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vp1
trouble of the amusement park

プロローグ


トライガン学園野球部は、長年『弱小』というありがたくない形容詞を冠していた。
一昨年前までは。
昨年は地区予選の準々決勝で惜しくも敗退。しかし今年、激戦に次ぐ激戦を勝ち抜いて念願の甲子園初出場を決めたのである。
その原動力となったのは、『豪腕ピッチャー』の誉高きヴァッシュ・ザ・スタンピード。二年で副主将を務めている。
どんな苦しい試合でも笑顔とギャグを忘れない、チームのムードメーカーでもある。
もう一人。ヴァッシュのよき女房役で同じく二年、主将のニコラス・D・ウルフウッド。ヴァッシュが注目を集める分あまり目立たないのだが、絶妙の配球や要所要所での的を射たアドバイスなど、チームにとってなくてはならない存在だ。
昨年秋に転校してきた彼の入部によって野球部は劇的に変わった。何よりも、ヴァッシュの豪速球を受けられるキャッチャーができたことが大きかった。ウルフウッドが入部するまで、ヴァッシュはずっと全力を出せなかったのだ。
そして、野球部を影で支え続けたマネージャー、メリル・ストライフ。ユニフォームの洗濯やこまごまとした雑用は勿論、部員の個人別練習メニューを考えたりと活動範囲は広く、その活躍ぶりは参謀と呼ぶのに相応しいほど。
二年になった今年は生徒会の副会長を務めるようになり、掛け持ちで忙しい毎日を送っている。生徒会長のキール・バルドウが職務にかこつけて近づいてくるのだが、角が立たないよううまくあしらっていた。時にはヴァッシュ
やウルフウッドがそれとなく壁の役割を果たしたりもした。
多忙なメリルを助ける新人マネージャーがミリィとジェシカの二人。どちらも今年入学してきた一年生で、ミリィはメリルの中学時代からの後輩である。ジェシカはもともとヴァッシュの幼なじみで同じ保育園に通っていた。彼の一家が引っ越した後は音信不通となっていたのだが、高校で十年ぶりに再会したのである。
忘れてはいけない、一年ながらレギュラー入りを果たしたブラド。長身のヴァッシュやウルフウッドをも超える恵まれた体躯の持ち主で、ポジションはセンター。彼もヴァッシュとは幼なじみで、ジェシカとの付き合いは長い。
本人の希望に反して近所付き合いが、だが。
一時は廃部かと危ぶまれた野球部も、今は部員三十四名マネージャー三名を擁する大所帯になった。四月には部員は六十名を超えていたのだが、マネージャー目当てに入部した者やきつい練習についていけない者は次々と退部していった。
「甲子園か…」
放課後、一人を除いてクラスメイトのいなくなった教室の窓からぼんやりと空を眺めながらヴァッシュは呟いた。
野球をやる者なら甲子園出場はいわば悲願だ。その夢をついに今年叶えることができたのだ。
「なんや、出場できるだけで満足しとるんやないやろな。出るからには優勝! 二位以下なんざ興味あらへんわ」
「強気だねぇ…」
拳を固めて力説するウルフウッドに、ヴァッシュは苦笑を禁じ得ない。
だが、ウルフウッドは必ず自分の発言に責任を持つ。主将として部員に檄を飛ばす時でも、まず自分が率先して動く。あまりの厳しさに反発する新入部員も中にはいるが、彼らからも信頼はされている。
「ところで話は変わるんやけどな、ちと相談したいことがあんねん」
先刻までの熱血野球馬鹿はどこへやら、ウルフウッドは含みのある笑みを浮かべるとヴァッシュに顔を近づけた。
「…何?」
嫌な予感を感じつつ、ヴァッシュは儀礼的に問い返す。
「今度の日曜、練習休みやんか」
甲子園出場を果たしたご褒美に、一日だけ練習が完全オフになったのだ。もっとも、月曜日から更なる地獄のメニューが待ち構えているのだが。
「それがどうかした?」
「ワイらとマネージャーとでデートせえへん?」
「!? だって、マネージャー誘ったら二対三になっちゃうよ」
大声を上げたヴァッシュにジェスチャーで『静かに』と指示した後、ウルフウッドはわかっていないと言いたげにかぶりを振った。
「ちゃうちゃう、誘うんはおっきいマネージャーと小っさいマネージャーや」
前者はミリィ、後者はメリルのことである。
何故かウルフウッドはマネージャーを名前で呼ばない。ちなみにジェシカのことは『おさげのマネージャー』と呼んでいる。
「…それはいいけど…誘っても来るかな?」
ミリィはともかく、メリルには速攻で断られそうな気がする。
「大丈夫や。ワイに考えがあるさかい」
「でもねぇ…」
「のらへんのやったらええで。ワイ一人で両手に花で…いや、小っさいマネージャーにゾッコンの生徒会長でも誘って」
立ち去りかけた自分の腕を鷲掴みにした副主将を、ウルフウッドは会心の笑みを浮かべて見やった。
「…決まりやな」




「本日は終了! !」
「お疲れ様でしたー! !」
ウルフウッドの声に全員で答える。練習を締めくくるいつもの習慣だ。
「あ、マネージャー…」
部員が次々と部室に向かう中、ヴァッシュはベンチで片づけものをしているメリルに声をかけた。
「はい?」
「ちょっと打ち合わせしたいことがあるんだ。後で部室に来てくれないかな?」
「判りました。皆さん着替えてらっしゃるでしょうから、三十分くらいしてから行きますわ」
「ごめんね。もう遅いのに」
空はすっかり暗くなっている。
「いいえ、構いませんわ。それよりヴァッシュさんも早く着替えて下さい。肩を冷やさないように」
「うん。じゃ後で」
部室の前でメリルはミリィと鉢合わせた。
「先輩!」
「ミリィ、あなたもですの?」
「はい、ウルフウッド先輩に呼ばれました!」
メリルは辺りを見回した。マネージャーに相談したいことがあるなら、ここにいるべきはずのジェシカの姿はない。
訝しく思いつつドアをノックする。メリルとミリィです、と言うとすぐに答えが返ってきた。
「入ってきいや」
「失礼します」
ドアを開けて一歩踏み出す。その途端、メリルの足は止まってしまった。後ろから来た後輩がぶつかり、華奢な身体がよろける。
「す、すみません先輩! …どうしたんですかぁ?」
「あ、あ、あなた方は一体何をしてるんですの!?」
メリルが声を荒げたのも無理はない。部室にいた主将と副主将はトランプで遊んでいたのだから。
「ポーカーや、ポーカー」
「キミ達も混ざんない?」
「わあい、やりますやります!」
メリルが説教を始める前に、ミリィが嬉々として加わってしまった。メリルは眉間に指を当てるとため息をついた。
「せや、どうせやったら賭けせえへん?」
「ウルフウッドさん!?」
柳眉を逆立てたメリルを意に介さず、ウルフウッドは豪快に笑う。
「その方が盛り上がるやんか。賭ける、ゆうても金やのうて、例えばやって欲しいこととか…」
「いいねぇそれ。じゃ僕達男性チームとキミ達女性チームで」
「一騎打ちの対戦や」
「それって、何かご馳走してもらうっていうのでもいいんですか!?」
「勿論」
目を輝かせて質問したミリィに、ヴァッシュはいつもの優しい笑顔で答えた。
「先輩、やりましょう!」
やる気満々の表情で両手をしっかり握られる。
部室でポーカー、しかも賭けまで…メリルは再び深々とため息をついた。
「…一回だけですわよ」

そして日曜日。午前九時。
とある遊園地の前で四人は落ち合った。
「今日は遅刻せえへんかったな、おっきいマネージャー」
「あた、痛いところ突かれちゃいました」
額に手をやり顔を顰めたミリィの姿に、誰からともなく笑みが洩れる。
ポーカーの賭けの商品は次のとおりだった。
『今年は夏休みの宿題は全部自分でやる』
『駅前に新しくできた喫茶店でプリンアラモードをご馳走してもらう』
『四人で遊園地に遊びに行く』
『その時おっきいマネージャーと小っさいマネージャーは生足でサンダル履きのこと』
誰がどれを言ったか、説明の必要はないだろう。
ヴァッシュとメリル、ウルフウッドとミリィが対戦したのだが、その結果は…男性陣の二連勝。
『じゃ、日曜九時に入り口のところで』
『生足やで!』
駅で別れた時に念を押され、メリルの疑念は確信に変わった。
「カードを配ったのがあの二人だったことを、もっと早く思い出すべきでしたわ…」
イカサマは立証できなければイカサマではない。二人はグルで、自分とミリィはまんまとはめられたのだ。――
メリルはオフホワイトのブラウスに紺地に白い小花を散らしたフレアスカートを着、ややヒールの高い華奢な作りのサンダルを履いていた。第一ボタンを外した襟元で、時折アクアマリンの小さなペンダントトップが輝く。揺れる裾からかわいらしく膝小僧が覗いていた。
対するミリィは、グリーンのタンクトップにベージュで七分丈のカプリパンツ、足元はコルクでできたごつい印象のサンダル。腕に時計と銀のブレスレットを重ねてつけている。
ちなみにヴァッシュは白のコットンシャツにブルージーンズ、ウルフウッドは黒のTシャツにブラックジーンズ、靴は二人ともスニーカーというラフな服装だ。
「そんな格好ありなんか…」
「約束どおり生足にサンダルですよ! それに上半身は露出度高めですし!」
喜ぶべきなのか悲しむべきなのか、ウルフウッドは複雑そうな表情だ。
ミリィのような対処方法もあったのか…。メリルは内心後悔した。生足と言われて、ミニスカートをはくものと思い
込んでしまった自分の頭の固さに怒りがこみ上げてくる。
「その服…よく似合うよ」
不意に声をかけられ、メリルは声の主の方へ首を巡らせた。ヴァッシュは頬を染め、あらぬ方向を見ながら頬を掻いている。
「あ、ありがとうございます」
たまにははめられるのも悪くないかも知れませんわね。
小声で礼を言いながら、メリルは心の中で小さく呟いた。先刻までの怒りは雲散霧消していた。
「どれから乗りますか?」
「ワイ、ここ来んの初めてなんや」
「春に新しい絶叫マシーンができたんだよね」
他愛のない話をしながら、四人はチケット売り場へ向かった。



「ヴァ~ッシュウウウウウ~~! !」
いくつか乗り物に乗った後のことである。背後から名前を呼ばれたヴァッシュは、続けて背中に受けた衝撃に思わず前のめりに倒れそうになった。かろうじて転倒するのを堪え、おそるおそる振り返る。抱きついてきた相手が誰なのか、声で判ってはいるのだが。
「ジェシカ…」
「ヴァッシュったらひどおい。せっかくのお休みだから二人で出かけようって思って電話したのに、おばさんに『遊園地に行きましたよ』って言われてすっごいショックだったんだから!」
「…で、追っかけてきたわけ?」
「当然でしょ!」
胸を張るジェシカの姿に、思わず小さなため息が洩れる。
幼なじみとか高校の先輩後輩といった以上の好意を、彼女が持ってくれているのは判っている。
『でも俺は…』
ふと突き刺さるような視線を感じて、ヴァッシュは顔を上げた。恨みがましい表情で自分を睨んでいるブラドと目が合う。
ブラドのジェシカに対する気持ちも知っている。気づいていないのはジェシカだけだろう。
「あ、あははははは…」
もう乾いた笑いしか出ない。
ウルフウッドが苦虫を噛み潰したような表情で口を開いた。
「…トンガリとは幼なじみかも知れへんけど、一応先輩後輩なんやで。先輩呼び捨てにするんはどういう了見」
「ここは学校じゃありませ~ん」
口答えの上にべーっと舌まで出されて、ウルフウッドの拳はわなわなと震えた。
「ウルフウッド先輩、ここはひとつトンビに」
「それを言うなら穏便に、ですわよ、ミリィ」
嘆息した後、メリルはジェシカ達のほうに向き直った。
「折角ですからご一緒しませんこと? 大勢のほうが賑やかで楽しいですし」
「いいんですか!?」
何か言いたげなヴァッシュを目で制して、メリルは続けた。
「でも、主将の言葉も一理ありますわ。運動部は割合上下関係にうるさいところですし…。今日のようなお休みの時はともかく、学校では『ヴァッシュ先輩』と呼ぶようにして下さい」
「…はぁい」
渋々ながらもジェシカは肯いた。
六人でコーヒーカップに乗ることになった。ヴァッシュ・ミリィ・ジェシカのグループと、ウルフウッド・メリル・ブラドのグループに別れる。
「さっきはすまんかったな、小っさいマネージャー」
めちゃくちゃに回るヴァッシュ達とは対称的に至極ゆっくりと回るカップの中で、ウルフウッドは小声でメリルに詫びた。
「ほんとすいません、メリル先輩。俺が言ってもきかなくて…」
「いえ…。つまらない理由であの子がつまはじきにされてしまうのは可哀相ですし…」
トライガン学園を甲子園に導いた立役者ともいうべきヴァッシュは、いわば学園のヒーローとなっていた。そんな彼を、後輩でありながら呼び捨てにし、やたら親しげに振る舞うジェシカへの反感が校内に広がっていた。
今日に限らずウルフウッドは何度も注意したし、ブラドもそれとなく言うのだが、ジェシカは聞く耳を持たない。
担任や顧問が話しても言動は直らなかった。何故か生徒会にまで匿名で苦情が来て、副会長としても放ってはおけなかったのだ。
「あ~れ~~、たあすけてぇ~~~…」
「…校内だけでも先輩後輩のけじめを見せれば、少しは変わってくると思いますわ」
聞こえてきたヴァッシュの悲鳴に苦笑しながら、メリルはため息交じりに呟いた。
「コーヒーカップって…過激な乗り物だったんだ…僕はもう乗んないぞ…」
ベンチに腰掛け背もたれに寄りかかったヴァッシュはぐったりした表情で呻いた。顔色が青白くなっている。
「んもうヴァッシュったらぁ、あれくらいで情けないんだから!」
「……」
乗る前と何ら変わらないジェシカにこき下ろされても、反論する気力さえない。
ぐるぐる回していたのはミリィとジェシカ。乗り合わせたヴァッシュは貧乏クジを引いたようなものだ。
「一緒に乗った相手が悪かったな、トンガリ」
「…あれ、先輩は?」
こちらも元気なミリィが辺りを見回して首をかしげた。そう言えばメリルの姿がない。
「あそこだ」
ブラドの声に四人は一斉に同じ方向へ目を向けた。メリルが息を弾ませて走ってくる。
「せんぱ~い、迷子になっちゃったかと思いましたよぉ」
「ごめんなさい、勝手に離れて」
メリルは手にしていたものをヴァッシュに渡した。濡らしたハンカチと、缶ジュースが二本。
「レモンスカッシュとグレープフルーツジュースですわ」
「…ありがと」
彼女の思いやりに何とか答えたい。ヴァッシュはそれだけ言うと、気力と根性で微笑んだ。

     







++++++++++





trouble of the amusement park



しばらく休んでヴァッシュの回復を待った。五人で遊んできて、とヴァッシュは言ったが、そういう訳にもいかない。
観覧車などおとなしめの乗り物に乗った後、園内のレストランで昼食を摂ることにした。
注文したエビピラフが届くと、ウルフウッドは鞄からタバスコを取り出した。たっぷりとふりかけ、まんべんなく混ぜる。
「旨いで」
見た目にも辛そうな真っ赤なピラフをウルフウッドは平然と食べている。
「噂にゃ聞いてたけど…本当に辛党なんですね…」
ブラドが思わず呟いた。ミリィとジェシカも信じられないといった表情で呆然としている。
「こいつ、学食でもうどんのつゆが真っ赤になるくらい七味唐辛子入れるから」
ヴァッシュは笑いながら補足した。最初は驚いたがもう慣れてしまった。
「去年の冬合宿の時は苦労しましたわ。顧問の先生と私を入れても十二人でしたけど、献立が…」
「ウルフウッドだけスペシャルメニューだったよね」
その言葉に、顔を曇らせたメリルがため息をつく。
「味見ができませんでしたわ」
「僕も一口貰ったけど、辛いを通り越して舌が痛かったよ。その後自分のご飯食べても味なんて判んなかった」
「甲子園出場のお陰で、夏合宿は去年よりも短期間になるでしょうけど…今年はどうしましょう…」
今から先が思いやられる。メリルは再びため息をついた。
「先輩、鍋とか焼き肉はどうですか? タレだけ特別製にすれば手間はかかりませんよ!」
「真夏に鍋はちょっと…でも焼き肉はいいアイディアですわね」
メリルに誉められミリィは破顔した。
「一応マネージャーの宿題ということにしておきましょう。ミリィ、ジェシカさん、お願いできます?」
「はい」
去年のスペシャルメニューを後輩に説明するメリルに、ヴァッシュは優しい視線を向けた。
「何見とれとんねん」
「いやあ、わがままな主将のお陰でマネージャーは苦労して大変だなぁって思ってたトコ」
「さっきコーヒーカップで気持ち悪なって、マネージャーに迷惑かけた奴に言われたないわ」
無言の睨み合いの後、二人はそっぽを向いた。
一部に険悪なムードを残しながらも食事は終わった。
「次どれ乗ります?」
ジェシカが広げた園内マップをミリィとブラドが覗き込む。メリルはヴァッシュにちらりと視線を走らせてから三人に提案した。
「食事をしたばかりですから、きつい乗り物は避けたほうがいいと思いますわ」
「そうですね」
「その前にちと頼まれてんか」
ウルフウッドは紙幣をジェシカに渡した。
「確か向こうのほうにアイスクリームのワゴンがあったんや。さっきのピラフ辛すぎてな、デザート代わりに甘いもん食いたいねん。みんなの分こうてきてくれるか?」
この時、ヴァッシュとメリルが僅かに眉を上げたことに一年生は気がつかなかった。
主将の使い走りをさせられるのは癪だが、アイスのおごりは魅力的だ。ジェシカは肯いて走り出した。
「ブラド、おどれも行け」
「え?」
「一人で六個は大変やろ。手伝ったり」
「はい、行ってきます!」
ブラドが嬉しそうに後を追う。二人の姿はすぐに人込みに消えた。
「さて、移動するか」
「…やっぱりそのつもりだったんだ。キミは甘いものは果物以外食べないもんね」
「四人で遊園地、がおどれの希望やったやろ?」
「ジェシカと二人きりになれたらブラドは喜ぶだろうけど…恨まれるよ、キミ」
「慰謝料のアイス六個、支払い済みや」
その後、四人に巻かれたと気づいたジェシカはアイスを全部やけ食いして腹痛を起こし、ブラドに付き添われて家に帰った。



しばらく絶叫系以外の乗り物に乗ったり、土産物屋を冷やかしたりした。メリルとミリィは遊園地のイメージキャラであるつぶらな瞳の黒猫がいたく気に入ったらしい。マグカップなどを手に取って楽しそうに見ている。
「かわいいなぁ…買っちゃおうかな…でもなぁ…」
黒猫のぬいぐるみを目の高さまで抱き上げ、ミリィはずっと悩んでいた。
「…そういうのが好きなんか?」
「はい。でも買っても姪っ子に取られちゃうかもって思うと、踏ん切りがつかなくて…」
ウルフウッドはミリィの手からぬいぐるみを取り上げると、すたすたとレジへと歩いていった。ミリィが慌ててその後を追いかける。
「ウ、ウルフウッド先輩?」
「今日の記念にプレゼントするわ。そのかわり、姪っ子に取られんようにしてくれ」
「…ありがとうございます!」
そんな二人を横目で見ながら、ヴァッシュは傍らのメリルに話しかけた。
「キミはぬいぐるみとか買わないの?」
「ええ。部屋には人形の類は置かないことにしてますの」
「そう…」
ヴァッシュの顔が僅かに曇った。
結局、買い物をしたのはウルフウッドだけだった。
「あれ、何かあるのかな?」
店を出た四人の横を、子供達が歓声を上げながら走り抜けていく。それを見送りながらヴァッシュは誰に言うともなく呟いた。
「えと…向こうのイベント広場でアトラクションがあるみたいです」
「アトラクション?」
ミリィは子供達に絶大な人気を誇っている特撮番組のタイトルを挙げた。
この遊園地では、土日と祝日はその番組のアトラクションをやっていた。
「ふーん、そんなのがあるんだ」
ヴァッシュもウルフウッドも毎日練習に明け暮れていてテレビを見る暇なんてない。何かと忙しいメリルも同様だ。
「詳しいんやな、おっきいマネージャー」
「甥っ子と姪っ子がたくさんいますから。自然と詳しくなっちゃうんですよぉ」
「きゃあっ!」
不意にメリルの悲鳴が聞こえ、ヴァッシュは首を巡らせた。隣にいた筈の彼女の姿がない。慌てて周囲を見回す
と、全身黒ずくめの人物がマントを翻しつつメリルを引っ張って走っていくのが見えた。
「何や、あれ…」
奇抜としか表現できない服装にウルフウッドがぼそりと呟く。
「ブラックキングです!」
「…あ?」
「さっき話した番組って、地球を支配しようとしている悪の組織があって、それと戦う正義のヒーローがいるんです。
あれは悪の組織の親玉なんですよ!」
「ほならこれもアトラクションの一部なんか」
「…でも…イベント広場って…向こうだろ?」
ヴァッシュが指差したのはメリルが連れ去られた方向とは全く違う。
「…まさか…先輩!?」
三人は慌てて後を追った。
走りながら、ヴァッシュは遊園地のスタッフの動きが慌ただしいことに気づいた。耳をそばだて、会話の断片を
拾う。役者。衣装。ブラックキング。気絶。――ブラックキング役の役者が気絶させられ衣装が盗まれた、といったところか。
『やっぱりアトラクションなんかじゃない…メリル!』



「ちょっとっ、一体何なんですの!?」
転ばないために訳も判らず走りながら、メリルは声を荒げた。が、黒ずくめの人物は高笑いをするだけで立ち止まろうとしない。顔がマスクで覆われているため、その笑い声もひどくくぐもって聞こえた。
『でも、私はこの声を知っている…誰?』
客の大半はアトラクションが行なわれることを知っているのだろう。二人の進行方向にいる人はすぐに道を譲って
くれる。
「あっ、ゆうかいだ!」
「ブラックキングがお姉ちゃんをさらってく!」
「ゴールドナイト、早くきてー!」
子供達の声が聞こえて、メリルにも何かのイベントの一環だという見当はついた。しかし何故自分なのか。子供向けのイベントなら、人質役も子供のほうがいいだろう。
「メリル! !」
背後から聞こえたヴァッシュの声に、ブラックキングははじかれたように足を止めた。
「ヴァッシュめ、また僕の邪魔をするのか」
「! !」
小さな独り言をメリルは聞き逃さなかった。
ブラックキングは左腕でメリルを抱きすくめ、奇妙なデザインのナイフらしき武器を右手に持ちメリルに突きつけた。
「止まれ! さもなくばこの女の命はないぞ!」
まさか本当に怪我をさせるつもりはないだろうが、武器にはかなり鋭い突起などもある。万一メリルを傷つけるようなことがあったら…三人は仕方なく足を止めた。
「ひきょうものー!」
「ゴールドナイト、早くやっつけて!」
無邪気な野次と声援が飛び交う中、ブラックキングはじりじりと後退していく。背後にはミラータワーと呼ばれる高さ
十メートルほどの直方体が建っている。鏡の迷路のような施設だが、今日はメンテナンスの為稼動していない。
ブラックキングはメリルを連れて外壁清掃用のゴンドラに乗った。何やらパネルを操作する。
「メリル! !」
一気に距離を詰めたヴァッシュの前で、二人を乗せたゴンドラがゆっくりと上昇していく。
ヴァッシュはいったん立ち止まった。その場に屈み込み、姿勢を低くしたままダッシュして――跳んだ。
ゴンドラの柵を掴み、かろうじてぶら下がる。ゴンドラ全体がひどく揺れメリル達は離れた。
「逃がさん!」
ブラックキングがメリルに詰め寄る。
ヴァッシュは鉄棒の要領でゴンドラに飛び乗った。メリルの襟元を掴んでいる黒い腕を引き剥がそうとする。
派手な音と共にブラウスが破れ、ヴァッシュ達とブラックキングの距離が開いた。
『今だ!』
ヴァッシュはメリルを抱き上げ、四メートル近い高さから飛び降りた。メリルが短く悲鳴を上げ、ヴァッシュの首にしがみつく。
「そのまましがみついてて」
見事に着地すると、ヴァッシュは小声でメリルに耳打ちしてからきっとゴンドラを睨んだ。
これだけ人が集まっているところで、服を破られたメリルを晒し者にできない。
「この決着はいつか必ずつけてやる! !」
大声で怒鳴りつけると、ヴァッシュはメリルを抱き上げたまま走り去った。子供達のひときわ大きな歓声が上がる。
「やっぱりゴールドナイトはすごいや!」
「あんまり似てなかったし変身しなかったけど、かっこよかったよな!」
ウルフウッドとミリィは、自分達の半分ほどの身長しかない子供達に囲まれて身動きが取れずにいた。
「なあ、おっきいマネージャー」
「はい?」
「ゴールドナイトって、ひょっとして…」
「金髪です」
軽い目眩を覚えつつ、ウルフウッドは園内マップを開いた。
「ワイはブラックキングとやらを追っかける。トンガリ達は多分ここにおる筈や。後から合流するさかい、先に行っとって
くれ」


     




++++++++


trouble of the amusement park




「ここまでくれば…大丈夫…かな…」
息を切らして全力疾走していたヴァッシュは、ある建物の裏手でようやく立ち止まった。ミラータワー同様、そこもメンテナンスの為今日は稼動していない。ここなら客やスタッフが近づく可能性はかなり低いだろう。
メリルをそっと地面に降ろす。途端に平手打ちが飛んできた。
「な」
「どうしてあんな危険なことをしたんですのっ! !」
抗議しようとしたヴァッシュの声は、メリルの涙声に遮られた。
「動いてるゴンドラに飛び乗って、あんな高いところから飛び降りるなんて…しかも私を抱き上げて…どうして…どうして! !」
「それは…」
キミがひどい目に逢わされるかも知れない。そう思ったら勝手に身体が動いた。危険かどうか、なんて考えてもみなかった。
メリルは泣きながらヴァッシュの胸倉を何度も拳で叩いた。
「あなたがもし怪我をするようなことがあったら…あなたに万一のことがあったら…私…」
「メリル…」
涙に濡れた菫色の瞳と優しい光を湛えたブルーグリーンの瞳が見つめ合い――
突然ヴァッシュは首をのけぞらせるようにして上を向いた。
「あ、あのさ…キミが怒るのももっともだけど…お説教は後にして貰えないかな。…その…目のやり場が…」
メリルは慌てて両手で破られたブラウスを押さえた。
「ちょっと待って」
言いおいて、空を見上げたまま自分のシャツのボタンに手をかける。
「駄目です!」
メリルの鋭い声が飛んだ。
「ピッチャーが肩を冷やすなんて言語道断ですわ!」
「…」
さっき俺のことを心配したのは、野球部のマネージャーとしてなのか?
…訊いてみたい。でも…答えを聞くのが恐い。
その時ミリィの不安そうな声が聞こえてきた。
「せんぱ~い…ヴァッシュせんぱ~い…ここにいますか~?」
「ミリィ、こっちですわ」
メリルの声を聞きつけて、ミリィが顔を出した。
「ああよかった。ウルフウッド先輩の言ったとおりで」
「あいつが何か言ったの?」
「先輩とヴァッシュ先輩はたぶんここにいる筈だから先に行ってくれって」
さすが名バッテリーですね。そう言ってミリィはにっこり笑った。
「先にって…ウルフウッドさんは今どこにいますの?」
「ブラックキングを追いかけるそうです」
『気がついたのかしら…』
メリルは僅かに眉根を寄せた。表沙汰になるとまずいことになるかも知れない…。
「ウルフウッド…ずるいよ、一人でけりつけに行くなんて」
この決着はいつか必ずつけてやる、と啖呵を切った。あれは俺の本音だ。できることならウルフウッドと合流したい。
…でも、メリルがまた絡まれない保証はない。もしこれが彼女を狙ってのことなら傍を離れるのは危険だ。
「キミに頼みがあるんだけど」
ミリィに自分の財布を渡しながらヴァッシュは言った。
「はい?」
「彼女、ブラウス破られちゃってね。あのままじゃ歩けないから、着替えを買ってきて欲しいんだ。女物の服は僕じゃ判らないし」


植え込みの陰に男が屈み込んでいた。全身ずぶぬれで息が荒い。
「…こないなところで何しとんねん」
降ってわいたような声に男がぎくりと振り向く。数歩近づいて、ウルフウッドは練習終了直後のようなひどい汗の
匂いに気がついた。
「お前は野球部の…」
「これはこれは、我らが生徒会長殿ではございませんか」
わざと標準語で言う。
「それとも、ブラックキング様とお呼びするほうがよろしいですか?」
メリルの口調を真似るウルフウッドの目は笑っていない。
「…あんたやったんか。うちのマネージャーかっ攫ってくれたんは」
「な、何の話だ」
「ほなら何でそないに汗かいとるんや?」
キールが返答に詰まる。
「この暑い中あんな全身黒ずくめの格好で走り回りゃ、そら汗だくにもなるわな」
「僕は何も」
しどろもどろの言い訳は、黒く輝く瞳の前にあっさりと打ち切られた。
不意にウルフウッドが笑った。爽やかな笑顔に、かえってキールの背筋が凍りつく。
ウルフウッドは鞄から取り出したものを左手に持つと、無言のままキールに歩み寄った。軽く肩を小突かれ尻餅をついたキールの鼻を右手で乱暴につまんで仰向かせる。
「何を」
呼吸と文句を言うために開かれた口に、ウルフウッドは手にしていたものの中身を一気に流し込んだ。
それはまだ半分ほど残っていた、辛党である彼の必需品。
「! !」
吐き出そうにも顔が上を向いていてできない。必死にもがいたが、野球で鍛えた男の腕を振りほどくことはできなかった。
相手が全部飲み込むのを待って、ウルフウッドは手を離した。灼けるような熱さと痛みに、キールは目に涙を浮かべ口を覆い声にならない悲鳴を上げて地面を転がる。
ようやく落ち着いた生徒会長を睨み据えると、ウルフウッドは声色だけは明るく言った。
「おどれがしたことが学校にばれたら、よくて停学、悪けりゃ退学やろな」
キールの身体がこわばった。
「…安心し、このことは誰にも言わへん。けどな、勘違いするんやないで。アンタの為やない、ワイらの為や」
眼光でダメ押しする。キールはうずくまったまま動けなくなった。
踵を返して歩きながら、ウルフウッドはひらひらと手を振った。
「わざと噴水にでも落ちるほうがええで。そないに汗臭いと社会の迷惑、電車で帰れんわ。この天気やったら風邪も引かんし、服かてすぐ乾くやろ」



ミリィと入れ違いにウルフウッドが合流した。ヴァッシュの背に隠れるように立つメリルに怪訝そうな顔をする。
「あいつにブラウス破られたんだ。今、ミリィに着替えを買いにいって貰ってる」
ヴァッシュの説明にウルフウッドは顔を顰め舌打ちした。
「…手ぬるかったわ。二・三発ぶん殴っときゃよかったで」
「会ったのか!?」
無言のまま肯くウルフウッドにヴァッシュは険しい表情で詰め寄った。
「教えてくれウルフウッド、誰なんだあいつは!?」
「…聞いてどうするつもりや?」
「決まってるだろ!?」
怒鳴って殴ってケリ入れて。服も弁償させて。
「ヴァッシュさん! !」
メリルはヴァッシュの腕にしがみついた。
「もし…もし私の為に怒ってらっしゃるのなら…いいんです、気にしないで下さい。私は怒ってませんから」
「だけど!」
「おどれがここで問題起こしたら、甲子園出場辞退せなならなくなるんやで」
「!」
「…皆で…皆で頑張ってここまで来たんです。…こんなつまらないことで駄目にしたくありません…」
ヴァッシュは自分を見上げるメリルを見つめた。
去年、部員が九人しかいなかった時からずっと影になり日向になり助けてくれた。試合が近づくと、毎朝学校の近くにある神社に必勝祈願をしていたのも知ってる。長い石段は野球部のジョギングコースに組み込まれるほどだ、昇るのはかなり大変な筈。
部員だって、あれだけきつい練習に歯を食いしばって耐えてきた。
そして勝ち取った甲子園への切符。自分が短絡的な行動をすればそれが消えてしまう。
ヴァッシュの腕から力が抜けた。
「それにな、一応礼はしといた。ちと手ぬるかったけどな」
「何をしたんですの?」
ウルフウッドは空になった瓶を見せながら顛末を話した。
「タバスコ半分…一気に…」
「それは…」
小さく呟いて二人は絶句した。
「灼熱地獄アーンド地面のた打ち回りの刑や」
ウルフウッドは悪びれない。三人は誰からともなく笑った。
「ただいま戻りましたぁ! あ、ウルフウッド先輩来てたんですね」
ミリィはヴァッシュに財布を返し、メリルに紙袋を差し出した。
「はい先輩、かわいいですよ!」
悪い予感にかすかに口元をこわばらせながらメリルは紙袋を開けた。出てきたのは黒猫が大きくプリントされたTシャツ。自分に着こなせるとは思えない。
「ねっ、かわいいでしょ!」
「…ええ、そうね…」
三人が背中で作った壁に隠れてメリルは着替えた。
「サイズ…ちょっと大きすぎない?」
Tシャツの肩は落ち、本来半袖の筈が肘まで隠れている。裾もかなり長い。ヴァッシュの控えめな指摘にミリィが身体を縮こまらせた。
「自分のサイズで買ってきちゃいました…交換頼んできます!」
「構いませんわミリィ、もう袖を通してしまいましたし…小さいならともかく、大きい分には困りませんもの」
「ほな帰るか」
「えーっ、あたし花火見たかったのに」
ミリィが残念そうに声を上げた。空はまだ茜色になりかけたばかりで、花火が始まる時間までだいぶ間がある。
「また変なのが出てきて小っさいマネージャーにちょっかい出されたら大変やろ」
「私だけ先に帰りますから、皆さんは花火まで見てから」
「駄目だ! あいつが尾けてこないとも限らない。家まで送るよ」
「じゃみんなで帰りましょう。花火はまた見に来ればいいんですから」
エピローグ


東の空に星が輝く頃。
「ごめんなさいヴァッシュさん、遠回りさせてしまって…」
自分の家の前でメリルは深々と頭を下げた。
「気にしないで。僕がそうしたかったんだから」
駅でウルフウッド達と別れた。幸い帰りは何事もなく、無事ここまで来た。
「あの服似合ってたのに…」
「いいんです。ずいぶん長く着た服でしたから」
これは嘘。ブラウスもスカートも今日の為に大急ぎで買ったもの。ゆっくり吟味する時間がなくて、似合うかどうか少し不安だった。
だから、誉められた時は本当に嬉しかった。
「今日はいろいろとありましたけど…」
ぎく。ヴァッシュの身体が硬直した。ジェシカ達のことで気を使わせ、変な奴に絡まれ、服を駄目にされた。そもそも遊園地に行くきっかけと言えばあのイカサマポーカーだ。責任の半分はウルフウッドの話に乗った自分にある。
後ろめたさに彼女の顔が見られない。
「…楽しかったですわ」
ヴァッシュはメリルの顔を見つめた。柔らかい笑顔は社交辞令ではない。
「…うん。僕も…僕も楽しかった」
ヴァッシュもとびきりの笑顔を返した。
「それじゃ明日学校で」
「またね」
星が賑やかに煌く頃。
「何でワイは今日もここ昇っとんのやろ」
トライガン学園の近くにある神社の石段を昇りながらウルフウッドはぼやいた。訳も判らずミリィに引っ張られてここに来たのだ。
「明日っからまたぎょーさん昇らなあかんのに…」
「ウルフウッドせんぱーい、早く早く! 始まっちゃいますよお!」
境内から自分を呼ぶミリィの声がする。ウルフウッドはペースを上げ、一気に石段を昇りきった。
「始まるって何がや」
「あれです!」
ミリィが指差すタイミングに合わせたかのように、一発目の花火が上がった。かなり遅れて低い音が届く。
「電車の中で先輩に教えてもらったんです。ちょっと遠くなるけど、あの遊園地の花火を見るならここが穴場だって」
「…綺麗やな」
「はい!」
それから二人はしばらく無言のまま花火に見とれていた。
不意に腕に感じたぬくもりに、ウルフウッドは首を巡らせた。ミリィが自分に寄り添っている。
「また遊園地に行きたいですね」
「せやな」
「…花火…今度はもっと近くで見ましょうね」
「…せやな」
そん時は、アンタと二人っきりがええな。
深夜に近い時刻。
机に向かって練習メニューの見直しをしていたメリルは小さく欠伸をした。
「もう寝ましょうか…明日は早いですし…」
手早く机を片づけ、コットンのワンピースから着替えようとパジャマに伸ばした手が不意に止まる。
ベッドの上に置かれているのは黒猫模様のTシャツ。メリルは代金を払うと言ったのだが、ヴァッシュは頑として受け取らなかった。
選んだのはミリィですけど、スポンサーはあの人。
「これも…プレゼントって言えるのかしら…」
呟いて、苦笑する。
メリルはTシャツに着替えると、電気を消してベッドに潜り込んだ。
その夏、彼女の自宅での寝間着がぶかぶかTシャツになったのは、本人のみが知る事実。

―FIN―


   


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