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うろほろぞ
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久し振りに来た神室町は、昔とさして変わらない夜の濃厚な匂いがする。

思考を狂わせ、感覚を麻痺させる町。新宿神室町。


今日、十八歳を迎えた遥は一人セレナに向かっていた。
高校生の制服と化粧っ気の無い顔はこの夜の町ではかなり目立つが、当の本人は全く気にしていない。
セレナは100億の事件後に東城会が跡地を買い取り、西と東の抗争後に新たなスナックとして復活していた。


今日は東城会も近江連合もホストもホームレスも関係なしに祝ってくれるっておじさん言ってたけど・・・・・・誰が集まってくれたのかな。

ワクワクしながら、遥は指を折ってみる。
まずおじさんでしょ、伊達のおじさんと大吾のお兄ちゃんと真島のおじさん。近江連合って言ってたし、龍司のお兄ちゃんも来てくれるかな。
ホストは・・・ユウヤお兄ちゃんと一輝お兄ちゃん?仕事はどうするんだろ。
あとは花屋のおじさんと小牧のお爺ちゃんと白お婆ちゃんと……。
自然と笑みが零れて、足取りも軽くなる。




と。
こじんまりとした公園の横を通った時、小さくもめるような声がした。


「オネエチャン、良いだろォ?」

「僕達と遊ぼうよー。」

「・・・や、やめて、下さい・・・!」


一人の女性を二人の男が挟むようにして立っている。
怯えて震える女性の腕を掴み、男は下卑た笑みを大きくした。

一つ溜め息を吐くと、遥は肩に掛かった長い髪を後ろに払い、進む方向を横に変えた。



困った人をほっておけない性格は、神室町のヒーローのような桐生の背を見続けた遥にしっかりと染み付いていた。


 
 
「ね、お兄さん?」


軽やかな足取りのまま三人に近付き、アイドル顔負けの輝く笑顔で尋ねる。


「お姉さん嫌がってるよ?その腕、離してあげてよ。」


笑顔はそのまま、高校生にしては落ち着いた声で「ね?」と首を傾げる。
男達は呆然とした様子で、遥を見詰めた。
その隙をついて女性は力一杯腕を振り解き、遥の後ろに隠れるように身を縮める。


「あ、ありがとう・・・。」

「ううん。大丈夫?怪我はしてない?」

「ええ。」

「ふふ、良かった。」


輝く笑顔を見せると、女性も安心したように少し微笑む。
無視されたままの二人の男は焦ったように声を荒げた。


「お、おいおいお壌ちゃん!大人の邪魔しちゃするんじゃねぇよ!!」

「それともなに、お嬢ちゃんが相手してくれんの??お嬢ちゃんすっごく可愛いからそれでもいいけど。」


再び下卑た笑みを浮かべる二人に、女性は怯えたように遥の肩にしがみつく。しかし遥は平然と見返し、肩に置かれた手には安心させるように優しく撫でてあげる。


「ごめんね、私はこの後用事があるから。それに知らない人にはついてくなって昔から耳にタコが出来るくらいおじさんに言われてるし。」



この『おじさん』が極道会でも神室町内でも飛びぬけて有名な『伝説の元極道』、そしてこの女子高生がその目に入れても痛くない愛する『娘』だなんて男達は知るはずも無い。
 
 
「いいじゃん、お兄さん達と遊ぼうよ~。」

「優しくしてあげるからさぁ?」


へらへらと笑いながら、遥に向かって汚い腕を伸ばした。




 パシッ



小気味いい程乾いた音をさせ、遥はその手を素早く払った。
先程までの天使の笑みは消え、十八歳の女子高生にしては貫禄がありすぎる瞳で男達を見据える。


「…いい加減にしてよ。これ以上余計な事をするっていうなら、私が許さないんだから。」




酷く落ち着いた声。
細められた目。


「お、お前…だ、だ、誰なんだよ・・・っ!?」


笑顔の可愛かったごく普通の少女から流石にただならぬ気配を感じ、男の一人が後ずさる。





「お前、じゃない。」



九年前の、あの運命の日を思い出し、笑みが漏れる。
そう、全てはあの日この場所から始まった。


あの人と出会い。

あの人と歩み。

あの人と生き。










「私は遥。・・・・・・桐生、遥よ!」








 パチパチパチ



「さっすがは嬢ちゃんや!」


不意に、後ろから声と拍手がした。
と同時にドスが男の横顔を掠って木に刺さる。


 
 
「今の啖呵、めっちゃ桐生チャンに似とったで。流石は親子やなぁ?」

「そんな事教えてないですが。」

「イケてんじゃん、遥。」

「関東の女子高生はごっついのぅ。」


振り返った遥の目に、四人の頼もしい男達が映った。

一人はニヤニヤ笑う、素肌に皮ジャケットの眼帯男。
肩をバシバシ叩かれて困ったような顔をしている男は、眉を寄せ心配そうに此方に視線を向けている。
そしてその後ろで微笑み、気だるげな動作で煙草に火をつけるダウンの男。
少し離れて、豪快に笑う腕を組んだ大柄な金髪男。



「おじさん!!それに真島のおじさんに大吾のお兄ちゃん、龍司のお兄ちゃんまで!」


その言葉に、男達が固まる。
流石に堂島の龍、嶋野の狂犬の通り名は知らなくとも『桐生』『真島』の名は伝説となって神室町に語り継がれている。
そして現東城会の会長と、現近江連合の会長。





この豪華な集まりは一体何なんだ。




「どうして…。」

「嬢ちゃんが待ってもこーへんから捜しにきてん。ま、ワシらはもうちょい待てばええゆうたんやけど、桐生チャンが心配や心配や言うて聞かんでなぁ。」

「兄さん・・・っ!!」

「でも良かったじゃねぇか、すぐ見付かったし。」

「遥ぁ、怪我ないか。」


龍司が笑いながらガシガシと遥の頭を撫でてやる。
突然の屈強な男達の登場で更に怯える女性とは、大吾がなんとか話をつけていた。


 
 
動けない男達の横を素通りし、真島は木に刺さったままの鬼炎のドスを抜く。


「あーあ、刃こぼれしてもーた。やっぱわざと外したったんは間違いやったかな。」


物騒な気配を隠しもせずに、ドスの柄部分を愛しそうに撫でる。


「今日が嬢ちゃんの誕生日ちゃうかったらこいつでし~っかり躾けてやってんけどなぁ。運悪いで、お前ら。」


いや、確実に運が良かった。
しかし二人はそんな事を考える余裕もなく、ただ震える事しか出来そうもない。


「さぁこのザコらどないするか、遥が決めや。」


龍司は息が詰まる程の鋭い眼光で男達を見下ろし、ちらりと優しい視線を遥に向ける。


「天下の東城会と近江連合の力でどうとでも出来るぜ…?」


大吾もその横に立ち、ニヤリと物騒に笑う。


「さっきはあー言うたけど、ワシに任せてもええで?最近躾のなってないガキが仰山おるしな、ちょっ~と痛い目みて学習させたらええねん。」


ドスを手元で器用に回しながら、隻眼を狂気に歪ませる。
桐生は遥の前でしゃがみ、真っ直ぐ遥を見上げた。





出会った頃はこうすると目線が合ったのに、と少し昔を思い出しながら。



「遥。」



その一言で、遥は頷いた。


「私は大丈夫。だから、何もしないであげて。」



振り向き、輝く笑顔を男達に向ける。


「でも、もうこんな無理強いはしないって約束して。」


男達はただただ首が千切れそうになるぐらい首を縦に振った。
地獄に仏とはまさにこの事だ、と深く実感しながら。


 
 
 


 
「いつの間にか大きくなってたんだな…。」



前を真島、後ろを龍司と大吾が挟む様に歩き、遥は右隣を歩く桐生の様子をちらっと窺う。

今日は凄く機嫌が良いみたい。


ちょっとずつ、近付く。


「遥はいつまでも小さいって思ってたんだが。」

「おじさんに比べたらまだまだ小さいよ?」


一歩斜めに、また一歩斜めに。
そして。





「…だからおじさん、もうちょっとだけ私を離さないで。」



その温かくて大きな手を握る。
離れないよう。離されないよう。
力強く。
想いを込めて。


フ、と桐生が笑った。





「お前が煩わしいと思っても、ずっと離してやらねぇよ。」



強く握り返してくれた手は、昔と変わらずとても温かかった。











「桐生さん!遥ちゃん!もう、遅いっすよォ。」

「よお、皆待ってんぜ。」


店の前で出迎えてくれたのはユウヤと伊達。
中からは既に賑やかな声が漏れ聞こえてくる。



「嬢ちゃん、ほら開けや。」

「遥が主役だしな。」

「ほらほら、みんな遥来るん待っとるで。」



「…遥。お前が開けてくれ。」




四人に笑みを返し、ドアに手を掛ける。










遥、十八歳。
その記念すべき一日は、零れんばかりの幸せな笑顔でいっぱいになった。



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