。」

「今から誰か呼ぶか?真島の兄さん辺りならすぐ来ると…」

「い、いい!余った分は私が全部食べるから…!!」

「…腹壊さないか?」



全力で首を横に振る遥に、今度は桐生が首を傾げる。
少女の、記念すべき16歳の誕生日はたった一人と過ごしたいという願いに全く気付く事はない様子。







「そうだ…遥、これはつまらないもんだが。」



桐生はそう言って、家具の隙間から小さな箱を遥に手渡した。
「有り難う」と笑顔で礼を言い、箱を開けた少女の目が溢れ落ちる程大きく見開かれる。






「おじさん、これ…。」

「前に欲しいって言ってたなかったか?」





シンプルな箱の中には、此方もシンプルな銀の指輪がちょこんと鎮座していた。
なんの飾りもない華奢なリングはまるで、まるで……




「…結婚指輪みたい。」


フッと大人びた微笑みを、遥は漏らした。





瞬間、懐かしいあの人の笑顔が重なった気がして桐生は目を見開いた。



「…おじさん?」

「…っ………あ…ああ、いや。何でもない…。」




親子は似るもんだ。
そう自分に言い聞かせ、まだ長い煙草を灰皿に捨てる。

もう、少女も16歳。
顔付きは元より、仕草や言葉使いまでも少しずつ母親に似てきている気がして、たまに懐かしい昔の記憶が蘇る事もあった。


強くて優しい、あの眩しい笑顔。
自分が一番守りたいと思った、あの……






「ね、おじさん。これ今日からずっとつけてて良い?」

「学校では外すんだぞ。」

「うん!…一生大事にするからね………一馬…。」





大人びた、眩しい笑顔。








それは強くて、優しくて




涙が溢れそうなくらい、とても綺麗で……











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