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 家の中に突如として生えたそれに、皐月は目を丸くした。
 緑生い茂るそれは、風にそよぐ度にサヤサヤと軽く耳に心地良い音を奏でた。
 その隣で、遥は色とりどりの千代紙やら折り紙で、器用に飾りを作っている。皐月を見付けると、子供っぽい笑みを浮かべて手招きをした。
「それ、なぁに?」
 皐月は指さして尋ねる。
 始めて見るそれは、皐月には大変珍しいものだった。
「七夕様の飾り付けをしているのよ」
「たなばたさま?」
 聞き慣れない言葉に、皐月はちょこんと首を傾げる。
 遥は皐月を膝の上に乗せ、千代紙で作った短冊を一枚手に取った。
 そして、七夕の物語を話して聞かせるのだ。
「七夕様はね、織姫っていうお姫様と牽牛っていう男の子の恋のお話なのよ」
「おひめさま?」
 途端、皐月の目が輝いた。
 やはりここは女の子、『お姫様』という言葉の響きに魅力を感じるのだろう。遥を仰ぎ見て、早く話の続きを聞かせろとせがんだ。
 遥は皐月に自分の幼い頃を重ねた。自分もこうやって大人に、物語の続きをせがんだ時があった。お姫様や王子様、騎士に魔法使い。あの頃聞いた物語は、どんな宝物よりもキラキラ輝いていた。
 そうだ、きっと皐月と同じ様に目を輝かせていたに違いない。
 遥はそっと微笑した。
 そして、分り易く丁寧に、皐月に七夕の話を聞かせるのだった。

「なんだ、これ?」
 玄関に置かれた笹に、大吾は怪訝な顔付きで軽く払った。
 笹の葉にぶら下がっているのは、色々な飾りと願い事が書かれた短冊。
 そこで、ああ。と合点がいった。今日は七夕なのだ、と。
 その一つを手にとって眺めると、解読不明な文字と思しき物が書かれた短冊があった。間違いなく皐月のものだ。
「あいつ。何願い事したんだ?」
 子供のことだ、『ぬいぐるみが欲しい』とか『おもちゃが欲しい』とかそんなところだろう。この所、一緒にいる時間も減ってしまい寂しがっているのかもしれない。少し位、皐月の要望を聞いてやってもいいだろう。そう、大吾が思った時だった。
 台所の方から忙しない足音がバタバタと二つ近付いてくる。
 自分を出迎えに来たのか?靴を脱いで上がろうとする。その横を、けれども二つの足音は通り過ぎた。
「こらっ、皐月。それは吊るしてはダメ!」
「どうして?ママ、おねがいごとかいたらかなうって言ったの」
「言ったけど……。それはダメ!」
「さつきのいちばんほしいものなの。ぜったいこれはかざるの」
「いけません。こんなのパパに見られたら……」
「見られたら何なんだよ?」
 どうやら自分を出迎えに来た訳ではなさそうだった。皐月と遥は何かを飾る飾らないで揉めていて、それを大吾が見ては遥は非常に困るという内容のものらしい。
 大吾の言葉に遥は飛び上がらんばかりに驚く。幽霊かお化けでも見たかのような顔だ。
 正直言って、面白くない。
 大吾は膝を折って、皐月と目線を合わせた。
「何を飾ろうとしたんだ?」
 手に持っているのは紛れもない、短冊。
 遥が皐月の後ろからそれを奪い取ろうとするのを、大吾が簡単にその手を取る。
「いやぁ。皐月ダメよ!それは見せてはダメ!」
「いいや、皐月見せろ。見せないとお尻ペンペンだぞ」
「見せたら、おやつ抜きだからね」
「おやつなんか、後で俺がいっぱい買って来てやる。だからそれを見せろ」
 暫く考えていた皐月だったが、ふと、思い出した様に大吾に尋ねた。
「パパがおねがいごと、かなえてくれるの?なら、みせてあげてもいいの」
 やけに上から目線だな。苦笑いしながら、大吾は大きく頷いた。
「ああ、叶えてやる。何だ?ぬいぐるみか?おもちゃか?洋服か?」
 見せる気だ!間違いなく、この子は見せる気だ!!そう確信した瞬間、遥は皐月の後ろで青くなった。
 皐月は大きく首を振った。どうやら、そんな物ではないらしい。もっと重要で。もっと大切なものらしい。
「あのね……」
 その瞬間、遥は廊下に崩れ落ちたのだった。 

「何で必死に拒否ってんだよ」
 皐月が寝付いた後、リビングで煙草を吹かしながら、大吾は笑いを含みながら隣に座る遥の頭を小突いた。
「だって……」
 遥はその先は何も言わない。否、言えないのだ。
 真っ赤になって、頬を膨らませ、そっぽを向く。その幼い仕草に、出会った頃と何ら変わってない遥に大吾の笑みは深くなって行く。
 腰に手を回し、強引に引き寄せる。
「ちょ、ちょっと」
 慌てふためく遥を無視して、奪う様に口付けるそれは煙草の味がした。
「皐月のたってのお願いだ。叶えてやらねぇと可哀相だろ?」
「もう」
 ニヤリと笑って、大吾はもう一度口付けた。今度は深く、濃く。
「織姫と牽牛も夜空でよろしくやってんだ、こっちはこっちで楽しまねえとな」
「……バカ」
 その頃、皐月はベッドの中で遠い遠い夢の中。
 新しく増えた家族と、織姫と牽牛になった両親に挟まれ幸せな夢の中で、ご機嫌だった。

『あのね、さつき。きょうだいがほしいの』
 
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