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□第3話 夏祭り
「……暑ィ」
「……暑いわ……」
「暑いねぇ……」
「暑いよぉ~……」
「暑いアルねぇ……」
「暑いですね……」
「暑ィな……」
「だぁぁっ!!暑い暑いってうざってえんだよテメェらは!!」
 昼休みの教室。
 ソルがいきなり立ち上がってぶち切れる。
 夏の陽気のせいで、ソルの怒りのリミット値も大分低くなっているようだ。
「そんなこといったってさ旦那ぁ、暑いもんはしょーがねーでしょ」
「暑いって言っちまったら余計暑くなるだろうがっ!!」
 アクセルの抗議に対しても、頭ごなしに怒鳴りつける。
「怒鳴る方が暑くなるわよ」
「……ちっ……」
 ミリアに鋭く指摘され、ソルは不機嫌そうに舌打ちすると、どっかと椅子に腰をおろした。
 そう、今は七月上旬。
 ミリア達が転校してきてから二週間近くが経っている。
 十日ほど前に衣替えはしたのだが、はっきりいってそんなものは役に立たない。
 この時期は、学校生活でもベスト3に入る辛い時期だ(少なくとも作者にとっては)。
 当然、私立とはいえ高校なので、クーラーは特定の教室にしかない。
「うー……プール授業やりたいよ~」
 メイが暑さで体全体を「たれぱんだ」のように垂れさせて言う。
 どうやら暑さには弱いタチらしい。
「今日は体育がないんでしたね……」
「どのみち涼しいのは入ってる間だけだしな……」
 珍しくカイと闇慈が愚痴を言う。
「あと二時間か……長ぇよな」
「そうね……なにか後に楽しみがあれば我慢も出来るんだけど」
「楽しみ……そういえばさ」
 ミリアのセリフで何か思いついたのか、アクセルが口を開いた。
「何かあるの?」
「今日、街外れの神社で夏祭りがあるんだ」
「夏祭り……」
「祭り……」
 その単語に反応して、ソルまでもが黙り込む。
 しばらく沈黙した後、
「あと二時間……がんばるか」
 あっさりとチップが締めた。
「そうだな」
「お祭り、お祭り!」
 メイに至っては、すでに垂れていた体も元に戻っている。
 そして、ちょうどいい具合にチャイムが鳴る。
 すぐにジョニーがやってきて、世界史の授業が始まった。

 そして放課後……
 ミリアは一人で教室に残っていた。
 日直の仕事で日誌を書いていたら遅くなったのだ。
 いつもは一緒に帰っているソルも、用事があるといって帰ってしまった。
「夏祭りね……どうせ暇だし、行ってみようかしら」
 ミリアは一人で呟くと、カバンと日誌を持って教室を出た。
 あとは日誌を担任の梅喧に届ければ仕事は終わりだ。
「失礼します」
 職員室の扉を開けて、梅喧の机を探す。
 確かに、梅喧はいた。
 だが、見覚えのある顔も近くにいた。
 というより、梅喧に引っ付いている。
「なー、梅喧ちゃ~ん、夏祭り一緒に行こーぜー?」
「やかましいっ!引っ付くな!暑苦しい!」
「ここクーラー効きまくってるけど?」
「揚げ足を取るなっ!!」
 梅喧に引っ付いているのは、闇慈だった。
 いつもの愛嬌があるような笑みを浮かべて、梅喧をからかっている。
 だが、その表情はいつもより楽しそうだ。
「ねーねー、行こーってば」
「仕事が忙しいから行かん!」
 梅喧は闇慈を力ずくで引っぺがすと、床にポイッと投げ捨てた。
 その拍子に、日誌を持って立っていたミリアを見つける。
「お、日誌持ってきたのか」
「あ、はい。じゃ、これ」
「ご苦労さん。ああ、悪いがついでにこいつも引きずってってくれ」
 梅喧は床に転がったままの闇慈を指差した。
 ミリアは少し戸惑ったあと、闇慈の襟首を引っつかんで文字通り引きずっていく。
「ちょ、ちょっと待てってミリア!!」
「待たないわよ」
 そのまま闇慈を引きずって職員室の外に出ると、掴んでいた襟首を離す。
「ひっでえなぁ、せっかく人が愛しい人との一時を過ごしてたっていうのによー」
 闇慈が口を尖らせて言う。
 それを聞いて、ミリアはこめかみを押さえてため息をつく。
「あなた……相当恥ずかしいセリフ言ってるってわかってる?」
「愛の前には恥も外聞もないんだよ」
 そう言って、闇慈は懐から扇を取り出して、顔をあおぎながら笑った。
「というわけで、もういっぺん行ってこよーっと」
「仕事の邪魔すると、余計お祭りに行けなくなるわよ?」
 ミリアのもっともな意見に、闇慈の動きが一瞬止まる。
「………それでも行くってのが漢だろォ?」
「しょうがないわね……」
 ミリアはもう一度ため息をつくと、『100t』と書かれたお約束のハンマーを何処からともなく取り出した。
「そ……それをどうするんだぁ?」
「こうするに……決まってるでしょ!!」
ゴガギッ!!
『決まってるでしょ!!』の声と共に、ハンマーが闇慈の頭に振り下ろされた。
 かなり鈍い音と共に闇慈が床に倒れふす。
「よいしょっと」
 ミリアはハンマーを投げ捨て、闇慈の両足を抱えて階段を登りはじめる。
 ゴンゴンと闇慈の頭が階段に打ちつけられるが、ミリアは全く取り合わない。
「…………っと。これでいいわね」
 闇慈をロープでぐるぐる巻きにして何処かに吊るすと、ミリアは階段を降りていった。
「さーてと。浴衣でも出そうかしら」
 ミリアの表情は、夏祭りへの期待で楽しそうだ。

「………あ、あん?」
 ミリアが帰ってから少し後、闇慈は目を覚ますと、妙な浮遊感を覚えた。
 というか、実際に体が宙釣りになっている。
「って、屋上―――――――――っ!?」
 そう、ミリアは闇慈を屋上から吊るしていったのだ。
「誰か降ろしてくれ―――――――っ!ってゆーかミリアどこ行った―――――っ!?」
 闇慈の叫びが、夕焼けで染まった学校の敷地に響き渡った。
 そして数分後、闇慈は梅喧によって(半ば故意に)地上に落とされた。


 時間は少し進んで大体七時過ぎ。
 ミリア達の家では、浴衣の準備が始まっていた。
「えへへ、どうかな?」
 浴衣を着たメイが照れたように笑いながら一回転してみせる。
「あのね……これで5回目よ、そのセリフ」
「だぁって~、せっかくジョニーと一緒に行くんだもん」
 そう言うメイの格好は、確かに相当な気合が入っていた。
 イルカとクジラがプリントされたかわいらしい浴衣を身にまとい、髪は滅多につけないピンクのリボンでポニーテールにまとめられている。
「あんまり完璧だと、わざとらしく思われるわよ」
「う、そうかな……」
「そうよ」
 言いながら、ミリアも鏡の中の自分をのぞきこむ。
 全体的に白とが基調で、淡い色合いで模様が描かれた浴衣。
 ヘアスタイルはいつものまま。
 いつもはしないのだが、メイにのせられて薄く化粧もしてある。
「……これなら、大丈夫よね」
「お姉ちゃん、誰に見せるつもり?」
 メイが意地悪そうな目でミリアを見る。
 ミリアは思いっきり動揺し、一気にうろたえはじめた。
「えーと……その……………ク、クラスの人によ」
 本人にしてみれば、精一杯いつものクールな表情を作ったつもりなのだろうが、真っ赤になったその顔は、照れ隠し意外の何物でもない。
「ふーん……ま、いいけど」
「……メイ、あなた私をからかってない?」
「ちょっとだけ」
 ポカッ!
「いった~~~~い!」
 ミリアに頭を軽く殴られ、メイは頭を押さえた。
「……なんか調子狂ってきてるわ……」
「ところで、紗夢姉ちゃんは?」
「ああ、紗夢なら普段着で行くらしいわ」
「なんで?」
「さあ?」
 真相は、浴衣だと絡まれた時に思いっきり暴れられないからなのだが。
 どうも紗夢は人ごみに行くと、ケンカを売られやすい性質らしい。
「さてと。そろそろ行くわよ」
「あ、待ってよ~」
 ミリアが部屋から出ると、メイも一緒に部屋から出てきた。
 部屋の前では、紗夢が腕組みして立っていた。
「やっと終わったアルか」
 紗夢はすっかり待ちくたびれた様子である。
 まあ、一時間近くもあーだこーだやっていたのだから当然であるが。
 ちなみに、紗夢はへそのでるTシャツにジーンズというラフな格好だ。
「ごめんなさい、でもほとんどの原因はメイよ」
「あー、ずるーい!」
「わかったからさっさといくアルよ」
 言いながら三人は一階に降り、玄関で履物をはく。
 ミリアとメイはゲタ、紗夢はバッシュである。
 家を出ると、何人かの人々が神社のほうに向かって歩いていた。
 ミリア達もそれに付いて歩く。
 そして歩く事数分、ミリア達は神社に到着した。
 神社とはいえかなり広く、敷地内は人があふれていた。

 その頃―――――
「……暇でしょうがねえ……」
 ソルは自分の部屋でごろごろとベッドに寝そべって呟いた。
「祭りでも行くか……」
 二階にある自分の部屋から玄関に向かう。
 玄関でスニーカーを履いていると、奥からクリフが出てきた。
「どこか行くのか?」
「祭りだ。……暇だしな」
「土産を頼むぞい」
「……さあな」
 スニーカーを履き終えると、ソルは玄関を空けて外に出る。
 夏特有の湿った暑苦しい空気が体にまとわりつく。
「………うざってぇな………」
 言いながら、ソルは車庫に止めてある大型バイクにまたがった。
 ドルルル、ドルルルッ!!
 エンジンがかかり、ソルのバイクは道路を爆走し始めた。
 ソルの家から神社までは、バイクならそうかからない。
 しばらくバイクを走らせ、ソルは神社に到着した。
「……あいつらも来てんのか?」
 ソルはバイクを所定の場所に止めながら、クラスの仲間の事を思い出して呟いた。

「まいったわね………」
 ミリアは人ごみの中で立ち止まって呟いた。
 あまりの人の多さに、メイや紗夢とはぐれてしまったのだ。
(ま……一人で見て歩くのもいいわね)
 そう思ったミリアは、メイと紗夢を探すことをすっぱりとあきらめ、あてもなく歩き出した。
 ちょうど、入ってきた鳥居が目に入る。
(あ………)
 見知った顔が鳥居の近くにあった。
 そこに向かってゆっくりと歩き出す。
 そして、その人物からほんの数歩離れたところで、背中に声をかける。
「ソル、来てたのね」
 呼びかけられたソルは、ゆっくりと振り向いた。
 が。
「……誰だ?」
「ガクッ!」
 ソルの返答に、ミリアはかなり盛大にずっこけた。
 そう、あたかも○ちゃんファミリーのごとく。
「あのね、ソル。私、ミリアよ?」
「同名の別人か……?あいつはここまで美人じゃねェぞ」
 ごす。
ミ リアが無言で放った肘の一撃が、ソルの顔面を捉えていた。
「……ミリア=レイジか」
「だから!さっきからそう言ってるでしょうが!!」
 ミリアがキレたように叫ぶ。
「悪ィな。浴衣なんぞ着て大人しくしてたからわからなかった」
 スパーーンッ!!
 何処からともなく取り出されたハリセンがソルの頭を引っぱたいた。
「……バカにしてない?」
「そんなつもりはねェんだが」
「まぁいいわ……ところでさっきも言ったけど、来てたのね」
「ああ。こういう祭りとかは嫌いじゃねェからな」
 ソルが何処となく楽しそうにいう。
 表情は相変わらずの仏頂面だが、ミリアから見ればなんとなくわかる。
「一緒に回らない?丁度、メイや紗夢とはぐれてたのよ」
「別にかまわねェぞ」
 ミリアとソルは並んで鳥居をくぐった。
 人の多さに、もうはぐれてしまいそうになる。
「おい」
 ソルが何か言いたそうに口を開く。
「なに?」
「…………なんでもねェ。はぐれんなよ」
 ソルはポケットに手を突っ込んで歩き始める。
 ミリアもなるべくはぐれないように後を追った。
「……そう言えば、闇慈達も来てるのかしらね」
 「なんだそりゃ?」
 ミリアは、闇慈と梅喧の事をソルに話した。
「……来てんじゃねェのか」
「と言うか、居たわ」
 ミリアが指し示す方向には、確かに闇慈と梅喧が居た。
 大量の空の酒瓶と共に。
「はっはっは!!意外と強えじゃねえか闇慈!!」
「いやいやいや!!梅喧ちゃんにはかなわないって!!」
 地べたに座り込み、酒を飲んでは大笑いしている。
 どうやら二人で十升近く空けたらしい。
 凄まじいまでの飲みっぷりである。
 その近くでは、チップとアクセルがぶっ倒れていた。
 おそらくはとばっちりを食って酔いつぶれたのだろう。
「……凄いわ……」
「飲むか?」
「結構よ」
 とその時、闇慈がソル達に気づいて大声で叫ぶ。
「おー!ソルにミリア!!お前達も飲めー!!」
「……逃げるぞ」
 ソルの言葉にミリアも無言でうなずく。
 二人は、関わり合いになる前にサッサと逃げ出した。

「……はぐれたな」
 ソルは一人で呟いた。
 どうやら、逃げる最中にミリアとはぐれてしまったらしい。
 この人ごみでは仕方ない事だが。
「……探すか」
 ソルは来た道を再び戻って歩き出した。
「あ、ソル!!」
 道を戻る途中で、誰かに呼びとめられる。
 辺りを見てみると、少し離れたところでメイが手を振っていた。
 隣には、ジョニーもいる。
「相変わらずイカレた格好だな」
「そいつぁ違うな。これは俺のポリシーだ」
 言ってジョニーはズボンのベルトに手をかける。
 ジョニーの服装は、素肌に黒コート、そして黒ズボンと言うお馴染みの格好だ。
 はっきり言って、この暑さの中では見ているだけで暑苦しい。
「まぁ、テメェの格好なんざどうでもいい」
 ソルは勝手に話を締めくくる。
「あれ、お姉ちゃんと一緒じゃないの?」
 ミリアがいない事に気づいたメイが不思議そうに言う。
「はぐれちまった」
「そりゃデンジャーだな……」
「何処行ったか見てねェか?」
「う~ん……ゴメン、見てない……」
「そうか……」
 ソルはそれだけ言うと、再び歩いていこうとする。
「あ、待って待って!」
「まだ何かあんのか?」
「綿アメ買っていったほうがいいよ」
「あぁ?」
「ほら、お姉ちゃん甘いもの好きだし。ご機嫌取りに、ね」
「……………ありがとよ」
 ソルはわずかに苦笑しながら言い、ヒラヒラと手を振って歩き出した。
「がんばってね~」
 背後で、メイが声を上げるのが聞こえた。

「ふぅ………」
 ボヤーッとした闇の中。
 リアは神社の裏にある石段に座り込んでため息をついていた。
 りには誰もいない。
 ルとはぐれた後、人のいない方へと歩いていたらここに出たのだ。
 と意識を同化させるかのように、ミリアは目を閉じる。
 祭りのざわめきが少し遠くミリアの耳に届く。
 ジャリッ……
 ミリアの耳に、ざわめきに混じって砂利を踏む音が聞こえた。
「………?」
 ミリアが顔を上げると、そこにはソルが立っていた。
 片手に途中で買ったらしい綿アメを持って。
「……ほらよ」
 言って、ぶっきらぼうに綿アメを差し出す。
「………」
 しばらくミリアが呆けていると、ソルは小さく舌打ちする。
「……いらねぇんなら捨てるぞ」
「………食べるわ」
 ひょいっ、とソルの手から綿アメを奪い取り、ミリアはそれにかぶりつく。
 ミリアが綿アメを食べている間に、ソルはミリアの隣に腰を下ろす。
「………何処に行ってたのよ」
「……こいつを買ってたんだよ」
 ソルは、ポケットの中から何かを取り出す。
 それは、線香花火とライターだった。
「あ………」
「やるか?」
「……ええ」
 ミリアは片手で綿アメ、片手で線香花火を持つ。
 ソルは片手にライターをもって、ミリアの線香花火に火をつける。
 線香花火の火は少し燃えた後、玉になり、そして火花を散らす。
「綺麗………久しぶりだわ、線香花火なんて」
 うっとりとした様にミリアが呟く。
「……ガキの頃は良くやったもんだがな」
 ソルの方は、二、三本ほどまとめて火をつける。
 当然、火玉は大きくなる。
「……それって、禁止されてるんじゃ……?」
「細けぇことは気にすんな」
 ソルの線香花火も火花を散らし始める。
 が、まとめて点けたので火玉はすぐに落ちてしまった。
 それを追うようにミリアの火玉も落ちる。
「………終わっちまったな」
「そうね………」
 ミリアはフッ、と目を伏せる。
 そして、すぐに真剣な顔つきになってソルの方に向き直った。
「ソル………本当はあなた、私の事どう思ってるの?」
「………さあな」
 ぶっきらぼうに言って、ソルはライターをいじる。
「………ちゃんと答えて………」
「…………しゃあねぇな…………」
 ぐいっ、とミリアの体がソルに引き寄せられる。
 次の瞬間、ミリアの眼前にソルの顔があった。
 もっと言えば、唇が唇でふさがれていた。
 しばらくそのままでいた後、ソルが唇を離す。
「………っ………!!」
 あまりの事に、ミリアの頭に爆発寸前まで血が上る。
 だが、爆発するよりも早くソルの口が次の言葉をつむぐ。
「今のじゃ、答えにはならねェのか?」
「あ……」
 ようやくミリアは気づく。
 答えは言葉とは限らない。
 想いを伝えられるのは言葉ダケジャナイ―――
「………ずいぶんと甘ぇな」
「……綿アメ食べてたもの……当たり前よ」
 ミリアは恥ずかしげに俯いて言う。
 口調だけはなんとかいつものとおりだったが。
 ミリアの態度に、ソルは満足げに口元だけで笑い、立ちあがる。
「さてと……また行くか?」
「そうね………」
 ミリアも立ちあがり、浴衣についた砂を払う。
「………そらよ」
 石段を降りたところで、ソルの手が差し出される。
 ただし、今度は何も持っていない。
「え……?」
 ミリアは、何の事かわからずに首をかしげる。
「……今度は、はぐれんじゃねぇぞ」
 相変わらずのぶっきらぼうな言い方だった。
 だが、それでも今のミリアにとっては最高に嬉しい心遣いだ。
「ええ………!」
 ミリアは差し出されたソルの手を握り返し、歩き出した。
 顔には出さなかったが、心の底からの幸せをかみしめながら……。


+++++++++++++
□第四話 ~Shade of shadow~

ゾクッ…。
背筋に悪寒が走り、ミリアは寒そうな仕草で腕をさすった。
「どうしたアル、姉さん?」
「ん……ちょっと寒気がね」
そう言いながらミリアはコーヒーを一口すする。
「でも、大したものじゃないから」
「それならいいアルが……」
「無理しないでね」
「心配しなくても大丈夫よ」
心配する紗夢とメイに、ミリアは微笑を返した。
その後は、ミリア達は何事もなく朝食を食べ終えた。
しかし学校に近づくにつれて、ミリアは嫌な感覚に捕われ始めた。
嫌悪するものが近づいてくるような感覚。
そして学校に到着するや否や、視線を感じるようになる。
蛇のような執念とお気に入りの人形を見るような愛情の入り混じった奇妙な視線。
何度か視線の主を探ってはみたが、結局わからずじまいであった。
不安になりつつも、ミリアは何とか一日を乗り切った。
授業は終わり、放課後となる。
だが、ソルと並んで教室を出たところでミリアは不意に立ち止まった。
「……どうした、オイ?」
少し先まで進んでしまったソルも足を止め、ミリアを振り返る。
「何か……いるわ」
ミリアが言うと同時に、奇妙な叫び声が辺りに響き渡る。
「……リアァァァァァァァァァァァァッ!!」
叫び声は段々と音量を増す。
「ミリアァァァァァァァッ!!
なぜ私を捨てたぁぁぁぁぁぁぁぁっ!!」
はっきりとミリアの名前が聞き取れる。
そして、叫び声を発しながらミリアに向かって爆走している男がいた。
ミリア求めて三千里、姑息なストーカー男のザトー=ONEである。
「ミリアァァァァァァァッ!!もう一度私の元に……」
「なんであなたがここにいるのよ!!」
ドガァッ!!
飛びついてきたザトーに、ミリアの強烈なフックがカウンターで入る。
ベギボギバギッ!!
何かが折れる嫌な音がして、ザトーは壁にめり込んだ。
「……モロにカウンターで入ったとはいえ、とんでもねー威力だな……」
ソルがぼそりと呟いた。
と、ザトーの走ってきた方向から別の男が現われる。
ザトーのためならたとえ火の中水の中、本気で飛び込むヴェノムである。
「ああっ!!ザトー様!!」
ヴェノムは壁にめり込んだザトーを見るなり、すぐさま救出活動に入る。
「……何者だ、そいつらは?」
一連の騒ぎをぼーっと見ていたソルが口を開く。
「前にいた学校で私に付きまとっていた男とその部下よ……まさか転校してくるなんて」
ミリアが言い終わると同時に、文字通りザトーが壁から引っ張り出された。
「ザトー様、お怪我は……?」
ヴェノムはザトーの前に跪いて言う。
「うむ、あちこちの骨が折れているが我が愛に支障はない」
「さすがザトー様……」
「……単なるバカだろうが」
ソルが無常にもツッコミをいれるが、ザトー達はまったく気にしない。
「さあ、ミリアよ。私の元に戻ってこい」
「絶対にイヤよ。誰があなたの元になんか」
ミリアは髪をかきあげつつ、冷たく言い放つ。
「ミリア!!君はザトー様が施した恩を忘れたのか!!」
ヴェノムが激昂して叫ぶ。
「確かに感謝はしているわ。美しさ故にイジメられていた私に格闘術を教え、
あなたをK.Oできるまでに強くしてくれた事。
でも、それだけ。感謝する事はあってもそれ以外の感情は私にはないわ」
「何を言う!!ザトー様は素晴らしい御方だ!!君も早くザトー様を崇拝するのだ!!」
ヴェノムは更にまくし立てる。
「そもそもザトー様は君に捨てられたショックで目の光を失われ、
さらに奇妙な生命体に寄生されてしまったのだ!!その責任をとりたまえ!!」
「……後者は私と関係無いわ」
「心の隙につけ込まれたのだ!!ああ、おいたわしやザトー様……」
ヴェノムはそこまで言うと、虚空を見つめてブツブツと何事か呟き始めた。
「………電波でも来てるのか、アイツは」
「思考回路自体はまともなはずよ。方向は悪いけど」
その会話を聞いて、ザトーがふいにソルの方を向いた。
「……貴様、何者だ!!」
「あぁ?」
「何者だと聞いているのだ!!」
ザトーはソルを指差して叫ぶ。
「ソル=バッドガイよ。私の恋人」
「なに!?」
「そういうわけであなたの元にはもどれないの。さようなら、ザトー」
そういいつつ、ミリアはソルの後ろに回って脇腹をつつく。
合わせろ、と言っているのだ。
「ま、そう言うわけだ……」
ソルはザトーに向けて言う。
一方のザトーはというと……下を向いて何事か呟いている。
「そうか、そういうことか………」
カッ!!とザトーが顔を上げ、ソルに向かって突進する。
「貴様がいなければミリアはぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁっ!!」
ザトーの全力を込めた拳がソルに迫る。
だが。
「ボディが甘ぇんだよ!!」
ドゴシャアァァァァァァッ!!
ザトーの拳をかわしたソルのフックが、ザトーのボディに叩きこまれた。
またもやカウンターを食らったザトーは後ろに吹っ飛んで壁に激突する。
「チッ…」
舌打ちしながらソルが腕を軽く上げると、ミリアがザトーを追って突進する。
「いくわよっ!!」
走り込んだミリアが軽く跳躍し、右足を高々と振り上げる。
「跳びカカト落とし(ティミョネリチャギ)っ!!」
ドゴゲシャッ!!
壁にぶつかってバウンドしたザトーの頭にミリアのカカト(テコンドー式)が決まった。
ザトーは硬いリノリウムの床に顔面を打ちつけ、そのまま動かなくなる。
「ザトー様!!」
ヴェノムはザトーに走りよって脈や瞳孔を見る。
「おのれ………貴様ら、憶えていろ!!」
そう言い捨て、ヴェノムはザトーを担いで走り去った。
その姿が見えなくなると、ソルはミリアの肩に手をかける。
「……お前の知り合いは変な奴らしかいねえな」
「じゃあ……あなたも『変な奴』なのね?」
しばらく黙り込んだあと、観念したようにソルが口を開く。
「………俺が悪かった」
「よろしい」
ミリアはしたり顔で頷いた。


薄暗い部屋の中で、ザトーは一人椅子にもたれていた。
「ザトー様」
闇の中で気配が動き、ヴェノムが音もなく現われる。
「手はずは全て整いました」
「そうか……」
「あとは指令を出すだけで計画は発動します」
「……ご苦労だったな」
「いえ」
「……よし、やれ!!そしてミリアを再び我が手に!!」
「はっ!!」
ヴェノムは鋭く返事をして答えると、懐から携帯を取り出して何処かにかける。
しばらくのコール音の後、電話の相手は答えた。
「私だ……そうだ、指令を出す」
たっぷり五呼吸は間を開けて、ヴェノムは口を開く。
「ミリア=レイジを誘拐せよ」


ピンポーン………
インターホンがなる。
が、メイか紗夢が出るだろうとおもい、ミリアは再び雑誌に目を向けた。
ピンポーン………
再びインターホンがなる。
「あ、そうだった……」
メイはジョニーの家に泊まりに行き、紗夢は夕飯の仕度に追われている。
ミリアは雑誌を置いて立ちあがり、玄関に向かう。
「どちらさまで……」
言いながらミリアは玄関のドアを開ける。
「………ムグ!?」
来訪者の顔を見るか見ないかのうちに、ミリアの口に布が当てられる。
何かの薬品が染みこませてあったらしく、ミリアは簡単に意識を失った。
来訪者達は止めてあった灰色のバンにミリアを押し込み、逃げ去った。
「………?姉さん?」
ミリアが戻ってこない事に気付いた紗夢は玄関に顔を出す。
「…………!?」
玄関にはミリアの姿はなく、代わりに一枚の紙切れが落ちていた。
『東埠頭・第一倉庫で待つ ザトー=ONE』
「大変アル……!!」
呟いた紗夢は家の電話を取ってダイヤルを押し始めた。


ピーリリピリリピーリピー………
ソルは突然鳴り出した携帯の音で目を覚ました。
「……誰だ?」
やや不機嫌そうな声で電話に出る。
『ソル!!大変アル、姉さんが!!』
「……ミリアがどうした」
『さらわれたアル!!あのザトーって奴に!!』
「あぁ!?どういうことだ!?」
『たった今、誰かに……東埠頭・第一倉庫で待つって紙だけが残ってて……』
「東埠頭の第一倉庫だな!?」
それだけ聞けば十分だった。
携帯を切り、部屋の隅に立てかけてあった封炎剣を引っつかむ。
階段を五段飛ばしに飛び降り、文字通り家から飛び出す。
「どうしたんじゃい、ソル!!」
居間にいたクリフが、あまりの騒音に何事かと顔を出した。
「ミリアがさらわれた!!」
ソルはそれだけ言うとバイクに飛び乗り、エンジン全開で走り出す。
「……これはただ事ではないのう……」
言うが早いか、クリフは物置に駆け込み、ドタバタと何かを探し始めた。
物置から出て来たとき、その手に握られていたのは巨大な剣であった。
「……ここか」
ソルは封炎剣を手に、第一倉庫へと歩き出す。
「ソル!!」
突然の自分を呼ぶ声に、ソルは身構えつつ素早く振り向く。
が、そこにいたのはカイにアクセルに闇慈に……ようするにいつものメンバーであった。
「……何の用だ」
「ミリアさんがさらわれたそうだな、ソル。私達も協力する」
「……どういうつもりだ?」
「ミリアがさらわれたとあっちゃあ、人事じゃすまないからな」
「そういうこと。旦那も水臭いねぇ、声かけてくれりゃ協力するのに」
「テメェら………何故ここにいる?」
「ワタシが呼んだアル」
その声と共に紗夢とメイ、そして教師陣の面々が現われる。
「……テメェら……」
「ま、生徒がさらわれたとあっちゃあな」
梅喧がぶっきらぼうに言う。
「………チッ、勝手にしろ!!」
「話はまとまったようじゃな」
クリフが肩に斬竜刀をかつぎながら笑う。
ソルは倉庫のシャッターに向けて封炎剣を構える。
「タイィィィィランレイィヴ!!」
ドゴオォォォォォォォン!!
巨大な火球がシャッターをひしゃげさせ、吹っ飛ばす。
「行くぞ!!」
ソルが倉庫内に飛び込み、続いて他のメンバーも中に踏みこむ。
「……随分と歓迎されたもんだな」
中に入るなり、ジョニーが皮肉っぽく漏らす。
倉庫の中には、ザトーの部下であるチンピラ軍団が待機していたのだ。
その数およそ三百人。
「………誰がこようとブッ倒すだけだ」
言ってソルは封炎剣を手に、一団に向かって突っ込んだ。
「オォラア!!」
封炎剣から炎を立ち上らせ、チンピラを一気に打ちのめす。
だがさすがに戦い慣れしているのか、ソルの攻撃はイマイチ当たりにくい。
「ソル、跳ぶんじゃ!!」
クリフの声に従い、ソルは大きくジャンプした。
「ソウルリヴァイヴァー!!」
ガガガガガガガッ!!
まさに竜の牙ともいうべき一撃がチンピラ数人を叩きのめす。
鬼神の一撃のごとき技であった。
ちなみに、ソル達のテンションゲージは全員MAXである。
そして他のメンバーも、あちこちで激しい戦いを繰り広げていた。
「悪は許さん!!はあぁっ!!」
どこかのテコンドー格闘家のようなことを言いつつ、カイは奥義を繰り出す。
「ライド・ザ・ライトニング!!」
ビシッ!!ベシッ!!ドガッ!!
カイのまとった雷球に弾き飛ばされ、チンピラは壁に激突して気絶する。

「ミストファイナー!!」
シャシャシャシャシャシャッ!!
ジョニーが素早い居合を連続で繰り出し、相手の動きを止める。
「山田さーーーーーーーーん!!」
どごぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉん!!
動きが止まったチンピラ達を、メイが呼び出したクジラがまとめて押しつぶす。
当然、一発KOである。
「畳返しっ!!」
ベシッベシッベシッ!!
梅喧の放った連続畳返しがチンピラ達を次々と宙に浮かべる。
「一誠奥義・彩っ!!」
ガガガガガガガガガッ!!
宙に浮かんだチンピラ達の体を闇慈の巨大な扇でベキベキ打たれる。
梅喧と闇慈の見事な連携で、チンピラ達はあえなくKOとなった。

「ついて来れるか?」
ドシュッ!!ズシャッ!!ザシュッ!!
チップは目にもとまらぬ速さで跳びまわりながら次々と相手を倒していく。
「いくぜ!!秘密兵器だ!!」
ボゥッ!!ドガァッ!!
アクセルの放つ炎をまとった鎖鎌の一撃がチンピラ数人をまとめて打ち倒す。

いろんな意味で地獄絵図を作り出しているのはファウストとポチョムキンであった。
「ごーいんぐまいうぇい!!」
ファウストが体だけを回転させたままチンピラの群れに突っ込む。
そして着地するや否や地面を泳ぐ。
「はっずれー!!」
ザクッ!!
そして一人のチンピラを再起不能に陥れたあと、爆弾を取り出して着火する。
「アフローーーーーーーー!!」
とまあ、こんな具合に。
ポチョムキンはポチョムキンで、
「心の歪んだ青少年と体と体でぶつかり合い、更正させる!!これぞ真の教育!!」
などと叫びつつ、
「ポチョムキンバスター!!」
と、人を殺しかねない投げ技を放ったりしている。
「うおおおおっ!!久しぶりに熱い闘い……いや、ぶつかり合いよ!!」

「それにしてもキリがないアル……っ!!」
後ろから襲ってきたチンピラに裏拳を叩きこみつつ紗夢は呟く。
「ソル!!カイ!!」
「なんだ!!」
「なんですか!?」
梅喧の声に、ソルとカイが大声で答える。
「お前ら、二人で先に行け!!先に頭を潰しちまった方が早い!!」
「わかりました!!行くぞ、ソル!!」
「言われるまでもねぇ!!」
ソルとカイは二階へと続く階段を見つけ、それを一気に駆け上がる。
そして二階にたどり着いた二人を待っていたのは、キューを構えたヴェノムだった。
「やはり貴様らか……だが、ここから先に行かせるわけにはいかない」
ヴェノムの姿を目にしたカイは、封雷剣を構えて走り出す。
「ソル!!先に行け!!」
「ここは頼むぜ、坊や」
「その呼び方をやめろ!!」
カイは怒鳴りながらもヴェノムに向かって突っ込む。
「スタンディッパーロマキャンスタンディッパーロマキャンスタンディッパー
ロマキャンライド・ザ・ライトニング!!!」
「ぐほあぁぁぁぁ!!」
いきなりの連続攻撃にヴェノムは吐血してぶっ倒れる。
「ま、待て!!今のはどう考えてもゲージ二本は使っているぞ!?」
「悪は許さん!!そういうことで今の私のテンションゲージはトレーニングモードでのMAX状態だっ!!!」
「そ、そんなの認めんぞ!!反則……ぶはっ!!」
ジャキーン!!
それ以上追求するなと言わんばかりにヴェイパースラストがヴェノムを吹っ飛ばす。
「くっ、だが私も負けるわけにはいかん!!」
ヴェノムがキューを槍投げのようなスタイルで構える。
「ダークエンジェル!!」
ヴェノムの眼前に紫色のエネルギー弾が生まれ、カイに向かって飛び始める。
「負けるかぁーーーーーーーーッ!!」
封雷剣を構えて走るカイの雄叫びがフロア内に響き渡った――――。


ガン、ガン、ガン………
鉄網の階段を上るソルの足音がやけに大きく響く。
階段を上りきったフロアの中央にはやはりというか、ザトーが待ち構えていた。
「テメエ……ミリアはどうした!!」
怒りを剥き出しにした表情でソルが叫ぶ。
「ククク……そこにいるだろう?」
ザトーは喉の奥で笑い、ソルからは死角になっていた背後の壁を指差した。
ミリアは両手を頭の上で拘束されて眠っている。
「危害を加えたりはしていない。助けたければ……」
「テメエをぶっ倒すしかねえようだな………!!」
ソルの右手に握られた封炎剣が高熱を放ち始める。
「来い!!ミリアを失うと同時に身につけた私の力を見せてやろう!!」
「御託はいらねえ!! いくぞ!!」
大きく吠えるとともに、ソルはザトーに向かって全力疾走する。
対してザトーは腕組みをしたまま動こうともしない。
「オォォラァ!!」
封炎剣が唸りを上げてザトーに迫る。
ザシュッ………!!
肉の裂ける音。
だが、実際に血を流していたのはザトーではなく、ソルのほうだった。
「チッ………」
ソルの脇腹から肩にかけて、かなり大きな傷が走っていた。
ソルは片膝をついてザトーの方に目を向ける。
正確にはザトーではない。
自分の肉を裂いた影の腕を、だ。
ザトーの足元から2mほどの高さまで、影で造られた腕があった。
「これが私の力……影を操る力だ!!」
「………そんなもんか?」
ソルはつまらなそうに呟いた。
「………なんだと?」
ソルの呟きを聞いたザトーが気色ばむ。
「そんなもんかって言ってんだ……テメェの力は」
「ふざけるなっ!!」
ザトーはできうる限りの量の影を全てソルへと向ける。
「再起不能は覚悟しろっ!!」
影は牙を持つ獣の形をとり、ソルへと殺到する。
だが影がソルへと届く寸前、ソルは大きく跳びあがった。
ギリギリの所で影を避け、ザトーへと跳びかかる。
「バンディットリヴォルバー!!」
空中で放った回し蹴りは、ザトーの顔面をまともに捉える。
そして着地するや否や、封炎剣を地面に擦り付ける。
その摩擦熱で炎を生み出し、ソルは炎をまとって飛び上がる。
「ヴォルカニックヴァイパー!!」
ザトーは炎に焼かれながら空中へと浮く。
「落ちろっ!!」
追加攻撃の回し蹴りがザトーを強制的に地上へ戻す。
受身を取ることもかなわず、ザトーは床に激突し、気絶状態になった。
「くれてやる!!タイランレイィィヴ!!」
ドガァァァァァァァァァァァァァッ!!
ソルの放った巨大な火球がザトーの体を猛烈な勢いで壁へと叩きつける。
「認めんぞォォォォォォォォォォォォォっ!!」
壁をぶち破り、ザトーは絶叫を残しつつ海へと落ちる。
「……………やれやれだぜ」
お決まりの勝ちゼリフを口にし、ソルはミリアの拘束を解く。
いまだに眠りつづけるミリアを左手で抱き、右手の甲でミリアの頬を軽く叩く。
「………いつまで寝てやがる」
「ん………」
軽く身じろぎしてミリアの目が開かれる。
「………私………そう、助けに来てくれたのね、ソル」
記憶をかき集め、自分がさらわれた事は理解したらしい。
「俺だけじゃねえ……感謝するなら下にいる奴らにも感謝しとけ」
「下………?」
「まああの野郎が上ってこない所を見ると………」
カン、カン、カン………
ソルが言う側から階段を登る音がする。
「…………」
ソルは傍らにおいていた封炎剣を再び構えなおす。
が、上ってきた人物の姿を見て、緊張を解く。
「ご苦労だったな、坊や」
息を弾ませて上ってきたカイに、ソルはからかうような口調の声をかける。
「その呼び方を止めろ!!………しかし」
カイはミリアと、壁にあいた大穴を見て再び口を開く。
「決着はついたようだな、ソル」
「………一応な………オラ、もう立てるだろうが」
ソルはミリアの頭を軽く小突く。
「痛いわね」
「そのくらいなんでもねえだろうが……さっさといくぞ」
ソルは封炎剣を肩に担いでさっさと階段を降りてしまった。
「………相変わらずの無愛想ですね。もう少しこう何と言うか………」
「ロマンチックに、とか?」
「そうです」
カイの答えに、ミリアは軽く微笑んだ。
「照れ隠しなのよ……ソルの無愛想はね。もっとも、それだけじゃないと思うけど」
「そういうものですか?」
「そういうものよ」
そう言って、ミリアも階段を降りる。
そしてカイも、多少首をかしげながら階段を降りた。
「お、王子さまとお姫さまの登場だね」
上から降りてくるソルとミリアを見て、闇慈が茶化すように言う。
床にはチンピラ達が死屍累々と(死んでないけど)横たわっている。
「どうやらうまくいったようじゃの」
クリフが腰を軽く叩きながら言った。
「みんな………」
闇慈達の姿を見るなり、ミリアはその場に立ち尽くした。
「…………ありがとう」
ミリアは素直に礼を述べた。
「………何を柄にもなく感動してやがる」
「別に、そんなんじゃ……」
ソルの茶化しにミリアはまともに引っかかる。
「涙流しながら言っても説得力ねえな」
「え!?え!?」
ミリアは慌てて目を指でぬぐう。
「………冗談だ」
「あのねぇ!!」
ミリアは頬を膨らませてソルを睨む。
「………まぁいいわよ。ザトーに何かされたわけでもないし」
「ともあれ、これで一件落着デスね」
ぐ~~~~~~~…………
ファウストがシメた瞬間、誰かの腹の虫が泣いた。
「そう言えば……今何時だ?」
「八時。さすがに腹が減ってもおかしくない時間だぜ?」
「どうせだしさ、なんか食って帰らない?」
アクセルの提案にみんなが賛成し、一行は街へと繰り出した。


そして、食事中にソルが出血多量で病院送りになったのはまた別のお話。

続く。





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