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忘れるつもりなんかなかった

できれば忘れたくなかった


ねぇ



知りたいと思うのは変なの…?



「ジョニーのバカあぁぁ!!」
「…っ、メイ!」
怒鳴るように呼び止める声を背に、着地中のシップからメイが飛び降りたのは、まだ昼過ぎの事だった。メイシップの乗組員達全員を振り返らせるほどの大声で叫び、すた、と身軽な動作で地面に降りる。後ろではまだ、保護者的存在であるジョニーが何か言っているのだが、メイは無視して走った。
「何だよっ…ジョニーなんて、何にも分かってないじゃないか…!」
目を潤ませ、ぐす、と鼻を啜りながら、メイは町の一角まで走りとおした。公園の、人目に付きにくい木の茂みに隠れて、膝を抱える。
「ジョニーの…バカ…。」

事の発端は、メイの一言。


「ねえ、ボクって何なの?」


たったそれだけだった。それだけの言葉だったのだが、ジョニーはひどく困惑した表情を見せた後、「気にする事じゃないさ」と言ったのだ。そんな表情でそんな事を言われたら、気になるのが人の常。メイは、教えてくれるようにしつこくせがんだ。すると、ジョニーはサングラスの向こうの目をすぅっと細めて、メイが嫌う言葉の一つを言った。
「子供は知らなくていい事だ。」
と。ただ一言。そのまま背を向けて、シップ内の食堂に向かおうとした背中に向かって、メイは思い切り叫んだ。

「ジョニーのバカあぁぁ!!」


そして、今に至るわけだが。メイは、小さな溜め息をついた。
「…駄目だ。こんなんじゃ、また子ども扱いされちゃう。」
ジョニーの一言に腹を立てて、シップを飛び出してきてしまうほど子供なら、言われても仕方がないことだ。メイは、その細い腕で乱暴に涙を拭うと、木に手をつきながら立ち上がった。帰ろ、と小声で呟いたその時。
公園に、どこかで見たような人物が入ってきた。上半身の肉体をさらけ出し、扇でばたばたと自分の顔を扇いでいる。メイは、その顔を見た途端に顔を綻ばせた。
「おじさん!」
「…。誰だ、俺をおじさんなんて呼ぶ奴ぁ。」
言葉では怒りながらも、呼びかけた人間の事をもう分かっているかのように、その男は意地の悪い笑みを浮かべながらメイを見た。姓は御津、名は闇慈。彼の人は、走りよって来るメイの頭に手を置いた。
「おじさんはやめろって、前言っただろ。」
「あはは!ごめんね、おじさん?」
メイに笑い飛ばされ、闇慈は額に手を置く。だからなぁ、と言いかけて、闇慈は言葉を止めた。身を屈めてメイの顔を覗き込む。
「…泣いてたのか…?」
闇慈に言われて初めて、メイは自分の目が真っ赤になっていることに気付いた。それに気付いてしまうと、また胸の中が痛くなる。また泣き出しそうなメイを見て慌てたのか、闇慈は彼女の手を取り、先ほど座っていた木の茂みに連れて行った。二人で並んで座り、また涙を流し始めたメイを、闇慈は黙って見つめていた。話を始めるのは泣き止むのを待ってから、と決めているらしい。
が、メイは泣き止む前から、嗚咽交じりに話し出した。
「ジョニーが…っく、ボクが何なのか、教え…っ、くれな…。」
「…?俺にも分かる言葉で話してくれるかい?」
メイは、小さく頷いて、今までのいきさつを話した。ジョニーに拾われる前の記憶が自分にはないから、それを知りたいと聞いたこと。知らなくていい、と言われた事。そしてそれに腹を立てて、飛び出してきてしまった事。全部を話した。
闇慈は黙っていた。ぱちん、と扇を閉じて、メイを見る。彼女は、俯いて目を擦っていた。そんなに、悲しい事だろうか。闇慈は、ずり落ちてきた眼鏡を押し上げながら、メイに語りかけた。
「お前さんの気持ちも分かるが、ジョニーって奴が言った言葉も正しいぜ。」
「……え……?」
闇慈の言葉に、メイは目を見開いた。その表情を見た闇慈は、真剣な、ほんの少し厳しい目をしていた。
「お前さんが今欲しいのは、励ましの言葉じゃねぇんだろ?」
言葉の意味がわからない。そんな様子を悟ったのか、闇慈は「自分ですぐ分かるさ」と言いながら、静かに話し始めた。
「知りたいと思うのはいい事だ。だがな、知ったら壊れちまうものもあるんだよ。」


お前さんが壊れちまったら、皆悲しむだろう?
壊れたお前さんは、結局何を得る?


「ジョニーは、お前さんの心を守りたかっただけだ。」
「…。でも…。」
闇慈の言葉は厳しく、だが決して突き放すようなものでもなく。メイは俯いた。何故か、闇慈の目を直視できない。逸らされた視線の意味も、闇慈にはよく分かっているようで。敢えて、合わせてこようとはしなかった。ぱっと、扇を広げる。暑そうに自分を扇ぎ、メイを扇いでやりながら、「とはいっても」と闇慈は苦笑した。
「そりゃあまあ、忘れちまってるって事実が痛い事もあるよな。」
ようやく見せた笑顔。メイが顔を上げた。
「ねぇおじさん、ジャパニーズって何?」
唐突なメイの問いかけに、闇慈が面食らった。最初は質問の主旨を計りかねたものの、すぐにその理由を悟ったらしく。闇慈は、メイに顔を寄せると、小声で呟いた。
「時が来たら、ジョニーが教えてくれるだろうさ。焦るなよ。」
「え…うん…。」
「おぅし、いい子だ。」
闇慈が、メイの頭を優しく撫でた。再び、メイの目が潤んでくる。慌てた闇慈の前で泣きながら、メイは「ずるい」と半ば叫ぶように言った。何がずるいのか、それは勘のいい闇慈にも分からず。そんな闇慈をよそに、メイは更に言葉を続ける。
「あんな事言った後に、そんな優しい事するの、反則!」
絶対ずるい、と言い張るメイに、闇慈は頭を掻いた。別にそんなつもりではなかっただけに、困惑する度合いもかなり大きい。なんなら、困惑ついでに昼食でも奢ってやろうかと考えた矢先。闇慈の目は、公園に駆け込んできた人物を捕らえていた。その人物は、誰かを探しているようで。きょろきょろと、周囲を見回している。闇慈は、メイの肩に手をやった。ぽんぽんと叩いてから、その人物を親指で指し示す。
「ほら、あれ。迎えじゃねぇのか?」
「え…?あ、ジョニー!」
違ったらどうしようとか考えていた闇慈が、安堵に溜め息を漏らす。そして、立ち上がったメイに言葉をかけた。
「忘れてる時期を楽しんどけよ。俺の知り合いにな、忘れたい思い出も目的を果たすまでは忘れたくないって姐さんがいるんだ。」
結構苦労してるよ、という言葉を、メイは笑って受け止めた。自分だって苦労していないわけではないのだが、そんなに苦痛を感じてはいないし。この忘却が幸せとは思わないが、だから今の自分があるのだから、それには感謝できる。彼女は、闇慈に手を振りながら、木の茂みから離れていった。
「ありがと、おじさん!今度、デートぐらいならしてあげるよ!」
「はは…。」
闇慈の苦笑いを目に焼き付けて、メイはジョニーに向かって走っていった。彼女に気付いたジョニーが、名前を呼んでくれる。そんなジョニーに、メイは飛びついた。
「ごめんねジョニー!もう困らせないから。」
「そうしてくれるとありがたいぜ、ベイベー。」
ジョニーに頭を撫でられて、メイは薄く微笑んだ。この忘却の過去と、上手く付き合えることを祈って。



ねぇ


ボクは何?



今は封印された過去




いつか目覚める忘却の夢…



                                            fin
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「ジョニー、大好き!」
「ねぇねぇジョニー、僕今日ね……」
「ジョニー、ケーキ作ってみたの!」

 少女のそんな明るい声が、今も耳に残っている。明るい瞳で、よく変わる表情で、いつも彼のそばにいた少女。彼が戦うときは、幼い華奢な手で武器を取って、共に肩を並べた少女。

「いつもそばにいるんだから」

 そんなことを言って、どこか大人びた表情で微笑んで。そんな表情を見るたびに、彼が、彼こそが、彼女に置いていかれる気がしていたのを、彼女は知っているのだろうか。どんどん大人に――女になっていく、そんな彼女を見るたびに、いつも寂しさを覚えていたことを、彼は否定するつもりはない。

 空の、その清冽な青さを見上げ、彼はサングラスの奥の目を細めた。彼女と出会った五月の空は、今は眩しいほどの青さだけど、あの時は、雨が降っていた。優しい五月の雨。甘い雨音にひかれるように、外を歩いて、そして、雨の下たった一人で町中にたたずんでいた、あの小さな背中を見つけたのだ。雨に打たれて、空をあおいで、あの少女は誰を捜していたのだろう。

 その答えを、彼は知っていた。

「感傷的すぎやしないか?」

 サングラスを、ついと上げ、彼は独白した。もうすぐ、彼女が出て来る。彼の手から放れようとしている、彼の――少女が。
 だが、少女の隣に立つのは、もはや彼ではない。教会の扉を開け、共に歩んでいくのは、彼ではなかった。
 彼は唇に、そっと触れた。



「愛してる、ジョニー、いつまでも」

 先日、彼の元に現れた彼女がくれたキス。唇に押しつけられた、一瞬だけの、甘さ。

「おっと……いいのかい? あいつってもんがいるのにさ」

 おどけたように言った彼に、

「私は、あの人といくの」

 彼女は微笑んだ。子供を見る大人の女性のような笑い顔で。首に巻きつけられた腕の細さ。頬に触れた柔らかな髪。
 15の若造に戻ったような、そんな戸惑った気持ちで、彼は彼女の華奢な身体をただ見ていた。

 するり、と彼女は離れる。

「祝ってよ、ジョニー。幸せにって」
「メイ?」
「まだ、ジョニーの口から、聞いてない。私はあの人といくの。言って、幸せにって」
「メイ――」
「きっと、式なんて来てくれないんでしょう。ここで別れたら、もう、会ってくれないんでしょう。空に帰って、もう、二度と――」

 一瞬、彼女のその大きな瞳から、涙がこぼれるかと思った。だけど、彼女は泣かなかった。しょうがないんだからジョニーは、そんな目で見て、全身で彼の言葉を待っていた。

 五月の陽射しを髪に編み込ませて、梢に煌めく緑のように瞳を輝かせて。そうして立つ彼女はとても綺麗だった。

 もう、あの雨の中のように、彼女は独りじゃない。雨に打たれる肩に、傘を差しのべてくれる人が大勢いる。そして、たとえ、誰もがそばにいなくても、彼が離れても、緊張した面もちで彼にメイとのことを告げたあの若者が、真っ先に彼女に駆けよるだろう。

「違うだろ?」

 彼女の髪に触れ、そっと撫でながら、彼は言った。

「空は、お前にとっても帰る場所だろう? それなら――いつだって、空に俺はいるさ。
 そして、もし――」

 続けようとした言葉を、彼はのみこんだ。ただ彼女に笑いかける。
 彼女は吃驚したように目を見張って、

「意地悪、いつもそうなんだから!」

 すねたように、彼のよく知っている言い方で言った。

「もういいよ! ジョニーは照れてるだけだって僕わかってるもん」
「おいおい、メイ、別に俺ぁな、」
「ふーんだ、いいわけしても無駄だよーだ」

 幼く言って、彼女は笑った。
 少女だった自分に別れを告げるように、それから、彼女は、飛空挺で過ごした日々のように、笑って、にぎやかに騒いで、ジョニーといつものように呼んで、そして、最後に一粒だけ涙をこぼした。

「愛してる、ジョニー、いつまでも。僕はあの人と行くけれど、ジョニーといた空は忘れない」



 別れを告げて去った少女を見送って、そうして今日という日を迎えて、たった一人外に立つ彼は、あの日、とうとう口にしなかった言葉を風に乗せた。

 扉は、そろそろ開かれるだろう。

 彼には、婚礼をあげた二人が幸せに輝いて出てくるさまが、鮮やかに思い描けた。
 サングラス越しの、陽射しが、眩しい。

「これからは、もう――その男がお前を守ってくれるさ。だが――だが、もし、どうしてもお前が俺の助けを求めることがあるのなら……」

 目を見張って、彼を見上げていた、子供のような彼女の表情を思い出して。

「そのときは、すぐに行ってやるさ、お前のもとに」

 彼は、二人を見ることなく、身をひるがえした。
 空はどこまでも青く、その青さに、彼の胸が痛んだ。だが、目を伏せることはしない。空は、彼のもっとも愛しているものなのだから。

 メイ。お前が望むから、俺は何でもしてやるよ。父親としてお前に接したときのように、お前の小さな手を握って眠ったときのように。
 でも、お前はもう小さな女の子じゃない。

 彼は――感傷的すぎるな、と、また、呟いて、苦笑すると、彼の娘の結婚を祝福する教会から離れていった。彼の、帰るべき場所、少女と過ごした場所、あの空に、戻っていくために。
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ザザー……


ある港町。船乗り達が色々なものが入った大きな箱を担いでせわしなく行き来している。その上では、ウミネコがミャアミャアと鳴きな
がら空を旋回していた。

ある若者が港の桟橋を散歩していた。青い空を見上げて、今日も暑いなあ、と呟く。服をぱたぱたやって服の中に風を送りながら海に目
をやると、波に揺れる水面が強い日差しを反射させて彼の目を灼いた。反射的に目を逸らすと、水平線の向こうにはバベルの塔のように
天高くそそり立つ入道雲。目下は快晴であるが、風向きを考えると明日くらいには雨が来るだろう。そんな事を考える。

と、水平線の上に黒い点のようなものが見えた。

「……ん?」



一隻の見慣れぬ船が港に向かってきていた。







    ★    ☆    ★    ☆




ある船の一室。
一人の男が机に向かってなにやら作業をしていた。黒いズボンに黒いベルト、膝下まである長い丈の黒いコートを裸の上に直接着るとい
う、なんだかよくわからない格好をしている。しかもこれまた黒いサングラスをかけており、机の上に置かれている周囲に長いつばのつ
いた黒い帽子は、もはや疑いようもなく男の物であろう。
時折垂れる前髪をうざったそうに払いながら、熱心に作業を続ける黒い男。なんだか奇妙な図であった。

扉の外でトタトタと誰かが走る音が聞こえて来る。その音は段々近づいてきて、やがて扉が勢いよく開いた。


バキィッ!!

ガスッ! ゴツッ!

「あがッ! いッ!いてェェエ!!??」


少々勢いが良すぎたようで、開いた扉は見事に男の後頭部に激突。男は机と椅子とその他周囲のものを巻き込んで崩れ落ちた。
悶絶する男に向かって、扉を開けた……もとい、蹴破った主が爽やかに言った。


「ジョニーったら、こんなとこで何やってんだよー! 暗いよー。 こんな日陰で遊んでないで、外に出よっ? ねっ、ボクと一緒に
夕陽を見ながら情熱的な一時を過ごそうよっ!」
「うるせぇェっっ!」


額と後頭部を押さえながら、ジョニーが怒鳴った。どうやら後頭部に受けた衝撃でつんのめって机にヘッドバットをかましたらしい。


「やだー、誰も見てないんだからそんな照れなくったってぇ♪」
「違うっつってん……あーお前、また蝶番ちょうつがいブッ壊しやがったな! 何個目だと思ってんだ!」

過度の力を受けてイビツに変形してしまった金属片を見て、ジョニーが叫んだ。

「えーと……昨日2コ壊したからー、……、26コ目かな?」
「今朝もやったから27個だ! ったく……いっそドアはやめて開き戸にしちまうか……」
「あ、開き戸ってあの西部劇のバーみたいなアレ? いいねっ、そうしよっ!」

手放しで喜んでいる少女には反省する様子が微塵もない。ジョニーはがっくりとうな垂れた。こいつちっとも反省してやがらねぇ……。
少女に説教をするのを諦めて、散乱した机や椅子を元に戻し始めるジョニー。その背中に向かって少女が声をかける。


「ねージョニー、外に行こうよー」
「あー? 外に出ても夕陽は見えねえぜ、まだ10時だ。 つーか俺は今忙しいんだよ、ちょっとあっち行ってろ」

言いながら、ようやく元の配置に戻し終えた(扉以外)ジョニーは再び机に向かった
少女がジョニーの手元を覗き込む。

「何やってるの?」
「見りゃわかるだろ、旗だよ。 快賊旗。 こないだウミネコが突っ込んで破れちまったからな、補修ついでにちょっと改良を加」
「わージョニーったら顔に似合わず家庭的ー! 素敵っ! 尊敬しちゃう惚れ直しちゃうー!」
「お前は自分で話振っといてほったらかしかい!」

怒鳴るジョニーだが、少女には全く意に介した様子はなく、逆にジョニーにしがみ付いて肩に顔を埋めて離れようとしない。
ジョニーは既に少女に対して何かを諦めているようで、肩をすくめて再び作業に戻った。



そのまましばらくジョニーの作業が続く。彼の器用な針さばきは中々のもので、補修、補強、そしてちょっとした刺繍まで入れてしまっ
た。少女はうっとりとその作業に見とれている。
と、そこへ誰かが部屋の前を通りかかった。扉が壊れているのに気付いて部屋の中を覗き、少女の背中を見つけると、ため息をついて言
った。


「メイさん、またやっちゃったんですね……」
「あっ、ディズィー!」

その場違いに明るい声に、ディズィーは思わず苦笑いを浮かべた。バンダナから伸びる青い髪とリボンを巻いた尻尾を揺らしながら部屋
に入る。

「これで27個目ですよね……」
「うーん、ジョニーの事となるとついつい我を忘れてやっちゃうんだよね……。 ごめんね、また直してくれない?」
「「はぁ……」」

ディズィーとジョニーのため息が重なる。

「ディズィー、悪いが頼む」
「いえ、それは構いませんけど……、でも蝶番、確かあと3つしかありませんよ」
「まあもうすぐ町につくから大丈夫だと思うが……」
「とりあえず後で直しておきますね」
「おう、助かる」
「サンキューッ、ディズィー!」


「「はぁ……」」







    ★    ☆    ★    ☆







船籍不明の船がやって来たという事で港町は騒然となったが、しかしその騒ぎはすぐに収まった。船籍が判明したからだ。
謎の船を確認してすぐ、港からは使いとして船を出した。十分な警戒をしつつその船に接触し、そして身元を確認したのである。


ジョニー快賊団。


義賊として名を馳せており、その組織は、創始者のジョニー以下全て身寄りを失った戦災孤児で構成されている。
中でもジョニーとメイの両名はその筋ではかなり有名で、賞金取りまがいの事をして各地を回っているのである。この地にも何度か訪れ
た事はあった。



「なんでボク達だってわかんなかったんだろうね?」
「旗をつけてなかったからだろうな」
「あ、そっか」
「お前さんが邪魔すっから遅くなったんだぞ」
「ごめんごめん。 さ、降りよっか! まずは蝶番だねっ!」
「お前さん聞いてねぇな……」





    ★    ☆    ★    ☆




ところが、ここで問題が発生した。



ジョニーとメイを先頭に快賊団の面々が船を下りると、各々が思い思いに久々の陸で小休止をとっていた。
しかし、突然船の方が何やら騒がしくなった。

「……ん? なんかあっちの方で騒いでねぇか?」
「うん、そうだね……なんだろ? 行ってみよっか」

ジョニーとメイが並んで歩くと物凄い身長差があった。ジョニーは184cmの長身であり、一方のメイは158㎝、頭一つ分違う。
喧騒に近づいてきた辺りで、突然ジョニーが立ち止まった。サングラスの下で目がスッと細められる。
メイも立ち止まり、何事かとジョニーを見遣る。ジョニーが何かを言うのを待っているようだった。
しかし、突然ジョニーの顔は緩み、笑いながら言った。

「あーんだよ、あいつら転んでもみくちゃになってんじゃねーか……しょーがねぇなァ。。 おいメイ、もう戻ってていいぞ」
「……? うん……」

怪訝そうな顔をしたものの、ジョニーがそう言うのならば、といった感じで踵を返すメイ。そしてジョニーは喧騒の中へ入って行った。



ジョニーには見えたのだ。喧騒の中で人の輪ができていたのを。そして、その中には、ディズィーがいた。
それだけで、大体の予想はついた。


「チッ、こんなとこメイが見たらブチ切れて大暴れしかねねェしな……。ここは俺がなんとかするしかねぇか……」



人ごみを掻き分けて喧騒の中心へ辿り着くと、ディズィーを快賊団の女の子達が守るように立っていて、それに詰め寄るように港の人間
が押し寄せていた。双方譲らずに激しく言い争っているが、はっきり言って平行線で、とても決着が着くとは思えない。ディズィーはジ
ョニーの姿を認めると、救いを求めるような目で彼を見た。ジョニーは頷いた。


「あー、あー、ちょっとてめェら聞いてくれ」
「なんなんだあんたは!」
「俺はこの船の責任者だ」

それは静かな声だったが、不思議とよく透った。
周囲がどよめく。帽子、サングラス、服、そしてその手に握られた刀に視線が移る。
群集から一人の男が一歩前に出た。どうやらそいつが港の責任者のようだった。

「あ……、あんたがジョニーか」
「そうだ。 なんなんだ、この騒ぎは?」
「そ、そうだ! おいアンタ、こいつはなんだ?!」

言って男はディズィーを指差した。ディズィーがビクリと身を固くする。

「尻尾が生えてるじゃないか。 人間じゃない、ギアなんだぞ! あんたが戦災孤児を集めてるのは知ってるが、なんでこんな奴が混じ
ってるんだ!」

男の発言に同調するように、人ごみから「そうだそうだ!」「ギアなんか連れてくんな!」等という罵声が飛び交った。中には耳を覆い
たくなるような言葉もあった。男勝ち誇ったように言い放った。

「さあ、ギアを引き渡してくれ!」

ディズィーが俯き、快賊団の女の子達の顔が怒りに朱に染まる。今にも爆発しそうだったが、ジョニーが腕を上げてそれを抑える。

「俺は戦災孤児を集めているわけじゃない、居場所をなくした者に居場所を作ってやっているだけだ。 それはギアだろうと人間だろう
と、関係無い」
「ギアと馴れ合うつもりか? 滅茶苦茶だ! ギアは人間の敵なんだ。 知ってるぞ、アンタの親父だってギアに殺されたんだろう!」
「……なんだと……?」

ジョニーの声に気が篭る。サングラスに隠れて見えないが、しかし男はその視線に射抜かれて一瞬声を失った。

「……っひ」
「ギアが本当に人間の敵なら、俺達と彼女はどうなんだ。 俺達は実際に彼女と一緒にいて、そしてうまくいっている。 何の問題もな
い……彼女は俺達の仲間だ。 何も知らんくせに知ったような口を利くなッ」
「し、しかし……こ、この町の人は、そう思うかどうか……」
「…………」

急にしどろもどろになった男を見て、後ろで様子を見ていた快賊団の雰囲気がようやく緩んできた。そして、

「ジョニーさん……」

ディズィーの目の端には雫が溜まっていた。その言葉は、彼女が生まれてからずっと求めていた言葉だったのだ。
そして、そのお陰で勇気が出た。涙を拭うと、ディズィーは意を決して立ち上がった。


「あ、あのっ……」


視線が一瞬に集まる。怯え、戸惑いながらも、ディズィーは言った。


「私……皆さんに何かをしようという気は全くありませんが、でも、ギアというだけで怯えさせてしまうんです。 それはもう仕方のな
い事……。 だから、私は船で待ってますから、快賊団のみんなは町に行ってて下さい。 私は船でお留守番をしてますから……」
「……ディズィー」


サングラスごしに、ディズィーとジョニーの目が合う。「いいんです」、とディズィーは微笑んだ。
それは、未だ悲しみも湛えてはいたが、しかし納得が済んだ目だった。諦めではなく、納得を。


「……そういう事で、どうにかならねぇか?」

ジョニーが港の責任者の男に向き直って言う。
男も、なんというか、納得はいかないが、これ以上ゴネるとなんだか取り返しのつかない事になりそうに感じたので、

「……やむを得ん」

と呟いた。そして「しかしここにギアがいると町の人間に知れたら、すぐに出て行ってもらうぞ」と付け加えた。




こうして、騒動は双方が妥協する形でひとまず落ち着いた。








    ★    ☆    ★    ☆





騒ぎを片付けて戻ると、メイが頬を膨らませて待っていた。


「ジョーニーおーそーいーよー……」
「おー、わりぃわりぃ」
「あれ、ディズィーは? 下りたら蝶番買いに行くって言ってたのに」
「……あー、あいつならちょっと体調崩して船に残ってるから俺達で買いに行って来ようぜ」
「え? そうなの? ディズィー大丈夫かなぁ……」






    ★    ☆    ★    ☆





夜。


一日行動を共にしたジョニーとメイは、宿をとって休む事にした。


「やったっ! ジョニーと一緒の部屋だーっ!」
「あーうるせぇ……くそっ、部屋さえ空いてれば二部屋取ったんだが……」
「わーいっ!」





    ★    ☆    ★    ☆





「さて、明日も早い事だしそろそろ寝るか……ん?」

ベッドに腰掛けたジョニーが違和感に気付く。

「……何してる、メイ?」
「ぎくっ」

膨らんだ布団の中から声が聞こえた。しかし、そのまま黙り込む。
……しーん。

「…………」
「…………」

しーん。

「…………」
「…………」

しーん。


「何やってんだっつってんだよ!」

がばっ!

「きゃーん! ジョニーのエッチー!」
「えっ、あっ、ええっ!?」

沈黙に耐え切れずにジョニーが布団を捲り上げると、そこには全裸のメイがいた。

「きゃー! えっちーすけっちーわんたっちー!」
「3年たったらモンチッチ……って違うだろオイ!」
「なんでジョニーが怒ってんのよー逆ギレだよー」

一瞬パニックに陥ってしまったジョニーだったが、すぐに冷静に戻った。というのも、メイが意外と普通だったからだ。


…………。


「……ちょっと待て」
「はい、なんでしょう」

ベッドの上に座り、布団で前を隠しながらメイが応える。

「そこは誰のベッドだ?」
「ジョニーのです」
「お前のベッドは?」
「あっちのです」
「お前がいるべき場所は?」
「ここのです」
「なんでだよ!」

なんだかよくわからない空気になりつつジョニーが突っ込む。

「だってー、ジョニーの場所はボクの場所だもんっ」
「『だって』って全然順接になってないじゃねぇか!」
「えー、いいじゃんいいじゃーん! ねぇジョニー、一緒に寝よ♪」

そう言うと、メイががばっとジョニーに抱きついた。

「お、おい……」
「しなだれかかってくるメイを思わず抱きとめたジョニーは、思いのほか柔らかいその肌に思わず……」
「勝手なナレーションを入れんな!」
「でもその手はなんなの?」
「ん? ……あ」

ジョニーは自分がメイを抱き締め返している事に気付いていなかった。

「ジョニーったら、積極的なんだから……♪」
「あ、いや、これはその……」

手は離したものの、バツが悪そうに頭をかくジョニー。視線はちらちらとメイの裸体へ行っている。
メイはここぞとばかりに畳み掛けた。

「ね、ジョニー……、お願い……」
「メ、メイ……」






    ★    ☆    ★    ☆







「……で、なんでわざわざ服着させるの?」
「読者の想像力を膨らませるためだ」
「読者?」
「ま、気にすんな。 俺の趣味でもある」
「やーん、ジョニーったら……」

そう言ってメイは少し頬を朱に染める。”どうでもいい”みたいな反応をされるとそういう事に対して恥ずかしさはあまり感じないのだ
が、こうやって意識されると、逆にとても恥ずかしくなる。


(う、うわー、どうしよ……いざとなると……)


半ばパニックになってジョニーに背中を向けてしまうメイ。心臓に手を当てて落ち着こうと深呼吸をする。


吸ってー、


吐いてー。


吸ってー、


吐いてー。


吸ってー、


吐「メイ?」


激しく咳き込むメイ。ジョニーは不思議そうにそれを見ている。

「メイ?」
「いきなり話し掛けないでよぉっ! もうっ、ジョニーったらっ!」
「……なんかよくわからんが、まあそれじゃ」


ぱくっ、といった感じでメイを抱き締めるジョニー。
メイは、せっかく落ち着けた心臓がまた一気に高鳴るのを感じた。ジョニーからメイを抱き締めたのは初めてだった。

「ジョニー……?」
「咳き込んじまって……酸素が足りないなら、俺が人工呼吸してやるよ」

気障っぽくそう言うと、メイの反応を待たずにジョニーはメイの唇を奪った。


「…………ん」
「……ちゅ……チュッ……」


そのままキスは大人のキスへと変わっていく。子供のような矮躯のメイと普通人に比べて背の高い方であるジョニーとが抱き合うと、メ
イの小ささが一層際立って、まるで幼い子供を抱いているような背徳感をジョニーに感じさせた。


「れろ……むぅ……」
「……ん……ちゅっ……」


これが初めてのキスであるメイは、しかしそうとは思えないほど積極的にジョニーを求めた。
やがて唇をジョニーが離すと、二人の唇をツーっと唾液の線が結んだ。メイが名残惜しそうにジョニーを見上げる。


「もっといい事してやるから……」
「じょにぃ……」






    ★    ☆    ★    ☆




ジョニーの手がメイのベルトを外す。メイはされるがままにぼんやりとそれを見ている。
ベルトを外し終え、足を撫でさすりながらスパッツを脱がせにかかった。
ふくらはぎから太股、外側、内側、マッサージをするように行ったり来たりする。メイは相変わらずぼんやりしていた。内腿で少し指を
立ててみると、メイがピクリと動いた。ジョニーは満足げに、再び愛撫を再開する。

「ふぁ……はぁ……」

いつの間にかメイの唇が開いていた。頬は紅潮し、目は潤んでいる。ジョニーはスパッツを脱がせた。それだけでまたメイは反応した。
そのままワンピースの服も取り去ると、アンダーシャツとショーツだけになる。メイは横を向いた。顔が真っ赤になっているのを自覚し
ていた。


アンダーシャツの上からささやかな双丘に触れると、メイの眉が寄った。そのまま円を描くように撫でてやると、メイは下唇を噛んで声
を必死に抑えた。
その反応を見るのはかわいくて楽しかったが、必死そうな顔を見ているとこのまま焦らすのもかわいそうに思えたので、ジョニーはアン
ダーシャツも脱がしてしまった。これでメイは下着だけになった。


「へ、変かな……?」
「ん?」

メイはスポーツブラをつけていた。胸はまだそんなに膨らんでいないからだったが、メイはその事を気にしているようだった。

「ジョニーも、胸おっきい方が好きだよね……」
「まあな」

ジョニーが正直に応えると、メイは悲しそうな顔をした。

「ごめんね、これからもっとおっきくなるから……」
「ちっちゃいのも嫌いじゃねぇからいいよ」


そう言うと、ジョニーはスポーツブラの中に手を入れた。


「ひゃっ!」
「感度が良ければそれでいい……」
「じょっ……ふぁっ……やぁっ!」


片手で胸をいじりつつ、空いた手で器用にブラを脱がせてしまう。これでメイがつけている衣類はショーツだけとなった。



胸を揉みながら、もう一方の手が遂にメイの秘部に向かった。
ショーツの上からそっと筋を撫でると、既にメイはもう濡れているようだった。


「気持ちいいか?」
「ん……、じょ……ぃ……」


息も絶え絶えに、メイは答える。


「なあメイ」


ジョニーは訊ねた。


「……怖くないのか?」
「……ジョニーなら、いいの」
「……そうか」


メイは子供のような思考をする。わがままで手がつけられない問題児だ。しかし、情熱的で一途でもある。
メイは続ける。


「ボクにはジョニーがいるの。 ボクにはジョニーしかいらないの。 ジョニーならボクはなんでもいいの」
「……メイ」
「ね、だから、離れないでね? ずっと傍にいてね? ボクを嫌いにならないでね?」
「……わかったよ」
「……ジョニー」


メイの瞳から涙が溢れた。それが何故だかメイにはわからなかったが、しかし涙は止まらなかった。
それは、ジョニーを心の底から愛した証だった。それを失う事が恐ろしくて、それで流れた涙だった。



ジョニーがショーツを取り払った。メイの部分が露になる。
指でそこを刺激してみる。

「あぁんっ! ……ふぁっ!」

メイは体を弓なりに逸らせて感じた。その部分はもはやビショビショになっている。



挿入は座位で行う事にした。ジョニーとメイの体格差ならそれが一番いいように思えたからだ。メイを抱いてやれるからだった。


「行くぞ……」
「うん」


ずっ



メイの処女が散った。その証がジョニーの腿を伝って下に垂れたが、メイはあまり痛みを感じなかった。喜びだけだった。
また一滴、涙が頬を伝った。


「痛いのか?」
「ううん……嬉しいだけ……」


そうか、と言ってジョニーはメイにキスをした。なんと言っても直後は痛いだろうというジョニーの配慮だった。


(たばこの匂い……、ボクの匂い……。ボクを拾ってくれたひと。ボクに名前をくれたひと。いちばん大事なひと……)


「ジョニー」
「ん?」
「動いていいよ」
「……ん」
「ボクで気持ち良くなってね」
「……ん」


ジョニーがそっと動き出す。メイはひり付くような痛みを覚えたが、しかし唇を噛み締めて堪えた。
キスをする。唾液の交換をすると溢れた唾液が口の端から顎を伝って結合部へ落ちた。それから、何故かあまり痛みを感じなくなった。


「ちゅっ……ちゅば……」
「っはぁ……はあっ……んぁっ……」


いつしか、メイは自分からも腰を動かしていた。ジョニーの首に手を回し、ジョニーの目を見つめながら、メイは行為に溺れた。



「はぁん!ふぁっ、やあ、ふぁっ!」


「はっ、あっ!んんっ!んあっ!」


淫猥な音が部屋に響いたが、メイの耳にはもはやその音すら聞こえなかった。あるのはただ二人の鼓動と、息遣いだけだった。


「ジョニー気持ちい……?」
「ん?」
「ボクの、中……気持ちい、かなっ?」
「……ああ……」
「……ふぁっ……!? 中で……おっきくっ……!」


そして……二人の距離が狭まっていく。


「じょっ、にぃっ、こわいよっ、何かっ……、ジョニー!」
「大丈夫、俺はここにいるから……メイ、そろそろいくぞっ……」
「じょにぃ……好きっ、だいすきぃっ……!!」
「クッ……!」


どくん!


そしてジョニーは、メイの中で果てた。






    ★    ☆    ★    ☆





そしてまた海の上。相変わらず子供のようなやり取りをしているジョニーとメイの前をディズィーが通りがかった。


「あ、ねえ、メイさん。 あの港町で何かあったんですか?」
「え、え!? な、何にもないよっ! ディズィーがなんでそんな事知ってるのっ!?」
「こ、こらテメェ墓穴掘ってんじゃねェ! あ、いや、なんでもないんだ。 しかしディズィー、なんでそう思ったんだ?」
「あ、別にたいした事じゃないんで……あ、いや。 あの港町を出てから、メイさんが扉を壊す事がなくなったから……」
「「あー。」」

メイとジョニーの声がハモる。

「……?」
「ああ、うん、すっげぇ説教しといたからな、俺」
「そ、そうそう。 ……はぁ。凄かったぁ、ジョニーの説教……」
「ば、ばか……!」
「……???」


そそくさと立ち去る二人を不思議そうに見送るディズィーであった。


「でも……この買い置きの50個の蝶番、どうしよう……」

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ザザー……


ある港町。船乗り達が色々なものが入った大きな箱を担いでせわしなく行き来している。その上では、ウミネコがミャアミャアと鳴きな
がら空を旋回していた。

ある若者が港の桟橋を散歩していた。青い空を見上げて、今日も暑いなあ、と呟く。服をぱたぱたやって服の中に風を送りながら海に目
をやると、波に揺れる水面が強い日差しを反射させて彼の目を灼いた。反射的に目を逸らすと、水平線の向こうにはバベルの塔のように
天高くそそり立つ入道雲。目下は快晴であるが、風向きを考えると明日くらいには雨が来るだろう。そんな事を考える。

と、水平線の上に黒い点のようなものが見えた。

「……ん?」



一隻の見慣れぬ船が港に向かってきていた。







    ★    ☆    ★    ☆




ある船の一室。
一人の男が机に向かってなにやら作業をしていた。黒いズボンに黒いベルト、膝下まである長い丈の黒いコートを裸の上に直接着るとい
う、なんだかよくわからない格好をしている。しかもこれまた黒いサングラスをかけており、机の上に置かれている周囲に長いつばのつ
いた黒い帽子は、もはや疑いようもなく男の物であろう。
時折垂れる前髪をうざったそうに払いながら、熱心に作業を続ける黒い男。なんだか奇妙な図であった。

扉の外でトタトタと誰かが走る音が聞こえて来る。その音は段々近づいてきて、やがて扉が勢いよく開いた。


バキィッ!!

ガスッ! ゴツッ!

「あがッ! いッ!いてェェエ!!??」


少々勢いが良すぎたようで、開いた扉は見事に男の後頭部に激突。男は机と椅子とその他周囲のものを巻き込んで崩れ落ちた。
悶絶する男に向かって、扉を開けた……もとい、蹴破った主が爽やかに言った。


「ジョニーったら、こんなとこで何やってんだよー! 暗いよー。 こんな日陰で遊んでないで、外に出よっ? ねっ、アタシと一緒に
夕陽を見ながら情熱的な一時を過ごそうよっ!」
「うるせぇェっっ!」


額と後頭部を押さえながら、ジョニーが怒鳴った。どうやら後頭部に受けた衝撃でつんのめって机にヘッドバットをかましたらしい。


「やだー、誰も見てないんだからそんな照れなくったってぇ♪」
「違うっつってん……あーテメ、また蝶番ちょうつがいブッ壊しやがったな! 何個目だと思ってんだ!」

過度の力を受けてイビツに変形してしまった金属片を見て、ジョニーが叫んだ。

「えーと……昨日2コ壊したからー、……、26コ目かな?」
「今朝もやったから27個だ! ったく……いっそドアはやめて開き戸にしちまうか……」
「あ、開き戸ってあの西部劇のバーみたいなアレ? いいねっ、そうしよっ!」

手放しで喜んでいる少女には反省する様子が微塵もない。ジョニーはがっくりとうな垂れた。こいつちっとも反省してやがらねぇ……。
少女に説教をするのを諦めて、散乱した机や椅子を元に戻し始めるジョニー。その背中に向かって少女が声をかける。


「ねージョニー、外に行こうよー」
「あー? 外に出ても夕陽は見えねえぜ、まだ10時だ。 つーか俺は今忙しいんだよ、ちょっとあっち行ってろ」

言いながら、ようやく元の配置に戻し終えた(扉以外)ジョニーは再び机に向かった
少女がジョニーの手元を覗き込む。

「何やってるの?」
「見りゃわかるだろ、旗だよ。 快賊旗。 こないだウミネコが突っ込んで破れちまったからな、補修ついでにちょっと改良を加」
「わージョニーったら顔に似合わず家庭的ー! 素敵っ! 尊敬しちゃう惚れ直しちゃうー!」
「テメーは自分で話振っといてほったらかしかい!」

怒鳴るジョニーだが、少女には全く意に介した様子はなく、逆にジョニーにしがみ付いて肩に顔を埋めて離れようとしない。
ジョニーは既に少女に対して何かを諦めているようで、肩をすくめて再び作業に戻った。



そのまましばらくジョニーの作業が続く。彼の器用な針さばきは中々のもので、補修、補強、そしてちょっとした刺繍まで入れてしまっ
た。少女はうっとりとその作業に見とれている。
と、そこへ誰かが部屋の前を通りかかった。扉が壊れているのに気付いて部屋の中を覗き、少女の背中を見つけると、ため息をついて言
った。


「メイさん、またやっちゃったんですね……」
「あっ、ディズィー!」

その場違いに明るい声に、ディズィーは思わず苦笑いを浮かべた。バンダナから伸びる青い髪とリボンを巻いた尻尾を揺らしながら部屋
に入る。

「これで27個目ですよね……」
「うーん、ジョニーの事となるとついつい我を忘れてやっちゃうんだよね……。 ごめんね、また直してくれない?」
「「はぁ……」」

ディズィーとジョニーのため息が重なる。

「ディズィー、悪いが頼む」
「いえ、それは構いませんけど……、でも蝶番、確かあと3つしかありませんよ」
「まあもうすぐ町につくから大丈夫だと思うが……」
「とりあえず後で直しておきますね」
「おう、助かる」
「サンキューッ、ディズィー!」


「「はぁ……」」







    ★    ☆    ★    ☆







船籍不明の船がやって来たという事で港町は騒然となったが、しかしその騒ぎはすぐに収まった。船籍が判明したからだ。
謎の船を確認してすぐ、港からは使いとして船を出した。十分な警戒をしつつその船に接触し、そして身元を確認したのである。


ジョニー快賊団。


義賊として名を馳せており、その組織は、創始者のジョニー以下全て身寄りを失った戦災孤児で構成されている。
中でもジョニーとメイの両名はその筋ではかなり有名で、賞金取りまがいの事をして各地を回っているのである。この地にも何度か訪れ
た事はあった。



「なんでアタシ達だってわかんなかったんだろうね?」
「旗をつけてなかったからだろうな」
「あ、そっか」
「テメーが邪魔すっから遅くなったんだぞ」
「ごめんごめん。 さ、降りよっか! まずは蝶番だねっ!」
「テメー聞いてねぇな……」





    ★    ☆    ★    ☆




ところが、ここで問題が発生した。



ジョニーとメイを先頭に快賊団の面々が船を下りると、各々が思い思いに久々の陸で小休止をとっていた。
しかし、突然船の方が何やら騒がしくなった。

「……ん? なんかあっちの方で騒いでねぇか?」
「うん、そうだね……なんだろ? 行ってみよっか」

ジョニーとメイが並んで歩くと物凄い身長差があった。ジョニーは184cmの長身であり、一方のメイは158㎝、頭一つ分違う。
喧騒に近づいてきた辺りで、突然ジョニーが立ち止まった。サングラスの下で目がスッと細められる。
メイも立ち止まり、何事かとジョニーを見遣る。ジョニーが何かを言うのを待っているようだった。
しかし、突然ジョニーの顔は緩み、笑いながら言った。

「あーんだよ、あいつら転んでもみくちゃになってんじゃねーか……しょーがねぇなァ。。 おいメイ、もう戻ってていいぞ」
「……? うん……」

怪訝そうな顔をしたものの、ジョニーがそう言うのならば、といった感じで踵を返すメイ。そしてジョニーは喧騒の中へ入って行った。



ジョニーには見えたのだ。喧騒の中で人の輪ができていたのを。そして、その中には、ディズィーがいた。
それだけで、大体の予想はついた。


「チッ、こんなとこメイが見たらブチ切れて大暴れしかねねェしな……。ここは俺がなんとかするしかねぇか……」



人ごみを掻き分けて喧騒の中心へ辿り着くと、ディズィーを快賊団の女の子達が守るように立っていて、それに詰め寄るように港の人間
が押し寄せていた。双方譲らずに激しく言い争っているが、はっきり言って平行線で、とても決着が着くとは思えない。ディズィーはジ
ョニーの姿を認めると、救いを求めるような目で彼を見た。ジョニーは頷いた。


「あー、あー、ちょっとてめェら聞いてくれ」
「なんなんだあんたは!」
「俺はこの船の責任者だ」

それは静かな声だったが、不思議とよく透った。
周囲がどよめく。帽子、サングラス、服、そしてその手に握られた刀に視線が移る。
群集から一人の男が一歩前に出た。どうやらそいつが港の責任者のようだった。

「あ……、あんたがジョニーか」
「そうだ。 なんなんだ、この騒ぎは?」
「そ、そうだ! おいアンタ、こいつはなんだ?!」

言って男はディズィーを指差した。ディズィーがビクリと身を固くする。

「尻尾が生えてるじゃないか。 人間じゃない、ギアなんだぞ! あんたが戦災孤児を集めてるのは知ってるが、なんでこんな奴が混じ
ってるんだ!」

男の発言に同調するように、人ごみから「そうだそうだ!」「ギアなんか連れてくんな!」等という罵声が飛び交った。中には耳を覆い
たくなるような言葉もあった。男勝ち誇ったように言い放った。

「さあ、ギアを引き渡してくれ!」

ディズィーが俯き、快賊団の女の子達の顔が怒りに朱に染まる。今にも爆発しそうだったが、ジョニーが腕を上げてそれを抑える。

「俺は戦災孤児を集めているわけじゃない、居場所をなくした者に居場所を作ってやっているだけだ。 それはギアだろうと人間だろう
と、関係無い」
「ギアと馴れ合うつもりか? 滅茶苦茶だ! ギアは人間の敵なんだ。 知ってるぞ、アンタの親父だってギアに殺されたんだろう!」
「……なんだと……?」

ジョニーの声に気が篭る。サングラスに隠れて見えないが、しかし男はその視線に射抜かれて一瞬声を失った。

「……っひ」
「ギアが本当に人間の敵なら、俺達と彼女はどうなんだ。 俺達は実際に彼女と一緒にいて、そしてうまくいっている。 何の問題もな
い……彼女は俺達の仲間だ。 何も知らんくせに知ったような口を利くなッ」
「し、しかし……こ、この町の人は、そう思うかどうか……」
「…………」

急にしどろもどろになった男を見て、後ろで様子を見ていた快賊団の雰囲気がようやく緩んできた。そして、

「ジョニーさん……」

ディズィーの目の端には雫が溜まっていた。その言葉は、彼女が生まれてからずっと求めていた言葉だったのだ。
そして、そのお陰で勇気が出た。涙を拭うと、ディズィーは意を決して立ち上がった。


「あ、あのっ……」


視線が一瞬に集まる。怯え、戸惑いながらも、ディズィーは言った。


「私……皆さんに何かをしようという気は全くありませんが、でも、ギアというだけで怯えさせてしまうんです。 それはもう仕方のな
い事……。 だから、私は船で待ってますから、快賊団のみんなは町に行ってて下さい。 私は船でお留守番をしてますから……」
「……ディズィー」


サングラスごしに、ディズィーとジョニーの目が合う。「いいんです」、とディズィーは微笑んだ。
それは、未だ悲しみも湛えてはいたが、しかし納得が済んだ目だった。諦めではなく、納得を。


「……そういう事で、どうにかならねぇか?」

ジョニーが港の責任者の男に向き直って言う。
男も、なんというか、納得はいかないが、これ以上ゴネるとなんだか取り返しのつかない事になりそうに感じたので、

「……やむを得ん」

と呟いた。そして「しかしここにギアがいると町の人間に知れたら、すぐに出て行ってもらうぞ」と付け加えた。




こうして、騒動は双方が妥協する形でひとまず落ち着いた。








    ★    ☆    ★    ☆





騒ぎを片付けて戻ると、メイが頬を膨らませて待っていた。


「ジョーニーおーそーいーよー……」
「おー、わりぃわりぃ」
「あれ、ディズィーは? 下りたら蝶番買いに行くって言ってたのに」
「……あー、あいつならちょっと体調崩して船に残ってるから俺達で買いに行って来ようぜ」
「え? そうなの? ディズィー大丈夫かなぁ……」






    ★    ☆    ★    ☆





夜。


一日行動を共にしたジョニーとメイは、宿をとって休む事にした。


「やったっ! ジョニーと一緒の部屋だーっ!」
「あーうるせぇ……くそっ、部屋さえ空いてれば二部屋取ったんだが……」
「わーいっ!」





    ★    ☆    ★    ☆





「さて、明日も早い事だしそろそろ寝るか……ん?」

ベッドに腰掛けたジョニーが違和感に気付く。

「……何してる、メイ?」
「ぎくっ」

膨らんだ布団の中から声が聞こえた。しかし、そのまま黙り込む。
……しーん。

「…………」
「…………」

しーん。

「…………」
「…………」

しーん。


「何やってんだっつってんだよ!」

がばっ!

「きゃーん! ジョニーのエッチー!」
「えっ、あっ、ええっ!?」

沈黙に耐え切れずにジョニーが布団を捲り上げると、そこには全裸のメイがいた。

「きゃー! えっちーすけっちーわんたっちー!」
「3年たったらモンチッチ……って違うだろオイ!」
「なんでジョニーが怒ってんのよー逆ギレだよー」

一瞬パニックに陥ってしまったジョニーだったが、すぐに冷静に戻った。というのも、メイが意外と普通だったからだ。


…………。


「……ちょっと待て」
「はい、なんでしょう」

ベッドの上に座り、布団で前を隠しながらメイが応える。

「そこは誰のベッドだ?」
「ジョニーのです」
「お前のベッドは?」
「あっちのです」
「お前がいるべき場所は?」
「ここのです」
「なんでだよ!」

なんだかよくわからない空気になりつつジョニーが突っ込む。

「だってー、ジョニーの場所はアタシの場所だもんっ」
「『だって』って全然順接になってないじゃねぇか!」
「えー、いいじゃんいいじゃーん! ねぇジョニー、一緒に寝よ♪」

そう言うと、メイががばっとジョニーに抱きついた。

「お、おい……」
「しなだれかかってくるメイを思わず抱きとめたジョニーは、思いのほか柔らかいその肌に思わず……」
「勝手なナレーションを入れんな!」
「でもその手はなんなの?」
「ん? ……あ」

ジョニーは自分がメイを抱き締め返している事に気付いていなかった。

「ジョニーったら、積極的なんだから……♪」
「あ、いや、これはその……」

手は離したものの、バツが悪そうに頭をかくジョニー。視線はちらちらとメイの裸体へ行っている。
メイはここぞとばかりに畳み掛けた。

「ね、ジョニー……、お願い……」
「メ、メイ……」






    ★    ☆    ★    ☆







「……で、なんでわざわざ服着させるの?」
「読者の想像力を膨らませるためだ」
「読者?」
「ま、気にすんな。 俺の趣味でもある」
「やーん、ジョニーったら……」

そう言ってメイは少し頬を朱に染める。”どうでもいい”みたいな反応をされるとそういう事に対して恥ずかしさはあまり感じないのだ
が、こうやって意識されると、逆にとても恥ずかしくなる。


(う、うわー、どうしよ……いざとなると……)


半ばパニックになってジョニーに背中を向けてしまうメイ。心臓に手を当てて落ち着こうと深呼吸をする。


吸ってー、


吐いてー。


吸ってー、


吐いてー。


吸ってー、


吐「メイ?」


激しく咳き込むメイ。ジョニーは不思議そうにそれを見ている。

「メイ?」
「いきなり話し掛けないでよぉっ! もうっ、ジョニーったらっ!」
「……なんかよくわからんが、まあそれじゃ」


ぱくっ、といった感じでメイを抱き締めるジョニー。
メイは、せっかく落ち着けた心臓がまた一気に高鳴るのを感じた。ジョニーからメイを抱き締めたのは初めてだった。

「ジョニー……?」
「咳き込んじまって……酸素が足りないなら、俺が人工呼吸してやるよ」

気障っぽくそう言うと、メイの反応を待たずにジョニーはメイの唇を奪った。


「…………ん」
「……ちゅ……チュッ……」


そのままキスは大人のキスへと変わっていく。子供のような矮躯のメイと普通人に比べて背の高い方であるジョニーとが抱き合うと、メ
イの小ささが一層際立って、まるで幼い子供を抱いているような背徳感をジョニーに感じさせた。


「れろ……むぅ……」
「……ん……ちゅっ……」


これが初めてのキスであるメイは、しかしそうとは思えないほど積極的にジョニーを求めた。
やがて唇をジョニーが離すと、二人の唇をツーっと唾液の線が結んだ。メイが名残惜しそうにジョニーを見上げる。


「もっといい事してやるから……」
「じょにぃ……」






    ★    ☆    ★    ☆




ジョニーの手がメイのベルトを外す。メイはされるがままにぼんやりとそれを見ている。
ベルトを外し終え、足を撫でさすりながらスパッツを脱がせにかかった。
ふくらはぎから太股、外側、内側、マッサージをするように行ったり来たりする。メイは相変わらずぼんやりしていた。内腿で少し指を
立ててみると、メイがピクリと動いた。ジョニーは満足げに、再び愛撫を再開する。

「ふぁ……はぁ……」

いつの間にかメイの唇が開いていた。頬は紅潮し、目は潤んでいる。ジョニーはスパッツを脱がせた。それだけでまたメイは反応した。
そのままワンピースの服も取り去ると、アンダーシャツとショーツだけになる。メイは横を向いた。顔が真っ赤になっているのを自覚し
ていた。


アンダーシャツの上からささやかな双丘に触れると、メイの眉が寄った。そのまま円を描くように撫でてやると、メイは下唇を噛んで声
を必死に抑えた。
その反応を見るのはかわいくて楽しかったが、必死そうな顔を見ているとこのまま焦らすのもかわいそうに思えたので、ジョニーはアン
ダーシャツも脱がしてしまった。これでメイは下着だけになった。


「へ、変かな……?」
「ん?」

メイはスポーツブラをつけていた。胸はまだそんなに膨らんでいないからだったが、メイはその事を気にしているようだった。

「ジョニーも、胸おっきい方が好きだよね……」
「まあな」

ジョニーが正直に応えると、メイは悲しそうな顔をした。

「ごめんね、これからもっとおっきくなるから……」
「ちっちゃいのも嫌いじゃねぇからいいよ」


そう言うと、ジョニーはスポーツブラの中に手を入れた。


「ひゃっ!」
「感度が良ければそれでいい……」
「じょっ……ふぁっ……やぁっ!」


片手で胸をいじりつつ、空いた手で器用にブラを脱がせてしまう。これでメイがつけている衣類はショーツだけとなった。



胸を揉みながら、もう一方の手が遂にメイの秘部に向かった。
ショーツの上からそっと筋を撫でると、既にメイはもう濡れているようだった。


「気持ちいいか?」
「ん……、じょ……ぃ……」


息も絶え絶えに、メイは答える。


「なあメイ」


ジョニーは訊ねた。


「……怖くないのか?」
「……ジョニーなら、いいの」
「……そうか」


メイは子供のような思考をする。わがままで手がつけられない問題児だ。しかし、情熱的で一途でもある。
メイは続ける。


「アタシにはジョニーがいるの。 アタシにはジョニーしかいらないの。 ジョニーならアタシはなんでもいいの」
「……メイ」
「ね、だから、離れないでね? ずっと傍にいてね? アタシを嫌いにならないでね?」
「……わかったよ」
「……ジョニー」


メイの瞳から涙が溢れた。それが何故だかメイにはわからなかったが、しかし涙は止まらなかった。
それは、ジョニーを心の底から愛した証だった。それを失う事が恐ろしくて、それで流れた涙だった。



ジョニーがショーツを取り払った。メイの部分が露になる。
指でそこを刺激してみる。

「あぁんっ! ……ふぁっ!」

メイは体を弓なりに逸らせて感じた。その部分はもはやビショビショになっている。



挿入は座位で行う事にした。ジョニーとメイの体格差ならそれが一番いいように思えたからだ。メイを抱いてやれるからだった。


「行くぞ……」
「うん」


ずっ



メイの処女が散った。その証がジョニーの腿を伝って下に垂れたが、メイはあまり痛みを感じなかった。喜びだけだった。
また一滴、涙が頬を伝った。


「痛いのか?」
「ううん……嬉しいだけ……」


そうか、と言ってジョニーはメイにキスをした。なんと言っても直後は痛いだろうというジョニーの配慮だった。


(たばこの匂い……、ジョニーの匂い……。アタシを拾ってくれたひと。アタシに名前をくれたひと。いちばん大事なひと……)


「ジョニー」
「ん?」
「動いていいよ」
「……ん」
「アタシで気持ち良くなってね」
「……ん」


ジョニーがそっと動き出す。メイはひり付くような痛みを覚えたが、しかし唇を噛み締めて堪えた。
キスをする。唾液の交換をすると溢れた唾液が口の端から顎を伝って結合部へ落ちた。それから、何故かあまり痛みを感じなくなった。


「ちゅっ……ちゅば……」
「っはぁ……はあっ……んぁっ……」


いつしか、メイは自分からも腰を動かしていた。ジョニーの首に手を回し、ジョニーの目を見つめながら、メイは行為に溺れた。



「はぁん!ふぁっ、やあ、ふぁっ!」


「はっ、あっ!んんっ!んあっ!」


淫猥な音が部屋に響いたが、メイの耳にはもはやその音すら聞こえなかった。あるのはただ二人の鼓動と、息遣いだけだった。


「ジョニー気持ちい……?」
「ん?」
「アタシの、中……気持ちい、かなっ?」
「……ああ……」
「……ふぁっ……!? 中で……おっきくっ……!」


そして……二人の距離が狭まっていく。


「じょっ、にぃっ、こわいよっ、何かっ……、ジョニー!」
「大丈夫、俺はここにいるから……メイ、そろそろいくぞっ……」
「じょにぃ……好きっ、だいすきぃっ……!!」
「クッ……!」


どくん!


そしてジョニーは、メイの中で果てた。






    ★    ☆    ★    ☆





そしてまた海の上。相変わらず子供のようなやり取りをしているジョニーとメイの前をディズィーが通りがかった。


「あ、ねえ、メイさん。 あの港町で何かあったんですか?」
「え、え!? な、何にもないよっ! ディズィーがなんでそんな事知ってるのっ!?」
「こ、こらテメェ墓穴掘ってんじゃねェ! あ、いや、なんでもないんだ。 しかしディズィー、なんでそう思ったんだ?」
「あ、別にたいした事じゃないんで……あ、いや。 あの港町を出てから、メイさんが扉を壊す事がなくなったから……」
「「あー。」」

メイとジョニーの声がハモる。

「……?」
「ああ、うん、すっげぇ説教しといたからな、俺」
「そ、そうそう。 ……はぁ。凄かったぁ、ジョニーの説教……」
「ば、ばか……!」
「……???」


そそくさと立ち去る二人を不思議そうに見送るディズィーであった。


「でも……この買い置きの50個の蝶番、どうしよう……」









fin



    ★    ☆    ★    ☆


2004年10月3日、14:56:40


 ジョニー率いるジェリーフィッシュ快賊団は、温泉へ慰安旅行に来ていた。
 商店街のおじさんおばさんじゃあるまいし、と思われるかもしれないが、この旅行、実は皆かなり楽しみにしている。
 何しろ快賊団のメンバーはジョニー以外うら若き女性である。全員お風呂は大好きだ。
 まして普段は、船の上という都合上、節約しながらシャワーを浴びるのが精一杯なのだから、手足を伸ばして思うさま湯船につかることの出来る「温泉」は最高に贅沢なのだった。

 メイは有頂天だった。
 ジョニーを誘い出して、二人で散歩することに成功したのだ。
 温泉街には浴衣が似合う。
 風呂上りに、宿屋の屋号の染め抜かれたひらひらの風変わりな衣装を、おそろいで身に着けて、硫黄の匂いの立ち込める温泉街をそぞろ歩く。
 それだけで、空も飛べるんじゃないかと思うほど、彼女は幸せだった。
 ちらりとジョニーを横目で見遣る。
 いつものコート姿も最高だけど、浴衣姿もたまらなくかっこいい。
 胸元を広めに開けて、だらしなさの一歩手前で止めるその着こなしのセンス。
 長い裾も履き慣れない下駄も、彼の優雅な足捌きを妨げることはない。
 からころという足音は、天上の音楽にも似ている。
 洗い髪というのも色っぽい。いつもはびしっと固められている髪だが、今日は無造作にかきあげただけ。ほんのりと湿り気を帯び、前髪がはらりと額にたれかかっている。
 かっこいい。
 かっこいい、かっこいい、かあっっこいいいいい!
 メイはぐっと、両手で握りこぶしを作った。
「どうした?」
「ううん! なんでもっ!」
 自分を覗き込むその顔に、またときめく。
 土産物屋の店先のガラスに、二人の姿が映った。
 メイは素早く自分の見栄えをチェックする。
 浴衣は、リープに着付けてもらった。
 この衣装は胸腰の無さが目立ってしまうのが欠点だが、その分清楚な色気がある、と思う。
 いつものポニーテールではなく、洗い髪を結って、襟足を見せている。
 後れ毛が細いうなじに幾筋か落ちている。
 上気した頬。
 袖、裾から覗く、手首足首が、何とも華奢で儚げで、いい感じではないか。
「『日本』の文化ってすごい!」
 思わず声に出してしまった。
「ん?」
「ううん、なんでも!」
「そればっかりだな、お前さんは」
 ジョニーは微苦笑した。
 その表情にまたときめく。
 (筆者注:いい加減しつこい。)
 とにかく、今日の二人は一味違うのだ。
 いつもは全然相手にしてもらえないけど、今日なら、もしかしてあるいはひょっとして、大きく一歩前進出来たりしちゃうかもしれないのだ!
(がんばるぞ-! え-と、こうして歩いててもアレだから、ううん、ボクは全然構わないけど、でもデートのセオリーとして、まずは、お茶に誘って・・・)
 メイが心の中で一生懸命手順をイメージトレーニングしていると。
 ふ、っとジョニーが動いた。
 あれっと思う間もなく、背中にかばわれる。
「本家! ミストファイナー!」
 常に手放さない仕込刀が、一閃した。
 ひゅんっと音がしたかと思うと。
「―――――あああああ!」
 空から何かが落ちてきた。
 落ちてきた物体は、ミストファイナーにはじかれて、またすっ飛ぶ。
 土産物屋に激突する! と思った瞬間、その物体はくるりと回転した。
 受身だ。
 物体は、人間だった。それも3人。どの顔にも見覚えがある。
「あー、ひっでえ目にあった」
「やれやれだぜ」
「貴様のせいだからな! ソル!」
 アクセル、ソル、カイ・・・。
 メイは言葉を失い、ただぽかんと見つめるばかりだ。
「なんだ、お前ら」
「おや、ジョニーさんじゃねえか。こんなとこで出くわすとは、奇遇だね」
「空からいきなり降ってくるってのは、奇遇以上なんじゃないか?」
「これには色々と事情があってね~」
 アクセルは意味ありげに笑って、ソルとカイの方を見遣った。
 ソルはいつも通りの表情。カイはあからさまにげっそりしている。
「ね、旦那」
「風呂覗いたら吹っ飛ばされた」
「覗き! ちちち、そりゃちょっとダサいぜ。女性の体に興味を持つのは健全といやあ健全だが、人として最低限のマナーはわきまえないとな」
「興味があったのは、体じゃないんだけどね」
「なんだぁそりゃ。―そういや、一体誰なんだ? お前さんたちを3人まとめてふっ飛ばすようなグレイトな女性は」
「髪長女」
「ミリアだよ」
 ミリア・・・。メイの脳裏にぽんと画像が浮かんでくる。
 長い(長過ぎるが)綺麗な金髪の、オトナの女性・・・。
「なるほど! そりゃグレイトなはずだぜ」
 ジョニーは髪をかきあげて笑った。
 メイはだんだん不機嫌になってきた。
 せっかくふたりっきりだったのに、お邪魔虫は降ってくるは、他の女の名前は出るは、ジョニーはさっきからちっともこっちを見てくれないは、最低なことだらけだ。
「・・・ジョニー」
 つんつん、と袖を引っ張る。
「ん? ああ」
 ジョニーはようやく気がついた。
「散歩の途中だったな」
「そうだよ!」
「じゃそういうことだから、俺達はこの辺で・・・」
「あああ! 私はどうしたらいいんだ!」
 去ろうとするジョニーのセリフをさえぎって、カイが吠えた。
 さっきからずっと大人しかったのは、ひとり自責の念にかられていた為らしい。
「みんなの笑顔を守りたくて、正義のために働いてきたのに! それなのにこんなことをして、どうしたら償えるんだろうか! ああ、私は、私はあああ!」
 真面目なやつほど切れると怖い。いやこの場合、真面目なヤツはキレ方も真面目ということだろうか。
 周囲の目が一斉に注がれる・・・と思いきや、それまで遠巻きに「空からの物体Xズ」を見守っていたギャラリーは、とうとう目を伏せてそそくさと立ち去り出した。
「おいおい、ハンサムボーイ、そいつはあまりにクレイジーだぜ」
 ジョニーが苦笑いする。
 メイは、ものすごくいやな予感がした。
「ジョニ・・・」
「わかった、わかった。ここでぶつかったのも何かの縁だ。俺がなんとかとりなしてやる。だからちったあ落ち着きな」
 決定的な一言を、ジョニーは吐いてしまった。
「ジョニー!」
「・・・取り成し・・・?」
 カイがぼんやりと顔を上げる。
「そうさ、このジョニー様が一緒に行って謝ってやる。どんなレディーも俺に任せておけばイチコロさ」
「ジョニー! 散歩は? デートはどうなるの?」
 別にデートだと思っていたのはメイひとりなのだが、この際そんな些細なことには頭を回していられない。
「悪いな、メイ。そういうわけだから、お前さん先に帰ってな」
 ジョニーはぽんぽんとメイの頭に手を乗せた。
「だって、だってジョニー・・・」
「あ、それと、他のやつにも伝えて、先に飯食って寝ててくれ」
 もはやメイの抗議には耳を傾けず、カイを促して立ち去ろうとするジョニー。
「俺は、もしかしたら今夜帰らないかもしれないから」
 ぷちっとメイの堪忍袋の緒が切れた。
「ジョニーのバカ! 大っ嫌い!」
 叫びながら、「究極のだだっ子」をかます。
 ぼこぼこぼこっとジョニーに殴りかかる。
 当然、ジョニーはよけるなり、防ぐなりするだろうと思っていた。ところが。
「!」
 彼はただ、黙って殴られた。
 手に直接伝わる肉と骨の感触に、ぎょっとして、メイは攻撃を止める。
「あ・・・」
 自分で自分の手を押さえた。小刻みに震えている。
「ジョ・・・」
「いい子だから、先に帰れ、な?」
 こんなときでも、ジョニーの表情は優しい。
 その顔がかすんでいく。
「ジョニーの、ばかぁ・・・!」
 メイの目から涙がこぼれた。
 それを振りきるように、彼女は走り去る。
「あ・・・」
 カイがおろおろとジョニーとメイを交互に見遣る。
「いいんだよ、気にするこたあない。あいつはああ見えてけっこう大人なんだ」
 ジョニーはぽんぽんとカイの腕を叩いた。行こう、という意思表示だ。
 ソルがぼそりとつぶやいた。
「子供のやせ我慢だろ?」

 今日の月は満月だ。
 メイは窓辺に腰掛けて、青い光を放つ真円を見上げていた。
 同室に泊まっているエイプリル達はすでに寝入っている。
 静寂の中、聞こえてくるのは微かな虫の声・・・。
 ずいぶん長いこと、メイはそうしていたが、やがてなにかを決心したかのようにうなずくと、足音を忍ばせて部屋を出た。
 廊下は、思ったより明るい。
 メイはジョニーの部屋へ向かった。
 言葉通り、帰っていないかもしれない。夕食のときも姿を見かけなかったし。
 でも、行かずにはいられなかった。
 じっと待っているのはもう沢山だ。
 ドアの前にたどり着く。息を止めて、耳を澄ます。
 気配は感じられない。
 ノブに手をかけると、回る。
 そっとドアを開けた。
「ジョニー・・・?」
「・・・ん?」
 彼はそこにいた。
 窓際に布団を敷き、その上に身を起こして、先ほどまでのメイと同じように月を眺めていた。
 青白い光が、サングラスを外した彼の素顔を照らしている。
「どうした? そんなとこに立ってないで、入ってこいよ」
 メイはおずおずと言葉に従った。ジョニーから2メートルくらい離れたところで立ち止まる。
「あの・・・その・・・ええと・・・」
 言葉を捜すが、うまく見つけられない。
 ええい。
 メイは、とにかく深深と頭を下げた。
「ごめんなさい」
「・・・いんや、俺のほうこそ」
 いつも通りの、ゆとりのある声にメイの表情がぱっと明るくなる。
「ごめんなさい! ほんとにごめんね・・・痛くなかった?」
「はは、こう言っちゃなんだが、この俺様にダメージを与えるにゃ、お前さんまだまだ修行が足りないね」
「・・・もう」
 ぺたり、とメイは座りこんだ。なんだか気が抜けた。
「いつ、戻ってきたの?」
「ついさっきだ。・・・それがよ、笑っちまうことに、あの坊やたちときたら、ミリアの泊まってる宿屋を知らないんだぜ。探すのにずいぶん手間取っちまった」
「そう・・・なんだ」
「それで、結局たどり着いたのがどこだと思う?」
「?」
「ここだよ、しかもこの階の並びの部屋」
「え! うそ」
「ほんとさ。お前さんに嘘言ってどうする」
「やだ・・・なんかそれって・・・おかしいの」
 メイはくすくすと笑い出した。
 ジョニーもくつくつと笑う。
 ひとしきり笑った後で、
「さて、そろそろ寝たほうがいいんじゃないかな? 明日は早くにここを発つんだから」
 ジョニーが促した。
「うん・・・」
 けれど、なんだか立ち去りがたい。メイは思い切って言ってみた。
「ここで寝ちゃ、駄目?」
「・・・うーん」
 ジョニーはしばらく考える振りをした。
「他のみんなには、ナイショだぜ」
「うん!」
 親鳥が羽根を広げる様に、かけ布団をめくってメイが入る場所を作ってくれる。
 嬉々としてそこに潜りこんだ。
 ジョニーの布団は、ジョニーの匂いがする。
 ぬくもりが、いつの間にか冷えていた手足に心地よい。
「昔みたい」
「そうだな」
 やっぱりボクはこの人のこと大好きだ。
 息を大きく吸いこんで、肺をジョニーの匂いで満たしながら、メイはしみじみと思った。

 と、ここで終わればこのお話は美しいのだが。
 そうは問屋がおろさない。温泉街には魔物が棲む。

 っどおおおおおおおん!
 響き渡る大音声。
「きゃ!?」
「何だ?!」
 突き上げるような振動。
「地震?」
「いや・・・まさか!」
 ジョニーが素早くメイを引き寄せる。
 そのとき、はっきりとその声が聞こえてきた。
「だから! 気になるなら気になるで! 素直に聞けって言ったでしょうが!」
「ごめんよ~ミリアぁ。だって旦那がさあ、どうしても直接確かめたいって」
「部屋に入られたぐらいでがたがた騒ぐな」
「・・・この!」
 がごんがごんがごんと音がする。
「・・・ありゃ、エメラルドレインだな。やっこさん相当キてるらしい」
「・・・うううううううう」
 メイはすっくと立ちあがった。
 廊下へ駆け出す。
 アイアンセイバーに追い掛け回されているアクセルと目があった。
「ありゃ、お嬢ちゃんまた会ったね。いや、旦那がさ、『寝てるときにどんな髪型してるか気になる』って言い出して・・・」
 どこまでも明るい。「C調男」とジョニーなら評するだろう。
 しかし、怒り心頭のメイには、そんな事もどんなことも、ものみなすべて腹立たしい。
「人のー恋路をー邪魔する奴はああああ!」
 小さい体のどこからそんな、というほどのオーラを立ち上らせ、メイは叫んだ。
「山田さんに蹴られて死んじまえええ!!!」
 どーん。
 どこからか波とともに巨大なピンクの鯨が現れた。
 その旅館のそのフロアは、綺麗さっぱり押し流された。

 ・・・その後、「鯨も泳ぐ戦国風呂のある旅館」として有名になったかどうかは定かではない。

「ぶわっくしょん!」
 盛大なくしゃみを一つして、アクセルは鼻をすすった。
「いやー。やっぱり季節外れの海水浴は体にこたえるね」
「乾かしてやろうか」
「いや、遠慮」
 封炎剣に手をかけるソルを押し止める。
「・・・」
 ミリアはこれ以上はないというほど不機嫌な様子だった。
 宿屋から追い出され、寒空に投げ出されたこの状況で上機嫌だったら、それはそれで少しおかしいが。
「責任をとって、とは言わないけれど、もう少し私を刺激しないような態度をとってくれないかしら?」
「しょーがねえ、団長のところでも乗りこみますかあ。泊まってるとこは調べがついてんだ。やっこさんミリアには負い目があるから、強引にねじ込めば今夜寝るところくらいはどうにかなるでしょ」
「お前悪党だな」
「・・・どうでもいいわよ、もう」
 ミリアは脱力した。

「それじゃ、河岸を変えて『第3弾』に続く!」
「続くのか」

<完?>

あとがき
 1話目とは打って変わり、ギャグ色の薄い2話目でしたが、いかがでしょうか?
 メイ×ジョニーです。これは、オフィシャルみたいなもんですから、断り無しでやっても大丈夫でしょう、と思って書いちゃいました。
 ジョニー・・・あのグレイトっぷりは私の拙い筆ではどうにもこうにも表現できませんで、結局なにやら普通の人のようになってしまいました。今後の課題ですね。
 しかも、どーも私の書くメイとジョニーはかなりラブラブな様です。それはそれでいいのかな。いいことにしましょう。
 では、また。
 もしかして続くといっておきながら続かないかもしれませんが、機会があったらお会いしましょう。
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