忍者ブログ
Admin*Write*Comment
うろほろぞ
[880]  [879]  [878]  [877]  [876]  [875]  [874]  [873]  [872]  [871]  [870
×

[PR]上記の広告は3ヶ月以上新規記事投稿のないブログに表示されています。新しい記事を書く事で広告が消えます。

vvm


訪問者

注:このお話は、我がサークル発行の「胸に咲いた黄色い花」の設定がベースになったオフィスラブパロディ話の後日談です。しかし読んでない方にも判るように解説致しますと、オフィスラブ厳禁の職場内しかも遠距離恋愛の末結婚したヴァッシュとメリルの新婚家庭に双子の兄であるナイブズが遊びに来たというパロディものです。心してお読み下さいませ。


 壁紙は薄い紫のわすれな草をちりばめたものだった。
 どっちの趣味だか知らないが――いやアイツの趣味だとは思いたくないから目の前で紅茶を容れている女の方の趣味なのかもしれないが、どちらにしろ壁紙に模様が入っているのはどうかと思う。
 そもそも、家というものは長く住むものであるのからして、なるべく飽きの来ないシンプルでなものあることが望ましく思うのだが、そういう理念はないのであろうか。
 だいたいこの壁紙は随分と柔らかい感じがする。今は二人で暮らしているのだろうから問題はないだろうが、もし子供が産まれてそれが男の子だったりしたらこの柄はどうだろうか。
 そもそもドアや柱のこの木目のアイボリーの安っぽい合板はどうにかならないのか。
 このディセムバは多少物価は高いがかわりに物資なども豊富だ。それならばもうちょっと選びようもあるだろうに、何故よりによってあからさまに合板だと主張しているような建具を使うのか理解に苦しむ。
 選ぶというならそうだ、そもそも何故この家は2LDKなどといった造りになっているのだ。一部屋は寝室で一部屋は女の仕事場になっているという。
 今はいい。しかし先も述べたように子供が産まれたらいくらなんでもこれは狭すぎはしないだろうか。
 だいたいこいつらには明確な将来設計というモノが存在しているのだろうか。いやこの女はしっかりしているから何らかの展望を持っているのかもしれないが、アイツにそんな遠大な計画が持てるとも思えない。
「お茶が入りましたけれども、ミルクとお砂糖はどうされます?」
 陶磁器がわずかに触れる音をさせて、女が俺の前に白いティーカップを置いた。
「ブランデーがよろしければ、ありますけれども」
「いや、何もいらない。気をつかわないでくれ」
 片手を上げて合図すると、にこりと微笑んで女は台所に戻っていった。
 このティーカップは趣味がいい。指で弾くとガラスのような音がするほど薄い材質だが、ほっそりとした柔らかなカーブを描いている。また、色が目にきつすぎないオフホワイトなのがいい。しかしこうも白いと茶渋をつけたりしたら台無しだ。手入れには細心の注意を払うべきであろう。
 一口含む。渋くもなく、舌に柔らかい。きちんと紅茶のうまみ成分であるタンニンが抽出されている証拠だ。口に入るものならなんでも喜ぶアイツにはこの味は勿体ないのではないだろうかと思えるほどの腕前だった。
 半分ほど飲み干してからもう一度壁に目が止まった。わすれな草の壁紙。そうだ、これはよした方がいい。
 いやそもそも、長期展望を考えるのであれば、郊外に一戸建てでも購入した方がいいのではないだろうか。もしこの家が借家なら、壁紙を張り替えるのも面倒くさいであろうし、何よりいつか引っ越すつもりであるなら張り替えるだけ労力と資源の無駄と言うものだ。
 そうだな、郊外に一戸建てというのはいいかもしれない。庭のついた家は昔からあちこちのアパートを点々としてきた俺には無縁のものだった。あいつはハーブやプランターの花を世話をしたりするのが好きだから、きっと庭も喜んで手入れするだろう――いや俺の話はどうでもいい。
 しかし週末だから家にいるだろうと思って尋ねてきたのに、アイツがいないというのはどう言うことだろう。昼過ぎには戻ってくると思いますけれどと女は言っていたが、確か女はベルナルデリ保険協会の仕事を続けているはずだ。それならば今日は一週間ぶりの休日であるだろうに、しかも結婚したのはつい二週間前だというのに、仕事を辞めたはずのアイツが家にいないというのは問題ではないだろうか。
 まさか休日から賭け事などに精を出すような事もないだろうと思うが――そもそも、このしっかりした女がそんなことに財布の紐を緩めるようにも見えない。
 壁紙は気になるが、ひとまず不在の理由だけでも問いただしてみようかと台所の方を振り向いたとき、玄関のチャイムが鳴った。
「どもークロネコサマ宅配でーす!」
 ――自分の家に何の荷物を持ってくる気だ。イヤその前に何かの冗談か?
 チャイムの音に台所から出てきた女も、何やらこめかみのあたりを押さえながら扉のロックを外して帰ってきた人を迎え入れた。
「ごめん、間違えた。ただいま」
「間違えた、じゃあありませんわよ、ヴァッシュさん。何事かと思いましたわ」
「いやーなんか玄関見たらそういわなきゃいけないような気がして……お客様?」
「ええ、ナイブズさんが来て下さって……」
 とたんに弟は狭い廊下を突っ切って俺の居るリビングまで駆け込んできた。
「な……何しにきたんだよ――!?」
「何って、レムが様子を見てこいと言うのでな。ああ、レムからの預かりモノはもう渡してあるから後であらためろ」
「あらためろって……連絡くらいしろよ、今日は早番だったから帰って来れたけど」
「別にお前の顔を見に来たワケじゃないからな」
 言って、残りの紅茶を飲み干す。何やら爆発寸前になっている弟を、女がまあまあとなだめている。
「ナイブズさん、御夕飯は召し上がっていってくださるでしょう? せっかくお久しぶりにお会いできたんですもの、兄弟水入らずで話でもしていて下さいな」
 言いながら、軽いアルコールと和え物を手際よくテーブルに並べられてしまった。
「メリル、昨日も遅かったんだからそんなことしなくても」
「あら、今朝はちょっと御寝坊しましたから大丈夫ですわよ」
 俺の向かいに腰掛けて、気遣う弟に笑ってみせてから、女はお盆を抱えてまた台所へ引っ込んでしまった。
「あーあもう。本当に食ってくのか?」
「ああ言ってくれてるんだ、無下に断るなとレムからもきつく言われてる」
「あそ」
 がくりと弟は肩を落とした。
「それよりお前、なんの冗談だったんだ、さっきのは」
「冗談?」
 しばらく考え込んでから、ぽんと両手を打つ。
「ああ、さっきの? 今宅配便のバイトしてるんだ。まさかメリル一人に働かせるわけにいかないしね」
「……そんな情けない真似をして見ろ、レムがなんというか」
「考えるだけでも怖いからその先は頼むから言わないでくれ」
 一息で俺の言葉を遮ると、ヴァッシュは麦酒の瓶を俺に向けて差し出した。まあいいかと、グラスを取り上げるとなみなみと注がれる。
「レムは元気? ああ、御礼も言わないと、結婚祝いにこのソファーくれたんだよ」
「そんなことは自分で言え」
「レムも君も世界中飛び回ってるくせに……どうやって会いに行くんだよ」
 和え物は一瞬舌に辛みがあるが、後には残らないなかなかの味具合だった。つくづく胃に入ればそれでいいこの弟には勿体ない。
「ああヴァッシュ、お前いつまでここに住むつもりだ? 直に手狭になるだろう」
「手狭って……」
 首を傾げる。
「別に、そんな今のままで家具も足りてるし、十分広いくらいだけど」
「馬鹿者。子どもが出来たらそれどころではないぞ」
「……気が早いよナイブズ……」
 肩を落とす弟をグラスを傾けながら眺めやって俺は溜息をついた。よくこの弟にあんなしっかり者の嫁さんが出来たもんだ。
「その時はその時で考えるよ。この家も借家だし、契約切れたら出ていかなきゃならないし」
「そうか借家か。それならいいんだ」
 この壁紙はよした方がいい。
 何がいいんだと不思議がっている弟は放って置いて、俺は麦酒の二杯目をグラスに注いだ。

 晩飯は美味であった。食器もシンプルだが品のいい、同じブランドというわけでもないのにどこか雰囲気の統一されたものばかりで好感が持てた。
 どうも、食器やなんかを買っているのは女の方らしい。さもありなん。あの弟にそんな真似は不可能だ。
「まあ、長期的に考えるなら、一戸建てでもちゃんと探しておくんだな」
 辞去する際にそう述べると、弟はハイハイと肩をすくめた。
 判っているのか本当に。あの壁紙はよした方がいい。

 おしまい。

PR
vvmm * HOME * vv
  • ABOUT
うろほらぞ
Copyright © うろほろぞ All Rights Reserved.*Powered by NinjaBlog
Graphics By R-C free web graphics*material by 工房たま素材館*Template by Kaie
忍者ブログ [PR]