事の発端は、サニーの珍しい朝寝坊から始まった。
樊瑞はいつもなら自分より先に起きて朝食の席に着いているはずのサニーがいないことに不思議に思い「寝坊か?珍しいことがあるものだ」と彼の屋敷の2階にあるサニーの寝室に向った。
サニーの寝室をノックする。返事が無い。何度かノックしたがやはり返事は返ってこない。念のため「入るぞサニー」と声をかけて彼は寝室に入った。
「!!!!?」
「あ、おじ様おはようございます。ごめんなさい、寝坊してしまって・・・」
そこでようやく起きたのかサニーが眠そうに目を擦る。
「・・・・・・・・・・・」
「おじ様?」
ああ、そう言えば今年の残暑は短かったな、気がつけば秋か。さんまが美味しい季節だ、さんまといえば焼くのも当然にこれまた美味いが刺身にするのが実は最高でな、先日も
(余白)
意識が何処かへおでかけしているのか樊瑞はサニーの前で固まったまま。
「あの・・・おじ様?」
「サ・・・・・サンマ?い、いやいやサニー?サニー・・・・なのか?」
「?はい・・・おじ様?どうなされたのですか?」
「な、な、な、ななななな」
サニーは現在8歳。そう8歳である。いわゆる一般でいうところの少女であり小学生といえる。しかし口をあけて魚のようにパクパクさせている樊瑞の前にいるのは大人に一歩片足を踏み入れたというべき身体のサニー。幼さはなくスッキリとした顔の輪郭、色白で頬は艶々のふっくら。唇は樊瑞が知っている形や色でなく色香さえ漂わせる。目元は少女の面影を残しつつ、濃く長い睫毛が真紅の瞳を際立たせている。
端的に言えばいわゆる超美女。
そして何より樊瑞を凝固状態にさせていたのは、身体が大きくなったせいかやぶけたパジャマから覗く肢体。何をどうすればこうなるのかサニーは少女ではなく女性の身体だった。
油が乗った旬の魚、さんまではない。決してない。
そのことにようやく気づく樊瑞。
そしてサニーもまた自分の今ある姿に気づいたのか、
「きゃあ~!」
屋敷を揺るがす乙女の悲鳴。
見も蓋も無いご都合主義のもと、8歳のサニーは一夜にして18歳のサニーとなった。
樊瑞はその悲鳴にどこからか目覚めたのか自分のピンクのマントを取って真っ先にサニーの身体にかけてやった。このあたりはさすが混世魔王いえる行動かもしれない。
「おじ様・・・私はいったい・・・」
動揺の色を隠せないでいるサニーの目には涙が溜まる。
「だ、だだだだだ大丈夫だ、サニー落ち着きなななさい」
樊瑞はとにかく冷静になろうと頑張った。可愛い我が娘同様のサニーが急な身体の変化に戸惑い、怯えている。そんな彼女をひっしとマントの上から抱きしめてみるが、動揺しまくる自分を誰かに抱きしめて欲しいくらいだった。
しかし、こうして抱きしめるサニーの身体は今の彼には刺激が強すぎる。
幼い体とは分けが違うからだ。
なんというか程よい弾力、なんとも柔らかい。
気のせいか誘うような良い匂いもする、気のせいだが。
最近忘れかけていた何か熱いものが込み上げてきそうな気がするがこんなことで人間を辞めるわけにいかない。樊瑞は鉄壁の理性で最強最悪の敵をねじ伏せた。自分で自分を「うむ!さすがは混世魔王よくやった!」と褒め称えたが少し虚しい。
「ああ・・・どういうことだこれは・・・いや今考えても仕方が無い。まずは服だ、服・・・困ったな・・・サニーの今のサイズに合う服が無いぞ。仕方が無い・・・とりあえず私のマントを巻いていなさい。ああ朝食は他の者は下がらせよう、あまり騒動になるのも問題だろうからな・・・」
樊瑞は後ろを向いて、サニーがマントを身体に巻くのを待った。
ちょっとしたピンク色のドレスのような形に仕上げてサニーはようやく朝食の席についた。2人ともこのあとどうなるんだろう・・・もっともな不安を抱えてベーコンエッグにナイフを入れた。
食後のコーヒーを片手にホットミルクを口にするサニーを見つめる。
朝食を口にしてサニーも少し落ち着きを取り戻した様だった。
最初は動揺で良く見れなかったが、17、8歳くらいだろうか。どうしてこんなことになってしまったのかもちろんわからないが、目の前にいるサニーはおそらく将来あるべき姿。いつかはこうして一人の女性となるのだ・・・そう樊瑞は『後見人』として少々複雑な思いが過ぎる。
そしていつか『好きな人ができたの、おじ様、結婚を許してください!』などとどこの馬の骨ともわからぬ男を連れて来て自分に言ってくるのだろうか・・・いいや、冗談じゃない!そんなことはこの私が許さん、サニーが泣いても許さんぞ、いや泣いたら許してしまうのだろうか、いやいや許さんぞ絶対に許さん、馬の骨から『お父さん!サニーさんをください!』などと言われようものならありったけの銅銭を口に詰め込んで札を貼り付けてやる!私のサニーに指1本触れさせてなるものか・・・いやいや何を言ってるんだ私は・・・などとどうでもいいことまで一人で妄想を繰り広げ頭をブンブンと振る。
「なに首を振っているのだ樊瑞」
絶好調の妄想劇場のさなか、後ろを振り向けば残月がポカーンと口をあけていた。
「・・・・!ざ、残月!お主いたのか!」
咄嗟に妄想の延長あった謎の桃色のモヤを消し去り突然の残月の登場に驚く。しかし残月からすれば今日この時間に自分が仕事の打ち合わせで訊ねると事前に言っていたことだし、屋敷に入る前に声をかけても返事は無い、とりあえず入ってみれば樊瑞の頭上には正体不明の桃色のモヤ。何がなんだかである。
「あ、残月様おはようございます」
「やあ、サニーおはよう・・・・ううっ!!!?」
樊瑞は自分の目を覆った。
残月の煙管が落ちる音が室内に良く響いた。
「どういうことだ、これはっ」
どうして自分がこの覆面男から手厳しく詰問されるのか納得がいかなかったが、突きつけられた煙管を前に樊瑞はうな垂れて小さく「わからん」と言う他無かった。
「サニー、どこか身体の具合が悪いところは無いか?」
「はい、残月様特に何も・・・大丈夫です」
残月はとりあえずは安堵はしたが、あまりに見違えたサニーに正直言葉が出ない。自分よりいくらか年下くらいだろうか、面影が残るそれは確かにサニーが成長した姿。彼は感慨深げに煙管を咥えた。
「しかし樊瑞、いつまでもマントを巻かせるわけにもいくまい、とりあえず今の彼女にあった服を着せてやるがいい」
「そう言われてもな・・・ああそういえば丁度良いのがあったかもしれん、サニー少し待っていなさい持ってきてあげよう」
10分ほどして樊瑞が服らしき物を持ってきて、サニーに手渡し、隣の部屋で着替えさせた。そしてサニーは着替えた姿で2人の前に現れた。
「おい樊瑞・・・なんだこのサニーの格好は」
「これしかなかったのだ」
いつもどおりピンクのマントを身につけ樊瑞は真顔で答える。
「・・・・何故『これしかなかった』のだ、いや、いい聞きたくない」
それはいわゆる「メイド服」。ゴシカルな黒の衣装、裾にたっぷりとフリルがついた真っ白なエプロン、頭にはやはりフリルがあしらわれた例のメイドハット。それはどこから見てもメイド服以外の何者でもない。メイド服と言っても絶対領域を残した白タイツ、それにやけにフリルが多く、無意味にスカートが短いあたり健全目的でないことが残月でも容易に知れる。
「おじ様、似合いますか?」
サニーは少々戸惑いながらも愛する『後見人』に自分のメイド姿を見せて感想を求めた。ちなみに彼女は『メイド服』に関して『メイドさんが着る服』というごくあたりまえな認識しかない。
清楚かつ怪しげな色香を漂わせる最強の服を装備した18歳のサニーを前に、LV99の魔王は痛恨の一撃で瀕死。ついでにさっきまで極太だった理性の糸もぷっつりと切れ顔も謎のウィンドウも赤くしながら樊瑞はブンブンと首を縦に振った。
「似合う、似合うぞサニー!!ついでに言えば「おじ様」でなく「ご主人様」と呼んでもらえぬだろうか。その方がこの場合正しい呼び方だと私は思うのだ」
サニーの手を握り締め、いたって真剣な表情でトチ狂った願いを申し出る。
「ご・・・主人様・・・ですか?」
「うむ!そうだっいいぞサニー!!さらに希望を言えば「ご主人様♪」とこう親しげに呼ぶと私はもっと嬉しいかもしれない」
「サニー!!やめなさい、言わなくていいっ」
残月が背後で制する。彼としてはこの異常極まりない光景は耐えがたいものらしい。
「いいではないか残月くん」
そう言う魔王の目は既に正気を失っていた。サニーの手をますます強く握り締め、二度と離さぬものかと云わんばかりの危険な空気を漂わせ、その姿はピンクのマントを身につけたただの変態。
「サニー、おじ様は少々混乱なされている、危ないからこちらへ来なさい」
残月は務めて冷静に手を離させ、サニーを自分の背後にやる。
「な!残月まさかっ貴様~サニーのことを!」
覆面越しにでもわかる青筋が残月の額に浮き上がった瞬間、樊瑞は先端速度が音速を超えるかかと落しを脳天に食らって、地に沈んだ。
「とにかくそれは着替えよう」
「はい、ご主人様♪」
「はは・・・それの呼び方はやめてもらえないだろうか・・・」
残月は引きつった表情で笑うしかなかった。
いくら外見は18歳であっても中身は8歳。このまま狂った大人の煩悩にまみれた格好をさせるわけにもいかず、残月はまだ年若い下級の女性エージェントを呼びつけ無難な日常服を借りた。サニーが着たのはオフホワイトの飾り気のないワンピースと黒のロングカーディガン。残月はまぁこんなところでいいだろうと肩の荷を下ろす。
目が覚めた樊瑞はその姿に残念がったが、とりあえず正気には戻ったらしく年齢に相応しい姿にやはり相好を崩した。
「ごめんなさい残月様、ご迷惑をおかけしてしまって・・・」
「いや、気にしなくて良い、こんなふざけた展開は君自身のせいではあるまい」
どこかでご都合主義という大いなる悪意が働いている、残月は目ざとく察知した。
さすがは十傑集と言うべきか。
「それよりサニー、いつまでもその姿でいるわけにもいかぬだろう原因を調べて元に戻さねばならぬな・・・」
「やはりそうか・・・ははは・・・まぁ少し残念な気もするが・・・」
樊瑞はサニーと顔を合わせて苦笑した。
残月はまず十常寺を呼んだ、十傑一の頭脳を持つ彼なら何らかの手立てを考えつくのではないかと思ってのことだった。ところがである、どこで嗅ぎつけたのか呼んでもいない他の連中も十常寺と一緒にゾロゾロとやってきた。他の連中というのはレッド、カワラザキ、幽鬼、怒鬼、血風連の集団。皆が18歳のサニーを取り囲み驚嘆や感動の声を上げる、しっかり騒動となった状況に残月は頭を抱えた。
レッドは「面白いことになったなぁ」とニヤニヤ楽しげに笑いサニーの鼻をつまんだり目を広げたりおもちゃにしている。そしてふっくらと膨らんだ胸に手をかけようとした瞬間、樊瑞の身体をはった防御を受ける。
「サニーに何をする」
「はっ安心しろ、ただの身体検査だ」
「貴様!私ですらサニーにそんな検査したことないのに!」
レッドに食って掛かろうとする樊瑞を後ろから幽鬼が羽交い絞めにするが、彼としては樊瑞が叫んだ台詞にどこか引っかかるがあえて深く考えない事にした。
サニーを血風連が取り囲み、全員が涙を流しまるで神々しい女神を崇めるかのように膝を折り、樊瑞が必死になってむさ苦しい男どもの視線からサニーを守る。怒鬼は相変わらずの無表情&無言ではあるが気のせいかやや顔が赤いかもしれない。
「ん?こんな時にセルバンテスがいないというのが不思議だが・・・」
こういった騒動をこよなく愛するある意味お祭男のセルバンテス、残月が疑問に思うのも無理は無い。セルバンテスならこういう事態に真っ先に駆けつけて真っ先に大喜びするに違いなかったからだ。ついでにもっと事態をややこしくする男とも言える。
「眩惑は衝撃と一緒に朝から任務だ、そういえばヒイッツカラルドも昨日から別任務だったと思うがな」
「アルベルトもか・・・奴がこのサニーの姿を見たらどんな顔をするか・・・」
カワラザキの言葉に樊瑞はサニーの父親の顔を浮かべ思いつく限りの驚愕の表情をさせて頭の中で遊んでみた。なかなか拝めない貴重な顔だ。
とりあえず残月は十常寺と話し合っていろいろと原因について考えてはみたが、やはり判明するわけもなく。他の連中はサニーを取り囲んでおおはしゃぎしたり顔を赤くしたり。いい大人が大勢集まってもどうにもならない状況が続いていた。
「貴方たち・・・午前中のの定例会議に揃いも揃っておいでにならないと思ったら・・・こんなところで何をなさっておいでかっ!!」
全員が鋭い声に振り向くと角が生えそうな形相の孔明。
しかし樊瑞とサニー以外は無視。彼らとしては孔明が喋ってばかりの面倒で長ったらしい会議より、こうした『ビッグイベント』の方が大事らしい。
とりあえずお冠な孔明に樊瑞が事の次第を説明してサニーの今の姿を見せた。
「ほう」
さすがの孔明も驚嘆の表情を隠せず、18歳のサニーをまじまじと見つめる。
「孔明、どうしたら良いものかな」
「こんなの1日寝れば元に戻るに決まっております、さ、皆様方会議を始めますぞ、10分以内にお集まりくださるようお願いします」
彼は一発でご都合主義を見破った。
1日の業務を終え、樊瑞は自分の屋敷に戻った。出迎えるのは18歳のサニー。しかし帰りを喜ぶ笑顔はまだ8歳の幼さを残す。
夕食を済ませ、自分の成長した顔を鏡で眺め嬉しそうにしているサニーを樊瑞もまた眺める。一時はどうなることかと思ったがとりあえずあの孔明が一晩寝れば元に戻るというのだからそうなのだろう、それがビッグ・ファイアのご意志か何かわからないが。樊瑞としてはそう考え安心はしていた。
「サニーこっちへおいで」
サニーを自分の膝元に座らせる。そして改めて18歳の姿をまっすぐ見つめる。やがてくる将来の姿。いつか自分の元から離れて独り立ちするその姿に説明のつかない切なさが込み上げる。
この年齢まで自分はサニーを幸せに育てることができるのだろうか。
そしてこの姿になるサニーはその時幸せだろうか・・・。
「おじ様、私は明日には戻ると孔明様がおっしゃられてました。あの・・・今の姿を写真に撮っていただきたいのですが・・・」
「む?写真にか?」
「はい・・・セルバンテスのおじ様たちや、父に・・・その・・・見て欲しいのです・・・」
「そうか・・・そうだな、ふふ奴らめさぞ驚くだろうな」
樊瑞は使用人にデジタルカメラを持ってこさせ、サニーにファインダーを向ける。
ファインダー越しに18歳の、サニーは柔らかく微笑む。
それは自分が初めて手に抱いた時に自分に向けた変わらぬ笑顔でもあった。
シャッターを切り、樊瑞は願いを込めてその笑顔を閉じ込めた。
サニーは寝室でベッドに入る。
そして一夜明ければあるべき8歳の姿に戻る。
樊瑞は布団に潜り込んだサニーの額を優しくなで、18歳のサニーに別れを告げた。
「おじ様、きっと将来お会いできますわ・・・」
「サニー・・・」
自分の気持ちを悟ってか、穏やかにサニーは微笑んだ。
「それまで待っててくださいね」
「うむ」
樊瑞もまた同じ笑みを返し寝室のドアをしめた。
そして翌朝、サニーは再び8歳の姿に戻った。
「なななな!なんだって!そんな面白いことがあったのかね!」
任務から盟友とともに帰還したセルバンテスはたいそう残念がった。アルベルトは「ありえん、馬鹿馬鹿しい」とキッパリと否定。ヒィッツカラルドは「ほぉ、あのお嬢ちゃんが」と少し興味深げ。盟友の任務をサポートしていたイワンは目を丸くして照れ笑いしている8歳のサニーを見る。
「ふふふ・・・まぁこれを見ろ、昨晩写真に残しておいたのだ」
4人がデジカメに顔を寄せ、画像を覗き込む。アルベルトは一番否定していたはずだったがセルバンテスを押しのけて真っ先に覗き込んだ。
しかし背景の屋敷の部屋が写っているだけで18歳のサニーの姿は写ってはいなかった。
「むむ!?あれ?」
シャッターを切ったあのあと撮れているかちゃんと確認した。確かに微笑む18歳のサニーはデジカメの中に残されていたはず。朝になってもう一度見たときも確かにあった。
「おいおい・・・何にも写ってないじゃないか・・・なんだぁサニーちゃんの成長した姿を拝めると思っていたのにな・・・」
セルバンテスは詰まらなさそうに口を尖らせる。
樊瑞はただ部屋だけが写る画像を見つめる。
「おおかた全員揃って夢でも見ていたんだろう、くだらん」
「なんだ美女を拝めると思ったのに・・・つまらん」
アルベルトが溜息をつく。
ヒィッツカラルドは肩をすくめ興味を無くしたのかさっさと帰って行った。
「いや・・・確かに撮ったのだ・・・これはいったいなんなんだ・・・」
「壊れているわけでもなさそうですが・・・」
イワンがデジカメを手にとりいじってみるが特におかしいところはない。
「いや~見たかったなぁ~残念だなぁ~」
樊瑞の屋敷を後にして3人は本部内へ戻る途中。
セルバンテスはまだ残念がっていた。
「アルベルトも見たかっただろう?サニーちゃんが成長した姿。17、8歳くらいだとさぞ素敵なレディだったろうに・・・ふふふきっと誰かさんによく似た・・・」
アルベルトは何も言わず葉巻を咥え火を点ける。無表情を装ってはいるがその誰かさんの顔を思い浮かべこっそり鼻で笑う。
「放っておいても子どもは大きくなる、急いで見ても仕方が無かろう10年後を楽しみに待てばいいだけだ」
「まぁそうかもしれないね、先の楽しみはやはり先の自分に残すべきか」
アルベルトの意外と落ち着いた考えに苦笑しつつも、セルバンテス自身も納得する。2人の後ろについて行くイワンもまた彼なりに10年後のサニーを想像し、その姿を見る彼らと自分とを思い浮かべて笑った。
屋敷で一人樊瑞は何も写っていない画像を眺める。
結局、何も残らなかったが自分の記憶の中で18歳のサニーは幸せそうに微笑む。
これで良かったのだとデジカメをテーブルに置き、8歳のサニーと顔を合わせた。
こうして「ある騒動」は終わった。
END
樊瑞はいつもなら自分より先に起きて朝食の席に着いているはずのサニーがいないことに不思議に思い「寝坊か?珍しいことがあるものだ」と彼の屋敷の2階にあるサニーの寝室に向った。
サニーの寝室をノックする。返事が無い。何度かノックしたがやはり返事は返ってこない。念のため「入るぞサニー」と声をかけて彼は寝室に入った。
「!!!!?」
「あ、おじ様おはようございます。ごめんなさい、寝坊してしまって・・・」
そこでようやく起きたのかサニーが眠そうに目を擦る。
「・・・・・・・・・・・」
「おじ様?」
ああ、そう言えば今年の残暑は短かったな、気がつけば秋か。さんまが美味しい季節だ、さんまといえば焼くのも当然にこれまた美味いが刺身にするのが実は最高でな、先日も
(余白)
意識が何処かへおでかけしているのか樊瑞はサニーの前で固まったまま。
「あの・・・おじ様?」
「サ・・・・・サンマ?い、いやいやサニー?サニー・・・・なのか?」
「?はい・・・おじ様?どうなされたのですか?」
「な、な、な、ななななな」
サニーは現在8歳。そう8歳である。いわゆる一般でいうところの少女であり小学生といえる。しかし口をあけて魚のようにパクパクさせている樊瑞の前にいるのは大人に一歩片足を踏み入れたというべき身体のサニー。幼さはなくスッキリとした顔の輪郭、色白で頬は艶々のふっくら。唇は樊瑞が知っている形や色でなく色香さえ漂わせる。目元は少女の面影を残しつつ、濃く長い睫毛が真紅の瞳を際立たせている。
端的に言えばいわゆる超美女。
そして何より樊瑞を凝固状態にさせていたのは、身体が大きくなったせいかやぶけたパジャマから覗く肢体。何をどうすればこうなるのかサニーは少女ではなく女性の身体だった。
油が乗った旬の魚、さんまではない。決してない。
そのことにようやく気づく樊瑞。
そしてサニーもまた自分の今ある姿に気づいたのか、
「きゃあ~!」
屋敷を揺るがす乙女の悲鳴。
見も蓋も無いご都合主義のもと、8歳のサニーは一夜にして18歳のサニーとなった。
樊瑞はその悲鳴にどこからか目覚めたのか自分のピンクのマントを取って真っ先にサニーの身体にかけてやった。このあたりはさすが混世魔王いえる行動かもしれない。
「おじ様・・・私はいったい・・・」
動揺の色を隠せないでいるサニーの目には涙が溜まる。
「だ、だだだだだ大丈夫だ、サニー落ち着きなななさい」
樊瑞はとにかく冷静になろうと頑張った。可愛い我が娘同様のサニーが急な身体の変化に戸惑い、怯えている。そんな彼女をひっしとマントの上から抱きしめてみるが、動揺しまくる自分を誰かに抱きしめて欲しいくらいだった。
しかし、こうして抱きしめるサニーの身体は今の彼には刺激が強すぎる。
幼い体とは分けが違うからだ。
なんというか程よい弾力、なんとも柔らかい。
気のせいか誘うような良い匂いもする、気のせいだが。
最近忘れかけていた何か熱いものが込み上げてきそうな気がするがこんなことで人間を辞めるわけにいかない。樊瑞は鉄壁の理性で最強最悪の敵をねじ伏せた。自分で自分を「うむ!さすがは混世魔王よくやった!」と褒め称えたが少し虚しい。
「ああ・・・どういうことだこれは・・・いや今考えても仕方が無い。まずは服だ、服・・・困ったな・・・サニーの今のサイズに合う服が無いぞ。仕方が無い・・・とりあえず私のマントを巻いていなさい。ああ朝食は他の者は下がらせよう、あまり騒動になるのも問題だろうからな・・・」
樊瑞は後ろを向いて、サニーがマントを身体に巻くのを待った。
ちょっとしたピンク色のドレスのような形に仕上げてサニーはようやく朝食の席についた。2人ともこのあとどうなるんだろう・・・もっともな不安を抱えてベーコンエッグにナイフを入れた。
食後のコーヒーを片手にホットミルクを口にするサニーを見つめる。
朝食を口にしてサニーも少し落ち着きを取り戻した様だった。
最初は動揺で良く見れなかったが、17、8歳くらいだろうか。どうしてこんなことになってしまったのかもちろんわからないが、目の前にいるサニーはおそらく将来あるべき姿。いつかはこうして一人の女性となるのだ・・・そう樊瑞は『後見人』として少々複雑な思いが過ぎる。
そしていつか『好きな人ができたの、おじ様、結婚を許してください!』などとどこの馬の骨ともわからぬ男を連れて来て自分に言ってくるのだろうか・・・いいや、冗談じゃない!そんなことはこの私が許さん、サニーが泣いても許さんぞ、いや泣いたら許してしまうのだろうか、いやいや許さんぞ絶対に許さん、馬の骨から『お父さん!サニーさんをください!』などと言われようものならありったけの銅銭を口に詰め込んで札を貼り付けてやる!私のサニーに指1本触れさせてなるものか・・・いやいや何を言ってるんだ私は・・・などとどうでもいいことまで一人で妄想を繰り広げ頭をブンブンと振る。
「なに首を振っているのだ樊瑞」
絶好調の妄想劇場のさなか、後ろを振り向けば残月がポカーンと口をあけていた。
「・・・・!ざ、残月!お主いたのか!」
咄嗟に妄想の延長あった謎の桃色のモヤを消し去り突然の残月の登場に驚く。しかし残月からすれば今日この時間に自分が仕事の打ち合わせで訊ねると事前に言っていたことだし、屋敷に入る前に声をかけても返事は無い、とりあえず入ってみれば樊瑞の頭上には正体不明の桃色のモヤ。何がなんだかである。
「あ、残月様おはようございます」
「やあ、サニーおはよう・・・・ううっ!!!?」
樊瑞は自分の目を覆った。
残月の煙管が落ちる音が室内に良く響いた。
「どういうことだ、これはっ」
どうして自分がこの覆面男から手厳しく詰問されるのか納得がいかなかったが、突きつけられた煙管を前に樊瑞はうな垂れて小さく「わからん」と言う他無かった。
「サニー、どこか身体の具合が悪いところは無いか?」
「はい、残月様特に何も・・・大丈夫です」
残月はとりあえずは安堵はしたが、あまりに見違えたサニーに正直言葉が出ない。自分よりいくらか年下くらいだろうか、面影が残るそれは確かにサニーが成長した姿。彼は感慨深げに煙管を咥えた。
「しかし樊瑞、いつまでもマントを巻かせるわけにもいくまい、とりあえず今の彼女にあった服を着せてやるがいい」
「そう言われてもな・・・ああそういえば丁度良いのがあったかもしれん、サニー少し待っていなさい持ってきてあげよう」
10分ほどして樊瑞が服らしき物を持ってきて、サニーに手渡し、隣の部屋で着替えさせた。そしてサニーは着替えた姿で2人の前に現れた。
「おい樊瑞・・・なんだこのサニーの格好は」
「これしかなかったのだ」
いつもどおりピンクのマントを身につけ樊瑞は真顔で答える。
「・・・・何故『これしかなかった』のだ、いや、いい聞きたくない」
それはいわゆる「メイド服」。ゴシカルな黒の衣装、裾にたっぷりとフリルがついた真っ白なエプロン、頭にはやはりフリルがあしらわれた例のメイドハット。それはどこから見てもメイド服以外の何者でもない。メイド服と言っても絶対領域を残した白タイツ、それにやけにフリルが多く、無意味にスカートが短いあたり健全目的でないことが残月でも容易に知れる。
「おじ様、似合いますか?」
サニーは少々戸惑いながらも愛する『後見人』に自分のメイド姿を見せて感想を求めた。ちなみに彼女は『メイド服』に関して『メイドさんが着る服』というごくあたりまえな認識しかない。
清楚かつ怪しげな色香を漂わせる最強の服を装備した18歳のサニーを前に、LV99の魔王は痛恨の一撃で瀕死。ついでにさっきまで極太だった理性の糸もぷっつりと切れ顔も謎のウィンドウも赤くしながら樊瑞はブンブンと首を縦に振った。
「似合う、似合うぞサニー!!ついでに言えば「おじ様」でなく「ご主人様」と呼んでもらえぬだろうか。その方がこの場合正しい呼び方だと私は思うのだ」
サニーの手を握り締め、いたって真剣な表情でトチ狂った願いを申し出る。
「ご・・・主人様・・・ですか?」
「うむ!そうだっいいぞサニー!!さらに希望を言えば「ご主人様♪」とこう親しげに呼ぶと私はもっと嬉しいかもしれない」
「サニー!!やめなさい、言わなくていいっ」
残月が背後で制する。彼としてはこの異常極まりない光景は耐えがたいものらしい。
「いいではないか残月くん」
そう言う魔王の目は既に正気を失っていた。サニーの手をますます強く握り締め、二度と離さぬものかと云わんばかりの危険な空気を漂わせ、その姿はピンクのマントを身につけたただの変態。
「サニー、おじ様は少々混乱なされている、危ないからこちらへ来なさい」
残月は務めて冷静に手を離させ、サニーを自分の背後にやる。
「な!残月まさかっ貴様~サニーのことを!」
覆面越しにでもわかる青筋が残月の額に浮き上がった瞬間、樊瑞は先端速度が音速を超えるかかと落しを脳天に食らって、地に沈んだ。
「とにかくそれは着替えよう」
「はい、ご主人様♪」
「はは・・・それの呼び方はやめてもらえないだろうか・・・」
残月は引きつった表情で笑うしかなかった。
いくら外見は18歳であっても中身は8歳。このまま狂った大人の煩悩にまみれた格好をさせるわけにもいかず、残月はまだ年若い下級の女性エージェントを呼びつけ無難な日常服を借りた。サニーが着たのはオフホワイトの飾り気のないワンピースと黒のロングカーディガン。残月はまぁこんなところでいいだろうと肩の荷を下ろす。
目が覚めた樊瑞はその姿に残念がったが、とりあえず正気には戻ったらしく年齢に相応しい姿にやはり相好を崩した。
「ごめんなさい残月様、ご迷惑をおかけしてしまって・・・」
「いや、気にしなくて良い、こんなふざけた展開は君自身のせいではあるまい」
どこかでご都合主義という大いなる悪意が働いている、残月は目ざとく察知した。
さすがは十傑集と言うべきか。
「それよりサニー、いつまでもその姿でいるわけにもいかぬだろう原因を調べて元に戻さねばならぬな・・・」
「やはりそうか・・・ははは・・・まぁ少し残念な気もするが・・・」
樊瑞はサニーと顔を合わせて苦笑した。
残月はまず十常寺を呼んだ、十傑一の頭脳を持つ彼なら何らかの手立てを考えつくのではないかと思ってのことだった。ところがである、どこで嗅ぎつけたのか呼んでもいない他の連中も十常寺と一緒にゾロゾロとやってきた。他の連中というのはレッド、カワラザキ、幽鬼、怒鬼、血風連の集団。皆が18歳のサニーを取り囲み驚嘆や感動の声を上げる、しっかり騒動となった状況に残月は頭を抱えた。
レッドは「面白いことになったなぁ」とニヤニヤ楽しげに笑いサニーの鼻をつまんだり目を広げたりおもちゃにしている。そしてふっくらと膨らんだ胸に手をかけようとした瞬間、樊瑞の身体をはった防御を受ける。
「サニーに何をする」
「はっ安心しろ、ただの身体検査だ」
「貴様!私ですらサニーにそんな検査したことないのに!」
レッドに食って掛かろうとする樊瑞を後ろから幽鬼が羽交い絞めにするが、彼としては樊瑞が叫んだ台詞にどこか引っかかるがあえて深く考えない事にした。
サニーを血風連が取り囲み、全員が涙を流しまるで神々しい女神を崇めるかのように膝を折り、樊瑞が必死になってむさ苦しい男どもの視線からサニーを守る。怒鬼は相変わらずの無表情&無言ではあるが気のせいかやや顔が赤いかもしれない。
「ん?こんな時にセルバンテスがいないというのが不思議だが・・・」
こういった騒動をこよなく愛するある意味お祭男のセルバンテス、残月が疑問に思うのも無理は無い。セルバンテスならこういう事態に真っ先に駆けつけて真っ先に大喜びするに違いなかったからだ。ついでにもっと事態をややこしくする男とも言える。
「眩惑は衝撃と一緒に朝から任務だ、そういえばヒイッツカラルドも昨日から別任務だったと思うがな」
「アルベルトもか・・・奴がこのサニーの姿を見たらどんな顔をするか・・・」
カワラザキの言葉に樊瑞はサニーの父親の顔を浮かべ思いつく限りの驚愕の表情をさせて頭の中で遊んでみた。なかなか拝めない貴重な顔だ。
とりあえず残月は十常寺と話し合っていろいろと原因について考えてはみたが、やはり判明するわけもなく。他の連中はサニーを取り囲んでおおはしゃぎしたり顔を赤くしたり。いい大人が大勢集まってもどうにもならない状況が続いていた。
「貴方たち・・・午前中のの定例会議に揃いも揃っておいでにならないと思ったら・・・こんなところで何をなさっておいでかっ!!」
全員が鋭い声に振り向くと角が生えそうな形相の孔明。
しかし樊瑞とサニー以外は無視。彼らとしては孔明が喋ってばかりの面倒で長ったらしい会議より、こうした『ビッグイベント』の方が大事らしい。
とりあえずお冠な孔明に樊瑞が事の次第を説明してサニーの今の姿を見せた。
「ほう」
さすがの孔明も驚嘆の表情を隠せず、18歳のサニーをまじまじと見つめる。
「孔明、どうしたら良いものかな」
「こんなの1日寝れば元に戻るに決まっております、さ、皆様方会議を始めますぞ、10分以内にお集まりくださるようお願いします」
彼は一発でご都合主義を見破った。
1日の業務を終え、樊瑞は自分の屋敷に戻った。出迎えるのは18歳のサニー。しかし帰りを喜ぶ笑顔はまだ8歳の幼さを残す。
夕食を済ませ、自分の成長した顔を鏡で眺め嬉しそうにしているサニーを樊瑞もまた眺める。一時はどうなることかと思ったがとりあえずあの孔明が一晩寝れば元に戻るというのだからそうなのだろう、それがビッグ・ファイアのご意志か何かわからないが。樊瑞としてはそう考え安心はしていた。
「サニーこっちへおいで」
サニーを自分の膝元に座らせる。そして改めて18歳の姿をまっすぐ見つめる。やがてくる将来の姿。いつか自分の元から離れて独り立ちするその姿に説明のつかない切なさが込み上げる。
この年齢まで自分はサニーを幸せに育てることができるのだろうか。
そしてこの姿になるサニーはその時幸せだろうか・・・。
「おじ様、私は明日には戻ると孔明様がおっしゃられてました。あの・・・今の姿を写真に撮っていただきたいのですが・・・」
「む?写真にか?」
「はい・・・セルバンテスのおじ様たちや、父に・・・その・・・見て欲しいのです・・・」
「そうか・・・そうだな、ふふ奴らめさぞ驚くだろうな」
樊瑞は使用人にデジタルカメラを持ってこさせ、サニーにファインダーを向ける。
ファインダー越しに18歳の、サニーは柔らかく微笑む。
それは自分が初めて手に抱いた時に自分に向けた変わらぬ笑顔でもあった。
シャッターを切り、樊瑞は願いを込めてその笑顔を閉じ込めた。
サニーは寝室でベッドに入る。
そして一夜明ければあるべき8歳の姿に戻る。
樊瑞は布団に潜り込んだサニーの額を優しくなで、18歳のサニーに別れを告げた。
「おじ様、きっと将来お会いできますわ・・・」
「サニー・・・」
自分の気持ちを悟ってか、穏やかにサニーは微笑んだ。
「それまで待っててくださいね」
「うむ」
樊瑞もまた同じ笑みを返し寝室のドアをしめた。
そして翌朝、サニーは再び8歳の姿に戻った。
「なななな!なんだって!そんな面白いことがあったのかね!」
任務から盟友とともに帰還したセルバンテスはたいそう残念がった。アルベルトは「ありえん、馬鹿馬鹿しい」とキッパリと否定。ヒィッツカラルドは「ほぉ、あのお嬢ちゃんが」と少し興味深げ。盟友の任務をサポートしていたイワンは目を丸くして照れ笑いしている8歳のサニーを見る。
「ふふふ・・・まぁこれを見ろ、昨晩写真に残しておいたのだ」
4人がデジカメに顔を寄せ、画像を覗き込む。アルベルトは一番否定していたはずだったがセルバンテスを押しのけて真っ先に覗き込んだ。
しかし背景の屋敷の部屋が写っているだけで18歳のサニーの姿は写ってはいなかった。
「むむ!?あれ?」
シャッターを切ったあのあと撮れているかちゃんと確認した。確かに微笑む18歳のサニーはデジカメの中に残されていたはず。朝になってもう一度見たときも確かにあった。
「おいおい・・・何にも写ってないじゃないか・・・なんだぁサニーちゃんの成長した姿を拝めると思っていたのにな・・・」
セルバンテスは詰まらなさそうに口を尖らせる。
樊瑞はただ部屋だけが写る画像を見つめる。
「おおかた全員揃って夢でも見ていたんだろう、くだらん」
「なんだ美女を拝めると思ったのに・・・つまらん」
アルベルトが溜息をつく。
ヒィッツカラルドは肩をすくめ興味を無くしたのかさっさと帰って行った。
「いや・・・確かに撮ったのだ・・・これはいったいなんなんだ・・・」
「壊れているわけでもなさそうですが・・・」
イワンがデジカメを手にとりいじってみるが特におかしいところはない。
「いや~見たかったなぁ~残念だなぁ~」
樊瑞の屋敷を後にして3人は本部内へ戻る途中。
セルバンテスはまだ残念がっていた。
「アルベルトも見たかっただろう?サニーちゃんが成長した姿。17、8歳くらいだとさぞ素敵なレディだったろうに・・・ふふふきっと誰かさんによく似た・・・」
アルベルトは何も言わず葉巻を咥え火を点ける。無表情を装ってはいるがその誰かさんの顔を思い浮かべこっそり鼻で笑う。
「放っておいても子どもは大きくなる、急いで見ても仕方が無かろう10年後を楽しみに待てばいいだけだ」
「まぁそうかもしれないね、先の楽しみはやはり先の自分に残すべきか」
アルベルトの意外と落ち着いた考えに苦笑しつつも、セルバンテス自身も納得する。2人の後ろについて行くイワンもまた彼なりに10年後のサニーを想像し、その姿を見る彼らと自分とを思い浮かべて笑った。
屋敷で一人樊瑞は何も写っていない画像を眺める。
結局、何も残らなかったが自分の記憶の中で18歳のサニーは幸せそうに微笑む。
これで良かったのだとデジカメをテーブルに置き、8歳のサニーと顔を合わせた。
こうして「ある騒動」は終わった。
END
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