ディズィーを追い詰めてしまった罪悪感……そしてディズィーへの贖罪がイノ
への裏切りなっていることへの後ろめたさ………メイは追い詰められる………
「今日はイノさんとデートなんですね?」
「え?………うん……」
急に話を振られて驚いた。なぜならディズィーがイノの話を持ち出すなど今まで
一度もなかったから………
『今日は、きっと楽しくなりますよ………デート』
まるで確信めいた言い方をするディズィーを不審に思いながら、メイは出かけた。
「ふふ………楽しんでくださいね……メイさん………」
一人部屋に残ったディズィーは、そう呟くと電話をとった…………
「………………………………………?」
イノの異変に気が付いたのはすぐだった………いつもと比べ極端に口数が少ない。
それに加え顔色も優れないようだ。
「具合……悪いの?」
「………………別に……」
終始この調子だった、ディズィーに押し倒されたということが辛い事実であっても
イノとのデートはそれを忘れさせてくれた。イノとのデートが息苦しいと思った
のは初めてだった。
「ボク………なにか……した?」
あまりのイノの様子にメイが切り出す。
「……………………………………」
イノは黙ったままだ。メイと視線を合わそうとすらしない…………
気まずい雰囲気が流れる。
「イノさん………その何があったか分からないけど、いつでも相談に乗ります
から………また電話下さい………」
時間になったので、そう告げ、後にする…………
「…………白々しい……………」
「え?」
その言葉に歩を止め、振り返る…………
「………今日、あたしの携帯に電話があったわ…………ディズィーってコから……」
イノは続ける………
「そのコ………あなたとしたんですって…………エッチ………」
メイは思考が停止した。なんでディズィーが……どうして………顔は青ざめ、
狼狽する。
「その様子だと、ホントなんだ…………ウソだと思ってたのにな…………」
帽子で隠されイノの表情を推し量ることは出来ない………だが口調から
悲しさを伺い知ることは出来た……………
「ち、違うんです!」
「あたしのこと分かってくれていると思ってたのにな……………」
メイの弁解も、今のイノへは届きそうも無い……
「あのディズィーってコ、カワイイ声してたし、やっぱり年増のあたしなんかじゃ
だめか………………」
メイの心を罪悪感が覆う……裏切ってしまった、傷つけてしまった………
心底自分のことを最低だと思った。
そして、罪悪感により何も応えることの出来ないメイに対し、イノは言い放った。
「別れましょう………………………」
イノには、メイの顔が絶望に歪むのが分かった………だが
「………浮気した人を好きでいられる自身が無いわ………後でお互い傷つくだけなら
もう………今なら傷も少なくて済むわ……」
『何が起こっているの?』
メイには理解できないでいた。………恋人に全てを知られ、それにより別れを告げられる。
全て夢だと思いたかった………『別れたくない』『イノさんを引き止めたい』
そう頭で思っていても、言葉が出ない。
そして、メイは聞いてしまう……………残酷な現実を
「ありがとう、短かったけど楽しかったよ……………………さよなら
メイシップ………………
「あっ、お帰りなさい……デートどうでした?」
「………………………………どうして………?」
悪びれることも無く、問うディズィーに対しメイは問い詰める…………
「あら、だって恋人同士に、隠し事は駄目じゃないですか………だから気を
利かせたんです」
そう言い放つディズィーからは罪悪感も何も感じられない………むしろ
メイの反応を愉しんでいるようだ…………
「……………ひどい………………」
全てを失い、心も体もボロボロのメイは、涙を浮かべる………………
「酷いのはあの人ですよ……………一回の浮気位で………私なら……私なら
メイさんを幸せにしてあげられます……だから!」
ディズィーはそう言うと、メイをおもいきり抱きしめた。
歪んだ愛情とはいえ、メイに受け入れることが出来たなら、話は違って
いたのかもしれない……………
「………………………もう、イヤ…………離して!!」
どうしても受け入れることが出来なかった……メイはディズィーを
突き飛ばした…………
「なんで!なんでなの!?…………どうして酷いことするの!?………
嬉しくないよ!………ディズィーはボクから幸せを奪っただけじゃない!!
それで好きだなんて言わないで!!」
そう言い放つと、メイは部屋から飛び出した………
「…………………………………ふふ………あはははははははは」
メイから別離とも言える言葉を投げかけられたディズィーは急に笑いだした。
「……やっぱり、やっぱり私じゃ駄目だったんだ………あはは………馬鹿
みたい、結局メイさんを傷つけただけなんて………」
ディズィーは自分が滑稽でならなかった。それと同時に最低だと思った……
最愛の人をもっとも卑劣な手で傷つけてしまったのだから………
「……ねぇ…ネクロ、ウンディーネ………笑ってよ……馬鹿な私を笑って?
………お願い………………」
そう言い放つディズィーの視界が涙で歪む………………
「…………ゴメンナサイ…………ゴメンナサイ………メイさん」
ディズィーには、もう謝ることしか出来なかった…………
イノは自分の気持ちが吹っ切れていない事にイラついていた………
それと同時にメイとの思い出が、溢れて辛かった。
「…………メイ……」
イノはそう呟くと、メイと一緒に撮った写真を見やった………
『愛しい…………………』
それしか浮かばなかった。だからこそ辛かった………メイが自分を差し置いて
他の子とエッチをしてしまったという事実が。
「……ずるいよ…他の子としちゃうなんて……………」
イノの目には涙が浮かんでいる……自分から別れを切り出したとはいえ、あまりに
辛すぎる別れだった。
メイの笑顔が見たい・笑い声が聞きたい………もう一度会いたい…………
ただ純粋にそう思った。
「!?」
その時イノの携帯が鳴り出した、感傷に浸っていたイノはすこぶる驚き、
掛かってきた番号を見る………………表情が凍りついた………
今一番見たくなかった番号……決して忘れることのできない番号…………
電話はディズィーからだった……………………
「今さら、何の用?」
ぶっきらぼうにディズィーに尋ねる。
二人は今メイシップの甲板で向かい合っている、イノは正直ディズィーに
会いたくなかった。自分から幸せを奪った女………おそらく呼び出した
用件によっては『この女を殺してしまう』とまで思っていた。
すっかり日は落ち、二人を照らすのは月の光だ…………心なしかディズィーの
表情がかげっているのは気のせいか。
「………………駄目なんです………私じゃ…………………」
黒い感情を胸にやってきたイノは耳を疑った……イヤ正確にいえば何を言ったのか
理解出来なかった、といった方が正しいのかもしれない。
頭の整理がおぼつかないイノを尻目にディズィーは続ける………
「………傷つけちゃったんです……………好きだったのに…………もう……
私じゃ駄目なんです………イノさんでなければ……」
イノがメイの事だと気が付くのに、そう時間は掛からなかった。それと同時に
黒い感情が涌き出る。
「結局自分じゃ駄目だから、あたしに押し付けるってワケ?」
「ち・違いま………」
甲板に乾いた音が鳴った………ディズィーが弁解をする間を与えず、イノは
彼女の頬を叩いた。
「ふざけないで!!あなたがあたし達に何をしたか分かってるの!?……
その上都合が悪くなったら、押し付けるの!?」
イノの心の底にたまった感情があふれ出る………だが
「………………ゴメンナサイ………ゴメンナサイ……」
そう呟き、うな垂れるディズィーを見たとたん、イノを支配していた黒い感情
が収まる………理由を聞かれたらこう答えただろう。
『昔のあたしとそっくりの目をしていたから』………と
「……………ごめんなさい、手荒なことして」
素直に出た言葉だった。
「……いいえ………それだけの事しましたから…………メイさんのこと
お願いします……………」
自分が叩かれたことなど、二の次にディズィーはメイのことを懇願する
「………分かったわ」
そのディズィーの態度に動かされたのかイノはディズィーの願いを聞き入れた。
「…………あたし達、もっと違う形で会ってたなら……友達になれたかもね……」
イノはそう言うと、その場を後にしメイの部屋へと向かった……
………とは言ったものの、イノはメイの部屋で自問自答していた。
『どうしよう…………』と
すっかり夜もふけ、メイは寝床の中で寝息を立てている。寝顔がおさない……
「可愛いな………………って違う違う……どうしよう」
イノはこの状態での自分の身の振り方に悩まされていた。メイの部屋まで来た
はいい………問題は夜明けまで自分はどうしたらいいのか?ということだ、
メイを起こそうか?………駄目だ、そんなこととても出来ない。
本でも読もうか?…………あたし、本は苦手だ……
音楽でも聴いていようか?……メイが起きちゃう………
数多の方法が思い浮かんでは消えていく…………そしてイノは一つの結論に達した。
「…………………………………寝よ」
―夜明け―
「…………う………ん」
いつもより早く目を覚ましてしまった。………………あんなことがあったせいだ。
イノから別れを告げられ、ディズィーに別れを告げる……最悪の一日だった。
目が覚めたら全てが夢であってほしかった………
だが現実は厳しい……メイは思い知った、昨日のことは夢などではなく全て現実
だったのだと。
辛い現実に耐えられず涙を浮かべたとき、メイはやけにベットが狭苦しいことに
気が付いた。原因を探るため寝返って後ろを向く。
「…………え?」
そこには見慣れた姿があった。もしもこの『見慣れた姿』がクルーの誰かだった
ならメイはここまで驚かなかっただろう。だがベットで寝ていたのは紛れも無く
イノ本人であった。
(え?え?なんで?どうして!?………?)
混乱した、何故イノが自分のベットに眠っているのだろうか?昨晩の記憶………
確かに一人で寝床に入った。にもかかわらず起きたら寝床に一人増えている、
しかも相手はほんの数時間前、別れを告げられたばかりの恋人…………
混乱するなという方が無理である。
「……痛!」
頬をツネル……夢じゃない。
「夢じゃないんだ……………イノさん……」
やけに胸が高まる、別れたといってもお互い納得しないままの別れであったし、
なによりもメイはイノの事が好きだ。良からぬ思いが胸をよぎる。
『………ってそんなこと出来るわけ無いじゃない!!ボクの馬鹿馬鹿!!……
けどイノさんの寝顔って可愛いな……』
への裏切りなっていることへの後ろめたさ………メイは追い詰められる………
「今日はイノさんとデートなんですね?」
「え?………うん……」
急に話を振られて驚いた。なぜならディズィーがイノの話を持ち出すなど今まで
一度もなかったから………
『今日は、きっと楽しくなりますよ………デート』
まるで確信めいた言い方をするディズィーを不審に思いながら、メイは出かけた。
「ふふ………楽しんでくださいね……メイさん………」
一人部屋に残ったディズィーは、そう呟くと電話をとった…………
「………………………………………?」
イノの異変に気が付いたのはすぐだった………いつもと比べ極端に口数が少ない。
それに加え顔色も優れないようだ。
「具合……悪いの?」
「………………別に……」
終始この調子だった、ディズィーに押し倒されたということが辛い事実であっても
イノとのデートはそれを忘れさせてくれた。イノとのデートが息苦しいと思った
のは初めてだった。
「ボク………なにか……した?」
あまりのイノの様子にメイが切り出す。
「……………………………………」
イノは黙ったままだ。メイと視線を合わそうとすらしない…………
気まずい雰囲気が流れる。
「イノさん………その何があったか分からないけど、いつでも相談に乗ります
から………また電話下さい………」
時間になったので、そう告げ、後にする…………
「…………白々しい……………」
「え?」
その言葉に歩を止め、振り返る…………
「………今日、あたしの携帯に電話があったわ…………ディズィーってコから……」
イノは続ける………
「そのコ………あなたとしたんですって…………エッチ………」
メイは思考が停止した。なんでディズィーが……どうして………顔は青ざめ、
狼狽する。
「その様子だと、ホントなんだ…………ウソだと思ってたのにな…………」
帽子で隠されイノの表情を推し量ることは出来ない………だが口調から
悲しさを伺い知ることは出来た……………
「ち、違うんです!」
「あたしのこと分かってくれていると思ってたのにな……………」
メイの弁解も、今のイノへは届きそうも無い……
「あのディズィーってコ、カワイイ声してたし、やっぱり年増のあたしなんかじゃ
だめか………………」
メイの心を罪悪感が覆う……裏切ってしまった、傷つけてしまった………
心底自分のことを最低だと思った。
そして、罪悪感により何も応えることの出来ないメイに対し、イノは言い放った。
「別れましょう………………………」
イノには、メイの顔が絶望に歪むのが分かった………だが
「………浮気した人を好きでいられる自身が無いわ………後でお互い傷つくだけなら
もう………今なら傷も少なくて済むわ……」
『何が起こっているの?』
メイには理解できないでいた。………恋人に全てを知られ、それにより別れを告げられる。
全て夢だと思いたかった………『別れたくない』『イノさんを引き止めたい』
そう頭で思っていても、言葉が出ない。
そして、メイは聞いてしまう……………残酷な現実を
「ありがとう、短かったけど楽しかったよ……………………さよなら
メイシップ………………
「あっ、お帰りなさい……デートどうでした?」
「………………………………どうして………?」
悪びれることも無く、問うディズィーに対しメイは問い詰める…………
「あら、だって恋人同士に、隠し事は駄目じゃないですか………だから気を
利かせたんです」
そう言い放つディズィーからは罪悪感も何も感じられない………むしろ
メイの反応を愉しんでいるようだ…………
「……………ひどい………………」
全てを失い、心も体もボロボロのメイは、涙を浮かべる………………
「酷いのはあの人ですよ……………一回の浮気位で………私なら……私なら
メイさんを幸せにしてあげられます……だから!」
ディズィーはそう言うと、メイをおもいきり抱きしめた。
歪んだ愛情とはいえ、メイに受け入れることが出来たなら、話は違って
いたのかもしれない……………
「………………………もう、イヤ…………離して!!」
どうしても受け入れることが出来なかった……メイはディズィーを
突き飛ばした…………
「なんで!なんでなの!?…………どうして酷いことするの!?………
嬉しくないよ!………ディズィーはボクから幸せを奪っただけじゃない!!
それで好きだなんて言わないで!!」
そう言い放つと、メイは部屋から飛び出した………
「…………………………………ふふ………あはははははははは」
メイから別離とも言える言葉を投げかけられたディズィーは急に笑いだした。
「……やっぱり、やっぱり私じゃ駄目だったんだ………あはは………馬鹿
みたい、結局メイさんを傷つけただけなんて………」
ディズィーは自分が滑稽でならなかった。それと同時に最低だと思った……
最愛の人をもっとも卑劣な手で傷つけてしまったのだから………
「……ねぇ…ネクロ、ウンディーネ………笑ってよ……馬鹿な私を笑って?
………お願い………………」
そう言い放つディズィーの視界が涙で歪む………………
「…………ゴメンナサイ…………ゴメンナサイ………メイさん」
ディズィーには、もう謝ることしか出来なかった…………
イノは自分の気持ちが吹っ切れていない事にイラついていた………
それと同時にメイとの思い出が、溢れて辛かった。
「…………メイ……」
イノはそう呟くと、メイと一緒に撮った写真を見やった………
『愛しい…………………』
それしか浮かばなかった。だからこそ辛かった………メイが自分を差し置いて
他の子とエッチをしてしまったという事実が。
「……ずるいよ…他の子としちゃうなんて……………」
イノの目には涙が浮かんでいる……自分から別れを切り出したとはいえ、あまりに
辛すぎる別れだった。
メイの笑顔が見たい・笑い声が聞きたい………もう一度会いたい…………
ただ純粋にそう思った。
「!?」
その時イノの携帯が鳴り出した、感傷に浸っていたイノはすこぶる驚き、
掛かってきた番号を見る………………表情が凍りついた………
今一番見たくなかった番号……決して忘れることのできない番号…………
電話はディズィーからだった……………………
「今さら、何の用?」
ぶっきらぼうにディズィーに尋ねる。
二人は今メイシップの甲板で向かい合っている、イノは正直ディズィーに
会いたくなかった。自分から幸せを奪った女………おそらく呼び出した
用件によっては『この女を殺してしまう』とまで思っていた。
すっかり日は落ち、二人を照らすのは月の光だ…………心なしかディズィーの
表情がかげっているのは気のせいか。
「………………駄目なんです………私じゃ…………………」
黒い感情を胸にやってきたイノは耳を疑った……イヤ正確にいえば何を言ったのか
理解出来なかった、といった方が正しいのかもしれない。
頭の整理がおぼつかないイノを尻目にディズィーは続ける………
「………傷つけちゃったんです……………好きだったのに…………もう……
私じゃ駄目なんです………イノさんでなければ……」
イノがメイの事だと気が付くのに、そう時間は掛からなかった。それと同時に
黒い感情が涌き出る。
「結局自分じゃ駄目だから、あたしに押し付けるってワケ?」
「ち・違いま………」
甲板に乾いた音が鳴った………ディズィーが弁解をする間を与えず、イノは
彼女の頬を叩いた。
「ふざけないで!!あなたがあたし達に何をしたか分かってるの!?……
その上都合が悪くなったら、押し付けるの!?」
イノの心の底にたまった感情があふれ出る………だが
「………………ゴメンナサイ………ゴメンナサイ……」
そう呟き、うな垂れるディズィーを見たとたん、イノを支配していた黒い感情
が収まる………理由を聞かれたらこう答えただろう。
『昔のあたしとそっくりの目をしていたから』………と
「……………ごめんなさい、手荒なことして」
素直に出た言葉だった。
「……いいえ………それだけの事しましたから…………メイさんのこと
お願いします……………」
自分が叩かれたことなど、二の次にディズィーはメイのことを懇願する
「………分かったわ」
そのディズィーの態度に動かされたのかイノはディズィーの願いを聞き入れた。
「…………あたし達、もっと違う形で会ってたなら……友達になれたかもね……」
イノはそう言うと、その場を後にしメイの部屋へと向かった……
………とは言ったものの、イノはメイの部屋で自問自答していた。
『どうしよう…………』と
すっかり夜もふけ、メイは寝床の中で寝息を立てている。寝顔がおさない……
「可愛いな………………って違う違う……どうしよう」
イノはこの状態での自分の身の振り方に悩まされていた。メイの部屋まで来た
はいい………問題は夜明けまで自分はどうしたらいいのか?ということだ、
メイを起こそうか?………駄目だ、そんなこととても出来ない。
本でも読もうか?…………あたし、本は苦手だ……
音楽でも聴いていようか?……メイが起きちゃう………
数多の方法が思い浮かんでは消えていく…………そしてイノは一つの結論に達した。
「…………………………………寝よ」
―夜明け―
「…………う………ん」
いつもより早く目を覚ましてしまった。………………あんなことがあったせいだ。
イノから別れを告げられ、ディズィーに別れを告げる……最悪の一日だった。
目が覚めたら全てが夢であってほしかった………
だが現実は厳しい……メイは思い知った、昨日のことは夢などではなく全て現実
だったのだと。
辛い現実に耐えられず涙を浮かべたとき、メイはやけにベットが狭苦しいことに
気が付いた。原因を探るため寝返って後ろを向く。
「…………え?」
そこには見慣れた姿があった。もしもこの『見慣れた姿』がクルーの誰かだった
ならメイはここまで驚かなかっただろう。だがベットで寝ていたのは紛れも無く
イノ本人であった。
(え?え?なんで?どうして!?………?)
混乱した、何故イノが自分のベットに眠っているのだろうか?昨晩の記憶………
確かに一人で寝床に入った。にもかかわらず起きたら寝床に一人増えている、
しかも相手はほんの数時間前、別れを告げられたばかりの恋人…………
混乱するなという方が無理である。
「……痛!」
頬をツネル……夢じゃない。
「夢じゃないんだ……………イノさん……」
やけに胸が高まる、別れたといってもお互い納得しないままの別れであったし、
なによりもメイはイノの事が好きだ。良からぬ思いが胸をよぎる。
『………ってそんなこと出来るわけ無いじゃない!!ボクの馬鹿馬鹿!!……
けどイノさんの寝顔って可愛いな……』
PR
数日後 メイシップ、夕食時………
「メイはどうした?」
いつも場を盛り上げる主が見当たらず、ジョニーが尋ねる……………
「今日はお友達と食べてくるそうです……さっき連絡がありました」
そう答えたのはディズィー……やけに元気が無い。
『……………………………………………………………………』
沈黙の中夕食が進む。ムードメーカーの不在から食事には活気が無い………
否それ以上に空気を重たくしているのは、ディズィーだ。
マイナスオーラが立ち込めている………
「おっ?今日のおかずは良く出来ているな………誰が作ったんだ?」
沈黙に耐えられなくなったのはジョニーだった。どうにかこの状況を
打破しようと試みる………しかし………
「あっ私です………メイさんの好きなもの沢山作ったんですけど………無駄に
なっちゃいましたね…………………」
薮蛇だった…………食卓により一層重たい空気がのしかかった。
バツの悪くなったジョニーは「飲みに行く」という理由でそそくさとメイシップ
を後にした
最近メイはクルーといることがメッキリ少なくなった。理由は………イノである
あの日の食事以来、二人はたびたび会うようになり、今では立派な恋人同士だ。
メイ本人もクルーといることがツマラナイわけではない、ただイノと一緒にいる
ことが何よりも楽しく幸せなのだ。
しかし、メイはイノとの関係をクルーの誰にも話していない。イノはさほど気には
していないが、二人の関係は『同性愛』という関係である。おそらく反対される
だろう………そんな恐怖感からメイはイノと会うとき、誰にも話さず出かけた………
そんなメイの異変に気が付いた少女がいた。肉体的な年齢が3歳とはいえ、
精神年齢は20歳だ、メイの変化にはすぐに気づいた………
『恋をしている……………』
メイは最近見違える程綺麗になった。仕草・外見・話し方……その全てが前とは
違う。始めは気のせいか、と思った。だが見てしまった、夜中メイが恋の相手と
幸せそうに電話をしている所を…………。
ディズィーは思う……『幸せそう………けどイラツク……嬉しい事なのに………』
彼女はそのイラツク感情が『嫉妬』ということに気が付いていない。
日増しに強くなる嫉妬の心……恨めしいと思った。メイの心を独り占めする
者が……そして自分を見てくれないメイ自身が……
またそれと同時にこうも思った。『諦めなくちゃ………』とも。
そんな感情が導き出した行動だった………ディズィーはメイの後を付けている。
いわゆる『尾行』というやつだ……日は暮れかかり街は賑わいを見せる。
そんな人込みのなか、上機嫌で歩を進めるメイ……後ろ姿でも上機嫌という事
が分かる。
快賊団入りたての頃、メイは勝手の分からないディズィーの面倒を見た。
純粋に先輩としての行動だったし、何より妹が出来たみたいだったからだ……
今まで全てを一人で背負ってきたディズィーにとって嬉しかった……
気にかけてもらえることが、そしてかまってもらえることが。
メイに対する感情が『恋』となるまでそう時間は掛からなかった。
罪悪感はある。しかし自分自身を納得させたい……相手の男が非の打ち所もない
者なら諦めもつく……イヤそうあって欲しい…………もう心を掻き回される
のは辛かったから………。
「イノさーん」
自分をつけている者がいるなど露知らず、目的地に着いたメイはイノの元へと
走り寄った。
「ごめんなさい……遅れちゃって、待った?」
「ううん……あたしも今来たところよ。ほら、そんなに息切らせちゃって……
大丈夫?」
傍から見れば、なんてことはない友達同士の待ち合わせ風景だろう。
しかし、ディズィーにとっては…………
『えっ!?…………ど、どういうこと?…………………………』
最初は良心的に解釈しようと思った。『デートの前に友達と用があるんだ』
そう思いたかった………しかし、その思いは砕かれた。
尾行の最後……二人のデートの最後、ディズィーは見てしまった。
二人のキスを………………
それから先はどうやってシップまで帰ったのか覚えていない。
何も考えられなかった……夢だと思いたかった。男に負けたのなら、納得は
いったのだ、諦めもついた………けど相手は自分と同じ女性だった……
黒い感情が溢れる……同じ女なのにどうして自分を見てくれなかったのか?…と
ディズィーは自分の中で何かが切れたのが分かった……決定的な何かが……
随分と遅くなってしまった。あの後なんだかんだでイノとのおしゃべりに夢中に
なってしまい、気が付けば日付が変わる少し前だ。
ディズィーを起こさないよう、そっと自室へ入る…………
「ディズィー? まだ起きてたの?」
正直驚いた、いつもの彼女なら自分より早く寝てしまうのに………
「ええ………メイさんに用事があって待ってたんです。」
いつもと雰囲気が違う気がした……顔は微笑んでいるのに、冷たい感じがする。
あからさまにいつもと違うディズィーに困惑するメイを尻目に、彼女は
おもむろに口を開いた…………
「メイさんって、キスが上手なんですね」
メイの顔に動揺が走る、あからさまに狼狽している………そんなメイの反応を
愉しむように、ディズィーは続ける。
「ふふ………相手の人もとっても綺麗な方ですね、スタイルも良いし優しそうだし
………それにエッチも凄く上手そうですね?」
メイが口を挟む暇なくディズィーは続ける………
「けど、驚きました……てっきりジョニーさん一筋だと思ってたのに。メイさん
ってレズだったんですね?……当然エッチもしたんだろうなぁー」
「ちっ……違!…………」
ディズィーの言葉は一言ずつ確実にメイを追い詰める。またメイ自身も
『言い逃れが出来ない』と確信した………反論ができない…………。
そしてメイは次に発せられた、言葉に耳を疑った。
「相手の人羨ましいなぁ……………私もしちゃお………」
その言葉に耳を疑った瞬間、メイは強力な力でベッドへと押し倒された。
「!?……なっ………ディズィー冗談はヤメ……んぅ!?」
ディズィーはあまりに急な出来事に混乱したメイの唇をおもむろに塞いだ。
恋人同士の優しいキスではない………陵辱を目的とした荒々しい口付け………。
どの位、唇を塞がれていたのだろう………頭が出来事についていかない。
まるで霧がかかっているようだ。しかし、ディズィーはそんなメイを休ませる
ことはしなかった。
彼女はメイの服に手をかけると、力任せに引き裂いた…………。
「ヤ……ヤダ!! ディズィーやめて!!」
予期せぬ事態に、声を荒げる………そんなメイとは対照にディズィーは
「そんなに暴れないで下さい…………それにそんなに声出しちゃっていいん
ですか?………皆起きちゃいますよ? それとも見られた方が興奮します?」
冷静にメイをいさめながら、メイを覆う布を一枚ずつ剥ぎ取っていく………。
「ディズィー離して!!冗談でしょ!?………ねぇ!」
ディズィーの言葉も混乱するメイには届かない………声こそ荒げないものの、
体を激しく動かし抵抗する。………だが
「そんなに動いても無駄ですよ?…………ネクロ!ウンディーネ!」
ディズィーがそう言うと、彼女の背中から二人が姿を現す……彼女は二人に
命じた………
「手は私が縛るから、二人はメイさんの足を広げて頂戴」……と
二人のギアの動きは素早く、そして正確に命令を実行し、ネクロ・ウンディーネ
は共にメイの足を一本ずつ外側に開いた。
メイも抵抗こそしたが、ギアの力に抗すべくもなかった………
「痛くはないですよね?………けどメイさんが悪いんですよ?おとなしく
してくれればこんな真似しなかったのに。」
悪びれた様子も無く、ディズィーは怯えをみせるメイの表情を愉しみながら、
その両の手を縛る。
両手を縛られ、強制的に両足を広げられ、メイはもはや自分の力ではどうする
事も出来ない状態に追いやられた………。
「ね……ウソ、だよね?………冗談だよね? ディズィー…どうしちゃったの?」
メイは信じられなかった、これがあのディズィーだと………自分の知っている
彼女はこんなこと決してしなかったのに…………すがるようなメイの視線を
受けディズィーは……
「だって………メイさんがいけないんですよ? メイさん私のこと全然見てくれ
ないんですもん……ずっと……ずっと好きだったのに」
「…え?」
「それなのに!…………渡さない!あの人にも!ジョニーさんにも!
メイさんは私のモノ………誰にも…誰にも渡さないんだから!!」
ディズィーは声を荒げ、最後に残っていたメイの下着を破り捨てた………
後はもう成すがままだった…………
「ふふ………やっぱり思ってた通り、メイさんって生えてないんだ」
メイの割目を見つめながらディズィーは呟く…………
「それに形も綺麗………ちゃんとオナニーしてます?」
ディズィーはメイの被虐心を煽るため、卑猥な質問を投げかける。だがメイは
最後の抵抗なのか、ディズィーの質問に沈黙を通した…………。
「答えてくれないと、私寂しいな…………けどこれで愉しみも増えたし………」
「!?んぅ!」
そういうとディズィーはメイの割目に舌を伸ばした。驚いたメイは体をねじろう
とするが、ネクロとウンディーネがそれを許さない………
「ひぁ……ディ、ディズィーやめ!………」
当然メイにも自慰の経験はある。ジョニーを想ってしたこともあるし、最近はイノを
想い快感を得た………
だが、その行為は自慰とはいえ割目を擦るだけのものであり、指を深く入れたこと事
も無ければ、道具を使ったことも当然無い………
しかしディズィーの舌は、開発不足のメイの割目に着実に快感を刻みこむ………
「ん!……お願……! 汚いよ………そんなとこ、舐めちゃ……いや!……んん!」
だが、ディズィーは耳を貸さない。緩急をつけ、時には強く、そして弱く割目
に沿って舌を動かす………
「汚くないですよ……とっても綺麗だし、それに……美味しい……」
「駄目……んぅ…………そんなに早くしちゃ………ボク……」
メイの口調に余裕がない、ディズィーは直感した『もうすぐイク』………と
「ふふ……メイさんのエッチなお口、ヒクヒクしてますよ?………我慢しなくて
いいんですよ?」
「お願い………それ以上しちゃイヤぁ………じゃないとボク……もう……もう……」
「キャ!?」
メイは絶頂を迎え、それと同時にディズィーの顔に暖かい液が浴びせられた。
メイの割目から少量だが、断続的に液が打ち出される。
「え?……ヤダ!……なに………止まらない…よぉ……ひゃ……」
ディズィーの舌使いによる未知の快楽と、それによる潮吹きにより、メイの意識
が混濁する…………だがディズィーは
「嬉しい……ワタシの舌で潮まで出してくれるなんて……ふふ、けどベトベト……
綺麗にしてあげますね?」
そう言うと、イッたばかりで敏感になっているメイの割目に再び舌を這わせた。
「ひあ!?………!舐めちゃ……駄目ぇ……お願い、少し休ませ………んん!!」
ディズィーのメイへの陵辱は、メイが気を失うまで続けられた…………
「メイはどうした?」
いつも場を盛り上げる主が見当たらず、ジョニーが尋ねる……………
「今日はお友達と食べてくるそうです……さっき連絡がありました」
そう答えたのはディズィー……やけに元気が無い。
『……………………………………………………………………』
沈黙の中夕食が進む。ムードメーカーの不在から食事には活気が無い………
否それ以上に空気を重たくしているのは、ディズィーだ。
マイナスオーラが立ち込めている………
「おっ?今日のおかずは良く出来ているな………誰が作ったんだ?」
沈黙に耐えられなくなったのはジョニーだった。どうにかこの状況を
打破しようと試みる………しかし………
「あっ私です………メイさんの好きなもの沢山作ったんですけど………無駄に
なっちゃいましたね…………………」
薮蛇だった…………食卓により一層重たい空気がのしかかった。
バツの悪くなったジョニーは「飲みに行く」という理由でそそくさとメイシップ
を後にした
最近メイはクルーといることがメッキリ少なくなった。理由は………イノである
あの日の食事以来、二人はたびたび会うようになり、今では立派な恋人同士だ。
メイ本人もクルーといることがツマラナイわけではない、ただイノと一緒にいる
ことが何よりも楽しく幸せなのだ。
しかし、メイはイノとの関係をクルーの誰にも話していない。イノはさほど気には
していないが、二人の関係は『同性愛』という関係である。おそらく反対される
だろう………そんな恐怖感からメイはイノと会うとき、誰にも話さず出かけた………
そんなメイの異変に気が付いた少女がいた。肉体的な年齢が3歳とはいえ、
精神年齢は20歳だ、メイの変化にはすぐに気づいた………
『恋をしている……………』
メイは最近見違える程綺麗になった。仕草・外見・話し方……その全てが前とは
違う。始めは気のせいか、と思った。だが見てしまった、夜中メイが恋の相手と
幸せそうに電話をしている所を…………。
ディズィーは思う……『幸せそう………けどイラツク……嬉しい事なのに………』
彼女はそのイラツク感情が『嫉妬』ということに気が付いていない。
日増しに強くなる嫉妬の心……恨めしいと思った。メイの心を独り占めする
者が……そして自分を見てくれないメイ自身が……
またそれと同時にこうも思った。『諦めなくちゃ………』とも。
そんな感情が導き出した行動だった………ディズィーはメイの後を付けている。
いわゆる『尾行』というやつだ……日は暮れかかり街は賑わいを見せる。
そんな人込みのなか、上機嫌で歩を進めるメイ……後ろ姿でも上機嫌という事
が分かる。
快賊団入りたての頃、メイは勝手の分からないディズィーの面倒を見た。
純粋に先輩としての行動だったし、何より妹が出来たみたいだったからだ……
今まで全てを一人で背負ってきたディズィーにとって嬉しかった……
気にかけてもらえることが、そしてかまってもらえることが。
メイに対する感情が『恋』となるまでそう時間は掛からなかった。
罪悪感はある。しかし自分自身を納得させたい……相手の男が非の打ち所もない
者なら諦めもつく……イヤそうあって欲しい…………もう心を掻き回される
のは辛かったから………。
「イノさーん」
自分をつけている者がいるなど露知らず、目的地に着いたメイはイノの元へと
走り寄った。
「ごめんなさい……遅れちゃって、待った?」
「ううん……あたしも今来たところよ。ほら、そんなに息切らせちゃって……
大丈夫?」
傍から見れば、なんてことはない友達同士の待ち合わせ風景だろう。
しかし、ディズィーにとっては…………
『えっ!?…………ど、どういうこと?…………………………』
最初は良心的に解釈しようと思った。『デートの前に友達と用があるんだ』
そう思いたかった………しかし、その思いは砕かれた。
尾行の最後……二人のデートの最後、ディズィーは見てしまった。
二人のキスを………………
それから先はどうやってシップまで帰ったのか覚えていない。
何も考えられなかった……夢だと思いたかった。男に負けたのなら、納得は
いったのだ、諦めもついた………けど相手は自分と同じ女性だった……
黒い感情が溢れる……同じ女なのにどうして自分を見てくれなかったのか?…と
ディズィーは自分の中で何かが切れたのが分かった……決定的な何かが……
随分と遅くなってしまった。あの後なんだかんだでイノとのおしゃべりに夢中に
なってしまい、気が付けば日付が変わる少し前だ。
ディズィーを起こさないよう、そっと自室へ入る…………
「ディズィー? まだ起きてたの?」
正直驚いた、いつもの彼女なら自分より早く寝てしまうのに………
「ええ………メイさんに用事があって待ってたんです。」
いつもと雰囲気が違う気がした……顔は微笑んでいるのに、冷たい感じがする。
あからさまにいつもと違うディズィーに困惑するメイを尻目に、彼女は
おもむろに口を開いた…………
「メイさんって、キスが上手なんですね」
メイの顔に動揺が走る、あからさまに狼狽している………そんなメイの反応を
愉しむように、ディズィーは続ける。
「ふふ………相手の人もとっても綺麗な方ですね、スタイルも良いし優しそうだし
………それにエッチも凄く上手そうですね?」
メイが口を挟む暇なくディズィーは続ける………
「けど、驚きました……てっきりジョニーさん一筋だと思ってたのに。メイさん
ってレズだったんですね?……当然エッチもしたんだろうなぁー」
「ちっ……違!…………」
ディズィーの言葉は一言ずつ確実にメイを追い詰める。またメイ自身も
『言い逃れが出来ない』と確信した………反論ができない…………。
そしてメイは次に発せられた、言葉に耳を疑った。
「相手の人羨ましいなぁ……………私もしちゃお………」
その言葉に耳を疑った瞬間、メイは強力な力でベッドへと押し倒された。
「!?……なっ………ディズィー冗談はヤメ……んぅ!?」
ディズィーはあまりに急な出来事に混乱したメイの唇をおもむろに塞いだ。
恋人同士の優しいキスではない………陵辱を目的とした荒々しい口付け………。
どの位、唇を塞がれていたのだろう………頭が出来事についていかない。
まるで霧がかかっているようだ。しかし、ディズィーはそんなメイを休ませる
ことはしなかった。
彼女はメイの服に手をかけると、力任せに引き裂いた…………。
「ヤ……ヤダ!! ディズィーやめて!!」
予期せぬ事態に、声を荒げる………そんなメイとは対照にディズィーは
「そんなに暴れないで下さい…………それにそんなに声出しちゃっていいん
ですか?………皆起きちゃいますよ? それとも見られた方が興奮します?」
冷静にメイをいさめながら、メイを覆う布を一枚ずつ剥ぎ取っていく………。
「ディズィー離して!!冗談でしょ!?………ねぇ!」
ディズィーの言葉も混乱するメイには届かない………声こそ荒げないものの、
体を激しく動かし抵抗する。………だが
「そんなに動いても無駄ですよ?…………ネクロ!ウンディーネ!」
ディズィーがそう言うと、彼女の背中から二人が姿を現す……彼女は二人に
命じた………
「手は私が縛るから、二人はメイさんの足を広げて頂戴」……と
二人のギアの動きは素早く、そして正確に命令を実行し、ネクロ・ウンディーネ
は共にメイの足を一本ずつ外側に開いた。
メイも抵抗こそしたが、ギアの力に抗すべくもなかった………
「痛くはないですよね?………けどメイさんが悪いんですよ?おとなしく
してくれればこんな真似しなかったのに。」
悪びれた様子も無く、ディズィーは怯えをみせるメイの表情を愉しみながら、
その両の手を縛る。
両手を縛られ、強制的に両足を広げられ、メイはもはや自分の力ではどうする
事も出来ない状態に追いやられた………。
「ね……ウソ、だよね?………冗談だよね? ディズィー…どうしちゃったの?」
メイは信じられなかった、これがあのディズィーだと………自分の知っている
彼女はこんなこと決してしなかったのに…………すがるようなメイの視線を
受けディズィーは……
「だって………メイさんがいけないんですよ? メイさん私のこと全然見てくれ
ないんですもん……ずっと……ずっと好きだったのに」
「…え?」
「それなのに!…………渡さない!あの人にも!ジョニーさんにも!
メイさんは私のモノ………誰にも…誰にも渡さないんだから!!」
ディズィーは声を荒げ、最後に残っていたメイの下着を破り捨てた………
後はもう成すがままだった…………
「ふふ………やっぱり思ってた通り、メイさんって生えてないんだ」
メイの割目を見つめながらディズィーは呟く…………
「それに形も綺麗………ちゃんとオナニーしてます?」
ディズィーはメイの被虐心を煽るため、卑猥な質問を投げかける。だがメイは
最後の抵抗なのか、ディズィーの質問に沈黙を通した…………。
「答えてくれないと、私寂しいな…………けどこれで愉しみも増えたし………」
「!?んぅ!」
そういうとディズィーはメイの割目に舌を伸ばした。驚いたメイは体をねじろう
とするが、ネクロとウンディーネがそれを許さない………
「ひぁ……ディ、ディズィーやめ!………」
当然メイにも自慰の経験はある。ジョニーを想ってしたこともあるし、最近はイノを
想い快感を得た………
だが、その行為は自慰とはいえ割目を擦るだけのものであり、指を深く入れたこと事
も無ければ、道具を使ったことも当然無い………
しかしディズィーの舌は、開発不足のメイの割目に着実に快感を刻みこむ………
「ん!……お願……! 汚いよ………そんなとこ、舐めちゃ……いや!……んん!」
だが、ディズィーは耳を貸さない。緩急をつけ、時には強く、そして弱く割目
に沿って舌を動かす………
「汚くないですよ……とっても綺麗だし、それに……美味しい……」
「駄目……んぅ…………そんなに早くしちゃ………ボク……」
メイの口調に余裕がない、ディズィーは直感した『もうすぐイク』………と
「ふふ……メイさんのエッチなお口、ヒクヒクしてますよ?………我慢しなくて
いいんですよ?」
「お願い………それ以上しちゃイヤぁ………じゃないとボク……もう……もう……」
「キャ!?」
メイは絶頂を迎え、それと同時にディズィーの顔に暖かい液が浴びせられた。
メイの割目から少量だが、断続的に液が打ち出される。
「え?……ヤダ!……なに………止まらない…よぉ……ひゃ……」
ディズィーの舌使いによる未知の快楽と、それによる潮吹きにより、メイの意識
が混濁する…………だがディズィーは
「嬉しい……ワタシの舌で潮まで出してくれるなんて……ふふ、けどベトベト……
綺麗にしてあげますね?」
そう言うと、イッたばかりで敏感になっているメイの割目に再び舌を這わせた。
「ひあ!?………!舐めちゃ……駄目ぇ……お願い、少し休ませ………んん!!」
ディズィーのメイへの陵辱は、メイが気を失うまで続けられた…………
歳の離れた人を好きになると、とっても大変。
メイは溜息をついた。
でもそれは、窓の外から見える、黒いコートを着た男に向けられたモノではない。
目が痛むほど青い空にカモメが飛んでいる。
こんな日に何処へも出かけず、自分の部屋に閉じこもるメイ。
メイはせっかくの自由時間を、ベッドに寝ころんで過ごしていた。
彼女の部屋の窓からは、メイシップの甲板が見える。
そこに立つ黒コートの男、ジョニーは彼女の視線に気が付くと、薔薇を投げておどけて見せた。
それを見て、慌ててメイは手を振る。
何故だろう。
そんな彼の仕草にも、メイの心の針はピクリとも動かないのだ。
「参ったなぁ……」
一方ジョニーは、メイに薔薇を投げながら、頭の中では別のことを考えていた。
彼の姫君は、昨日の夕方からずっと心ここにあらずと言った感じだ。
ジョニーは昨日の自分のこと、クルーの中のことをもう一度、思い浮かべた。
別段変わったことは、なかったように思える。
事件と言えばせいぜいディジィーが、皿を十枚割ってしまったことぐらいだ。
それでは、メイの様子がおかしいのは、クルーの外での出来事が原因なのだろうか。
確か昨日は、自由行動の時間があった。
その間に何かが起こったのだろうか。
考え込むジョニーの頭にエイプリルの「過保護すぎは良くない」と言う言葉が張り付く。
ジョニーは「うううむ」と唸ると、「まぁ、そんな日もあるか」とメイシップを下りて、町へ消えてしまった。
メイはそんなジョニーの後ろ姿を、少し潤んだ瞳で見送った。
メイの様子がおかしい理由が起こったのは、正に昨日の自由時間のことである。
「よし! これから夕方まで、各自自由行動!」
予定通り針路も進み、今日の分の仕事も滞りなく終わった。
上機嫌のジョニーのその言葉に、クルーの団員は皆両手を上げて喜んでいた。
特に喜びを表していたのは、メイだった。
『これでジョニーとデート出来る!』大喜びでメイはジョニーに駆け寄った。
だが、肝心なジョニーは……。
「じゃぁ夕方に、また」
そう言い、さっさと何処かへ姿を消してしまった。
まるで逃げるように(というか、本当に逃げていた)。
二人で町へ買い物に出かけようと考えていたメイは、頬を膨らませ瞳に涙を滲ませた。
「メイ、そう悲しまないで。私と出かけようよ」
そう気遣うエイプリルの誘いを、メイは断った。
メイはまだジョニーとのデートを諦めた訳ではなかった。
なんとしても町へ出て、彼を捜し、デートにこぎつけるつもりだった。
メイは笑顔でエイプリルに手を振ると、一人町へ買い物に出かけた。
町は人でごったがえしていた。
メイは必死でジョニーの姿を探した。
なんとか人の流れから抜け出し、一息つくと、急に体が重力に逆らい始めた。
見れば何者かの手に抱きかかえられ、彼女の体は宙に浮いていた。
急いで振り返ると、その手の持ち主は顎に髭を生やし、マントをヒラヒラと風に揺らしていた。
そして彼女を、自分のマントの中に躊躇なく押し込めた。
「えええええ! ちょっとちょっと!」
「いや、お嬢さん失礼」
暗闇の中で、そんな会話を交わし、目を開けるとメイの前に大きな石像が立っていた。
「ここは?」
戸惑うメイに、髭紳士は深々と頭を下げた。
「大変失礼した。私の名前はスレイヤー。ここは私の闘技場だ」
「闘技場?」
メイは改めて周りを見回した。
大きな怒ったような顔をした、石像が四体。
その背中には、翼が生えている。
床は大理石で出来ているようだ。
破壊するには少し忍びない気がする。
「一手、手合わせ願いたい」
そう言い、スレイヤーはもう一度、深々と頭を下げて見せた。
「手合わせ? パーティーへのお誘い?」
クルーの中で戦いは、パーティーと呼ばれている。
メイはニヤリと笑うと、碇を構えて見せた。
「これは又、風流な」
不敵に笑いかえすスレイヤーに、メイは碇を持ち上げて答える。
「いいよ! パーティー、パーティー!!」
そう言い、メイは思い切りスレイヤーに飛びかかった。
ますます興味深い、スレイヤーは心の中でそう呟いた。
久し振りに下界を空から見下ろしていると、不思議な少女が目に入った。
細い体に不似合いな、大きな碇を軽々と振り回す彼女。
それに彼女の気配、メイはジャパニーズだ。
スレイヤーの好奇心は、未知との遭遇により、抑えきれなくなった。
「マッパハーンチ!」
「それ、本気?」
スレイヤーの渾身のパンチを、メイは碇を盾にかわす。
そしてそのまま身を屈め、碇と共に体を回転させながら、スレイヤーの元へ突っ込んだ。
「グルグルあたぁああっく!」
「ぐはっ!」
強引にさらったのは、紳士的ではなかったが、未知との遭遇を、易々見過ごす訳にはいかなかった。
「だぁああああっ!」
碇をぐるぐると振り回し、スレイヤーに連続的に碇をぶつけるメイ。
しまいには、イルカを召還しだした。
これはいかん……。イルカを受け止めながら、彼は考えていた。
メイは彼が思っていたよりずっと強いが、本気を出せば心臓を止めてしまうだろう。
これ以上戦えば、知らず知らずのうちに、本気を出してしまうかも知れない。
スレイヤーはメイの攻撃をかわしながら、自分が負けてこの戦いを、収めることにした。
そうとは知らず、メイはまたもや渾身の力で碇を打ち付けてくる。
「参った!」
スレイヤーはそう言うと、メイの手首を捕まえた。
「いやはや、老体にムチを打ちすぎたようだ。すまなかった。降参だ」
釈然としないメイ。だが、スレイヤーの面差しに彼女の心臓がドキリと跳ね上がった。
「だっ、ダンディー」
メイは彼の色気に心を奪われてしまった。
「だっ、駄目よ! 僕にはジョニーがいるんだから!」
訳の分からないことを言うメイに『頭を打ってしまったのか』と心配しながら、スレイヤーはメイをマントの中に再び導いた。
マントを出ると、そこは町外れにある、鄙びた公園だった。
「今日はすまなかったね。何かあったらあれに話しかけてくれ」
そう言い、スレイヤーは町外れにある公園の木に止まった蝙蝠を指差した。
頭が心配だ。もし何か問題が生じれば、闇医者ファウストの所まで連れて行かなくてはならない。
「あれは私の大切な友達だ。あれに言葉を伝えれば、必ず私に伝えてくれる」
そう彼が言うと、蝙蝠は逆さまのままギィィー、ギィーと鳴いて見せた。
「お話し出来るの?」
「あぁ、超音波でな」
そう言い、スレイヤーは左目の瞼を先に閉じてから、左頬を上げる独特のウィンクをしてみせた。
ジョニーとは違う、そんな仕草にもメイはクラッとしてしまう。
そのまま別れ、門限ギリギリでメイシップに戻ったものの、メイは困り果てていた。
「ジョニーを見ればきっと忘れる」
と思っていた気持ちが、彼を見ても解けないのだ。
「えぇい! もう一回スレイヤーに会いに行こう!」
そう言い、メイはベッドを飛び出した。
「何処行くの! メイ!」
エイプリルの声に「お買い物」と答え、メイは町外れの公園へ急いだ。
ジョニーがいないことを願い、メイは町を歩き、公園へたどり着いた。
町中は、昨日よりは人がいない。
公園には、待ち合わせだろうか。
着飾った若い女性が一人、時計台の前に佇んでいた。
メイはこっそりと昨日スレイヤーの教えられた木に、近づいた。
木の陰に隠れていた蝙蝠が逆さまに姿を現した。
「ひゃあ」
そう言い、メイは時計台に目をやった。
待ち合わせの女性は、これからの逢瀬を考えているのだろうか。
メイの小さな悲鳴に気が付かなかったようだ。
胸をなで下ろしながら、メイはその蝙蝠に話しかけた。
「お願い。スレイヤーに会わせて」
その言葉が終わるのと同時だった。
メイの背後から、会いたい人の声が聞こえた。
「呼んだかね」
「スレイヤー」
メイは一目散に駆け寄ると、スレイヤーの懐にしがみついた。
やはり、頭が痛むのだろうか。
そう戸惑いながらも彼はそれを受け止めた。
「何か用かい?」
心配げに尋ねるスレイヤーに、メイはゆっくりと告げた。
「好きになってもいい?」
「それは……」
これこそ困り果てた。
まだ、頭が痛いと言われた方が、楽な相談だったかも知れない。
飽き飽きするほど生きた人生。
今更年の差だの、若すぎる子と恋に落ちるのは不道徳だの、そんな俗世の風習を気にする気はないが、一つだけここ十数年前から気になることが彼にはあった。
シャロン。彼の奥方の名前だ。
彼はシャロンをとても愛している。かけがえのない宝物だ。
だが……目の前にいる少し突けば泣き出してしまいそうな彼女を、彼は突き放すことが出来なかった。
それが、彼のダンディズムだ! ……女性の敵となりうりそうな、ダンディズムだが。
「構わんよ」
身を屈め、メイと視線を合わせながら、スレイヤーはそう言った。
メイは瞳を輝かせながら、もう一度スレイヤーに抱きついた。
そして、彼女は瞳を閉じて見せた。
スレイヤーは、気の早い子だと驚きながらも、メイの額に軽く唇をつけた。
すると、メイは瞳を開き、彼を軽く睨んだ。
『成る程……』スレイヤーは背広を正し、メイの腰に自分の右腕を回し、その細い体を引き寄せた。
それに素直に従うメイ。
そのまま左手で、メイの顎を上げ上へ向かせると、スレイヤーはメイの唇へ自分の唇を重ねた。
メイの閉じられた唇を舌でやや強引に開き、そのまま歯の壁を突き破り、スレイヤーは彼女の舌に自分の舌を絡ませた。
瞳を閉じ、彼女の甘い唇を、スレイヤーはじっくりと味わった。
彼女もきっと、甘美な思いに身を震わせて……。
「ひにゃあああ!」
そう言い、メイはスレイヤーを突き放すと、思い切りその左頬を平手で叩いた。
「なめくじ口にいれるなんて酷い!」
そう言い、メイは泣きべそをかきながら、走って行ってしまった。
「ううむ。額では足らず、大人のキスは否定……、難しいねぇ」
遠ざかるオレンジ色の衣服を見つめながらスレイヤーはひとりごちた。
鮮血が迸り、野党の群れが悲鳴をあげる。
ある者は腰を抜かし、ある者は一目散に逃げ出して、後に残ったのは一人の男と、幼い少女だった。
男は、その物騒な得物を仕舞い込み、少女に話しかけた。
「大丈夫かい嬢ちゃん。怪我は……?」
「……おじさん、僕を買って」
おじさんと呼ばれた男は、少女の突拍子も無い言葉に気が抜けた。
だが、少女が突然そんな事を言い出すのも、無理からぬ事と思った。
ここは、とある街のスラム。身寄りの無い子ども達が大勢いる場所だ。
こんな場所で、力の無い子どもが身銭を稼ぐ方法は、一つしか無い。
恐らく少女にとって、体を売って生活する事は、何ら倫理的におかしくないのだろう。
貞操の大切さというものを彼女に教えてくれる大人など、いなかったに違いない。
「おいおい、ジャンキーどもに殺されそうになってたのを助けてやったのに、第一声がそれかい?
女の子は素直に『ありがとう』っつってんのが可愛いもんだぜ。
大体『おじさん』って何だ、『おじさん』って。ダンディなお兄さんと呼んでくれよ。」
だが、少女は全く悪びれない。
「ジョニー以外の男の人なんて、おじさんで十分だよ。
大体、いっそ死んでた方が良かったような気もするし」
男は、その名に覚えがあった。試しに、少女に問うてみる。
「ジョニー……そのジョニーってなぁ、何者だい?」
少女は、目を輝かせて答える。
「会った事は無いんだ。でも、噂で聞いた事があるの。
風のように現れて、不幸な女性や子どもを救ってくれる、世界一ハンサムな人だって!」
少女の回答に気分を良くした男は、少女の目線まで屈みこんで話を続けた。
「そのジョニーさんが聞いたら、悲しむぜ? 死んでた方が良かった、なんてよ」
「だって、死んだらお腹減って辛い思いする事も無くなるでしょ?
でも飢え死には苦しそうだから、それ以外の死に方なら良いんだ」
「……たとえ野党に弄り殺されたとしても、か?」
「うん。お腹減って死ぬよりよっぽどマシだと思う。それだと苦しいのは一瞬だし。
ねぇおじさん、殺してくれないんなら、僕を買ってよ。今晩食べるもの無いんだから」
あくまで無邪気にそう言い放つ少女を前に、男はいたたまれなくなった。
とりあえず話題を変えたいが、さりとてどんな話題なら、
こんな痛々しい会話にならずに済むのか、検討もつかない。
「えーと……そうだな、嬢ちゃんの名前は何て言うんだい?」
「名前なんか無いよ。パパやママがいた頃は名前で呼ばれてたけど。
この街じゃ、名前なんて意味無いんだ。友達の名前覚えても、どうせすぐ居なくなるし。
僕もいつ居なくなるかわからないから、誰にも名前教えないの。
だから自分の名前、忘れちゃった」
やはり、どんな話題でも結局楽しい会話には発展しそうにないようだ。
「……他の友達は?」
「一昨日、最後の友達が死んじゃった。
気分悪そうな、痩せた女の人が、薬を買うお金が欲しいって言って、勝手に友達をどこかに連れて行ったの。
その友達は、昨日裸でゴミ捨て場に捨てられてた。足の間から血と、白いのが垂れてたなぁ」
何とも惨い事だ。
金のために他人に勝手に拉致され、見知らぬ男に犯された挙句に、用済みになって始末されたのだろう。
しかも薬というのは、恐らく健康のための代物ではない。むしろ真逆のものだ。
飢え死にとどっちがマシかはわからないが、出来れば目の前の少女には、どちらの死に方も味わって欲しくない。
何も知らぬ少女は、無垢な表情で言葉を続ける。
「僕、知ってるよ! あの白いの、セーシって言うんでしょ?
男の人はアレが溜まって苦しくなるから、ちゃんと出してあげないといけないんだって聞いたよ。
手で出してあげても良いんだけど、口の方がお金いっぱい貰えるから、僕はいつも口でや……っ」
男は、少女の言葉を遮るように、少女の唇に人差し指をあてた。
わけもわからず、少女はキョトンとする。
「わかった、嬢ちゃんを買おう」
男は少女を抱き上げ、自らの肩に座らせた。
「ホント?」
「あぁ。ただし金は払わない。代わりに毎日のご飯と、たっぷりの愛情をあげよう。
そして嬢ちゃんにやって欲しい事は、手や口で俺のを可愛がる事じゃぁない。
洗濯や、掃除や、買い物や、そういう事を頼みたいな」
少女は、男の言っている意味がわからなかった。無言で首をかしげる。
「俺の家族になってくれって事さ。お勉強も教えてやろう。
その内、体売らなくても立派に稼げる、一人前のレディにしてやるぜぇ?」
家族、という言葉は、少女にとって至極懐かしい響きのようだった。快く、男の提案を受け入れる。
「おじさん、名前は?」
「俺は、あー……ジョナサンだ」
「ふぅん。何か親しみやすい名前だね!」
「そう言ってくれると嬉しいな。さて、俺の家族になるからには、
嬢ちゃんにも名前が必要だな? えーっと、今日は五月だから……」
こうして少女は、男の家族の一員となった。
JohnnyとはJonathanのニックネームだったという事を、この日本人の少女が知るのは
もう少し後の事である。
ある者は腰を抜かし、ある者は一目散に逃げ出して、後に残ったのは一人の男と、幼い少女だった。
男は、その物騒な得物を仕舞い込み、少女に話しかけた。
「大丈夫かい嬢ちゃん。怪我は……?」
「……おじさん、僕を買って」
おじさんと呼ばれた男は、少女の突拍子も無い言葉に気が抜けた。
だが、少女が突然そんな事を言い出すのも、無理からぬ事と思った。
ここは、とある街のスラム。身寄りの無い子ども達が大勢いる場所だ。
こんな場所で、力の無い子どもが身銭を稼ぐ方法は、一つしか無い。
恐らく少女にとって、体を売って生活する事は、何ら倫理的におかしくないのだろう。
貞操の大切さというものを彼女に教えてくれる大人など、いなかったに違いない。
「おいおい、ジャンキーどもに殺されそうになってたのを助けてやったのに、第一声がそれかい?
女の子は素直に『ありがとう』っつってんのが可愛いもんだぜ。
大体『おじさん』って何だ、『おじさん』って。ダンディなお兄さんと呼んでくれよ。」
だが、少女は全く悪びれない。
「ジョニー以外の男の人なんて、おじさんで十分だよ。
大体、いっそ死んでた方が良かったような気もするし」
男は、その名に覚えがあった。試しに、少女に問うてみる。
「ジョニー……そのジョニーってなぁ、何者だい?」
少女は、目を輝かせて答える。
「会った事は無いんだ。でも、噂で聞いた事があるの。
風のように現れて、不幸な女性や子どもを救ってくれる、世界一ハンサムな人だって!」
少女の回答に気分を良くした男は、少女の目線まで屈みこんで話を続けた。
「そのジョニーさんが聞いたら、悲しむぜ? 死んでた方が良かった、なんてよ」
「だって、死んだらお腹減って辛い思いする事も無くなるでしょ?
でも飢え死には苦しそうだから、それ以外の死に方なら良いんだ」
「……たとえ野党に弄り殺されたとしても、か?」
「うん。お腹減って死ぬよりよっぽどマシだと思う。それだと苦しいのは一瞬だし。
ねぇおじさん、殺してくれないんなら、僕を買ってよ。今晩食べるもの無いんだから」
あくまで無邪気にそう言い放つ少女を前に、男はいたたまれなくなった。
とりあえず話題を変えたいが、さりとてどんな話題なら、
こんな痛々しい会話にならずに済むのか、検討もつかない。
「えーと……そうだな、嬢ちゃんの名前は何て言うんだい?」
「名前なんか無いよ。パパやママがいた頃は名前で呼ばれてたけど。
この街じゃ、名前なんて意味無いんだ。友達の名前覚えても、どうせすぐ居なくなるし。
僕もいつ居なくなるかわからないから、誰にも名前教えないの。
だから自分の名前、忘れちゃった」
やはり、どんな話題でも結局楽しい会話には発展しそうにないようだ。
「……他の友達は?」
「一昨日、最後の友達が死んじゃった。
気分悪そうな、痩せた女の人が、薬を買うお金が欲しいって言って、勝手に友達をどこかに連れて行ったの。
その友達は、昨日裸でゴミ捨て場に捨てられてた。足の間から血と、白いのが垂れてたなぁ」
何とも惨い事だ。
金のために他人に勝手に拉致され、見知らぬ男に犯された挙句に、用済みになって始末されたのだろう。
しかも薬というのは、恐らく健康のための代物ではない。むしろ真逆のものだ。
飢え死にとどっちがマシかはわからないが、出来れば目の前の少女には、どちらの死に方も味わって欲しくない。
何も知らぬ少女は、無垢な表情で言葉を続ける。
「僕、知ってるよ! あの白いの、セーシって言うんでしょ?
男の人はアレが溜まって苦しくなるから、ちゃんと出してあげないといけないんだって聞いたよ。
手で出してあげても良いんだけど、口の方がお金いっぱい貰えるから、僕はいつも口でや……っ」
男は、少女の言葉を遮るように、少女の唇に人差し指をあてた。
わけもわからず、少女はキョトンとする。
「わかった、嬢ちゃんを買おう」
男は少女を抱き上げ、自らの肩に座らせた。
「ホント?」
「あぁ。ただし金は払わない。代わりに毎日のご飯と、たっぷりの愛情をあげよう。
そして嬢ちゃんにやって欲しい事は、手や口で俺のを可愛がる事じゃぁない。
洗濯や、掃除や、買い物や、そういう事を頼みたいな」
少女は、男の言っている意味がわからなかった。無言で首をかしげる。
「俺の家族になってくれって事さ。お勉強も教えてやろう。
その内、体売らなくても立派に稼げる、一人前のレディにしてやるぜぇ?」
家族、という言葉は、少女にとって至極懐かしい響きのようだった。快く、男の提案を受け入れる。
「おじさん、名前は?」
「俺は、あー……ジョナサンだ」
「ふぅん。何か親しみやすい名前だね!」
「そう言ってくれると嬉しいな。さて、俺の家族になるからには、
嬢ちゃんにも名前が必要だな? えーっと、今日は五月だから……」
こうして少女は、男の家族の一員となった。
JohnnyとはJonathanのニックネームだったという事を、この日本人の少女が知るのは
もう少し後の事である。
墨をこぼしたように真っ黒な空に、幾粒か星が散りばめられている。
それは、天高く浮かぶ飛空挺の上にあっては、最高の酒の肴だった。
底の広いグラスに、大きな氷と、少量のウィスキー。
それを、わざと貧乏たらしく、ちびちびと飲む。
なみなみと注いだ酒を勢い良く飲むのは、ジョニーの好むところではなかった。
酒は、侘しく飲んでこそ酒だというのが、彼のポリシーだった。
そしてそれは、今宵同席したテスタメントにとっても、嫌いではないポリシーだった。
「酒は初めてか?」
問われたテスタメントは、テーブルの真向かいに座るジョニーにちらと目を上げた。
「いや……人間だった頃に付き合いで飲んだ事なら、何度か。
だが、未だに慣れないものだ。下戸というのだろうな」
ディズィーを仲間に引き入れた礼として、テスタメントはジョニーの酒に付き合う約束をしていた。
――借りが出来たな――
――そうだな、酒でも付き合ってもらおうか――
二人とも、その場のノリの他愛ない挨拶程度には考えていなかった。
いつかは、目の前の男と酒を酌み交わす機会が欲しいものだと思っていた。
それは、互いに国家権力から追われる身であっては、叶えがたい約束だった。
だが、警察機構の目をかいくぐって、どうにか一席設ける事が出来た。
それが、今夜だったのだ。
「あの子は元気か?」
快賊団員達が眠りについた深夜に、テスタメントはここを訪ねてきた。
それをジョニーは、不躾だとは思わなかった。
夜間が最も目立たず、警察の目をすり抜けやすいのは当たり前である。
逃亡者同士では連絡を取り合う術もない。アポなど取りようが無かったのだ。
だから、テスタメントは眠りこけるディズィーの様子もまだ確認していない。
寝室へこっそり入って寝顔を確認するぐらいなら構わないぞと、ジョニーは言ってくれた。
だが、ここにはレディは他にもいる。
夜中にアポ無しで住処を訪れるより、本人達に無許可で寝室に邪魔する事の方が
余程不躾で、非紳士的だ。
テスタメントは断り、その代わり翌朝彼女達が起きてくるまで待たせてくれと願い出た。
それは、ジョニーにとっても願ってもない事だった。
星明りが窓を輝かせる。
文明が科学に頼りきっていた頃は、星は今程明るくはなかったそうだ。
人工的な灯りが昼も夜もなく街を白く浮き上がらせていたのだとか。
人々はその時代、新月を恐れなかった。
科学的な灯りもなく、かつギアに大地を蹂躙されていたあの頃と比べて見ると
時代の変化というものはかくも落差の激しいものだ。
「よう、お前さんはギアが台頭する前の世界を、直接知ってるクチかい?」
テスタメントの実年齢を知らないジョニーは、それとなく彼に質問を投げかけてみた。
知っていると答えれば、彼は百年以上は生きている事になる。
彼の生い立ちや、人間であるクリフ=アンダーソンを義父としていた事など、ジョニーは知らない。
知っていれば、そこからおおよその年齢も推測出来ただろう。
百年以上も昔の話など、彼が知る筈も無いと、わかっていた筈だ。
だが、お互いの事を詳しく知らないが故に、ジョニーはついそう尋ねてしまったのだ。
「……いや、私はそれ程年寄りではない。貴様よりは年上かもしれないがな」
「本当の年齢は?」
「覚えていないな。数えてもいない。こんな体になっては、数える意味も無い」
テスタメントはそう言うと、グラスの残りをまた一口飲み込んだ。
「ん~……ジョニー、お客さん?」
眠い目をこすりながら、メイが部屋にやってきた。
用を足しに起きたのか、それとも話し声で目を覚ましてしまったのか。
パジャマ姿の彼女は、何度か顔を見た事のあるギアがジョニーと同席しているのを認めた。
「あ、えと……テスタメント、だっけ?」
未だに彼にかすかな恐怖心を感じる彼女は、思わず身構えてしまった。
「……起こしてしまったか。貴様らの団長に、酒を奢ってもらいに来たのだが」
しまった、何か土産でも持ってくれば良かったと、この時テスタメントは
子どもであるメイの顔を見て、初めて思った。
菓子など買う金は無いが、森の果物を見繕って持ってくれば良かった。
「すまないな、手ぶらなんだ」
子ども向けの笑顔を繕う事を忘れてしまった彼は、
メイに対して謝意を表すのに、どんな表情と言葉を向けるべきか迷った。
「気にしなくて良いよ。朝までいられるの?」
「……あぁ、そうさせて貰えると有り難いが?」
メイは、まだ幾らか警戒心の残る本音を抑えて、テスタメントに笑顔を向けた。
「だったら、ディズィーが起きるまで待っててよ!
アンタの顔見れたら、きっと喜ぶから」
子どもに、そのような言葉をかけてもらえるとは思わなかった。
あぁ、これが人の優しさというものだったと、テスタメントは思い出した。
そして、彼女をここまで育ててきたジョニーに、敬意をもった。
大人の酒の席に、子どもがいてもつまらない。
メイは早々に自分の部屋に戻って、眠りなおす事にした。
彼女が去っていった後で、ジョニーは空になった自分のグラスに酒を注ぎ足した。
タイミング良くテスタメントのグラスも空になったので、
お近づきの印に、彼のグラスにも注いでやる。
「あぁ、すまない」
テスタメントは、次は自分が彼に注いでやる番だな、と思った。
「気にすんな。オレぁ人に酒を注いでやるのが、大好きなんだ」
ジョニーは彼の気遣いを悟って、そう言ってやった。
帽子をとり、サングラスを外した彼の顔には、思いのほか皺が多かった。
若々しいイメージばかりがあったが、やはり年相応の年輪も刻んでいるようだ。
「……なるほど、慕われる理由もよくわかる。あの子が貴様の庇護を選ぶわけだ」
テスタメントは、彼に預けた友人ディズィーに思いをはせた。
「おぉっと、そいつぁ違うぜ。あの子は、守られるためにウチを選んだわけじゃぁねぇ」
テスタメントは、はっとした。
そうだった。かつて自分は、彼女を守るために森に居続けた。
それが、彼女を縛る鎖ともなっていた。
ディズィーが快賊団を選んだのは、守ってくれる者を鞍替えするためではなかった。
そんな簡単な事も忘れていた自分を、テスタメントは恥じた。
つくづく、卑屈な心根になってしまったものだと後悔する。
それはギアとして大量殺戮の尖兵になってしまった過去故か。
それとも、自分は元々それ程心の美しい青年ではなかったのか。
ジョニーは立ち上がり、壁にかけてある無数の写真を眺めた。
その中の一枚に、メイを拾ったばかりの頃に写したものもあった。
法力によって紙のような媒体の上に転写されたそれは、奇しくも
かつて科学の時代に存在した、カメラなる物体によって写したものと同様、写真と呼ばれていた。
写真には、まだ幼いメイと、それを抱き上げるジョニーの姿。
メイの目は、まだいくらか人間不信を宿しているように見えた。
明朗快闊な今の彼女からは少しかけ離れた、恐怖と不幸を知った者の目だった。
そんな心荒んだ孤児を、あそこまで明るい素直に子に育て上げるのは、
並みの努力ではなかったに違いない。
人生経験の深さも関係するだろうが、少なくともカイ=キスクなどには無理そうだ。
「やはり、父親というものは偉大なのだな」
テスタメントは、メイの父親代わりでもあるジョニーと、
かつての自分の義父、クリフを頭の中で見比べた。
方向性に違いはあるが、二人は紛れも無く『父親』だった。
義父に育てられているという点では、自分とメイは同じなのかもしれない。
そう、テスタメントは思った。
ただ一つ違うのは、彼女が義父に恋心を抱いているという事だ。
自分も女だったなら、或いは義父に淡い思いを抱いただろうか?
幼い女児誰もがそうであるように、自分もまた、『父親』に嫁ぐ事を夢見ただろうか?
……そこまで考えて、テスタメントは一人苦笑いした。
想像とは言え、そしていくら尊敬しているとは言え、
自分が男に惚れていたかもしれない可能性など、想像して気味の良いものではない。
もっとも両性具有である彼にとっては、女性と結ばれる事も想像し難いのだが。
ジョニーは思い出の写真を眺めながら、もう一口酒を飲んだ。
「……父親ねぇ」
意味深に、そう呟く。その呟きが、テスタメントには気になった。
ジョニーは、酒の勢いか、それともテスタメントを信用しているからか。
今まで誰にも打ち明けた事の無い心情を吐露しはじめた。
「昔読んだ小説でなぁ……親代わりの男に対して、娘が感謝の気持ちをこめて
『私にとっては、お父さんが本当のお父さんだよ』ってな、言ってやるシーンがあったんだよ」
この場合の『お父さん』とは、実父ではなく義父の事だろう。
何がしかの経緯で実父を失った娘が、自分を育ててくれた義父をこそ
自分にとっての真の父親だと、尊敬の念をあらわした言葉なのだろう。
世間一般では、美談と呼ぶに違いない。
血の繋がりは無くとも、大切に育て上げた子にこう言ってもらえれば、父親冥利につきよう。
自分もクリフに同じような事を言ってやりたかったと、テスタメントは思った。
だが、ジョニーは逆に考えたようだった。
「俺ぁ、自分の養ってきた子ども達に、間違っても『お父さん』とは呼ばれたくなかった」
「……何故だ?」
クリフを本当の父だと思いたかったテスタメントにとっては、面食らうような発言だった。
思わず、その発言の理由と真意を問いただしてしまう。
ジョニーは一つ溜息をこぼすと、今は無き孤児達の両親の、冥福を祈った。
そして、恐らくは親が手塩にかけて育てたかったであろう娘達を
不肖ながら自分が引き取らせてもらった事に、果てしなく感謝した。
「俺が思うになぁ、死んじまったあの子達の親だって、
きっと自分の手で、娘を育ててやりたかったに違いねぇんだよ。
今はもうこの世にゃ居ないかもしれないが、少なくとも死ぬその瞬間まで
あの子達を大切に守り、育てあげていたのは、紛れも無くのあ子達の両親な筈なんだ」
彼が何を言おうとしているのか、テスタメントはわかったような気がした。
しかし、言葉を遮らぬように、黙ってジョニーの話を聞き続ける。
「俺なんかよりもずっと、ご両親達はあの子達を愛してた筈なんだ。
マトモな神経してちゃ、世界中の誰よりも子を愛してるのは、親だからなぁ……。
それなのに、そんなご両親達を差し置いて……
この俺が『お父さん』等とあの子達に呼ばれるのは、申し訳ないんだよ……」
ジョニーはそこまで言い終えて、グラスの残りを一気にあおった。
彼らしからぬ飲みっぷりだった。
だが同時に、非常に彼らしい飲みっぷりだとも思えた。
「だから俺ぁ、あの子達に父親として接してはこなかった。
勿論、保護者としてのスタンスはキッチリさせていたつもりだが……
それでもあの子達が大人になった時、俺の事は父親ではなく
友人として見てくれるように、接してきたつもりだった」
テスタメントは合点がいった。
快賊団のメンバーは、彼の知る限りでは、誰もジョニーを『お父さん』とは呼ばない。
メイを筆頭に、皆ジョニーと呼ぶ。
あの子達の本当の両親に対する哀れみと敬意があるからこそ、そう接してきたのだろう。
だが同時に、彼はそれを後悔してもいるようだった。
聡明なテスタメントには、ジョニーの後悔の理由が、瞬時に理解出来た。
「メイ……という子の事だな?」
ジョニーは、こくりと小さく頷く。
「やっぱ中途半端な接し方はいけねぇなぁ……
あの子は俺の事を、保護者である以上に、思慕の対象として見るようになっちまった。
最初は、まぁ世間一般の父親ってのも、娘が幼い頃は初恋の相手として見られるもんだからと思ってな、
割り切ってきたんだが……結局あの年になっても、あいつの恋心は変わらなかったよ」
これが実父なら、単なるファザコンとして割り切れただろう。
いつかは親離れして、違う男性で素敵な相手を見つけてくれると信じる事も出来る。
だが、メイに限っては、それは望み薄な気がした。
空になったグラスをテーブルに置き、テスタメントは問いかけた。
「それで……どうするつもりなのだ?
今からでも父親として徹底するか、それとも……」
あの子の気持ちに応えてやるのか?
そう言いかけたが、口には出さなかった。
ジョニーは、同じく空になったグラスをテーブルの上に置き、伸びをした。
「済まねぇな、珍しく長話しちまったようだ」
「気にやむ事は無い。聞き役は嫌いではないさ」
テスタメントは酒瓶を取り上げると、そのままジョニーのグラスに注いだ。
そして、自分のグラスにも。
「朝まで、まだ時間があるな。せっかくの機会だ。
男同士の酒を、もう少しゆっくり楽しもう」
ジョニーは席につくと、グラスを受け取った。
「そうだな、男と飲むのは久しぶりだ」
カチンと、わざとらしく乾杯の音が部屋に響いた。
それは、天高く浮かぶ飛空挺の上にあっては、最高の酒の肴だった。
底の広いグラスに、大きな氷と、少量のウィスキー。
それを、わざと貧乏たらしく、ちびちびと飲む。
なみなみと注いだ酒を勢い良く飲むのは、ジョニーの好むところではなかった。
酒は、侘しく飲んでこそ酒だというのが、彼のポリシーだった。
そしてそれは、今宵同席したテスタメントにとっても、嫌いではないポリシーだった。
「酒は初めてか?」
問われたテスタメントは、テーブルの真向かいに座るジョニーにちらと目を上げた。
「いや……人間だった頃に付き合いで飲んだ事なら、何度か。
だが、未だに慣れないものだ。下戸というのだろうな」
ディズィーを仲間に引き入れた礼として、テスタメントはジョニーの酒に付き合う約束をしていた。
――借りが出来たな――
――そうだな、酒でも付き合ってもらおうか――
二人とも、その場のノリの他愛ない挨拶程度には考えていなかった。
いつかは、目の前の男と酒を酌み交わす機会が欲しいものだと思っていた。
それは、互いに国家権力から追われる身であっては、叶えがたい約束だった。
だが、警察機構の目をかいくぐって、どうにか一席設ける事が出来た。
それが、今夜だったのだ。
「あの子は元気か?」
快賊団員達が眠りについた深夜に、テスタメントはここを訪ねてきた。
それをジョニーは、不躾だとは思わなかった。
夜間が最も目立たず、警察の目をすり抜けやすいのは当たり前である。
逃亡者同士では連絡を取り合う術もない。アポなど取りようが無かったのだ。
だから、テスタメントは眠りこけるディズィーの様子もまだ確認していない。
寝室へこっそり入って寝顔を確認するぐらいなら構わないぞと、ジョニーは言ってくれた。
だが、ここにはレディは他にもいる。
夜中にアポ無しで住処を訪れるより、本人達に無許可で寝室に邪魔する事の方が
余程不躾で、非紳士的だ。
テスタメントは断り、その代わり翌朝彼女達が起きてくるまで待たせてくれと願い出た。
それは、ジョニーにとっても願ってもない事だった。
星明りが窓を輝かせる。
文明が科学に頼りきっていた頃は、星は今程明るくはなかったそうだ。
人工的な灯りが昼も夜もなく街を白く浮き上がらせていたのだとか。
人々はその時代、新月を恐れなかった。
科学的な灯りもなく、かつギアに大地を蹂躙されていたあの頃と比べて見ると
時代の変化というものはかくも落差の激しいものだ。
「よう、お前さんはギアが台頭する前の世界を、直接知ってるクチかい?」
テスタメントの実年齢を知らないジョニーは、それとなく彼に質問を投げかけてみた。
知っていると答えれば、彼は百年以上は生きている事になる。
彼の生い立ちや、人間であるクリフ=アンダーソンを義父としていた事など、ジョニーは知らない。
知っていれば、そこからおおよその年齢も推測出来ただろう。
百年以上も昔の話など、彼が知る筈も無いと、わかっていた筈だ。
だが、お互いの事を詳しく知らないが故に、ジョニーはついそう尋ねてしまったのだ。
「……いや、私はそれ程年寄りではない。貴様よりは年上かもしれないがな」
「本当の年齢は?」
「覚えていないな。数えてもいない。こんな体になっては、数える意味も無い」
テスタメントはそう言うと、グラスの残りをまた一口飲み込んだ。
「ん~……ジョニー、お客さん?」
眠い目をこすりながら、メイが部屋にやってきた。
用を足しに起きたのか、それとも話し声で目を覚ましてしまったのか。
パジャマ姿の彼女は、何度か顔を見た事のあるギアがジョニーと同席しているのを認めた。
「あ、えと……テスタメント、だっけ?」
未だに彼にかすかな恐怖心を感じる彼女は、思わず身構えてしまった。
「……起こしてしまったか。貴様らの団長に、酒を奢ってもらいに来たのだが」
しまった、何か土産でも持ってくれば良かったと、この時テスタメントは
子どもであるメイの顔を見て、初めて思った。
菓子など買う金は無いが、森の果物を見繕って持ってくれば良かった。
「すまないな、手ぶらなんだ」
子ども向けの笑顔を繕う事を忘れてしまった彼は、
メイに対して謝意を表すのに、どんな表情と言葉を向けるべきか迷った。
「気にしなくて良いよ。朝までいられるの?」
「……あぁ、そうさせて貰えると有り難いが?」
メイは、まだ幾らか警戒心の残る本音を抑えて、テスタメントに笑顔を向けた。
「だったら、ディズィーが起きるまで待っててよ!
アンタの顔見れたら、きっと喜ぶから」
子どもに、そのような言葉をかけてもらえるとは思わなかった。
あぁ、これが人の優しさというものだったと、テスタメントは思い出した。
そして、彼女をここまで育ててきたジョニーに、敬意をもった。
大人の酒の席に、子どもがいてもつまらない。
メイは早々に自分の部屋に戻って、眠りなおす事にした。
彼女が去っていった後で、ジョニーは空になった自分のグラスに酒を注ぎ足した。
タイミング良くテスタメントのグラスも空になったので、
お近づきの印に、彼のグラスにも注いでやる。
「あぁ、すまない」
テスタメントは、次は自分が彼に注いでやる番だな、と思った。
「気にすんな。オレぁ人に酒を注いでやるのが、大好きなんだ」
ジョニーは彼の気遣いを悟って、そう言ってやった。
帽子をとり、サングラスを外した彼の顔には、思いのほか皺が多かった。
若々しいイメージばかりがあったが、やはり年相応の年輪も刻んでいるようだ。
「……なるほど、慕われる理由もよくわかる。あの子が貴様の庇護を選ぶわけだ」
テスタメントは、彼に預けた友人ディズィーに思いをはせた。
「おぉっと、そいつぁ違うぜ。あの子は、守られるためにウチを選んだわけじゃぁねぇ」
テスタメントは、はっとした。
そうだった。かつて自分は、彼女を守るために森に居続けた。
それが、彼女を縛る鎖ともなっていた。
ディズィーが快賊団を選んだのは、守ってくれる者を鞍替えするためではなかった。
そんな簡単な事も忘れていた自分を、テスタメントは恥じた。
つくづく、卑屈な心根になってしまったものだと後悔する。
それはギアとして大量殺戮の尖兵になってしまった過去故か。
それとも、自分は元々それ程心の美しい青年ではなかったのか。
ジョニーは立ち上がり、壁にかけてある無数の写真を眺めた。
その中の一枚に、メイを拾ったばかりの頃に写したものもあった。
法力によって紙のような媒体の上に転写されたそれは、奇しくも
かつて科学の時代に存在した、カメラなる物体によって写したものと同様、写真と呼ばれていた。
写真には、まだ幼いメイと、それを抱き上げるジョニーの姿。
メイの目は、まだいくらか人間不信を宿しているように見えた。
明朗快闊な今の彼女からは少しかけ離れた、恐怖と不幸を知った者の目だった。
そんな心荒んだ孤児を、あそこまで明るい素直に子に育て上げるのは、
並みの努力ではなかったに違いない。
人生経験の深さも関係するだろうが、少なくともカイ=キスクなどには無理そうだ。
「やはり、父親というものは偉大なのだな」
テスタメントは、メイの父親代わりでもあるジョニーと、
かつての自分の義父、クリフを頭の中で見比べた。
方向性に違いはあるが、二人は紛れも無く『父親』だった。
義父に育てられているという点では、自分とメイは同じなのかもしれない。
そう、テスタメントは思った。
ただ一つ違うのは、彼女が義父に恋心を抱いているという事だ。
自分も女だったなら、或いは義父に淡い思いを抱いただろうか?
幼い女児誰もがそうであるように、自分もまた、『父親』に嫁ぐ事を夢見ただろうか?
……そこまで考えて、テスタメントは一人苦笑いした。
想像とは言え、そしていくら尊敬しているとは言え、
自分が男に惚れていたかもしれない可能性など、想像して気味の良いものではない。
もっとも両性具有である彼にとっては、女性と結ばれる事も想像し難いのだが。
ジョニーは思い出の写真を眺めながら、もう一口酒を飲んだ。
「……父親ねぇ」
意味深に、そう呟く。その呟きが、テスタメントには気になった。
ジョニーは、酒の勢いか、それともテスタメントを信用しているからか。
今まで誰にも打ち明けた事の無い心情を吐露しはじめた。
「昔読んだ小説でなぁ……親代わりの男に対して、娘が感謝の気持ちをこめて
『私にとっては、お父さんが本当のお父さんだよ』ってな、言ってやるシーンがあったんだよ」
この場合の『お父さん』とは、実父ではなく義父の事だろう。
何がしかの経緯で実父を失った娘が、自分を育ててくれた義父をこそ
自分にとっての真の父親だと、尊敬の念をあらわした言葉なのだろう。
世間一般では、美談と呼ぶに違いない。
血の繋がりは無くとも、大切に育て上げた子にこう言ってもらえれば、父親冥利につきよう。
自分もクリフに同じような事を言ってやりたかったと、テスタメントは思った。
だが、ジョニーは逆に考えたようだった。
「俺ぁ、自分の養ってきた子ども達に、間違っても『お父さん』とは呼ばれたくなかった」
「……何故だ?」
クリフを本当の父だと思いたかったテスタメントにとっては、面食らうような発言だった。
思わず、その発言の理由と真意を問いただしてしまう。
ジョニーは一つ溜息をこぼすと、今は無き孤児達の両親の、冥福を祈った。
そして、恐らくは親が手塩にかけて育てたかったであろう娘達を
不肖ながら自分が引き取らせてもらった事に、果てしなく感謝した。
「俺が思うになぁ、死んじまったあの子達の親だって、
きっと自分の手で、娘を育ててやりたかったに違いねぇんだよ。
今はもうこの世にゃ居ないかもしれないが、少なくとも死ぬその瞬間まで
あの子達を大切に守り、育てあげていたのは、紛れも無くのあ子達の両親な筈なんだ」
彼が何を言おうとしているのか、テスタメントはわかったような気がした。
しかし、言葉を遮らぬように、黙ってジョニーの話を聞き続ける。
「俺なんかよりもずっと、ご両親達はあの子達を愛してた筈なんだ。
マトモな神経してちゃ、世界中の誰よりも子を愛してるのは、親だからなぁ……。
それなのに、そんなご両親達を差し置いて……
この俺が『お父さん』等とあの子達に呼ばれるのは、申し訳ないんだよ……」
ジョニーはそこまで言い終えて、グラスの残りを一気にあおった。
彼らしからぬ飲みっぷりだった。
だが同時に、非常に彼らしい飲みっぷりだとも思えた。
「だから俺ぁ、あの子達に父親として接してはこなかった。
勿論、保護者としてのスタンスはキッチリさせていたつもりだが……
それでもあの子達が大人になった時、俺の事は父親ではなく
友人として見てくれるように、接してきたつもりだった」
テスタメントは合点がいった。
快賊団のメンバーは、彼の知る限りでは、誰もジョニーを『お父さん』とは呼ばない。
メイを筆頭に、皆ジョニーと呼ぶ。
あの子達の本当の両親に対する哀れみと敬意があるからこそ、そう接してきたのだろう。
だが同時に、彼はそれを後悔してもいるようだった。
聡明なテスタメントには、ジョニーの後悔の理由が、瞬時に理解出来た。
「メイ……という子の事だな?」
ジョニーは、こくりと小さく頷く。
「やっぱ中途半端な接し方はいけねぇなぁ……
あの子は俺の事を、保護者である以上に、思慕の対象として見るようになっちまった。
最初は、まぁ世間一般の父親ってのも、娘が幼い頃は初恋の相手として見られるもんだからと思ってな、
割り切ってきたんだが……結局あの年になっても、あいつの恋心は変わらなかったよ」
これが実父なら、単なるファザコンとして割り切れただろう。
いつかは親離れして、違う男性で素敵な相手を見つけてくれると信じる事も出来る。
だが、メイに限っては、それは望み薄な気がした。
空になったグラスをテーブルに置き、テスタメントは問いかけた。
「それで……どうするつもりなのだ?
今からでも父親として徹底するか、それとも……」
あの子の気持ちに応えてやるのか?
そう言いかけたが、口には出さなかった。
ジョニーは、同じく空になったグラスをテーブルの上に置き、伸びをした。
「済まねぇな、珍しく長話しちまったようだ」
「気にやむ事は無い。聞き役は嫌いではないさ」
テスタメントは酒瓶を取り上げると、そのままジョニーのグラスに注いだ。
そして、自分のグラスにも。
「朝まで、まだ時間があるな。せっかくの機会だ。
男同士の酒を、もう少しゆっくり楽しもう」
ジョニーは席につくと、グラスを受け取った。
「そうだな、男と飲むのは久しぶりだ」
カチンと、わざとらしく乾杯の音が部屋に響いた。