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Beautiful Hair ?






「カイさん髪伸びたねー」

おかわり分の紅茶を入れようとして、
顔にかかった自分の前髪をカイが払ったのを見て、唐突にメイが言った。
巴里にある、カイの家。
メイの隣にはディズィー、少しずれてアクセルも座っており、
皆の前にある大きめのテーブルの上には、ケーキと紅茶が並べられている。

――事の発端は、4時間程前にさかのぼる。





昼の時間帯に近付くにつれ、段々と人の数が増して
賑わいだした巴里の商店街をカイは歩いていた。
歩調に合わせるように揺れる長めの上着は、警察機構の制服である。
この商店街を抜けた先に、目的の部署のある建物が建っている。
真っ直ぐそちらに歩みを進めていたカイの足が、ふと止まった。

今、見覚えのある姿が見えたような。

確かめようと少しそちらに近付くと、
傍を通り過ぎる大人に時々隠れてしまうが、
どこか頼りない足取りで歩くその人物は、確かに見知った顔だった。
黒とオレンジで統一された服と、同じくオレンジ色をした大きめの帽子。
長めの髪を、その帽子に通して高い位置で止めている。
いつも手にしている愛用の武器、船のイカリはないようだが。
どうして、こんなところに?

「メイさん?」
「…?!」
声の届くところまで近付いてから声を掛けると、
振り返りかけたメイは何故か突然、カイから逃げるように走り出す。
「ちょっ…メイさん!何で逃げるんですかっ」
「ひ、人違いよっ!私は快賊団のメイなんかじゃ…」
「…私です、カイ=キスクです!」
「!……カイさん?」
距離を離される前に追いついて名乗ると、メイは驚いたように振り返り、
カイの顔を認めてやっとその足を止める。
「なあんだ、てっきり警察の人かと思っちゃった」
「…………一応、警察です」
どうやらカイの着ている制服を見て逃げたらしい。
メイなどはその容姿や明るく活発な性格のせいで時々忘れそうになるが、
彼女の家族――ジェリーフィッシュ快賊団は、
義賊ではあるが世界中の警察機関に手配がかけられ、賞金首にもなっている。
メイとて例外ではない。
でも、
「またまた~。もし前みたいにジョニーが捕まったらよろしくね、カイさんv」
「はぁ…」
やはりこの少女を相手に逮捕しようなどという気はおきない。
にっこり笑いながら、人の行き交う往来で、
国際警察機構の長官に白昼堂々とんでもないお願いをする賞金首の少女に、
思わず返事を返してしまってから、カイは小さく笑った。
「それで、どうしてあなたがこんな所にいるんです?」
さっき思った事を聞いてみると、
メイは大きな目をきょろきょろと動かして周りを見やる。
「それが、ディズィーと買い物に来たんだけど、ここ初めてで…。
いつの間にかディズィーがいなくなっちゃって」
「つまり、ディズィーさんとはぐれてしまった訳ですね?」
「うん」
先程の心許ない歩き方に合点がいって、カイは軽く辺りを見回した。
初めて来たというメイでは、ディズィーを探している内に
自分が道に迷ってしまう事もありうる。
それに、まだ人間の暮らす世界に不慣れであるディズィーも心配である。
何より、友人が困っているのを放っておく訳にはいかない。
カイは即座に決断を下すと、少しかがむようにして、メイと目線を合わせた。
「では、私もお手伝いしますから、一緒にディズィーさんを探しましょう」
「いいの?…でもカイさん、仕事の途中じゃ」
「ああ、いいんですよ。急ぎの用ではありませんから」
それを聞いてぱっと明るくなったメイの表情につられるようにして、カイも笑った。

巴里の街は広い。
とは言っても、買い物に来たのだから、多分商店街のどこかにいるだろう。
次々とすれ違う人にも注意を配りながら、
カイとメイは1軒ずつ店を覗いて歩いていく。
ふと、何かに服を引っ張られているのに気付いて、カイは視線を落とす。
そこにあったのは、メイの手だった。
巴里の地理をよく知っている自分はともかく、そうでないメイはやはり不安なのだろう。
カイとはぐれないようにしているのか、カイの制服を掴んだまま、
必死に辺りを見回しながら、メイは一緒に歩いている。
子供扱いされるのを嫌がるメイだが
(自分も若干1名に似たような扱いをされるのでちょっと親近感を抱いてしまったりもする)、
こういうところは歳相応で、かわいらしいと思う。
知らず笑みをこぼしたカイの視界に、探している人物が飛び込んできた。
「あ、あそこにいましたよ」
「ディズィー!!」
カイが示した方向にディズィーの姿を見つけると、
メイはカイから手を放して駆けていく。

ディズィーがいたのは、ケーキ店のショーウインドウの前だった。
初めて見る色とりどりの綺麗なケーキに目を奪われて、ずっとそこにいたらしい。
「カイさんにまで御迷惑をかけてしまって、すみませんでした」
「構いませんよ。無事でなによりです」
「確かに美味しそうだよねー」
恥ずかしそうに謝るディズィーに笑顔で返すカイに対し、
ディズィーが見つかって安心したメイの視線は、すでにケーキの方にいっている。
そんな2人を見てある事を思いついたカイは、上着をポケットを探る。
「御二人共、この後はお暇ですか?」
「そうだね、買い物も済ませたし……どうして?」
不思議そうに首を傾げるメイと、同じように自分を見ているディズィーに、
少し悪戯っぽく、カイは笑いかける。
「もしよろしければ、おつかいを頼んでもよいですか?」
「おつかい、ですか?」
「私はこの後少し仕事が残ってるんですが、今日は昼には終わるんです。
だから、その間にいくつかお好きなケーキを選んで、買っておいていただけますか?
後で私の家で合流して、お茶にしましょう」
「…!うん、いいよ!」
カイの提案を理解したメイが、みるみる満面の笑顔になる。
「それじゃあ、お金を渡しておきますね。
食べられる分ならいくつでも構いませんから」
「はい。……ありがとうございます、カイさん」
カイに代金を渡されて、少し戸惑い気味だったディズィーも、
やがて嬉しそうにふわりと微笑んだ。

「さて、メイさんもディズィーさんも、私の家は御存知ないですよね」
家の場所を教えておけばよいのだが、また迷ってしまわないかといささか不安になる。
と、考え込むカイの不安を吹き飛ばすような、やけに明るい声がした。
「カイちゃん、久し振り~!あれ、珍しい。2人も一緒?」
「アクセル!」
声のした方を見るまでもなく誰か分かって、カイが呼びながらそちらに目を向ける。
そこには思った通り、本人の意思とは無関係に神出鬼没なタイムトリッパー、アクセルの姿。
「またどこかの時代から飛んできたの?」
「そうそう、ついさっき。いきなりでさ~」
メイに明るく答えるその声からは、
過酷な運命を背負った人物だという事を微塵も感じさせない。
その強さが、アクセルの良いところだと思う。
「そうだ、アクセル。1つお願いしてもいいですか?」
「ん、何?」
アクセルは突然前にいた時代から飛ばされて、行くあてがない時に
何度かカイの家に転がり込んだ事がある。案内役としては適役だろう。
「私の家の鍵を渡しておきますので、メイさんとディズィーさんの
おつかいが終わった後に、私の家までお連れしていただけませんか?
アクセルにも、お茶をご馳走しますから」
「ほんと?やりぃ。もちろんいいよ」
二つ返事で快諾してもらえて、カイはほっとする。
これがあの面倒事を嫌う男だったら。こうはいかないだろう。

とりあえず話もまとまって、カイは一度3人と別れた。





そんな経緯をへて、今に至る。

「確かに、少し伸びたかもね」
紅茶を啜りながらメイに同意するアクセルに、
カイは自分の前髪を少しつまんでみる。
「そうですか?」
自分ではあまり気にしていなかったので、そうは思わなかったのだが。
「カイさん、以前は髪が短かったんですか?」
「いや、そんなには変わらないけど。でも長くなったかな?」
最近カイと知り合ったディズィーに、カイの髪を見やってアクセルが言う。
「カイさんも1回伸ばしてみたら?
ジョニーみたいに結んだら、かっこいいかもしれないよ」
「うーん、それは……どうなんでしょうね」
「そういえば、この中で髪が短いのカイさんだけですよね」
「私は長く伸ばして、ジョニーに女らしさをアピールよ!」
「俺様は長い髪の似合うイイ男だからねー」
いつの間にやら、髪の話題で盛り上がっている。
カイは久方振りに、気心の知れた友人達との会話を楽しんだ。



「アクセル、今日は行くあてはあるんですか?
飛ばされてきたばかりだと言ってましたが」
太陽が落ちかけて、辺りの景色がオレンジ色に染まる頃。
賑わったお茶会もお開きになって、
感謝の言葉を残して帰るメイとディズィーに
続こうとしたアクセルを、カイが呼び止める。
「もしないのでしたら、泊まっていって構いませんよ」
「あ、うんッ。今日は大丈夫!どうもありがとうね」
心なしか焦ったように断るアクセルにカイは軽く首を傾げたが、
幸いその理由を追求しようとはしなかった。

「…ほんとはそのつもりだったんだけどね…」
カイの家を出たところで、アクセルは一人呟く。

メイとディズィーのおつかいが終わった後、3人はカイより早く、彼の家に着いた。
そこで預かっていた鍵を使い、アクセルが一番先に家の中へ入ったのだが。
かすかに、人のいた気配がしたのだ。
カイは朝から仕事で、一度も自宅には戻っていないはずである。
――となれば、思い当たる人物は1人しかいない。
きっと仕事に出たカイと入れ違いになって、外で暇つぶしでもしているのだろう。
だとすれば、夜に戻ってくる可能性が高い。
そんなところに、カイと一緒に自分がいたら。
その鋭い眼光だけで人が殺せそうなその男は、そっけない性格の割に、独占欲が強い。
いや、ある意味性格通りとも言えようか。
……睨まれる程度で済めばいいが、最悪、燃やされる。
触らぬソルに祟りなし、である。
「…宿探そ」
気のせいではなく背中に寒気を感じて、アクセルは足を速めた。



太陽の代わりに月が空に顔を出して、
暗くなった辺りをかすかに照らし出すようになった頃。
机の上でふと仕事の手を止めたカイは、傍に置いてある鏡をそっと覗いてみた。
自分の髪に、触れてみる。
「…長いかな」
カイ本人は全く気にしていなかったが、人からそう言われるとどうにも気になってくる。
確かに、前髪などは時々目にかかる事があるのだけれど。
後ろ髪は見えないので、今度休みの日に切りに行くとして、
前髪くらいなら邪魔にならない程度に切ってしまえるだろうか。
考えている内にどんどん髪が気になってきたカイは、
机の引出しの中を探ってハサミを取り出すと、逆の手で鏡を持つ。
そうして、前髪にハサミの刃をあてて。

「何してんだ?坊や」


ジャキン。


「あああああっ?!」

いきなりかけられた背後からの声に、驚いて勢いよく
ハサミを閉じてしまったカイが思わず悲鳴に近い声を上げる。



その夜、空に雨雲1つない巴里の市街地から小さく聞こえた雷鳴に、
カイと入れ違いで夜まで働いていたベルナルドはちょっと胸騒ぎがしたという。



カイが何をやっているのかは知らなかったが、
驚かそうとして背後から近付いていたソルは、
カイの為に紅茶を入れる事で許してもらったとか。



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