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ようこそ不思議の国へ






「ここがお主の執務室だ、中は好きにいじって使うがいい。他の連中も自分の好きなように改造したりお気に入りの家具やら調度品やらで城を造っている」

「日当たりがいまいちだな」

「そう言うな、一番日当たりがいい場所はカワラザキが使っている。ま、早い者勝ちってやつだ」


本日をもって栄えあるBF団が10人の最高幹部十傑集の10人目に就任したコードネーム『白昼の残月』は自分に宛がわれたBF団本部内の執務室を見渡した。
約20畳ほどの広さだろうか、真ん中には「いかにも事務用」的なデスクがあり壁には本が入っていない書棚があるだけ。そして小さな窓が2つ。

----天井が高いのが気に入った
----窓枠を壊して壁面全面をガラス張りにしてみようか・・・。
----書棚は、足りんな
----デスクは趣味が悪い、捨てよう

そんなことを思いながら火の点いていない煙管を口に咥える。

「では次は食堂だ、まず食券を購入して・・・」

----食堂?食券?

「食堂のおばちゃん(ちなみに覆面)と仲良くなるとこっそり大盛りにしてくれる、かくいう私は黙っていても通常の3倍盛りの仲だ」

----食堂のおばちゃん?3倍盛り?

思わず口に咥えた煙管を落としそうになる。

「まて樊瑞、BF団にしかも本部に食堂があるのか、しかも食券?おばちゃん?」

「当たり前だろう、別に自分で弁当を用意してもいいが。なんなら24時間営業のコンビニもあるからそこでオニギリでも買って食べてもいい」

十傑集リーダー樊瑞は笑いながら新人君を食堂へと案内する。

途中コンビニの前を通る、孔明がプリンを手にとってなにやら思案していたのが目に入る。

「・・・」

----BF団はもっとこう現実味のないダークで浮世離れしたイメージがあったのだが
----食堂にコンビニ・・・食券、弁当、プリン、おにぎり・・・

覆面で表情は変わらないものの頭のなかでグルグルしている残月。それを他所にマイペースの樊瑞は食堂前の日替わり看板を見る。チョークで書かれたそこには

日替わりA:さんま定食(650円)
日替わりB:ビーフシチュー定食(700円)
日替わりC:ミックスフライ定食(600円)

「おお、さんまかもうそんな季節になったか。お、レッドと怒鬼がさっそく食べてるな」

食堂の奥を見ると先ほど十傑集就任式(例の制服着るやつ)で一緒だった2人が向かい合ってさんま定食を食べている。レッドが一方的に喋って口からご飯粒をばらまいているが怒鬼は黙々とさんまの身をほぐしている。やけに綺麗に骨を取っているのが印象的だった。

----妙な2人だ

「ふふ、奴等はまだ普通盛りだ」

----3倍盛りとやらがそんなにすごいのか

そして厨房にいる食堂のおばちゃん(覆面)に手を振り挨拶を交わす姿は間違っても十傑集リーダーとして認めたくない気がする。食堂の窓側では十常寺が1人で新聞を広げながらラーメンをすすっている。耳に赤鉛筆を挟んでいるので競馬新聞かもしれない。そして横にはミックスフライ定食を食べるB級工作員の集団、白身魚のフライを心地良い音を立てながらやけに美味そうに頬張っていた。

「残月ここだけの話だぞ、ちなみに裏メニューというのも存在していて毎週月水金の午後2時~4時までの2時間のみイワンが手伝いに来て・・・なんとイワンの手作りケーキ(お茶付き)が食べられるのだ!」

顔を輝かせる樊瑞に思わずたじろぐ。

「イワン?ああ、あの衝撃のアルベルトにひっついているB級の、って奴はケーキなぞ作るのか?なんだそれは」

「知らんのか?舌が肥えてるアルベルトを満足させる唯一の男だ、ちなみにアルベルトはこの食堂を利用しない、イワンが作ったものしか口にしないとはまったく贅沢な男だ。そしてイワンが淹れる茶がこれまた美味い!コーヒー、紅茶、煎茶に抹茶、ウコン茶にどくだみ茶、何でもござれだ」

大笑いする樊瑞、就任式のクソ真面目な顔の面影は・・・無い。

----知らん、知らんぞそんなことは
----ウコン茶にどくだみ茶って誰が飲むんだ
----まぁ茶は普通に好きだ、一度飲んでみるのも悪くないか

食堂の片隅に食券の販売機とともに様ざまな自動販売機が立ち並んでいる。一般銘柄の煙草、ドリンクジュース、インスタントコーヒー、栄養ドリンク、ヤ○ルト、何に使うのか贈答用生花、そして薄暗い一番奥にいかにもいかがわしそうな雑誌の自動販売機。さっきまでさんま定食を食べていたレッドが何やら一冊購入していったが残月は見なかったことにした。

「・・・」

「さて、次は会議室なのだが・・・」

----ああ、定例の十傑集会議に使う

食堂を出て大回廊を右に曲がると中庭がある。こじゃれたイギリスの庭園風でなかなか広い敷地だ。しかし樊瑞が指差す場所はその中庭、しかも真ん中にブルーシートが一枚だけひいてある。

「・・・会議・・・室?」

「青い空の下で会議した方が良い案が出るというので今はここを使っている」

「誰がそんなことを言ったのだ」

「策士・諸葛孔明だ」

人を小馬鹿にするような目つきの策士の顔。
頭の中で白羽扇を優雅に仰いでニヤニヤ笑っていた。左手にはプリンを持っている。

「よく他の連中が納得したな」

「これもビッグ・ファイアのご意志なのだ」

急にクソ真面目な顔になった樊瑞に頭が痛くなる。同時に膝が地に崩れそうになったが『十傑集・白昼の残月』のプライドにかけてそれだけは耐えた。

----勘弁してくれ・・・

溜息は胸にしまって会議室(というか中庭)を見渡す、やたら蝶やら虫やらが集まっているところを見ると幽鬼が木陰で昼寝をしていた。
そしてその蝶を楽しげに追いかける小さな影。

「あ、樊瑞のおじさま」

柔らかいハニーブラウンの巻き毛の少女。
10才にも満たないかもしれない。

----?

大きな赤い瞳をくりくりさせて横にいる十傑集リーダーに駆け寄ってくる。

「おお、サニー」

----?
----??
----なぜ子どもがいる
----なぜBF団の、しかも本部に、しかも少女が

だらしないまでに相好を崩して少女を抱き上げる混世魔王。
残月の思考は停止中である。

「今残月を案内しているところだ、さ、挨拶しなさい」

「こんにちわ残月さま、サニーです。十傑集のごしゅうにんおめでとうございます」

抱き上げられていたが下に下りて丁寧な挨拶をする。
見た目の印象の割には随分としっかりしているようだ。
愛らしくにっこり笑うとおもわずこちらも笑顔になる。

「あ、ああ」

----なぜ子どもがいるのだ
----これは孔明の策なのか?

少々混乱気味の残月をよそに樊瑞はサニーを再び抱き上げる。笑顔で顔を見合わせなにやら語り合う2人はこうみると親子に見えなくもない。

----まさか樊瑞の子か?
----いや、この子は「おじさま」と呼んでいた
----では・・・

1人取り残される形となった残月の後ろから調子の良さそうな声が聴こえた。

「おーいサニーちゃーん」

胡散臭そうな格好をした(残月も十分胡散臭いが)なまずヒゲの男が大きく手を振りながらこちらに歩いてくる。いわずもがなセルバンテスだった。

「セルバンテスのおじさま」

「サニーちゃんが大大大好きなセルバンテスのおじさまはお仕事を終わらせて来たよ、さ、午後は私とデートしよう」

いつもはやや釣り上がっている目が垂れている。セルバンテスは樊瑞からなかばひったくるように少女を抱きかかえその少女に愛しそうに頬擦りする。奪われてしまった樊瑞の顔に青筋が浮かび上がった。その2人の様子が残月にはとても異様な光景に映った。

「日本にあるTOKYOディ○ニーランドを半日借り切ったんだ、ビッグサンダーマウンテンに乗り放題だよ~美味しいクレープも食べようね」

「おいセルバンテス、勝手な真似は許さんぞ。サニーは午後から私とお茶の稽古だ」

「何言ってるんだ、やだねぇ稽古ずくめでサニーちゃんが可哀相だよ。たまには息抜きが必要だ、ね、サニーちゃん」

「貴様は息抜きのしすぎだ。さあサニーこっちへおいで」

大の大人、しかも十傑集2人が少女をめぐってねちねちと言い争う。残月はこのみっともないと言う他無い大人の間で少女は少し困ったような顔をしているのが妙に不憫に思えた。

----眩惑も魔王も何をやっているんだ・・・

「あ、おとうさま」

言い争う2人の中少女が笑顔になって大回廊の方へ走っていく。

----おとうさま?

「なにい!!!!!」

残月は口に咥えていた煙管を落としてしまった。開いた口が閉まらない。覆面で目の表情が無いはずなのに明らかに目の白い部分が大きくなっている。

少女が向う先には真っ黒いスーツを着て真っ黒い髪を撫でつけた男がツカツカと歩いていた。衝撃のアルベルトの後ろにくっついていく少女。アルベルトは少女を一瞥しただけで歩く速度を緩めることもなくどこへ行くのか大回廊を歩く。そしてそれに必死に追いつこうとする少女。
まるでカルガモの親子のようだった。

----しょ・・・衝撃のアルベルトがおとうさま?
----え、ちょ・・・待て、子ども?
----なに?孔明の策?
----これもビッグ・ファイアのご意志なのか?

混乱の絶頂にいる残月。まだ口が閉まらない。
言い争っていた大人2人は少女がいなくなってしょげている。

「あの子の父親が・・・アルベルト・・・」

「そして私がサニーの後見人だ」

なぜか樊瑞は胸を張る。

「私はサニーちゃんの大好きなおじさまだ」

セルバンテスも胸を張る。残月は2人とも張り倒してやりたかったがぐっと堪えた。

----アルベルトの娘・・・以外だ、以外すぎる奴に子どもがいたのか・・・
----しかも・・・

残月は少女の花が咲いたような可愛らしい顔を思い浮かべる。そして不機嫌が張り付いたような顔の父親も。遺伝子の神秘が確かにそこにあった。

「そうだ、アルベルトに許可もらえばサニーちゃんも気兼ねなく私とデートできるな。おーいパパー待ってくれー!」

セルバンテスが親子の後を追いかける。

「待て!抜け駆けは許さんぞ!」

樊瑞も追いかける。残月はまだ案内の途中だったはずなのに1人取り残された。地面に落ちた煙管を拾い、汚れを払う。何かとんでもないところに自分がいる気がする。気のせいだと思いたいが否定できない。

----ああ・・・全てがばかばかしくなってしまった
----食堂で昼ご飯にするか・・・

軽い眩暈を覚えつつも食堂へ向った。

600円を入れて食堂の食券販売機の「ミックスフライ定食」のボタンを押す。食券が吐き出される。白手袋を被った手にとる。食堂のおばちゃん(覆面)に差し出す。「おや新入りさんかい」と声を掛けられる。おもわず「どうも」と言う。お茶(ほうじ茶)をやかんから注ぐ。ミックスフライ定食が乗ったトレイを持って喫煙席の窓際に座る。白身魚のフライを口に運ぶ。サクっとした食感。美味しかった。

他にも席が空いているのに目の前にヒィッツカラルドが座った。
きつめの香りの香水に残月は覆面の下の眉を寄せる。
彼はビーフシチュー定食だった。

「ミックスフライも美味そうだな」

自分のビーフシチューに手をつけないでじっと見るのでフライを一つ分けてやった。ヒィッツカラルドはそれを食べる。「うんサクサクとした衣が美味い」といってお返しなのかビーフシチューの皿を残月に差し出す。シチューをスプーンですくって一口食べてみる。コクがあって美味しかった。

ヒィッツカラルドのご飯を見ると自分と同じく普通盛りだった。





END






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不思議の国に染まる白昼の人。
ギャグですギャグ。






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