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q2
「殿下… そんなに怒らないで下さいよぉ。 こっちゃぁ無い脳みそ絞って、なんか気の利いた台詞を思い
付こうとしてんですから。」
「それで、か?!」
「俺にはこれが限界ですよ。 でも殿下。 こんな事ぐらいで殿下が泣いてちゃ、おかしいですぜ? 俺の
知ってる殿下は、あんな奴等の言う事なんざ気にも留めねぇで、自分の思った通りにするお方ですよ。 
貴族なんか何人束になったって、クシャナ殿下に敵いっこありませんからね! 奴等が何を企んだって、
嗅ぎ出して見返してやりゃぁ良いじゃないですか。」
微動だにせず立っているクシャナに、クロトワは自分の言葉が通じた事を確信した。
「殿下。 早くいつもの殿下に戻ってくれないと、外の護衛兵に逮捕されちまいますよ? あいつら、融通が
利かねぇから、元気無い殿下を見たら『クシャナ様に成りすましたふとどき者ぉ~!』なんつって、牢に叩き
込みかねませんぜ?」
「フッ。 フフ。 それは困るな。」
「そうですよ!」
「…済まぬ、心配をかけた。 だがもう、大丈夫だ。」
「そりゃぁ良かった。 …アッ! 待てよぉ…」
「ん? どうした?」
「そうなると、今夜飲み明かすってのは、ナシになるんですかねぇ?」
「バッ・馬鹿者!」
言葉とは裏腹に、クシャナの顔にはようやく笑いが戻った。
「そんなに酒が欲しければイヤと言う程くれてやる! 飲み過ぎて体を壊しても知らぬぞ!」
「ヘィ、そりゃありがてぇ…」
「盛大にやるぞっ! ゼストの古狸どもに見せ付けてやる… これしきの事、このクシャナには屁でもないと
な!」

「…殿・下ァ。 俺が一番の悪影響だってのは、百も承知ですがねぇ…」
「…。 そうだな。 お互い、少し気を付けた方が良いな。」
「御意に。」






認定書の束に取り掛かるクシャナを残し、クロトワはその晩の宴会の準備に城内を回った。
「おい、マシャ!」
「あ・クロトワ様。 何か?」
「おめぇ今夜は非番だろ?」
「はい。」
「ちょうど良かった! 殿下が平民兵集めて、宴会すんだ。 おめぇ、いつだったかクレネや将軍達の物
真似やってたろ? 今夜殿下にも見せてくれよ。」
「エエェッ! で・殿下に?! 宜しいんですか、そんな…」
「あぁ。 今日は貴族連中に腹ぁ立ててらっしゃるんだ。 思いっ切りアクドクやっていいぞ!」
「は・はい! 練習しておきます!」
「おぅ、楽しみにしてるぜ!」
貴族に占められた軍幹部の中で、ただ一人平民出身のクロトワは、それだけでも平民兵に人気があった
であろうが、いつもまめに彼等と付き合ったり世話をしていたので、圧倒的な人望を集めていた。 殿下の
右腕的存在でありながらも気取らず(と言うよりは、言葉遣いも直さず)、部下は皆平等に扱うので、その
人気は貴族出身の兵にも及んでいた。






次は食事の用意に調理場へ行った。
「シェケル調理長、今夜殿下が宴会開くんだ。 なんか美味いモン作ってくれねぇか?」
「宴会? 久しぶりだなぁ。 なんか考えとくよ。」
「おっ! 期待してるぜ。 それと、酒はそんな上等なんじゃなくてもいいんだ、殿下の以外は。 今日は
俺等平民を寄せ集めるんだ。」
「へぇ、どう言う風の吹きまわしだぃ?」
「あぁ、実はな…」
辺りをキョロキョロ見回してから、ちょっと近寄って低い声で続けた。
「ここだけの話だがな、ゼストの連中が花婿候補の名簿突き付けてきたんだ。 殿下はそりゃ~ご立腹で
なぁ!」
「なんてこった! そりゃ当たり前だな。 殿下もお可哀そうに…」
「まぁ、そんな訳で今は貴族一般に当て付けたいお気持ちなのさ。 お陰でこっちはお前さんの手料理に
ありつけるが、これから婿選びで一騒ぎありそうだぜ。」
「そりゃそうだな! いやぁ、いったいどうなる事やら…」
今日の出来事は、ゼストの役員だけでなく、クシャナが部屋を荒らした時に外にいた護衛兵からすぐに
町中の噂になる事は必至。 だが噂話が何よりの楽しみと自分でも認めるシェケルに、その情報をいち
早く教えたのは、点数を稼ぐ為であった。 王宮の家事を取り仕切る調理長の機嫌を取っておけば何かと
便利であると、クロトワは経験上知っていたからである。 それに何と言っても、クロトワは美味い料理が
好きであった。






その晩、遅くまで続いた宴会の末、好き放題飲んだ客が危ない足取りで(何人かは仲間に担がれて)帰った
後、クシャナは最後に残ったクロトワに向かって杯を掲げた。
「今宵は楽しかったぞ。 礼を言う。」
「ハッ、ありがたきお言葉!」
「特にあの、将軍連の真似をした…」
「マシャです。」
「そうそう、マシャ。 あれは笑えた! あんなに笑ったのは、久し振りだ。」
満足そうな笑みを浮かべ、片手のグラスを見詰めて寛いでいるクシャナに、クロトワは一瞬、見惚れた。
〝イ~女だよなぁ…〟
すぐにハッとして、視線を逸らすと、クシャナの近くに開けられたワインが一瓶あるのに気が付いた。
「あれ? まだ半分も残ってらぁ。 殿下、もう一杯どうです?」
「あぁ。」
注いでから自分のにも入れて、クロトワは王座の隣の床に胡坐をかいた。 クシャナ用の酒を一口飲んで、
溜息をついた。
「うめぇ~!」
「フフ。 お前が酒を飲む時の顔は、本当に幸せそうだな。」
「そりゃ本当に幸せだからですよ。 美味いモン食って、上等な酒飲んで、殿下のお顔が見られりゃ、これ
以上の幸せはありゃしませんぜ。」
「フッ、うまい事を言う。」
「ホントですよ、殿下! 俺ぁ酒や食いモンが無くったって、殿下のお側にいられりゃぁ、それだけで十分で
すよ!」

「そうか? では給料も要らぬか?」
からかうクシャナを見上げて、クロトワは笑い返した。
「殿下がそうやって笑っててくれるんなら、構いませんよ。 ひもじくたって、忘れちまう。」
「…安上がりなものだな。」
「そりゃそうですよ! 丈夫で長持ち、殺したって死なねぇムシ並みの生命力に、鋼の肉体!」
「プッハッハッハッ!」
腕を曲げて力瘤を見せるクロトワに、思わずクシャナは笑い出した。
「何が『鋼の肉体』だ! 『鼻毛の肉塊』の間違いであろう!」
「あぁ、ひでぇ… 俺ぁこう見えてもデリケートなんですぜ?」
「その顔でよくもそんな事をぬかせるな。 『デリケート』と言うより『バリケード』の方が似合う!」
王座の肘掛に凭れて、クシャナは涙が出るほど笑った。 複雑な気持ちでクロトワは苦笑した。
「ハァ… いいですよ、なんて言われようが、殿下が喜んでくれるんなら… 俺は道化にでもなりまさぁ。」
「道化か。 あいにく、それは間に合っているが?」
涙を拭って言うクシャナに、クロトワは少しズリ寄った。
「じゃぁ、殿下… 俺を番犬にしてくだせぇ。」
「番犬? 私の飼い犬になると言うのか?」
「もうクレネ達はそーだって言ってますからね。 この際開き直って、犬小屋に引っ越しますよ。」
「そうか、番犬か…」
見下ろすクシャナの目は、ほろ酔い気味で、いつに無く優しかった。
「犬にしては利口そうだな。 ほら、お手!」
差し出された彼女の左手にすかさず手を乗せると、またクシャナの笑い声が広間に響いた。
「よしよし、合格だ。 お前を番犬隊長に承認しよう。」
「ワォン!」
「ハハハ…」
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