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アクセルは落下していた。
「だあぁぁぁぁぁぁっ!!!!!!」
タイムスリップは毎度の事だが、今回は極めて不幸なパターンだった。
よりにもよって、地上十数メートルといった場所にたどり着いてしまったのである。
視界に移るのは深い森。運が良ければ青々とした葉が、枝がクッションとなってくれるだろう。
運が悪かった時のことは考えたくない。
アクセルはとっさに法力を練り上げ、体に纏う。
ぎゅうっと目をつぶり、体を丸めた。
ガサガサガサガサガサッ!!
木の葉が舞い、枝の折れる音が耳に痛い。
体に痛みはないものの、衝撃だけは殺しきれずにアクセルは奥歯を噛みしめる。
がくん、と落下が止まる。どうやら、太い枝に救われたらしい。
地面に叩きつけられることだけは避けられた。
「あ~~~~~~~もうっ!心臓に悪い……」
思わず左胸に手を当てると、ばっくんばっくんと暴れる鼓動を感じることが出来た。
それは、紛れもなく生きている証。
は~っと、安堵のため息をつこうとしたその時、
「誰ですっ!!」
大声がして、アクセルはびくんと身を大きく震わせた。ぐらりと体勢が崩れ、
そのまままっ逆さま。
「わわわわわわっ!!!」
どてっ、と今度こそ地面にキスをするハメになる。
「痛てて……」
強打した鼻を押さえ、鼻血が出てないことを幸運に思う。
アクセルはうめきながら何とか立ち上がろうと頭を振った。
と、
「あ、アクセル!?」
先程アクセルを驚かせた声が、すぐ近くで響く。
しかも、落ち着いて聞いてみればよくよく聞き覚えのある声で……
「カイちゃんっ!?」
叫びながら振り返ると、そこにはカイ=キスクその人がいた。
その後ろには、これまた見知った規格外の大男──ポチョムキンがいる。
「あらら。な~んか珍しい組み合わせ」
あまりのインパクトにアクセルは痛みを忘れ、差しのべられたカイの手をとって立ち上がった。


「そうなんですか。それでアクセルさんも一緒に来られたんですね」
くすくす、と楽しそうにディズィーが笑う。
「ホント参ったよ。いきなり落ちるんだぜぇ~」
アクセルは身振り手振りを大袈裟に、なるべく面白おかしく聞こえるように話していた。
ここはメイシップ。
カイとポチョムキンはそれぞれ警察機構とツェップの代表として、
ここに預けられたディズィーの様子を見に来る途中でアクセルと遭遇したのだという。
ディズィーを初め、快賊団の面々と顔を合わせるのは久し振りだったので、
アクセルも二人に同行させてもらうことにしたのだ。
予想外のアクセルの来訪に、ディズィーは思いのほか喜んでくれた。
「ねえねえアクセルさん、ここに来る前はどの時代にいたの?」
メイが好奇心に瞳をきらきら輝かせてアクセルに問う。
「うん。20世紀のインド。流石の俺様もインド語はしゃべれないから言葉が通じなくてさ~。
おまけに一文無しだったもんだから大変大変」
「インド?」
ディズィーが興味津々に尋ねる。
「そうそう。頭にこうやってターバンを巻いてカレーを食べる国なんだ」
「ふ~ん」
少々アクセルの偏見が入った解説ではあるが、どうせ詳しいことは分かりはしない。
こんな風に雑談をしながら、アクセルはこっそりとディズィーの笑顔を盗み見た。
その屈託の無い笑顔は、この快賊団で幸せに過ごしている証に思えた。
人間を傷つけないために姿を隠し、孤独とともに生きてきた心優しき少女。
その彼女が今、たくさんの仲間に囲まれて堂々と陽の光のもとで笑顔を見せている。
「ここで引き取ってもらって正解だったかもしれませんね」
紅茶を飲みながらカイがポチョムキンに囁いている。
そして、その言葉にポチョムキンも頷いていた。
「当たり前だ。俺はクルーを何よりも大事にしているからな」
その言葉を聞きとめたのか、ジョニーがディズィーとメイの肩を抱く。
「きゃっ」
「こら、ジョニー!」
突然抱き寄せられてディズィーが小さく声を上げ、メイがジョニーの胸板を叩く。
「……」
その様子にカイとポチョムキンの顔がわずかに曇ったが、
アクセルは見ないフリをすることにした。
「私……メイシップに乗れて良かった。みんなすごく優しくしてくれるし、
私の本当の姿を見ても全然恐がったりしないんです」
穏やかな口調に、ディズィーの幸せがにじみ出ている。
「あったりまえだよ!だって、ディズィーはボク達の仲間なんだから」
メイが拳を握り締めて力説する。
そんな年若い彼女たちが微笑ましくもあり、そんな自分を
(……俺様もトシなのかなぁ……)
ちょっぴり切なく思ったり。
「勿論、カイさんやポチョムキンさんにも感謝しています。
私のことを心配してこうして会いに来て下さって……」
「いえ、あなたが幸せならそれでいいんです」
「そうだ。我々も仕事なのだから気にしなくていい」
ディズィーの言葉に、二人は口々に答える。
彼女は人間とギアのハーフで、独立型のギアである。
警察機構やツェップはその存在から決して目を離すことはないだろう。
カイにしてもポチョムキンにしても、
それぞれの組織の思惑があって派遣されているはずだ。
しかし、ディズィーを心配する気持ちも本物だから、どことなくバツが悪いのだろう。
(あ~あ。大変だなあ)
アクセルはそんなことを思う。
「あと……もし会うことが出来たら、ソルさんにもお礼を言いたいです」
少し遠い目をしてディズィーが言った。
「私を止めてくれたのはあの人でした。あの人が止めてくれなかったら私……
もっとたくさんの人を傷つけていたかもしれない。だから……とても感謝しているんです」
「ソル……<背徳の炎>か。あれから連絡はないのか?」
ポチョムキンの問いに、ディズィーは黙って首を振る。
その横顔は、少し淋しそうであった。
「ま、あの男の事だ。わざわざディズィーに連絡なんかしてこないだろう」
軽口をたたくようなジョニーの言葉も、ディズィーの心を慰める事はできず、
彼女はますます顔をうつむかせてしまう。
そんなディズィーを見て、アクセルは思わずこう口走っていた。
「ねえカイちゃん。ディズィーちゃんのその言葉、旦那に伝えてあげなよ」
「はい!?」
突然の爆弾発言に、カイの声が裏返る。
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