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「みんなーーーーーーーーっ!! 大ニュースだーーーーーーーーーっ!!」
朝、みんなが雑談する教室に突如飛びこんできた大声に、教室中が騒然となった。
叫んでいたのは、2-G一の情報通で忍者マニアのチップ。
「今日、転校生が来るらしいぞ!それも三人もだ!」
「おいおい、マジ!?」
ひときわ興味深そうに、制服をいい具合に着崩した闇慈が声を上げた。
「マジだよ、マジ。それも姉妹三人だってハナシだぜ」
チップの発言に、教室のあちこちで歓声が上がる。
「姉妹三人が一緒のクラスと言うのも珍しい話ですね」
クラス委員のカイも興味を持ったらしく、話に加わってくる。
「何でも、校長と理事長の一存で決まったらしいぜ」
「あの校長と理事長ならやりそうなことだよな…」

「「ふぇーーーーっくしょん!!」」
理事長室では、校長のポチョムキンと理事長のクリフが同時にくしゃみをしていた。
「誰か噂でもしているのか?」
「大方2-Gの転校生の事じゃろ」
クリフは手もとの茶をずずっ、とすすった。
「しかし、姉妹三人を同じクラスにして良かったのでしょうか」
「なぁに、あの姉妹はちとワケありじゃからの。特例と言う事で何とかなるじゃろ」
「だといいのですが………」
ポチョムキンは菓子器の中から煎餅を取り出し、一口かじる。
「茶がうまいのう……」
クリフは平和この上なしと言った口調で呟いた。

「転校生ねえ……と言っても、旦那は興味ないか」
窓際の隅の方に座って話を聞いていたアクセルが、後ろの席のソルに話し掛けた。
「………」
返事をするのも面倒なのか、ソルは目を閉じたままうなずきもしない。
「つれないなぁ……せめて返事ぐらいしてよ」
「……興味ねえ」
その返事を聞いて、アクセルはこれだよと言わんばかりに手で額を打った。
と同時に、教室の戸がガラッと開く。
「おい、みんな席につけ!」
担任の梅喧がいつもどおりの口調で叫ぶ。
「どうせもうチップのせいでわかってるんだろうが、今日は転校生を紹介する!」
梅喧の声で、廊下にいた三人の女子が教室に入ってきた。
「三人姉妹のミリア、紗夢、メイだ。じゃ、自己紹介しろ」
梅喧がそう言って教壇から降りた。
代わりに三姉妹が教壇に登る。
「長女のミリア=レイジです」
「次女の紗夢 蔵土縁アル!」
「三女のメイでーす!!」
三姉妹の自己紹介が終わると、教室は男子の歓喜の声で包まれた。
が、ソルだけは頬杖を付いてボーッと窓の外を見つめていた。
ひとしきり騒いだあと、梅喧がみんなを静める。
「よし。じゃあ席は…そうだな、ミリアはソルの隣、紗夢はカイの後ろ、メイは闇慈の隣だ」
梅喧は指で指し示しながら席を指定した。
(……ソル?)
ミリアはその名を聞いた瞬間、一瞬だけ怪訝そうな顔をしたが、すぐに元の表情に戻る。
だが、机の間を通って自分の席につこうとしたその時、ミリアは驚愕で目を見開いた。
「………ソル?」
「……………」
ミリアは無意識にソルの名を呼んだ。
それに気づいたソルは目だけをミリアの方に向けたが、それで何をするでもない。
「あれ、知り合いなの?旦那」
「まあな」
アクセルの問いに、ソルは珍しく反応した。
「あなた……何でこんなところにいるの?」
「こんなところも何も俺はここの生徒だ」
「おい、早く席につけよ」
梅喧が声をかけてきたので、ミリアはそれ以上何も言わずに席についた。
そして朝のホームルームが滞りなく終わり、梅喧がいなくなると、紗夢とメイには
男女問わず周りに人が集まった。
だが、ミリアの側にはアクセル、チップ、闇慈がいるだけだ。
この三人が一緒にいる事はよくあるのだが、そうなると大抵は人が近寄らない。
騒ぎに巻き込まれて一緒くたに怒られることがあるからだ。
「ミリアと旦那、昔なんかあったの?」
「別に……何もないわ」
アクセルの問いに、ミリアはそっけなく答える。
だが、闇慈が更に深読みして突っ込んでくる。
「けど、ただの知り合いってワケやなさそうだけどな」
「本当に何もないの。私が卒業した中学校でほんの少し一緒だっただけ」
「ほんの少し?」
「ソルが転校していったのよ」
ミリアは横目でソルを盗み見た。
ソルはミリアの事などまったく意に介さず、机に突っ伏して熟睡している。
(……そうよ……私はソルとは何でもない……ただの知り合い………)
「ん~……まあ、そういうことにしておこうか」
「……どういう意味?」
ミリアは眉間にしわを寄せてアクセルを軽くにらむ。
「いろいろとね」
そう言うと、アクセルは自分の席についた。
と同時にチャイムが鳴って、チップと闇慈も自分の席に戻る。
「一時間目は世界史だよん。旦那の机から教科書引っ張り出して使いなよ」
「ソルはどうするのよ」
「大丈夫大丈夫。授業時間は旦那寝っぱなしだから」
確かに、チャイムが鳴ってもなおソルが起きる気配はない。
(何しに学校に来てるのかしら……?)
ミリアは心の中で首を傾げたが、考えるのを止めてソルの机から世界史の教科書を引っ張り出す。
「いよーし!!今日もエレガントに……」
「あーーーーーーーーーーーーーーーっ!!」
世界史担当のジョニーが入ってくるなり、メイが叫んだ。
「ジョニー!」
「ん?おお、メイじゃないか」
ジョニーの方もメイに気づいたらしい。
「な、なんだぁ?ジョニーセンセ、メイと知り合いなのか?」
チップがまだ混乱した様子で口を開く。
「ああ、俺がメイのいた中学校に教育実習に行ったことがあってな」
「なんか……すげェ偶然だな」
「偶然じゃないもん、運命だもん!」
チップの言葉に、メイが少しむくれて言う。
「おいおいメイ、みんなの前では止めようぜ?あとで二人っきりで、ナ」
最後の方はメイに耳打ちする。
「いよーし!!マーベラスな2-Gの諸君!今日もエレガントに授業を始めよう!!」
「起立!」
クラス委員長であるカイが号令をかける。
「礼!」
カイの号令でみんながいっせいに例をする。
ちなみにその間もソルは熟睡したままだ。
「えへへ………ジョニー…………」
そしてメイは恍惚とした表情でジョニーをじっと見つめていた。

ジョニーの授業は実に面白くわかりやすい。
何しろ、ジョニーは世界中を直に見てきているのだ。
どこかの地名が出てくると、それにまつわるエピソードなどを話してくれる。
生徒のチャチャにも独特の言葉さばきで応答し、それでいて、大事なところはさりげなく
強調する。
そのおかげで、生徒の間では『ジョニーに授業を持たれれば赤点なし』といった逸話まで存在している。
そして、いつものようにみんなに惜しまれつつ授業が終わった。
「じゃ、今日はここまで。また次の時間だ」
ジョニーはそう言って颯爽と教室から去っていく。
「どうだった?世界史の授業は」
アクセルがミリアに話し掛けてきた。
どうやら、アクセルは性質的にミリアを気に入ったらしい。
「あんなに面白い授業は始めてだわ……いい先生ね」
「だろ?あの先生、人気高いんだぜ」
「そうみたいね……」
ミリアはアクセルから視線をそらしてメイの方に視線をめぐらせる。
「ジョニー……えヘヘ」
視線の先では、すっかりのぼせ上がって幸せオーラをまとったメイがいた。
「すっかりのぼせ上がってるわね……」
「メイちゃんか……ほんとジョニー先生命って感じだったなぁ」
「そうアルねぇ……あの子思いこみ激しいアルから……」
いつのまにか、紗夢が二人の近くにやってきていた。
「ミリア姉さんとは大違いアル」
「そうだろうなぁ……ミリアってクールだし、ああはなりそうにないよなぁ」
アクセルも紗夢に調子を合わせる。
ミリアの方は別になんと言われようと気にならないらしく、ふぅ、と軽くため息をついただけだった。
「ま、クールなのはある意味旦那も同じだよな」
アクセルは視線でソルを指しながら言った。
ソルは世界史の時間中ずーっと眠りつづけ、まだ眠っている。
「………端からそうは見えないけど」
「この人、何しに学校に来てるアル?」
「私も同じ事を考えたわ」
「さあ?大方昼飯目当てだと思うけど」
「昼飯?」
ミリアと紗夢がオウム返しにアクセルに尋ねる。
「ああ、ミリアと紗夢はまだ知らなかったっけ。この学校、学食はタダなんだよ」
「ようするに、タダでたっぷりお昼を食べようと………」
「そ。まあ結構食べるしねえ、旦那は」
アクセルはそう言って面白そうに笑った。
「…………はぁ」
ミリアの方は対照的にこめかみを押さえてため息をつく。
「どうしたアルか?姉さん」
「頭が痛くなってきたわ……」
ミリアはもう一度ため息をつく。
キーン、コーン、カーン、コーン……………
「っと!席に戻るアル」
紗夢は少し急いで自分の席に戻る。
「そう言えば、次の時間は?」
「んー?生物だよ」
ミリアはまたソルの机から生物の教科書を引っ張り出した。
「お、きたきた。テスタメント先生だよ」
「委員長、たのむ」
「起立!」
テスタメントの合図で、カイは号令をかける。
「礼!」
みんなが礼をして着席すると、テスタメントは教師用の教科書を開く。
「それでは、今日は遺伝の法則について―――」
テスタメントが黒板に文字を書き始めると、ソル以外の全員がノートにそれを書き写す。
そして、生物の授業は別段何事もなく終わった。

「どうだった?テスタメント先生は」
「別に…普通の人ね。少し面白味に欠けるわ」
「ところがね。あの先生、ワケのわからない研究ばっかりしてるんだよ」
アクセルが意味深な口調で言う。
「暗闇でも育つ『ダーク野菜』とか、一週間で実がなる『バイオ柿』とかのね」
「……それって、考えようによってはすごい研究なんじゃ?」
「いや、成功した事はないみたいだから」
「全然だめじゃない……ところで次の時間は?」
「ん、三・四時間目は美術」
「じゃあ、教室移動ね」
「旦那起こしていかないと………」
そう言って、アクセルはソルの肩をゆすった。
「……今何時だ」
「だいたい11時ってとこかな。次、美術だよ」
「ああ」
ソルは短く答えて机の中を引っ掻き回す。
筆箱を奥の方から文字通り引っ張り出し、席を立つ。
「……行くぞ」
ソルはいつもの仏頂面で、ミリアとアクセルに呼びかけた。
ソル自身はさっさと歩いていってしまう。
「遅らせてる本人が言う言葉じゃないわ……」
「まあまあ」
アクセルがなだめるように言う。
こういうときの彼の『まあまあ』は誰にでも良く効くのだ。
「……まあいいわ。とりあえず案内して」
「あ、そうか。まだ場所がわかんないのか」
「わかってたら一人で行ってるわ」
「さようで」
アクセルとミリアはソルの後に続いて歩き出した。

「んきゃぁぁぁぁぁぁぁぁぁっ!!」
ソル達が美術室のすぐ近くまできたとき、美術室から悲鳴が聞こえた。
「何…?」
「あー……まあ、大方想像はつくけどね」
アクセルはまたかと言わんばかりの顔でつぶやいた。
そして美術室に足を踏み入れると、悲鳴の主と原因が一度にわかった。
「メイ……あなただったのね、さっきの悲鳴」
「うぅ~……驚いたよぉ……」
メイが教壇の近くの床にぺたんと尻餅をついている。
「ここまで驚かれたのは初めてだな……だが、驚かせてしまってすまない」
ポチョムキンが深々と頭を下げる。
そう、悲鳴の主はメイ、その原因は美術教師であるポチョムキンである。
職員室にいたジョニーから場所を聞いて、勢い勇んで飛び込んできたところをポチョムキンと鉢合わせしたと言うわけだ。
まあ見慣れない人間には怖いだろう。
何しろ上半身裸で異常発達している怖い顔の人間が絵筆をガチャガチャいじっているのだから。
「というわけで、美術教師のポチョムキンだ。校長でもあるがな」
「はい……」
メイは少し恥ずかしそうに呟いた。
ちなみにミリアが驚かなかったのは、転校手続きのときにポチョムキンを見たことがあったからである。
「おい、立てるか?」
ソルがメイを見下ろしながら尋ねた。
「うー……腰が抜けちゃってるよぉ」
「しょうがないわね……よいしょっと」
ミリアがメイを背負って立ち上がった。
「で、この子どうすればいいのかしら」
「そうだな、三時間目は出席扱いにして置くから保健室に連れて行ってやりなさい」
ポチョムキンが言うと、アクセルがすばやく反応した。
「あ、だったら俺達も行きますよ。まだミリア場所わかんないだろうし。ね、旦那」
「ああ。ミリアまで腰抜かしかねねぇからな……」
「それはかまわないが…君達は三時間目には帰ってくるんだぞ」
「判ってますって。じゃ、行ってきます」
すでに歩き出したミリアを追って、ソルとアクセルも歩き出した。
「ねえ、『お姉ちゃんまで腰抜かしかねない』ってどういう意味?」
ミリアの背に背負われたまま、メイがソルに話し掛ける。
「あぁ?ありゃあ……まぁ、行けばわかる」
ソルはそう言って、意味ありげに口元に笑みを浮かべた。
「……気になるわね」
「すぐにわかる。おっと、ここだ」
ソルが『保健室』と書かれたプレートのついた部屋の前で立ち止まった。
「ファウストせんせー!急患なんですけどー!」
アクセルが保健室のドアをノックしながら言う。
「開いてマスよー」
「失礼しまーす」
アクセルが保健室の扉を開けて中に入る。
ソルとミリアもそれに続く。
「どうしましたー?」
「んきゃぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁっ!!」
「っ!!」
振り向いたファウストの顔に、メイは思いっきり悲鳴をあげた。
ミリアも声には出さなかったが、死ぬほどびっくりしたらしい。
ぺたん。
「あらら。ほんとにミリアも腰抜かしちゃった」
「……まあ当然と言えば当然の結果だな」
「心外デスねぇ。私の顔でそんなにびっくりしマスかぁ?」
「そんな紙袋かぶってれば誰でもびっくりするよっ!」
メイが床に座り込んだまま大声で抗議する。
ミリアのほうもまだ立ち直ってはいないらしい。
「だよなぁ……俺もはじめて見た時は心臓二秒くらい止まったもんな、マジで」
「たまに剣道部に化物退治の依頼までくる始末だからな……」
「なんだか酷い言われようデスねぇ。で、患者さんはどなたデスカ?」
ファウストは大して傷ついてもいないような口調で言った。
「っと、そうだった。えーっと、校長先生見てこの子が腰抜かしちゃって………」
そう言って、アクセルがメイを指す。
「で、たった今アンタを見てこいつが腰抜かした」
ソルがミリアを指す。
「というわけで、こいつら二人を休ませてやってくれ」
「はいハイ。えーっと、2-Gのミリアさんとメイさんね」
ファウストはアクセルとソルから名前を聞いて、記録帳に書き込んでいく。
「はい、ご苦労様。この子達ベッドまで運んだら教室に戻ったほうがいいデスよ」
「そうするぜ……アンタの面は心臓に悪ぃ」
ソルはそう言って、ミリアを抱えあげてベッドまで運ぶ。
アクセルも、メイを背負い上げてベッドまで運んだ。
「じゃあ、あばよ。もう美術室までの道はわかってるだろ」
「校長先生にはちゃんと言っといてあげるから、ゆっくり休みな」
「ちょ……ちょっと!」
ミリアが声をあげるが、もう遅い。
ソルとアクセルは、保健室から出て行ってしまった。
(はっきり言ってこの校医まともじゃないわよ!?)
心の中でミリアは叫んだ。
が、時すでに遅し。
仕方なくミリアはカーテンを引き、ベッドに横になった。
隣のメイもそれに習う。
「……この学校……すごいわ」
ミリアが誰に言うでもなく呟いた。
「うーん……でも僕はジョニーに会えたからうれしいな」
「……そう」
「お姉ちゃんは?ソルに会えて嬉しくないの?」
「……嬉しいわけ、ないわ」
そう言ってミリアは寝返りを打ち、メイに背を向けた。
「あんな……あんな別れ方したんだもの」
「お姉ちゃん……」
メイはミリアに声をかけるが反応がない。
泣いているわけではなさそうだが。
「……ごめんね」
一言だけ言うと、メイは掛け布団を頭までかぶった。

「恋愛問題デスか……難しいデスねえ」
カーテンの外で、しっかりと話を聞いていたファウストがポツリと呟いた。

「それじゃ、お世話になりました」
「また、具合が悪くなったらいつでも来てください。あと、悩み相談にも乗りますよ」
「はい。じゃ、失礼します」
ミリアはファウストに礼をすると、保健室から出て行った。
メイの方は、二重にショックを受けたのがまずかったらしく、もう一時間保健室に
いることになったのだ。
(それにしても……あの先生に悩みを打ち明ける人なんているのかしら……?)
美術室への帰り道でミリアはそんなことを考えてみたが、頭が痛くなってきたので考えるのをやめた。
「おっ、ミリア復活したね」
美術室に入るなり、アクセルが声をかけてくる。
(ものすごく不安だったわ……)
(何で?)
(……言わなくてもわかると思うけど)
(ファウスト先生のこと?大丈夫だって。あの人ああ見えても紳士だから)
(とてもそうは見えないわ……)
「戻ってきたのかね」
アクセルとミリアが小声で会話していると、ポチョムキンがミリアを見つけて近寄ってきた。
「驚いただろう。あいつのあの格好は何とかしろと言ってるんだがね……」
「それはもう心臓が止まるかと……え?あいつ?」
「ああ、私とあいつは高校が同じでね。昔は二人そろって有名人だったものだよ」
「……想像は出来ます」
ミリアはまたこめかみに頭痛を覚えた。
今日はよくよく頭痛に悩まされる日だなとミリアは思う。
「ところで……メイ君はどうした?」
「あ、メイならまだ保健室で寝てます。二重のショックがよくなかったらしくて」
「ふむ……そうか。それなら仕方ないな」
ポチョムキンは持っていた出席簿にさらさらと書き込んだ。
「君の場所は紗夢くんやソルの近くだ。やることは彼らに聞くといいだろう」
「はい」
ミリアは一つ返事をすると、紗夢の所に歩いていった。
「あ、姉さん。もう大丈夫アルか?」
「ええ……紗夢、あなた保健室には行かないほうがいいわ……」
「……努力はするアル」
ミリアの表情から何かを感じ取った紗夢は、そう言って作業に没頭する。
「ところで、何をすればいいの?」
「文化祭に展示する絵を描くアル」
「何でもいいの?」
「自分の想像だけで描けっていう珍しい題材アル」
「そう……」
ミリアも、それっきり画用紙に向かって押し黙った。
鉛筆を紙の上で滑らせ、何度も消しゴムをかけて描き直す。
そしてようやくデッサンが5割がた完成したところで授業が終わった。
ちなみにミリアが描いているのは森の絵だ。
昼食には紗夢の作った弁当を食べ、五・六時間目の数学・英語も滞りなく終わった。
そして放課後。
ミリアは部活動でも見て回ろうかと思っていた。
「紗夢は帰宅部……メイは水泳部……ね」
ちなみにメイが水泳部に入部した理由は、なんてことはない、ジョニーが顧問をしていたからだ。
どこまでもジョニー一直線な子である。
「私はどうしようかしら……」
ミリアはカバンを掴んで歩き出した。
学校の中をふらふら歩くのもいいと思ったらしい。
「おい」
だが、教室を出たとたんに誰かに呼び止められた。
「……ソル?」
ミリアは警戒するような視線をソルに向ける.
「少し話してェことがある」
一方的に言い、ソルはミリアに背を向けて歩き出した。
こういう行動をされると、はっきり言って断りづらい。
「ちょっと!……もう!」
ミリアは不満をもらしながらも、ソルを追って軽く駆け出した。





+++++++++++++++++

□Time goes by
第二話~過去と本音~

ソルとミリアは校舎を抜け、裏庭に来ていた。
めったに人は来ないので、告白や密談に良く使われる場所だ。
「……用件は何?」
ミリアは相変わらずの警戒姿勢で言う。
ソルのほうは、ミリアに背を向けたまましばらく黙っていたが、やがて口を開いた。
「………部活、どうすんだ?」
「まだ、決めてないわ……まさかそんなこと言うためにここに連れてきたの?」
ミリアは眉間にしわを寄せて訝しげな視線をソルの背に向けた。
当のソルは、またしばらく沈黙したあと、ゆっくりとミリアの方を向いた。
「……………そう警戒すんな」
ミリアの今にも逃げ出しそうな体勢を見て、ソルが言う。
「別になんかしようとしてるわけじゃねえ」
「……信用できないわ……」
少し辛そうに目を伏せ、ミリアが呟く。
「私を弄んで捨てた男の……言う事なんか」
「…………悪かった」
(うっそだろぉ!?)
(旦那もやるねぇ、ミリアを弄んで捨てるなんて)
(なんか、ソルの意外な一面だな)
近くの茂みの中から、ソル達には聞こえない位の声がした。
茂みの中にいるのは、チップ・アクセル・闇慈・メイ・紗夢だ。
なぜ彼らがここにいるのかはいたって簡単。
ソルとそれを追いかけるミリアをアクセルが偶然見かけ、面白そうだということで、
他の四人を携帯を使って呼び出したのだ。
(なあ、メイと紗夢はこのこと知ってたのか?)
(ソルと姉さんが付き合ってたってのは知ってたアル)
(でも、捨てられたなんてお姉ちゃん全然言ってなかったよ)
(シッ!!またなんか喋るぞ!!)
闇慈が他の三人の口を閉じさせる。
しばらく沈黙していた二人だったが、それを破ったのはミリアだった。
「……謝られても……許せないわ」
「………………」
ミリアは目を伏せ、ソルは何も言わずに黙っていた。
「私が……どんなに悲しい思いをしたかわかる?」
「………」
「……訳も言わずに別れ話持ちかけて………そのまま転校していくなんて……」
ミリアは痛む部分を押さえるように右頬に手を当てた。
「最低よ………」
(へー……ミリアも結構つらい恋してたんだなー)
(さあ、ソルはどう出るアル?)
「………悪かった」
「………それしか言う事はないの?」
ミリアはソルの目を真っ向から見据える。
ソルはミリアの視線を受けてなお、無表情のままだった。
「あの時は……俺もどうかしてた」
(げっ!旦那が自分の非を認めてる!!)
(すげえ女だな、ミリア)
アクセルにとチップに感嘆されつつ、ソルとミリアは話を続ける。
「………だからって………」
ミリアはそこで言葉を切る。
「許せると………思う?」
大粒の涙がミリアの目からこぼれていた。
涙はミリアの頬を伝い、地面に流れ落ちた。
「………とりあえず泣くんじゃねえ」
「無理よ………そんなの」
ミリアは泣き声で声を絞り出す。
「………泣かれるとどうして良いかわかんねえんだよ」
無表情だったソルが、後悔するような表情を浮かべる。
ミリアはハッとしたように、瞳をソルの方に向ける。
「あの時もだ……お前がいきなり泣き出したからな………」
ソルの口調が自虐的なものに変わった。
「……………逃げ出しちまったんだよ……お前からな………」
(ソルが逃げ出したってのはなんか意外アルね)
(旦那って女の扱い手馴れてそうだけどねえ)
(純情だったんじゃねぇの?)
「………許せねえってのも……しょうがねえよな」
ソルが悲しそうに微笑した。
ミリアは今だ泣きつづけている。
「……もう泣くな」
ソルは人差し指でミリアの両目にあふれていた涙をすくった。
ミリアは一瞬びくっと身をすくませるが、結局されるがままになっていた。
「……殴って気が済むなら殴れ。罵って気が済むなら罵ってくれ」
涙をすくいながらソルが言う。
「俺にできる事なら………何でもする」
「………わかったわ」
パァンッ!!
ミリアの平手がソルを打ち、ソルの頬が鳴った。
茂みの中のアクセル達はいきなりの音に驚いて顔をしかめる。
「………痛ぇ………」
「こんなものじゃなかったわ………私の痛みは」
ミリアは厳しい表情のままもう一発ソルの頬を打つ。
バキッ!!
「………マジで痛ぇぞ」
「当たり前よ……拳で打ったんだから」
ミリアは手を開いてぶらぶら振っている。
ミリア自身も少し痛かったらしい。
(普通女が拳で殴るか?)
(姉さんらしいアル……)
「でも……スッキリしたわ」
ミリアが口元に微笑を浮かべて言う。
その目には、もう涙はない。
「許したわけじゃないわよ。でも、あなたを恨んだりはしてない」
「………………」
「で…………こう言うのもなんだけど………」
ミリアは一旦言葉を切って、きょろきょろと辺りを見回す。
顔を真っ赤にしてソルに向き直り、ミリアにしては珍しく、上目遣いにソルを見る。
そして、ものすごく恥ずかしそうに口を開いた。
「………私と、また付き合ってくれる?」
恥ずかしくなったのか、すぐに目をそらす。
「……ああ」
ソルも照れているのか、ぶっきらぼうに返す。
「………ありがとう、ソル」
そう言って―――ミリアが笑った。
悲しみの欠片もない、穏やかな微笑。
だがそれは……非常に―――魅力的な表情だった。
「やっと笑いやがったか…………」
ソルが照れ隠しに悪態をつくが、ミリアは全く気にしない。
「………そのツラがずっと見たかったんだよ」
そう言ってソルもホッとしたような表情を浮かべた。

「さてと………一段落ついたところで………」
ソルはアクセル達の隠れている茂みのほうを睨みつける。
アクセル達もドキッとしてざわめく。
(バ、バレたか?)
(あの声で気づくわけねえだろ!?)
(いや、旦那だったらありうるんじゃ……)
「俺が気づかねえとでも思ったのか?とっととツラ出せ」
底冷えするような声でソルはアクセル達に告げた。
(やっばりバレてたーーーーー!!)
(ど、どうするの?)
「出てこねぇならこっちから行くぞ」
ソルは茂みに向かってゆっくりと歩き出す。
(や、やべぇぞ!!)
(ほ、ほんとにどうするアル!?)
(き、決まってんだろォ?)
(逃げるっきゃない!!)
そう言って、アクセル達はいきなり立ち上がって一目散に駆け出した。
「逃がすか!ライオットスタンプ(炎なし)!!」
だんっ!!
ソルは後ろに飛び、校舎の壁を蹴ってアクセル達に蹴りかかる。
どがっ!!
「どわっ!?」
一番後ろを走っていた闇慈が背中を蹴られて倒れこむ。
「きゃっ!?」
「うわっ!?」
「あたっ!!」
「ぐわっ!!」
続いて、メイ・アクセル・紗夢・チップの順に将棋倒しになった。
「テメェら……覚悟できてんだろうなァ?」
ソルは指や首をゴキゴキ鳴らしている。
ミリアもあえて止めはしない。
「ソ、ソル、手加減して……くれるよね?」
「安心しな……女には手加減してやる」
「だ、旦那ァ、俺達は………」
「…マジで行くぜ?」
ソルはアクセル達を一瞥すると、苦笑したように口元を曲げた。
「「「た、助けてくれェェェェェェェェェェっ!!」」」
アクセル達男三人衆の悲痛な叫びが裏庭に響き渡った。

「いったぁ~~~~い……」
「自業自得よ」
メイが漫画のようなタンコブを押さえてうなっていると、ミリアがもっともな意見を言う。
紗夢もメイと同じように頭を押さえている。
二人ともソルのゲンコツを頭に食らったのだ。
ちなみに男三人衆は……ボコボコになってそこらに転がっていた。
「……?ちょっと待って……あなた達いつからあそこに居たの?」
ミリアが不意に思いついてメイに問う。
メイの方はきょとんとしてミリアに答えた。
「いつからって……最初から」
「と、いうことは………まさか………」
ミリアの動きがぎこちなくなる。
メイはちょっと意地悪く笑う。
「えへへ……ぜぇ~んぶ見てました」
ピキッ。
ミリアが完全に固まる。
だがその直後、凄まじい怒りのオーラがミリアの背後に立ち上った。
「あ~な~た~た~ち~~~~!!!!」
地獄の底から響くようなミリアの怒りの声と共に、二度目の悲痛な叫びが響き渡った。

「ひ~~ん………もっとイタイ~~~~~」
「メイが余計な事言うからアル………」
二段になったタンコブや頭を押さえてメイと紗夢が言った。
「ああ………明日学校に来るのがつらいわ…………」
ミリアが心底つらそうに言う。
明日学校に来たら今日の事はクラス中に広まっているだろう。
チップと闇慈によって。
男三人衆は更にボコボコにされ、ボロ雑巾のようになって転がっている。
多分骨の一本や二本は折れているだろう。
とくにチップと闇慈は口封じのために喉もやられている。
どのみち、明日には治っているだろうが。
(まあ……ソルの本音がわかったのはうれしかったけど……)
ミリアが誰にも聞こえないように呟いた。
その表情はいつものクールな表情に戻っている。
が、その奥に潜んでいた影はもうない。
「また、よろしくね……ソル」
「……ああ」
ミリアがソルに向かって微笑んだ。
ちなみに、微笑む前に紗夢とメイは頭をどつかれて気絶させられている。
空は六月の夕暮れでオレンジ色に染まっていた。
「さてと……帰るか」
ソルが伸びをしながら言う。
「そう言えば、あなたどうやって通ってるの?」
「バイク。乗ってくか?」
「そうね、送ってってもらうわ」
ソルとミリアは並んで歩いて裏庭を後にした。
手を繋いだりはしていないものの、その姿は……どことなく楽しそうに見えていた。


その日の夜……
「あー……誰か……俺らを病院に運んでくれぇ………」
深夜の裏庭に、消え入りそうなアクセルの呟きがむなしく響いた。
翌日、ファウストによる緊急手術が保健室で行われたという噂が流れた。










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