忍者ブログ
Admin*Write*Comment
うろほろぞ
[720]  [719]  [718]  [717]  [716]  [715]  [714]  [713]  [712]  [711]  [710
×

[PR]上記の広告は3ヶ月以上新規記事投稿のないブログに表示されています。新しい記事を書く事で広告が消えます。

Dhh

 皐月はお風呂が大好きだ。
 幼児の中にはシャンプーをするのを怖がる子もいるというが、皐月に限ってはそれはない。それどころか、お気に入りの自分用シャンプー(子供用)がある位だ。シャンプーの容器はどこぞのメーカーのキャラクターの物だが、皐月曰く『これがいちばん、いいにおいなの』らしい。
 彼女だけのちょっとしたこだわりがあるらしいのだ。
「きょうは、パパとおふろにはいってあげるの」
 夕食も済ませ、リビングで寛いでいた大吾に皐月はおもむろにそう告げた。
 だから、なんでそんなに偉そうなんだよ。と、言いたいのを堪え、大吾は素っ気無く答える。
「やなこった」
「どうして?」
「お前と入ると、無駄に疲れるんだよ」
「?さつき、つかれないよ」
「俺が、疲れるんだよ」
 そう言って、皐月の額を軽く小突く。
 一緒に入ると言ってくれるのは嬉しいが、今日の自分は人の面倒(とかく、子供の面倒)をみられるほど元気ではない。どちらかと言ったら、一人のんびり湯船に浸かって、明日への鋭気を養いたい。
 どこか、親父臭い事を考えながら大吾は皐月の頭を撫でる。
 その横で、弥生が口を挟んだ。
「何言ってんだい。娘が父親と一緒にお風呂に入れるのは今のうちだよ。その内、『パパと一緒にお風呂入りたくない』って言い出して、終いには『パパのと一緒に洗濯しないで』って言われるんだよ。一緒に入ろうって言われている内が華じゃないか、一緒に入っておあげ」
 大吾は短く舌打ちをする。
 皐月に限って、そんな事を言い出すようには思えない。大きくなっても(想像出来ないが)、ずっと自分の後を付いて回って来る気がする。
 チラリと皐月を見れば、何やら期待の篭った瞳でこちらをジッと見ている。
 何だよ、その目は。大吾は心の中で忌々しく溜め息を吐いた後、おもむろに立ち上がった。
「あれ?パパどこいくの?」
「風呂。一緒に入るんだろ?早くしねーと、締め出すぞ」
「わぁい!パパとおふろ!」
「良かったねぇ、皐月ちゃん」
「うん!おばあちゃん、ありがとう」
 嬉しそうに礼を言って、大吾の後を追いかけて行く。
 その後姿を、微笑ましく思いながら二人の女は見送った。

「パパのおせなか、あらってあげる」
 自分で洋服を脱いで、先にお風呂に入った皐月はタオルを持って待ち構えた。
「いいって」
「ちゃんときれいきれいしないと、きたないのよ」
 おしゃまな口振りで大吾を嗜める。恐らくは弥生か遥に、いつも自分が言われている言葉なのだろう。
 その大人びた口振りに、大吾は思わず吹き出した。
「俺は自分で洗えるから、いいんだよ。それより、ほれ。お前の体洗うのが先だろ」
 それでも皐月は頑としてタオルを渡そうとしない。
 まったく、この頑固さは誰に似たんだか。思わず苦笑いが零れたその時、皐月は大吾の後ろへとすばやく回った。
 そして、
「うわぁ」
 大吾の背中を見るや否や、感嘆の声を上げたのである。
 背中に浮き上がる鮮やかな不動明王。
 子供は怖くて泣き出すのが普通なのに、肝が太いのか鈍いのか、皐月は泣きもせずジッと背中を見つめている。
「このおにさん、なんていうの?」
 鬼?言われて大吾は首を傾げたが、憤怒の形相の不動明王は確かに鬼に見えなくもない。
「これは『鬼』じゃねーよ。『不動明王』っていう、仏様だ」
「おにさんじゃないの?」
 肩越しに皐月が首を傾げる気配がした。
 小さく笑って、大吾は簡単に不動明王の説明を皐月に言って聞かせた。
「この仏様はな、怖い顔をしているが、本当は凄く優しい仏様なんだぞ。怖い顔は、悪い奴等を懲らしめる為なんだ」
「なめられないためなの?」
 子供らしい発想に、大吾は思わず吹き出した。
「そうだな。なめられない為だな」
「じゃあ、ほんとのほんとはやさしいお顔をしているのね。おにさん言って、ごめんなさいなの」
 そう言って、大吾の背中にお辞儀をして謝る気配がした。
 子供らしい、単純な発想だ。
「ほら、もういいから。お前を洗うぞ」
 後ろ手で皐月の手を掴んで、引っ張り出す。
 力任せに引っ張ったのがまずかったか、拍子に皐月は盛大に尻餅をついた。
「ああ、悪い悪い。大丈夫か?」
 ややぞんざいに謝ると、いつもは転んだって何したって泣かない皐月だったが、余程痛かったのか、盛大に泣き出した。
 風呂場の反響が良く響く中、皐月の泣き声は近所中に響き渡った。
「おにさん、さつきをいじめる悪いパパをこらしめてほしいの」
「テメッ、どさくさに紛れて何言ってやがんだ!」
 ぎゃあぎゃあと風呂場で騒ぐ親子に、背中の不動明王も苦笑いしたようだった。
 
PR
Dh * HOME * Dhh
  • ABOUT
うろほらぞ
Copyright © うろほろぞ All Rights Reserved.*Powered by NinjaBlog
Graphics By R-C free web graphics*material by 工房たま素材館*Template by Kaie
忍者ブログ [PR]