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ana
「見て見て!おじさま。これサニーがかいたの!」

「ん?ああ、すまんがちょっと今は『お仕事』が忙しくてな・・・ところでカワラザキ、昨日決定したアラスカでの活動内容だがF国の諜報機関が・・・・うむ・・・そうか・・・・」

「うさぎさんの絵なの・・・・・・・・・・・」

しかし真剣な顔をして通信機で連絡を取り合う樊瑞。
重要任務が重なっているためかここ一ヶ月はずっとこんな調子で、なかなかサニーを構ってやることが出来ない。我が娘に等しいサニーを優先できるものならしているのだが、悲しいことに彼もまた組織の人間。

一方、環境がそうさせるのかサニーは子どもながらに大人の都合を敏感に感じ取っていた。いつものようにわがままを言ってはいけない空気を読んで、忙しそうにしている樊瑞を残し彼女は静かに部屋を出た。



誰かに一生懸命描いた「うさぎさん」の絵を見て褒めて欲しかったためなのだが・・・樊瑞だけでなく今は組織を挙げての活発な活動を行っており、本部はいつも以上に慌しい。当然十傑たちも多くが出払っており、サニーは誰も居ない他の十傑たちの執務室をこっそり覗いて寂しそうな表情を浮かべる。

もちろん父親のアルベルトの部屋も同じで、かれこれ一ヶ月以上会っていない。
寂しさのあまり、まだ上手く行えないテレパシーを使ってみようとするも・・・アルベルト側が任務中の無用な「心のブレ」を避けるため交感を完全に遮断しているらしい。そのためおぼろげながらに存在は確認できても会話などは一切行えたためしは無かった。

独りで本部内の大回廊を歩いていたら

「あ!セルバンテスのおじさま!」

「やぁ!サニーちゃん、久しぶりだねぇ」

「あのね、これサニーがかいた・・・」

やっと見つけたのは長期任務を終え、本部に帰還したばかりのセルバンテス。嬉しそうに彼に駆け寄り、期待をのせて手にある画用紙を広げようとしたが・・・

「ん?ちょっとごめんね・・・」

セルバンテスのクフィーヤ下から発信音が。

「私だセルバンテスだ。何?この足でシンガポールへ向かえ??おいおい随分と人使いが荒いじゃないか?策士殿・・・わかったわかった二時間後に現地でアルベルトと合流しよう。ところで移動手段の指定だが・・・ふむ・・・なるほどそれなら海路が良さそうだ。それから・・・・」

クフィーヤ下から取り出した通信機相手に真剣な顔で話をしていたセルバンテス、長い長い任務確認が片付きいざサニーに笑顔で向き直ったが・・・

「あれ?サニーちゃん??」

サニーの姿はどこにもなかった。



それからも大人たちの慌しい状態がしばらく続いたある日

サニーがいなくなった。



樊瑞の屋敷に門限を過ぎても戻らず、本部内を探し回ったがどこにもいない。それに慌てた世話を手伝っている下級エージェントが任務遂行中の樊瑞に連絡を入れたためちょっとした騒動となったのだ。樊瑞もすぐに本部へ帰還したいがそうもいかない、心配を胸にもどかしい気持ちのまま彼は「混世魔王樊瑞」として猛威を戦場で振るっている。

代わってセルバンテス。任務先で樊瑞より事情は聞いていたので大急ぎで任務を終了させ本部に帰還、事の収集にあたっていた。

「本部内をくまなく探したのだろうな?」

「はっセルバンテス様!研究施設及び兵器格納庫も捜索済みであります!!」

「・・・・アルベルトに連絡は?彼なら地球の裏側にいようともテレパシーで大方の居場所はわかるはずだ」

「それが・・・・」

十傑を前に冷や汗をかく覆面姿の下級エージェントが語るには、「今は任務中だと知ってのことか!つまらん事でいちいち私に連絡するな!」と震え上がる怒声が返っただけで取り合わなかったらしい。

「ふむ・・・わかった、下がっていろ。捜索は引き続き行え」

セルバンテスは下級エージェントが立ち去ったのを確認し、小さく溜め息をつくと手にある通信機に語りかけた。

「サニーちゃんがいなくなったなんて、これはつまらん事じゃあないから私はいちいち君に連絡するからなアルベルト。テレパシーによる交感確認を既に行っているんだろ?サニーちゃんは今どこにいるんだい、こっちはもう日が暮れるんだ頼むから教えてくれ」

通信機の向こうは無言による返答。しばらくして苦渋に満ちた声で「わからん」と一言。実はアルベルトはサニーが行方不明となったとの一報を耳にして、すぐさま親子間のみの切り離せないテレパシーによる交感を行ったのだが・・・

「おい・・・何も感じないとはどういうことだ?そんなこと無いだろう?君たち親子のへその緒に似たテレパシーがいかに強力かはこの私も知っているところだが?」

しかし再び無言による返答。そしてブツリと音を立てて切れる通信。
すぐさま見つかると楽観していたセルバンテスは、事の重大さにようやく気づいた。

アルベルトのテレパシーでも所在が確認できないということが余計に不安にさせる。手が空いている他の十傑たちも事情を知りサニーを捜索することとなった。

「サニーがのう・・・よしワシも探そう」

「なんと、是は由々しき事態。我も捜索に協力惜しまず」

「あのガキがいない?ふん、衝撃のテレパシーでもわからぬのならどこかで死・・・」

このレッドの悪態はセルバンテスの鋭い視線でさえぎられる。
樊瑞を前にしていたらどうなっていたかは予想に難くない。








さて

行方不明となったサニーの捜索は確かに本部内の隅々まで行われたのだが、見つからない。しかし、裏を返せば捜索が行われなかった場所にサニーがいるわけだった。

「うさぎか、お嬢ちゃんよく描けているなぁ大したものだ」

「サニーねライオンさんもゾウさんもかいたのよ、ほら幽鬼さま見て見て!」

「どれどれほう、こりゃあ凄い。お嬢ちゃんは絵が上手なんだな」

「えへへ」

今日サニーは昼食を済ませた後、赤いリュックを背負って本部の外へ出た。サニーが一人で向かった先は幽鬼所有の温室。正確には温室に隣接された温室の環境管理を行う制御室だった。普段そこはカギがかけられているのだが・・・制御室の下部に位置するいくつかの通気孔、孔を塞ぐ網状のカバーが腐食によってか一つだけふさがれていないのをサニーは知っていた。だてにBF団本部を遊び場にしているわけではないのである。

そこへ潜り込もうとしたサニーを見かけて声をかけたのがたまたま温室から出てきた幽鬼であり、「かくれんぼかい?お嬢ちゃん」と聞けばサニーは胸を張って「サニーは家出するの!」と答えたのだった。

その言葉に幽鬼は驚いたが・・・彼は何故か止め様とはしなかった。

それどころか「じゃあ私もつき合せてくれ」と笑うと直ぐに無数の羽虫と化して小さな通気孔をくぐり、狭い制御室内で2人身を寄せる形で今こうしているわけである。

「だいぶ日が暮れてきたな・・・お嬢ちゃんまだ帰らないのか?」

「・・・・・いいの、サニーは帰らないもん」

樊瑞らが心配するぞ?とは聞かなかった。
それくらい十分承知の上でサニーが家出していることくらいわかっていたからだ。

実はここのところの尋常でない慌しさの中この少女が取り残される状況だったことを考えれば、彼女のとった行動に幽鬼は合点がいく。これが最善の策だとは思わないが子どもにとっては最終手段。いつも聞き分けの良い、大人に従順なサニーがどれだけの気持ちでこんなことをしているのか・・・彼にはわかる。

しかし、アルベルトとの強力なテレパシーで繋がっているのだからすぐに見つかってしまうだろう。

そこで幽鬼はサニーの身を自身に寄せて自分を中心に目に見えない強力な精神フィールドを張り、外部からの精神的な接触を一切遮断してやった。例え親子の強力な結びつきであろうと、天性のテレパシストである幽鬼による強大な力を前には容易な接触は行えない。

第一、親子間の強力なテレパシーが不能となる事態はどちらかが完全に意識を失っているか、それ以上の術者による影響くらいしか無い。アルベルトも気づくべきだった、前者の可能性を信じないのであれば後者の可能性しかなく、そしてそれ以上の術者は世界を見渡しても幽鬼くらいしかいないという事実に。


------今頃本部の連中は大騒ぎだろう

おやつのクッキーを晩御飯にしているサニーを見ながら幽鬼はニヤリと笑った。散々この少女を放ったらかしにしていた大人たちが今は必死に捜し求めているに違いない。

「幽鬼様もクッキーたべる?」

無邪気に一枚差し出され幽鬼は「腹が減っていたところだ、これはありがたいな」と齧り付いた。見ればリュックの中にはクッキーの小箱が二つもあり「あと一週間はここで篭城する気か」とこっそり苦笑し

------ここの孔はまだ塞がれていなかったのか・・・
------しかし、また私がここで夜を明かすことになろうとは・・・

クッキーの素朴で懐かしい味に幽鬼は目を細めた。
そして、誰が一番先にこの居場所を見つけるのか、彼には確信があった。


制御室の静かなモーター音を子守唄に、サニーは幽鬼の横で猫のように丸まって眠っている。今夜一晩くらいはたっぷりと家出気分を満喫させてやるのも悪くない、そしてサニーの聞き分けの良さに甘えていた大人たちを必死にさせることも。
幽鬼はサニーの巻き毛をおもむろに撫でながら

「爺様、いるんだろ?」

足元の塞がれていない通気孔に目をやる。
気配はまったく無いが幽鬼の鋭い勘にまず間違いは無い。
案の定返事の変わりに通気孔から見慣れた革靴が現れた。

「サニーは無事か?」

「ああ、よく眠っている。腹も空かせていないから大丈夫だ」

「そうかそれなら安心じゃ・・・・さて、どうしたら戻ってきてくれるかのぅ」

「ふふふ・・・爺様ならこれが『家出』だとわかったか」

通気孔の向こう側からも小さな笑い声が聞こえる。

「BF団でのこういう事態は二度目だからの、随分昔になるが・・・一度目の時はここを見つけるまで丸二日、それはそれは手を焼いたものだ」

「爺様の手を焼かせる奴がいるとは・・・ふふ、けしからんな」

「そうじゃろう?見つけてみればクッキーの小箱を二つも抱えての家出だ、『本格的な準備』に頭が下がったわい」

2人の笑い声が重なって、眠っていたサニーが小さき身じろぎした。

「おっと・・・爺様、お嬢ちゃんが起きてしまうぞ。まぁ・・・そいつはきっとクッキーで一週間ここで篭城する気だったんだろうよ。けしからん奴だが、本人は必死だったんだ・・・許してやってくれ」

「許すも何も、悪いのは寂しい想いをさせてしまったワシだったのだからな・・・だから今こうしているサニーの気持ちが良く分かるわ・・・」

「・・・・・・・・・・・・」

制御機器のモーター音と、外からは消え入りそうな虫の音。

それがあの時と変わらないと知るのは2人だけ。

「お嬢ちゃんは明日には私が責任を持って帰させる、今日はここにいさせてやってくれないか?」

「うむ、ならばお前に任せるとしよう。もちろん他の連中には内緒だ、せいぜい手を焼く苦労を味あわせてやるわい」

笑いとともにこの場から立ち去る気配がする。

「なぁ爺様、あれから・・・ここの孔を修理せず、塞がないでおいたのはどうしてだ?」

身じろぎしただけで再びささやかな寝息を立て始めるサニーを見詰めながら、幽鬼は最後に孔の向こう側にいる老人に訊ねてみた。

「知りたいか?」

「ああ」

空はすっかり暮れなずみの時が終わり、満点の星空が広がっていた。

「ふふ・・・それはな、『けしからん奴』がいつでもまた家出できるようにしておいたまでよ」

外にある気配が完全に消えた。
幽鬼は知らず笑みを零す。
まだ自分はこの老人に適いそうに無い。
適わない事、それがどんなに幸せなことか・・・

傍らで眠る少女の横で、彼もまたかつてのように丸くなって眠ることにした。









いくら探してもサニーが見つからず、一睡もできないでいたセルバンテス。そして任務の合間にも何度もテレパシー交感を行うが感知できず、顔には出さないが疲労困憊のアルベルト。樊瑞に至っては予定より3日も早く敵地を殲滅し、眠ることなく本部にとんぼ返りした。

捜索に協力した他の十傑たちも疲れてはいたが、この3人の比ではない。

「まったく不甲斐ないものだな、天下の十傑がガキ一人に振り回されこのザマか」

斯く言うレッドもブツブツ言いながらも探し回っていたわけだが。

幽鬼に引き連れられてサニーがこの3人の前にようやく姿を現した。

「さ・・・サニーちゃん!!!良かったよ~」

「幽鬼!?まさか・・・くそっ貴様の仕業かっ」

「無事であったか・・・あああ・・・サニー!今までどこに」

三者三様の反応を示し、そして三人ともサニーに駆け寄ろうとしたがカワラザキが割って入りそれを遮る。そして恰幅の良い身体を反らせ

「お主らは今ここでサニーに謝れ!!!!」

大喝一斉。
懇々とサニーがどうして『家出』を行ったかを、愚かな大人たちに説いた。
幽鬼の足にしがみ付くサニーは申し訳ないような、それでいて嬉しく晴れがましいような、複雑だが確かに幸せな気持ちでカワラザキの背中を見ていた。

もちろん幽鬼も一緒の気持ちだったということは言うまでも無い。





それからサニーが『家出』をするようなことは一度も無かった。









幽鬼の温室に隣接されている温室管理の制御室。
そこには小さな子ども一人が入れる通気孔がある。

孔の存在を知る者はこの世で3人しかいないその孔は

永遠に誰かを迎え入れることができるよう



これからも永遠に塞がれないままだった。







END








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