流れ星の記憶(前編)
Written by koyomi kasuga
――――忘れないで、こうして過ごしたコト
忘れない……それだけで『繋がってく』から――――
『――キレイよねー……ねぇ?』
『――別に。あれは流星物質が地球の大気中に飛び込んできて、大気との摩擦で光って見えてるだけのことだろ。』
『もう、貴方ってどうしてそう夢の無い言い方するの?せっかくの休みなのに。』
『事実だろ。それに仕事柄、そんな考え方ができん。』
『分かったわよ……でも、一つだけ覚えておいて。』
『何をだ?』
『忘れないで、こうして過ごしたコト。こうして……ここで流れ星を見たこと。』
『他のことは忘れてもいいのか?』
『貴方が必要と感じてなければね。でも、今日こうして過ごしたことは忘れないで。
必要でも不要でも……忘れなければそれだけで、私は嬉しいから。』
――――それだけで『繋がってく』から――――
「……あ?」
それを境にソルは現実へと引き戻される。
どうやら夢を見ていたようである。
ソルは起き上がり面倒くさそうに朝食の支度をする。
それはいつもと変わらない、ただ一つ……今見た夢以外は。
「……くだらねぇ。」
ソルは誰にともなく、呟いた。
それが自分になのか、夢に出てきた相手になのかは分からないが。
「……何だって今頃戻ってきやがったんだ。」
記憶――そんなものは必要なものだけ残していけばいい。
不要なら切り離していけばいい。
でないと、混乱して真実を見失う。
だからソルはそうして今まで生き続けてきた。
『忘れないで』そう言われたけど、忘れていた……いや、忘れたのだ。
その自分が何故今になってそれを思い出すのか、ソルには全く理解出来なかった。
ソルはコーヒーを飲みほすと何事も無かったかのように食器を片付け始めた。
そうしていつものように街へと出かけた。
一方、MAYSHIP船内。
「――流星群?」
「うん、毎年この時期になると起きる現象なの。」
朝食の後片付けの当番であるディズィーに同じく当番のジュンが楽しそうに話す。
ディズィーは興味津々といった感じで聴いている。
そこへ側にいたマーチが間を割って喋る。
「でも、まーちはいっかいもみたことないからちゅまんないでし。」
「それはマーチが途中で寝ちゃうからでしょ?何度も起こしたのに起きないから。」
マーチがぷうっと顔を膨らませてご機嫌ナナメの顔をする。
苦笑するディズィーとジュン。
「ねぇジュン、流星群ってそんなに遅い時間から始まるの?」
「うん、きっちり時間が決まってるわけじゃないんだけど大体夜中から明け方にかけてなのよ。」
それでディズィーは納得がいった。
マーチはジェリーフィッシュ快賊団の中では最年少、どうしても襲ってくる眠気には勝てないのだ。
だから意気込んで待っていても途中で寝てしまうのだろう。
「そっかーそれじゃあマーチ、今年は頑張らなくっちゃね。」
「うん!ことしこしょぜったいみゆんだから!!」
舌ったらずながらも意志は強いマーチ。
そんなマーチをディズィーは微笑ましく思った。
それから程なくして食器を片付けたディズィーは甲板に出て空を眺めていた。
「……流れ星、か。」
ディズィーは静かに目を閉じ、育ててくれた老夫婦のことを思い出していた。
ほんの少しの時間しか一緒に居られなかったけど、楽しかった。
よく夜空を見ては流れ星が落ちてこないか、とねだって聞いたものだ。
“流れ星が消える前に願い事を三回言うと叶う”……誰もがよく知っているジンクスだ。
そのジンクスにいくつ願いを叶えて欲しいと思ったことか。
「……ソルさん……お願いしたら一緒に見てくれるかな?」
「「誰と一緒に見るって?」」
「はぇえ!?」
背後からの声に驚き、思わず変な声を出すディズィー。
振り向いてみるとにやにやしながらディズィーを見るメイとジョニー。
「ふっふっふー……見たぞ~ディズィーの乙女模様。」
「ふえ?」
「とぼけなさんなって、アイツのこと考えてたんだろ?」
「あいつって……?」
ほえ?と首を傾げるディズィーに二人は顔を見合わせる。
メイが腰に手を当ててびしっと人差し指をディズィーに突きつける。
「だぁから、ソルのことだって。」
「えー!?なんで二人とも分かるんですか?ソルさんのことって。すごい!テレパシーみたいです!」
素直に驚くディズィーに二人は呆然としていた。
どうやら二人が思っていたほどディズィーは勘が良いわけではないようだ。
ディズィーはそのままジョニーに話しかける。
「あの、ジョニーさん。流星群って今日見れるんですか?」
「ん?ああ、予想では今日って言われてるがな……誘いたいヤツでもいたかな?」
深い笑みを浮かべてジョニーは目線をディズィーの高さに合わせる。
ディズィーはその言葉に言い出しにくそうに両手をもじもじさせていた。
ジョニーはその仕草を微笑ましく思いながら、ディズィーの頭をぽんぽん、とたたく。
「どうしたいかはお前さんが決めな。そいつを連れてくるもよし、一緒に別の場所で見るもよしだ。
ただし、ちゃんと相手に了解を取ったらな。」
ジョニーがそう言うとディズィーはぱっと表情を明るくし、
「はい!ありがとうございます!」
と言って甲板の手すりを乗り越えて街へと降りる。
もちろん、両の翼を広げて。
それを見送るジョニーにメイが上目遣いで聞く。
「……ジョニー、ボクもジョニーと二人っきりで見たいなv」
「ダァメ!オマエさん一人をひいきするわけにはいかないの。」
「意地悪っ!」
「残念でした。」
ジョニーは笑いながら下の街を眺めていた。
――さぁて、アンタはどう対応するのかね?
ジョニーはサングラスを直しながら実に楽しそうに笑っていた。
まるで悪戯を仕掛けた子供のように。
所変わってパリ。
「ま、大体こんなもんか。」
ソルは仕事を終え、賞金首を差し出し換金をし終えたところだった。
後は食料の調達をして帰るだけだ。
そうして店に向かおうとしていた矢先に壁に貼ってあったポスターに目がいった。
そこには流星群のイメージイラストとそれを見るための道具の宣伝が書いてあった。
「……だからか。」
さっきから街の人達は望遠鏡やら防寒具を持った人達でにぎわっていた。
流星群を見るための準備だろう。
ひょっとしたら今日あんな夢を見たのもそのせいかもしれない。
そう思って踵を返すと少し先に見覚えのある少女、ディズィーの姿。
「あ、ソルさん!よかった、お会いできて。」
「――何か用か?」
あんまりいい予感しない、と思いつつソルは返事をする。
「あの!今日、流星群見るんですけど良かったら一緒に見ませんか?」
「……騒がしいのは嫌ぇだ。」
「えっと……あの、皆と一緒じゃなくても……あの、その///」
「――テメェと二人で、か?」
そのストレートな言葉にディズィーは顔を真っ赤にし、恥ずかしそうにしながらも頷く。
しかし、ソルは溜息一つ。
「――ガキのお守りは御免だ。第一、テメェんとこの保護者が許すわけねぇだろうが。」
「え、あ……それならジョニーさん、いいって言って下さいましたよ?」
――あのヤロウ……楽しんでやがるな。
ソルはジョニーの嫌味な笑みが思い出され、心の中で舌打ちをした。
どうせ、自分が対処に困るのを見越してのことだろう。
「やっぱり、私なんかと一緒じゃ……イヤですか?」
ディズィーはそう言って真っ直ぐにソルの目を見る。
どうもこの眼がソルは苦手である。
身長差がある、という所為もあるだろうが、この上目遣いがどうも今までの連中と違うので調子が狂う上に対処がしづらい。
喩えて言うなら遊んで欲しいとねだった子犬が答えを渋られて落ち込んでいるような感じ。
彼女の場合それを無意識に行うので、なお厄介。
「……テメェんとこの船、何処に停泊するんだ?」
「! 一緒に見てくださるんですか!?」
「――嫌なら止めておくが?」
その言葉にディズィーはぶんぶん、と首を振って否定する。
そんな姿も小動物のようで可愛らしい。
「ありがとうございます!///」
ディズィーは嬉しそうにし、ソルに時間になったら家に向かうと約束した。
ソルは最初それは止めた方がいい、と言って自分が迎えに行くことを提案した。
しかし、ディズィーは頼み事を自分でしておいてそこまでしてもらうのは悪いと言って断った。
それ以上は言っても無駄と思ったソルは仕方なくそれを承知した。
「それじゃ、ソルさん。また後で。」
「……ああ。」
そして、日は落ち……月と星々が目覚め始める。
Written by koyomi kasuga
――――忘れないで、こうして過ごしたコト
忘れない……それだけで『繋がってく』から――――
『――キレイよねー……ねぇ?』
『――別に。あれは流星物質が地球の大気中に飛び込んできて、大気との摩擦で光って見えてるだけのことだろ。』
『もう、貴方ってどうしてそう夢の無い言い方するの?せっかくの休みなのに。』
『事実だろ。それに仕事柄、そんな考え方ができん。』
『分かったわよ……でも、一つだけ覚えておいて。』
『何をだ?』
『忘れないで、こうして過ごしたコト。こうして……ここで流れ星を見たこと。』
『他のことは忘れてもいいのか?』
『貴方が必要と感じてなければね。でも、今日こうして過ごしたことは忘れないで。
必要でも不要でも……忘れなければそれだけで、私は嬉しいから。』
――――それだけで『繋がってく』から――――
「……あ?」
それを境にソルは現実へと引き戻される。
どうやら夢を見ていたようである。
ソルは起き上がり面倒くさそうに朝食の支度をする。
それはいつもと変わらない、ただ一つ……今見た夢以外は。
「……くだらねぇ。」
ソルは誰にともなく、呟いた。
それが自分になのか、夢に出てきた相手になのかは分からないが。
「……何だって今頃戻ってきやがったんだ。」
記憶――そんなものは必要なものだけ残していけばいい。
不要なら切り離していけばいい。
でないと、混乱して真実を見失う。
だからソルはそうして今まで生き続けてきた。
『忘れないで』そう言われたけど、忘れていた……いや、忘れたのだ。
その自分が何故今になってそれを思い出すのか、ソルには全く理解出来なかった。
ソルはコーヒーを飲みほすと何事も無かったかのように食器を片付け始めた。
そうしていつものように街へと出かけた。
一方、MAYSHIP船内。
「――流星群?」
「うん、毎年この時期になると起きる現象なの。」
朝食の後片付けの当番であるディズィーに同じく当番のジュンが楽しそうに話す。
ディズィーは興味津々といった感じで聴いている。
そこへ側にいたマーチが間を割って喋る。
「でも、まーちはいっかいもみたことないからちゅまんないでし。」
「それはマーチが途中で寝ちゃうからでしょ?何度も起こしたのに起きないから。」
マーチがぷうっと顔を膨らませてご機嫌ナナメの顔をする。
苦笑するディズィーとジュン。
「ねぇジュン、流星群ってそんなに遅い時間から始まるの?」
「うん、きっちり時間が決まってるわけじゃないんだけど大体夜中から明け方にかけてなのよ。」
それでディズィーは納得がいった。
マーチはジェリーフィッシュ快賊団の中では最年少、どうしても襲ってくる眠気には勝てないのだ。
だから意気込んで待っていても途中で寝てしまうのだろう。
「そっかーそれじゃあマーチ、今年は頑張らなくっちゃね。」
「うん!ことしこしょぜったいみゆんだから!!」
舌ったらずながらも意志は強いマーチ。
そんなマーチをディズィーは微笑ましく思った。
それから程なくして食器を片付けたディズィーは甲板に出て空を眺めていた。
「……流れ星、か。」
ディズィーは静かに目を閉じ、育ててくれた老夫婦のことを思い出していた。
ほんの少しの時間しか一緒に居られなかったけど、楽しかった。
よく夜空を見ては流れ星が落ちてこないか、とねだって聞いたものだ。
“流れ星が消える前に願い事を三回言うと叶う”……誰もがよく知っているジンクスだ。
そのジンクスにいくつ願いを叶えて欲しいと思ったことか。
「……ソルさん……お願いしたら一緒に見てくれるかな?」
「「誰と一緒に見るって?」」
「はぇえ!?」
背後からの声に驚き、思わず変な声を出すディズィー。
振り向いてみるとにやにやしながらディズィーを見るメイとジョニー。
「ふっふっふー……見たぞ~ディズィーの乙女模様。」
「ふえ?」
「とぼけなさんなって、アイツのこと考えてたんだろ?」
「あいつって……?」
ほえ?と首を傾げるディズィーに二人は顔を見合わせる。
メイが腰に手を当ててびしっと人差し指をディズィーに突きつける。
「だぁから、ソルのことだって。」
「えー!?なんで二人とも分かるんですか?ソルさんのことって。すごい!テレパシーみたいです!」
素直に驚くディズィーに二人は呆然としていた。
どうやら二人が思っていたほどディズィーは勘が良いわけではないようだ。
ディズィーはそのままジョニーに話しかける。
「あの、ジョニーさん。流星群って今日見れるんですか?」
「ん?ああ、予想では今日って言われてるがな……誘いたいヤツでもいたかな?」
深い笑みを浮かべてジョニーは目線をディズィーの高さに合わせる。
ディズィーはその言葉に言い出しにくそうに両手をもじもじさせていた。
ジョニーはその仕草を微笑ましく思いながら、ディズィーの頭をぽんぽん、とたたく。
「どうしたいかはお前さんが決めな。そいつを連れてくるもよし、一緒に別の場所で見るもよしだ。
ただし、ちゃんと相手に了解を取ったらな。」
ジョニーがそう言うとディズィーはぱっと表情を明るくし、
「はい!ありがとうございます!」
と言って甲板の手すりを乗り越えて街へと降りる。
もちろん、両の翼を広げて。
それを見送るジョニーにメイが上目遣いで聞く。
「……ジョニー、ボクもジョニーと二人っきりで見たいなv」
「ダァメ!オマエさん一人をひいきするわけにはいかないの。」
「意地悪っ!」
「残念でした。」
ジョニーは笑いながら下の街を眺めていた。
――さぁて、アンタはどう対応するのかね?
ジョニーはサングラスを直しながら実に楽しそうに笑っていた。
まるで悪戯を仕掛けた子供のように。
所変わってパリ。
「ま、大体こんなもんか。」
ソルは仕事を終え、賞金首を差し出し換金をし終えたところだった。
後は食料の調達をして帰るだけだ。
そうして店に向かおうとしていた矢先に壁に貼ってあったポスターに目がいった。
そこには流星群のイメージイラストとそれを見るための道具の宣伝が書いてあった。
「……だからか。」
さっきから街の人達は望遠鏡やら防寒具を持った人達でにぎわっていた。
流星群を見るための準備だろう。
ひょっとしたら今日あんな夢を見たのもそのせいかもしれない。
そう思って踵を返すと少し先に見覚えのある少女、ディズィーの姿。
「あ、ソルさん!よかった、お会いできて。」
「――何か用か?」
あんまりいい予感しない、と思いつつソルは返事をする。
「あの!今日、流星群見るんですけど良かったら一緒に見ませんか?」
「……騒がしいのは嫌ぇだ。」
「えっと……あの、皆と一緒じゃなくても……あの、その///」
「――テメェと二人で、か?」
そのストレートな言葉にディズィーは顔を真っ赤にし、恥ずかしそうにしながらも頷く。
しかし、ソルは溜息一つ。
「――ガキのお守りは御免だ。第一、テメェんとこの保護者が許すわけねぇだろうが。」
「え、あ……それならジョニーさん、いいって言って下さいましたよ?」
――あのヤロウ……楽しんでやがるな。
ソルはジョニーの嫌味な笑みが思い出され、心の中で舌打ちをした。
どうせ、自分が対処に困るのを見越してのことだろう。
「やっぱり、私なんかと一緒じゃ……イヤですか?」
ディズィーはそう言って真っ直ぐにソルの目を見る。
どうもこの眼がソルは苦手である。
身長差がある、という所為もあるだろうが、この上目遣いがどうも今までの連中と違うので調子が狂う上に対処がしづらい。
喩えて言うなら遊んで欲しいとねだった子犬が答えを渋られて落ち込んでいるような感じ。
彼女の場合それを無意識に行うので、なお厄介。
「……テメェんとこの船、何処に停泊するんだ?」
「! 一緒に見てくださるんですか!?」
「――嫌なら止めておくが?」
その言葉にディズィーはぶんぶん、と首を振って否定する。
そんな姿も小動物のようで可愛らしい。
「ありがとうございます!///」
ディズィーは嬉しそうにし、ソルに時間になったら家に向かうと約束した。
ソルは最初それは止めた方がいい、と言って自分が迎えに行くことを提案した。
しかし、ディズィーは頼み事を自分でしておいてそこまでしてもらうのは悪いと言って断った。
それ以上は言っても無駄と思ったソルは仕方なくそれを承知した。
「それじゃ、ソルさん。また後で。」
「……ああ。」
そして、日は落ち……月と星々が目覚め始める。
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