異端の男
ヒィッツカラルドという男は十傑集のなかでも「異端」の部類に入る。
もうひとりの「異端」にレッドがいるが、ヒィッツカラルドとはまた近い様でその本質は大きく異なると言っていい。
ヒィッツカラルドが、彼がどう「異端」なのか。それは殺傷事を快楽とする本人の嗜好性が強いところである。必要以上に破壊し、必要以上に殺傷する。まるでそれが娯楽のように愉快に楽しそうに。そしてそれを隠さない、彼の悪い癖なのか自慢したがる。
その彼の「歪んだ人格」の現れともいえる「悪癖」は彼本人の「切れすぎる」能力に起因するのかもしれないし、悪癖ありきの能力かもしれない。それがどちらが最初なのかはわからない。
また彼自身自分の「切れすぎる」能力になかば取り憑かれたような節もみうけられる。彼にはもう一つ能力があったが彼がそれを使うのをほとんど見たことが無い、もっぱら「切れすぎる」能力ばかりを使うからだ。
同僚であり同胞である他の十傑集からは暗に日に彼は蔑まれている。確かに、BF団そして十傑集は彼が好む殺傷事を気の遠くなるほど積み重ねてきたことでその勢力を拡大し、さらに目的を果たそうとしている。しかし能力は高くとも、彼自身の鼻につく性格とその悪癖を好む人間が意外と少ないからだった。そして彼自身はそれをどうも思ってもいない。彼に言わせれば
「他の連中も同じようなものだ」
ということらしい。その言葉に眉を寄せる同僚たちを彼は鼻で笑う。
「お主・・・またやらかしたな・・・部隊の全滅まで任務に含まれてはおらぬかったはずだ」
「それは「ついで」だ、うるさかったから全部スッパリ切ってやったのだ。任務は完遂、結果は同じだ。孔明も満足してるだろ、どうせ奴のこと、私のやることくらいお見通しで任務を与えているはずだからな、くくくく」
「ヒィッツカラルド・・・どうもお主は危うい奴だな・・・」
「危うい?私が?ふははははは、そりゃあなんとも嬉しい褒め言葉だ、くふふふふ」
樊瑞は言葉の意味を深く受け取っていない彼に溜息をもらす。
壊れた仕掛け人形のように肩を揺すって、端が派手に跳ねたブラウンの髪を揺らしながらヒィッツカラルドは笑っている。
孔明への任務報告のついでとばかりにヒィッツカラルドは帰り際に立ち寄った十傑集リーダーの樊瑞の執務室で悠然とソファアに腰掛けてお茶を飲んでいた。彼の「仕事道具」である白い指を優雅にティーカップの持ち手に添え、小指をツンと突きたててオレンジペコーの香りを楽しむ。
彼の指にはささくれひとつない、爪は常に一定の長さで綺麗にカットされ、神経質ともいえるほど手入れが行き届いている。
執務室のドアがノックされる。小さな声で「サニーです」と言うと樊瑞はドアに手をかざす、するとドアが消え巻き髪の小さな女の子が現れた。誰からもらったのか赤いポシェットを斜めにかけている。
「サニー、まだお仕事があるからもう少し待っていなさい」
ちょこちょこと執務室に入ってきた幼女に樊瑞は穏やかな笑みをむける。
「ふむ、これが『衝撃のアルベルト』の娘か」
ティーカップをテーブルに置き、初めて見る自分の顔を不思議そうに見つめる小さな女の子の瞳を覗き込む。親と一緒の赤い瞳。他はお世辞にも「あの」父親に似ているところは見受けられない、ヒィッツカラルド特有の黒目のない白眼が気になるのか赤い瞳をくりくりさせて反対に覗き込んでくる。
「・・・こんにちわ」
「こんにちわ、お嬢ちゃん」
「さ、サニーこっちへ来なさい」
樊瑞の言葉が耳に入らないのかヒィッツカラルドの側に立ってじっと動かない。
「私の方がいいのかね?」
ヒィッツカラルドはサニーを抱き上げて膝に座らせた。
「おい・・・何をする」
「お嬢ちゃんは人が真っ二つになるところを見たことがあるかい?凄いのだよ?血が噴水みたいにいっぱい出てくる。そして私がこの手で、この指でみーんな真っ二つだ」
白い指先をサニーの目の前にちらつかせながら彼はニヤニヤと下卑た笑みを見せる。
サニーは言う意味がわからないのか不思議そうな顔でその白い指を見ていた。
「貴様!子どもにくだらぬことを吹き込むな!」
樊瑞の恫喝をまったく受け付けることもなくヒィッツカラルドは続ける。
「一度見た方がいい、お人形遊びなんかよりずっと楽しい。そうだ今度私と一緒に見に行くかね?お嬢ちゃんの特等席をご用意しよう」
「ええい!馬鹿者が!サニー!来るんだ」
ひったくるようにヒィッツカラルドの膝の上からサニーを抱き上げる。
「残念」
「まったく、貴様は・・・サニーに近づくな。そしてその指で・・・触るんじゃない」
「おやおや、随分と彼女にご執心じゃないか魔王」
白眼を大きく歪めてオレンジペコーを最後まで飲み干す。そしてソファから立ち上がり胸を張って気取ったように襟を正す。サニーを見ると以前不思議そうな顔で自分の指を眺めていた。彼はニヤリと白い歯を剥いて笑い「ごちそうさま」と一言、樊瑞の執務室から出ていった。
両手をスーツのズボンのポケットに手を入れて鼻歌交じりに大回廊を歩く。
後ろからパタパタと小さな足音。こちらに駆け寄ってくるのがわかる。後ろを振り向くとサニーが赤いポシェットをゆらしてこちらに向っていた。
「どうしたのかね、お嬢ちゃん。特等席のご予約かい?」
彼は相変わらず下卑た笑みを浮かべてサニーを見る。
サニーはヒィッツカラルドの前に立つと赤いポシェットに手を入れる。
そしてゴソゴソと何かを探り始めた。
「?」
ポシェットから取り出されたのはいわゆる絆創膏。何のキャラクターなのかはわからないがイラストが描かれており、子どもが好むような色の水玉模様だった。サニーは小さな手でそれを覆い紙から取り出す、粘着で何度も指に張り付かせた。
サニーが自分に手を差し出すので思わず自分もポケットから右手をだして前に差し出す。サニーはヒィッツカラルドのその大きく白い手を掴むとその中指に絆創膏を巻きつけ始めた。なんとなくされるがまま彼はその様子を眺める。
「いたいいたいがとんでいくの」
「・・・・・・?」
さらにポシェットを探り同じ柄の絆創膏をふたつ取り出す。
「サニーあとひとつもってるからふたつあげる」
それをヒィッツカラルドは受け取った。
サニーは再び樊瑞の執務室へと駆けていく。
彼の手には少女からもらった水玉模様のふたつの絆創膏。
少しだけ白眼を広げ眉を上げる。
傷も無ければ血もでてない、そして当然痛くも無い。
何故か巻きつけられた絆創膏。
汚い巻き付け方、その柄はもちろん彼の趣味じゃない。
綺麗に手入れされた指には似合わない。
しかしそれを取り去ろうとはしなかった。
「ふむ」
彼はもらったふたつをスーツの胸ポケットにしまいこむと再び鼻歌交じりで歩き出した。
それからも飽きる事無くヒィッツカラルドは噴水を上げて笑っている。
同僚からの冷たい視線も心地良く、彼は鼻歌を歌いながら「娯楽」を楽しむ。
そして自分の悪癖を笑いながらご披露する。
しかしあの日からヒィッツカラルドは少女の前では「悪癖」は披露しなくなった。そして彼のポケットにはいつも少女からもらった水玉模様のふたつの絆創膏が入っている。
彼が取り出し忘れているのか、それともいつもそこに入れているのかはわからない。それは彼の悪癖が「切れすぎる」能力に起因するかそうでないかわからないように、やはりわからないことだった。
END
ヒィッツカラルドという男は十傑集のなかでも「異端」の部類に入る。
もうひとりの「異端」にレッドがいるが、ヒィッツカラルドとはまた近い様でその本質は大きく異なると言っていい。
ヒィッツカラルドが、彼がどう「異端」なのか。それは殺傷事を快楽とする本人の嗜好性が強いところである。必要以上に破壊し、必要以上に殺傷する。まるでそれが娯楽のように愉快に楽しそうに。そしてそれを隠さない、彼の悪い癖なのか自慢したがる。
その彼の「歪んだ人格」の現れともいえる「悪癖」は彼本人の「切れすぎる」能力に起因するのかもしれないし、悪癖ありきの能力かもしれない。それがどちらが最初なのかはわからない。
また彼自身自分の「切れすぎる」能力になかば取り憑かれたような節もみうけられる。彼にはもう一つ能力があったが彼がそれを使うのをほとんど見たことが無い、もっぱら「切れすぎる」能力ばかりを使うからだ。
同僚であり同胞である他の十傑集からは暗に日に彼は蔑まれている。確かに、BF団そして十傑集は彼が好む殺傷事を気の遠くなるほど積み重ねてきたことでその勢力を拡大し、さらに目的を果たそうとしている。しかし能力は高くとも、彼自身の鼻につく性格とその悪癖を好む人間が意外と少ないからだった。そして彼自身はそれをどうも思ってもいない。彼に言わせれば
「他の連中も同じようなものだ」
ということらしい。その言葉に眉を寄せる同僚たちを彼は鼻で笑う。
「お主・・・またやらかしたな・・・部隊の全滅まで任務に含まれてはおらぬかったはずだ」
「それは「ついで」だ、うるさかったから全部スッパリ切ってやったのだ。任務は完遂、結果は同じだ。孔明も満足してるだろ、どうせ奴のこと、私のやることくらいお見通しで任務を与えているはずだからな、くくくく」
「ヒィッツカラルド・・・どうもお主は危うい奴だな・・・」
「危うい?私が?ふははははは、そりゃあなんとも嬉しい褒め言葉だ、くふふふふ」
樊瑞は言葉の意味を深く受け取っていない彼に溜息をもらす。
壊れた仕掛け人形のように肩を揺すって、端が派手に跳ねたブラウンの髪を揺らしながらヒィッツカラルドは笑っている。
孔明への任務報告のついでとばかりにヒィッツカラルドは帰り際に立ち寄った十傑集リーダーの樊瑞の執務室で悠然とソファアに腰掛けてお茶を飲んでいた。彼の「仕事道具」である白い指を優雅にティーカップの持ち手に添え、小指をツンと突きたててオレンジペコーの香りを楽しむ。
彼の指にはささくれひとつない、爪は常に一定の長さで綺麗にカットされ、神経質ともいえるほど手入れが行き届いている。
執務室のドアがノックされる。小さな声で「サニーです」と言うと樊瑞はドアに手をかざす、するとドアが消え巻き髪の小さな女の子が現れた。誰からもらったのか赤いポシェットを斜めにかけている。
「サニー、まだお仕事があるからもう少し待っていなさい」
ちょこちょこと執務室に入ってきた幼女に樊瑞は穏やかな笑みをむける。
「ふむ、これが『衝撃のアルベルト』の娘か」
ティーカップをテーブルに置き、初めて見る自分の顔を不思議そうに見つめる小さな女の子の瞳を覗き込む。親と一緒の赤い瞳。他はお世辞にも「あの」父親に似ているところは見受けられない、ヒィッツカラルド特有の黒目のない白眼が気になるのか赤い瞳をくりくりさせて反対に覗き込んでくる。
「・・・こんにちわ」
「こんにちわ、お嬢ちゃん」
「さ、サニーこっちへ来なさい」
樊瑞の言葉が耳に入らないのかヒィッツカラルドの側に立ってじっと動かない。
「私の方がいいのかね?」
ヒィッツカラルドはサニーを抱き上げて膝に座らせた。
「おい・・・何をする」
「お嬢ちゃんは人が真っ二つになるところを見たことがあるかい?凄いのだよ?血が噴水みたいにいっぱい出てくる。そして私がこの手で、この指でみーんな真っ二つだ」
白い指先をサニーの目の前にちらつかせながら彼はニヤニヤと下卑た笑みを見せる。
サニーは言う意味がわからないのか不思議そうな顔でその白い指を見ていた。
「貴様!子どもにくだらぬことを吹き込むな!」
樊瑞の恫喝をまったく受け付けることもなくヒィッツカラルドは続ける。
「一度見た方がいい、お人形遊びなんかよりずっと楽しい。そうだ今度私と一緒に見に行くかね?お嬢ちゃんの特等席をご用意しよう」
「ええい!馬鹿者が!サニー!来るんだ」
ひったくるようにヒィッツカラルドの膝の上からサニーを抱き上げる。
「残念」
「まったく、貴様は・・・サニーに近づくな。そしてその指で・・・触るんじゃない」
「おやおや、随分と彼女にご執心じゃないか魔王」
白眼を大きく歪めてオレンジペコーを最後まで飲み干す。そしてソファから立ち上がり胸を張って気取ったように襟を正す。サニーを見ると以前不思議そうな顔で自分の指を眺めていた。彼はニヤリと白い歯を剥いて笑い「ごちそうさま」と一言、樊瑞の執務室から出ていった。
両手をスーツのズボンのポケットに手を入れて鼻歌交じりに大回廊を歩く。
後ろからパタパタと小さな足音。こちらに駆け寄ってくるのがわかる。後ろを振り向くとサニーが赤いポシェットをゆらしてこちらに向っていた。
「どうしたのかね、お嬢ちゃん。特等席のご予約かい?」
彼は相変わらず下卑た笑みを浮かべてサニーを見る。
サニーはヒィッツカラルドの前に立つと赤いポシェットに手を入れる。
そしてゴソゴソと何かを探り始めた。
「?」
ポシェットから取り出されたのはいわゆる絆創膏。何のキャラクターなのかはわからないがイラストが描かれており、子どもが好むような色の水玉模様だった。サニーは小さな手でそれを覆い紙から取り出す、粘着で何度も指に張り付かせた。
サニーが自分に手を差し出すので思わず自分もポケットから右手をだして前に差し出す。サニーはヒィッツカラルドのその大きく白い手を掴むとその中指に絆創膏を巻きつけ始めた。なんとなくされるがまま彼はその様子を眺める。
「いたいいたいがとんでいくの」
「・・・・・・?」
さらにポシェットを探り同じ柄の絆創膏をふたつ取り出す。
「サニーあとひとつもってるからふたつあげる」
それをヒィッツカラルドは受け取った。
サニーは再び樊瑞の執務室へと駆けていく。
彼の手には少女からもらった水玉模様のふたつの絆創膏。
少しだけ白眼を広げ眉を上げる。
傷も無ければ血もでてない、そして当然痛くも無い。
何故か巻きつけられた絆創膏。
汚い巻き付け方、その柄はもちろん彼の趣味じゃない。
綺麗に手入れされた指には似合わない。
しかしそれを取り去ろうとはしなかった。
「ふむ」
彼はもらったふたつをスーツの胸ポケットにしまいこむと再び鼻歌交じりで歩き出した。
それからも飽きる事無くヒィッツカラルドは噴水を上げて笑っている。
同僚からの冷たい視線も心地良く、彼は鼻歌を歌いながら「娯楽」を楽しむ。
そして自分の悪癖を笑いながらご披露する。
しかしあの日からヒィッツカラルドは少女の前では「悪癖」は披露しなくなった。そして彼のポケットにはいつも少女からもらった水玉模様のふたつの絆創膏が入っている。
彼が取り出し忘れているのか、それともいつもそこに入れているのかはわからない。それは彼の悪癖が「切れすぎる」能力に起因するかそうでないかわからないように、やはりわからないことだった。
END
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