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家族ゲーム

夜の公園。
遊んでいる子供なんていなく、いるのは段ボールを布団にして寝ているホームレスだけ。

そんな静かな公園の中…遥のよろつく姿に、ドシンという鈍い音。
その度に桐生ははらはらしたり、あぁ!と声をあげる。
慌てて駆け寄りたいけれど、それは遥自身に止められていて…
ぐっと我慢すればまた、ドシンと鈍い音。

「は、遥…今日はもう止めないか…?」

いい加減すり傷だらけの遥に、桐生はたまらず声をかける。
しかし、それに返ってきたのは、遥の厳しい声だった。

「まだ!!!帰るんなら、おじさんだけ先に帰って!!!」

もちろんそんなことをできる筈がなく、また何度も続く鈍い音に…はぁ…と深いため息をついて、ベンチへと座った。







気づいたのは、丁度仕事帰りの道での事だった。
商店街を通り抜けるとき目に入った、可愛らしい、真っ赤な自転車。
子供用のそれは自転車屋の店先に並べられていて、遥に似合いそうだと桐生はごく普通に思った。
遥と暮らすようになって、何を見ても遥なら…とあの少女に似合い物を探してしまう。
困った癖だな、なんて苦笑しながら自転車を見て…ふと気づく。

「そういえば…まだ遥に自転車、買ってやってなかったな…」

何処へ行くにも歩きか電車か、車に乗って移動していた。
それに、遥は自分から物を欲しいと言わない子だ。
桐生があれ、いるか?と聞くと、うんと頷くが、自分からはなかなか言わない。
ましてや、自転車みたいな万を超える品をねだる筈がなかったのだ。

「…学校の友達と出かける時、やっぱりいるか」

何時までも、歩きというわけにはいかないだろう。
桐生はひとつ頷くと、いつもより少し早足になって家への道を歩き始めた。







夕飯の時間。
今日も今日とて押し掛けてきた真島は桐生の隣に座り、ちまちま何かテーブルにこぼしは遥に叱られていた。

「真島のおじさん!またお箸の持ち方が違うよ!お箸の持ち方はこう!」


「…ええねん、ワシはこれで。食えたら一緒やし」

「駄目だよ。そんなんだから、こぼしちゃうんじゃない」

ほら、と箸の持ち方をレクチャーしてやるも…真島は直そうとしない。

ツマミとスナック菓子を肴に酒を飲んで、今まで生きてきた男だ。
表立った会合も面倒臭いと蹴っていたため、この癖を今まで知らなかったのだが…真島は箸を握るとき、手をグーにして握るらしい。
それに桐生と遥が気づいてから散々矯正しようとしたのだが…なかなか上手くいかない。

「親父も諦めたんに…」

「駄ー目!いつまでも子供じゃないんだから」

「……はは…まさか子供に言われる思わんかったわ」

情けなそうに顔を引きつらせ、やっと箸を正しく持とうと四苦八苦。
あの嶋野の狂犬とは思えない姿に、桐生はクスクス笑った。

「まぁまぁ、ゆっくりやっていこう。…そうだ、遥」

「何?」

「自転車、欲しくないか?」

ピタリ、と遥の動きが止まる。
真島にこう!と見せていた箸まで停止し、頑張っていた真島は首を傾げた。

「遥ちゃん?どないしたん?」

「遥?」

二人に顔を覗き込まれ、遥ははっと我に返る。
そして…力いっぱい首を横に振った。

「いい!!いらない!!」

あまりに強い拒絶に、二人は顔を見合わせる。
遠慮している…とかいうのではなく、本気で嫌がっているようだ。
そんな遥を見るのは初めてで、桐生は困惑した。

「でも、友達と遊びに行くときとか…不便じゃないか?」

「歩くから、いいもん」

「遥に似合いそうな自転車があったんだが…」

「別にいらないもん」

「でもなぁ…」

「いーらーなーいー!!!」

頑なのは、誰に似たのか。
ため息をついてみれば、隣で真島が「桐生ちゃんみたいやな」とケラケラ笑っていて。
恥ずかしくなって、テーブルの下で足を蹴りつける。
むこう脛を蹴られた真島は涙目になって足を抱えるが…目は笑ったままだ。

「遥ちゃん、もしかして自転車乗られへんのとちゃう?」

「え…そ、そうなのか?」



遥を見てみれば、遥は真っ赤になって唇を噛みしめている。
膝の上で拳をつくって、恥ずかしさに耐えていた。

「…………ヒマワリで練習したけど…上手く乗れなかったの。いっぱい転んで、怖かったし…」

段差で転んだときなんかは、手をついたときに手首に皹が入ったらしい。
それ以来、怖くて自転車の練習ができなかったそうだ。
ヤクザ相手にタンカをきるのに、意外な弱点が判明し…桐生はそうだったのかと頷いた。

「でも、そのままでいるわけにはいかないしな…兄さん、どうします?」

意見を求められ、真島はにやりと笑った。

「練習しか、ないやろが?」

スパルタな気配が漂う真島の笑みに…桐生とおののき、遥は逃走を試みる。
けれど素早く捕えられ、遥を肩に、桐生の右手を掴み。

「ほな、善は急げや。自転車買いに行くで!!」

「ま、真島のおじさん?!」

驚く二人を抱え、引きずり…真島は心底楽しそうに笑って玄関を飛びだしていった。








それから、まだ開いていた自転車屋で夕方見た自転車を買って、公園へとやってきた。
初めは嫌がっていた遥だったが…真島に後ろを押さえてもらいながら頑張るうち、やる気がでてきたようだった。
今では生傷をつくる遥に、桐生がもう止めようと言う始末。

「はるかー…」

「もう!!大丈夫だってば!!」

言ったはしから、また転ぶ。

「桐生ちゃん、邪魔したらあかんがな」

転んだ遥を起こしてやりながら、真島が笑う。
遥もそんな真島に、激しく同意した。

「絶対自転車に乗れるようになって、おじさんたちとサイクリングに行くんだから!!」

いつそんな話になったのか、遥が乗れるようになったら三人でサイクリングらしい。
自転車のテーマパークが関西のほうにあると、真島が入れ知恵したようだ。


でも、それだけ頑張るのなら…応援してやらなければいけないのかもしれない。
刻々と生傷を増やしていく愛娘を心配しつつ…桐生は真島に支えられてよろよろペタルをこぐ遥を見て、優しく微笑んだ。






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