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             『地平線の向こうへ』Interval4(2)


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「なーるほどな。…それで、カシムの『この村からは出られない』発言か」








全ての詳しい話を聞き終わり、モンタナは深い息をついた。
それに、目の前の眼鏡をかけた中年男は、すまなそうに顔を伏せる。
その横顔には深い皺が刻まれ、髪の毛にも白いものが混じっていた。




「…どうにか、貴方の存在は家に隠す事が出来ました。そろそろ動けるようになりましたから、逃げることは出来るでしょう。
けれど、飛行機までは。…すみません、こんなことになって」

彼の教養の高さが伺える、流暢な英語での謝罪の言葉。
それに、モンタナは慌てて頭を振った。



「いや、命を助けて貰っただけでも感謝しても仕切れない。先生とカシムに非はねえよ」
「今、飛行機は村の技術者が修理しています。…売るにしても動かなければ、話になりませんから」
「ありがたいやら、ムカつくやらだがな」

イラついたように目を伏せ、彼はぼりぼり、と頭を掻く。そして、タラール医師の方を向いた。


「…まあ、それはともかく。タラール先生、このまんまでいいのか?俺を助けたこと見つかったら」
「………実は、君が来る前から考えていたんですが、…私は、この村を告発しようと思ってるんです」
「告発…って、役人に話しても無駄だって、さっき」
「ええ。でも、それは国内末端の役人です。
ですから、先月、海外の考古学の権威と連絡をとりました。その人を通じ、国外から政府に直接告発すれば、きっと」
「内から駄目なら外から、って訳だ」

彼の言葉に、タラールは頷く。


「そして明日、――私が先日『隠れ家』から幾つか証拠の品を持って、その人物の代理人との接触をする予定です。
そして、情報提供の見返りに、――カシムと私のアメリカ亡命の援助を約束してもらっています」
「なるほどねえ」


その言葉に、モンタナは感心しきりの表情になった。
タラールはそれに複雑な笑みを浮かべる。








「…自分の生まれ育った村を裏切る、というのはいい気分はしませんね」
「先生は間違っちゃいないさ。こんな事、続けていい訳がない」

「ええ、でも…先祖代々、我々がこんな愚かな事を続けていたのも理由があるんです」
「…え」
「……これが公になれば、この村の困窮は更に大きくなるでしょう。大きな収入源の一つがなくなるんですから」

それに、モンタナははっと顔を上げる。
病院も無いこの辺境の村では、日々の暮らしがやっとの人間も多い。
続けて良い訳は無い――それを簡単に言えたのは、モンタナが異国の人間だからだ。
気まずそうに、軽々しく物を言ってしまった口を押さえた。しかし、タラールはそれを見、静かに微笑する。






「いえ、貴方のいう事はもっともです。…こんな事、続けてはいけない。
養子にしたカシムの将来の為にも、…今後の村や、わが国そのものの為にも」





「…」


言って、壮年の医師は微笑んだ。その物柔らかな笑顔の中には、堅い意思が感じられる。
それに、彼は尊敬の念を込めた息を吐いた。


「その時に大使館に掛け合って、貴方も何とかアメリカに帰してさしあげますから」
「…ケティは」
「心配要りません。村の人たちはいつもの裏オークションで売却する予定のようですから、告発が上手く行けば、訴えて一緒に取り戻してさしあげます」
「そうか」



その言葉に、モンタナは安堵の表情になる。














――と。











『~~~~!!』

聞き覚えのある声が聞こえ、彼らは慌ててドアの方を振り返った。

『カシム!?~~』
『~~~』

息せき切って走ってきた少年は、非常に慌てた様子で何かをまくし立てる。
残念ながら会話は現地語で、モンタナは聞き取る事が出来なかったが、何か抜き差しならぬ事態が起きたことだけは理解できた。

「先生、カシム、どうしたって言うんだ」
「村の人間に、『隠れ家』の存在が知れたらしいんです。
明日証拠品として持って行く物を、カシムに持ってきて貰ったのですが。それを見られて、取られたと」
「何だって!」




「…村長が、どこからとってきたか場所を教えろ、と。言わなかったら、…殴られた。だから、逃げてきた」

よく見ると、カシムの顔には薄く痣が出来ていた。それに、モンタナは舌打ちする。
同時に、ドンドン、と家のドアが乱暴に叩かれた音がした。




『タラール、~~~!!』
『~~』

外から響く怒鳴り声に短く応え、タラール医師はカシムの頭を優しく撫でた。
そして、彼の手に一つの黒い手帳を落とす。




「カシム、これを持って裏から空港に行きなさい。歩いて行っても、明日の朝には着く筈」
「Dr!?」
「博士の代理人に逢いなさい。時間は私が稼ぎます」

言って、タラールはカシムを裏口の方に押しやった。
彼は戸惑ったようにタラールとモンタナを交互に見やる。

「こっちは大丈夫だ。先生は俺が守ってやるから」
「モンタナ」


ウインクをしてカシムの肩をたたく。
それに、少年は一瞬逡巡したものの、すぐに頷き走り出した。





少年の小さな背が見えなくなり、ドアを叩く音が激しくなる。
それに、彼等は顔を見合わせた。



「モンタナさんは――」
「どっちにしろ、踏み込まれたら俺が居るのはバレるだろ。それに、こういう荒事には幸か不幸か慣れてるんでね」

言って、彼は傍にあった天秤棒を掴み、ドアの脇に身を潜める。
相手が銃を持っていたならかなり心もとないが、不意をつけば2・3人はなんとかなるだろう。
彼が目線でドアの方を示し、一呼吸置いて同時に二人は頷く。






――そして、タラール医師はノブに手を掛けた。





 
 

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             『地平線の向こうへ』Interval4(1)


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カーテンを閉め切った、暗い土壁の部屋の中で。





「モンタナ、この単語はなんという意味ですか」
「ん?」

首をめぐらすと、そこにはくしゃくしゃになった紙切れのようなものを見つめているカシムが居た。
それに、モンタナは一瞬瞠目する。






「…それは」
「はい、モンタナの上着のポケットに入っていました。アメリカの新聞の記事ですよね」


にっこり、と笑い、カシムはモンタナを見上げた。
しかし、彼の強張った表情を見てしまい、その笑みはしぼんでしまう。



「…読んでは、いけませんでしたか」
「いんや…そうじゃないさ。貸してみろ」


困ったようなカシムの目に、彼は慌てて笑みを作った。そして、カシムの褐色の指が押さえていた単語を読んでやる。かさり、と乾いた紙の音がした。




「『engagement(婚約)』――結婚の約束、だな」
「アルバート氏とこの写真の女性、がですか」

訊かれ、彼はぐ、と唸って口を引き結ぶ。
それに、カシムはいよいよ訝しげに眉を寄せる。彼は暫し宙に視線を泳がせた後、搾り出すように息を吐いた。



「…似合いだろうぜ、名家のお嬢様と実業家」
「そうなんですか?」
「ああ」

言って、面倒くさそうに彼は手を振った。
カシムは暫く記事とモンタナの顔とを試すがめつ見比べていたが、やがてううん、と唸る。


「その人たちの相性もありますし、一概にはそういえないと思いますけど」
「…」
「大事なのは本人達の気持ちだと思います」






正論過ぎる正論。
幼さゆえか、何の衒いもなしに真面目に言うカシムに、彼の胸の底はぴり、と痛んだ。


たしかに、その通りなのだ。
その通り、なのであるが――









「……」






駄目だ。
どんどん自分が思考の泥沼に嵌っていくのを感じ、彼は頭を抱える。


ああ、格好悪い。悪すぎる。

結局、自分は馬鹿げた嫉妬とちっぽけな自尊心を守る為に、彼女から逃げ回っていただけなのだ。
その結果が、今回の事故。…情けなすぎることこの上ない。







どんなに、言い訳をつけて突っ張ってみても。
どんなに、逃げ回ってみても。

最終的に彼の心は、いまだ『恋』という悪魔の手の中で、何の解決もしていない。

こんな風に、何気ないカシムの言葉で不必要に苛立つ程。




事実――言い訳の仕様が無いほど、ふとしたことで彼女が頭に浮かぶ。





質素な部屋の隅に紅茶の缶を見つければ、いつぞや彼女が淹れていたものだ、と思い出す。
窓の隙間から入って来た砂を見れば、いつか砂漠で死にかけた時の事を連想する。

――情けないほどに。


…自分がここまで、どっぷりと泥沼に入り込んでいるとは思わなかった。







それでいて、ぐだぐだ慣れない理屈をこねてみた挙句、この様だ。
「彼女の為に」――そう、呪文の様に唱え続けていたのは、結局「自分の為に」という醜い思いを隠す為で。


この数週間の自分の所業の所為で、得たものは、額と左肩の怪我だけだった。

地位や、名誉や。
それ以前の問題で…自分は、自分が思っていたよりずっとちっぽけで、――馬鹿な男だったらしい。











あれから何日も経ち、ようやく冷えてきた頭で理解できてきたこと。
でも、――それは自分で認めるには、あまりに痛い事実でもあった。



























――――と。







「『いずれすべては砂の下』」
「?」
「Drタラールの口癖です」

言って、カシムはにこり、と笑った。










「確かに、先人は素晴らしい文明を築きあげ、富を得ました。…けれどどんな権力も金銀も、今では砂の下」




名誉より、金より。
誰にも恥じることなく胸を張って生きる。それに勝る宝は無い。










「だから、結局は、人間の心が一番大事だと、僕は思います」















真っ直ぐな、言葉。
まるで眩しい、空のような。

彼が焦がれて止まない――地平線の色。
























『いずれすべては砂の下』。
彼の苦手な、学術的で哲学的な色を帯びた言葉。
しかし、その言葉は、――彼にも理解できる気がした。




飛行機に乗っているとき、眼下の都市がまるでミニチュアのように見える。
N.Y.の自由の女神も、パリのエッフェル塔も、手に乗るような小ささで。

あの、世界の全ての色を集めた様な綺麗な空の上に居る時は、――人間の作り出したものなんて、酷くちっぽけなものに見える。

それでも、あの一つ一つの灯りに価値があると思えるのは、そこに人が住んでいるからだ。
そこに住む人間がどう生き、どう死んでいくか。
それが一見無機質な都市に、酷く美しい煌きを与えている。

























あの、――恐ろしいほど美しい、天と地の狭間の世界で見える煌き。




…いつか、野垂れ死にしそうになった砂漠で見たひかりの様な。


































「…――」







すとん、と。
何かがささくれ立った心の中に、落ちてきた気がした。






























「…そうか」




「モンタナ?」
「いんや…」

訝しげに首を傾げるカシムに、彼はようやく柔らかく微笑う。
それに、カシムも表情を緩めた。

カシムから記事を受け取り、彼は薄くその空色の目を細める。
彼は手の中のそれを一瞥すると、くしゃり、と丸めて、それをゴミ箱に投げ捨てた。












――久々に、彼はあの青い空の上に居る気がした。











 
 

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q11







 

             『地平線の向こうへ』<11>


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「その質問にはお答えしかねますな、ゼロ卿」




粗末な土壁の屋敷の中で対面した、慇懃に微笑む褐色の肌を持つ壮年の男の言葉に、ゼロ卿は不愉快そうに眉を寄せた。


もともと彼は、商売人然、とした人間は好きでは無い。

あの手の人種は、知的探究心や芸術的な存在に意味を見出さず、しばしば損得勘定をすべての基準に考えるからだ。
そうでない人物も勿論居るだろうが、少なくともゼロ卿はそう思っていた。
目の前の男は、そういった彼の嫌いなタイプの男だった。



「答えかねるとはどういうことかね、ハシード村長」
「私は考古学的遺産に興味のある方は好きです。
わが村は、貴方様のような方を近隣の遺跡に案内することが、大きな収入源の一つなのですから」
「ならば、どうして」


「その土地の遺跡は、その土地の民のもの」



言って、ハシードと呼ばれた男は物柔らかに目を細める。



「我々は、それを管理する権利がある。あなた方にはその一端を公開しているだけ。
…当然、どれを直接お見せするか、というのも我々の判断ということです」

「…」



その慇懃無礼な態度に、彼は微かに鼻を鳴らし、唇を引き結ぶ。
コツコツ、と椅子の肘置きを神経質そうに人差し指で叩いた。

その様子を見、ハシードは肩をすくめ、笑う。それに、ゼロ卿はため息をついた。




「……まあ、我々を介して一部のみ、というのであれば話は別ですが」
「それも、収入源の一つですかな」
「ええ、そうです。先祖代々のね」


ゼロ卿の鋭い言葉に、彼は怯まず笑顔を崩さない。





狸め。
思って、ゼロ卿は舌打ちする。



「どうです?いい物をご紹介いたしますよ」
「…いや、結構」


息をつき、椅子の横に掛けておいたステッキを手に取り、彼は席を立った。
それに、ハシードは意外そうな表情になる。

「お帰りですか」
「ああ」
「それではお見送りを」
「結構だ」
「残念ですな。それでは、また今度、という事で」


気が変わるのを待っていますよ。
ハシードが背中にそう声を掛けるのを聞きながら、ゼロ卿は眉間に皺を寄せながらハシード家を出る。
その前には、一台の車が停まっていた。


「どうでしたか」


顔を出したのは、初老の眼鏡をかけた小太り男。
しかし、ゼロ卿の表情を見、今の交渉が決裂した事を知り、小さく肩をすくめた。


「しかし、なんでまた科学者の儂が運転手まがいのことをせにゃならんのですか。
…メカローバーの機器類点検がまだ終わっていないのですぞ」
「スリムとスラムがおらんのだ。仕方あるまい。そういえばあいつらの首尾は?」
「まだ連絡がきておりませんな」

ばたん、と乱暴にドアを閉め、ゼロ卿は更に渋面を深くする。

「やはりあの峡谷を虱潰しに探すしか無いようだ。メカローバーの調整を急げ」
「はっ」

内心、科学者の苦労も知らず勝手なことを、といつもの台詞をぼやいたニトロ博士だが、それを口には出さずにアクセルを踏み込んだ。
ぶるん、と大きな音を立て、車が発進する。


窓の外の先程まで居た土壁の粗末な屋敷をねめつけ、ゼロ卿はふん、と再び鼻を鳴らす。




「遺跡は我々の物、だと?」







ふざけるな。



「世界の考古学的遺産は、全て私のものだ」


呟き、彼は座り心地の良くないレンタカーのバックシートに背を預けた。








 
 

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q10







 

             『地平線の向こうへ』<10>


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「おーい、こっちこっち!」
「アーメッド!」




翌日、降り立ったエジプトの空港で手を振っていたのは、小さな商売人アーメッドだった。



彼の姿を認め、アルフレッドはメリッサと共にそちらに歩いていく。彼も小走りに人の波を器用に掻き分け、彼らの元にやってきた。




「どうしたのさ、一体。急に車用意しておいてくれ、なんて。
今回もギルト博士の指令?…にしちゃあ、なんでケティで来てないんだよ?」



彼は開口一番当然、といえば当然の疑問を二人にぶつけてくる。
しかし、何から話していいものやら。
思って、アルフレッドは困ったように曖昧に微笑んだ。


「それが、…、いや、それより、人を探しているんだ。Dr.タラールって人物で…ここで待ち合わせているんだけど」
「医者?何でお医者が?」
「さあ…ギルト博士のレコードではその人に会えって」

ふうん、と頷き、アーメッドは辺りを見回す。それに伴い、アルフレッドも一通り、周辺に目を配る。




しかし、彼らを探しているようなめぼしい人物はどこにも見当たらない。
相手はギルト博士と連絡を取っているはずだ。当然、待ち合わせ相手のアルフレッドたちの特徴も聞いているはず。
なのに、彼らを探していそうな人物も、彼らの元にやってくる人物もどちらも見当たらない。
それに、アルフレッドは不思議そうな顔になった。


「うーん、困ったな。彼に会わないと」
「で?今回のお宝は一体なんなのさ!うう、わくわくするなあ」
「ああ…今回はお宝じゃないんだよ」

言って、アルフレッドは苦笑する。この小さな商売人は、何度も彼らの冒険についてきては自分の商売のタネにしようと狙っているのだ。
まあ、何度もその要領のよさと、エジプト周辺の地理の詳しさに助けられたこともあり、それを頭からとがめる事は出来ないのだが。



「え?じゃあなんなのさ?」
「なんでもその人がチェリ村の秘密を告発したいって――」




瞬間、アーメッドの笑顔が凍った。




「!」
「?アーメッド?」
「ちょ、ちょっちょっと二人ともこっち来て!!」
「きゃあ!」
「な、なんだい、一体!」

二人の抗議も聞かず、アーメッドは二人をずるずる、と手を引き、空港の隅に連れて行く。
それに、アルフレッドは大きくその目を見開いた。

「ちょ、ちょっと、Dr.タラールに会わないと――」
「とりあえずこっち!」




手を引く彼に、アルフレッドは慌ててアーメッドに声を掛ける。
しかし彼は有無を言わせぬ真剣な態度でアルフレッド達を引っ張っていった。


そして、人気のないことを確認し、アーメッドは二人に向き直り、声を潜めて話し出す。





「い、今チェリ村って言ったかい!?」
「うん、それがなにか――」
「あそこはやばいんだよ!いくらギルト博士の指令だって無茶だ!」
「?」

アーメッドの言葉に、彼らは思わず顔を見合わせる。それに、アーメッドは厳しい表情で二人を見た。

「どういうこと?」
「どうもこうも!あそこは――」

聞くメリッサに、アーメッドは大きく手を振り――







「まてっ!このクソガキっ!!」
「待つんだもんね!」



聞き覚えのありすぎる男たちの怒鳴り声に、彼らははっと顔を上げた。

その視線の先には、痩せ型と太目の二人の男に追い回されている、褐色の肌の少年の姿があった。


「――す、スリムとスラム!」

『~~~~!!』

アルフレッドの判らない現地の言葉で何事かを叫び、彼は必死でその小柄な身体を利用して人ごみを縫い、彼らの手から逃げようとしている。


「た、助けて、って言ってるよ!」
「な、なんとかしなきゃ」
「え、ええ!」
「二人とも、あっち!あの子を誘導してくるから、車宜しく!」


アーメッドが投げてよこしたキーを受け取り、アルフレッドはメリッサと二人、慌てて彼がの用意してくれていたレンタカーのある入り口を目指す。
そして、アーメッドは大急ぎで少年の元に駆けて行った。



『助けてやる!こっちだ!!』
『!』


現地語でそう叫び、アーメッドは少年に大きくこちら側へと手招きをする。
それに追い詰められかけ、絶望感が漂い始めていた少年の表情が、ぱっと明るくなった。


「あっ!アイツ前にもギルトの弟子どもと一緒に居た!」
「両方掴まえろ、スラム!」


スリムの言葉に頷き、スラムはその大きな腕をアーメッドの方に伸ばす。それを通行人の間に滑り込むよう、紙一重でアーメッドはかわした。


大体、ここは空港。小柄な少年たちの身体はごったがえす沢山のモノと人で紛れ、大人とはいえ、たった二人で掴まえるのは至難の業。
先刻からこの凸凹コンビが褐色の肌の少年を結構長い間追いかけているのも、その所為である。



『あの車に乗るぞ!友達の車だ!』


どうにかこうにかスリムとスラムの追撃を回避し、二人は空港の入り口までやってきた。


その向こうには、自分が手配しておいた青いバンが止めてあり、後部座席を空けて、中からメリッサが手招きをしている。
荷台に乗せた彼らの荷物と、運転席に着いてキーを回しているアルフレッドを見留め、アーメッドは車を目指して少年の手を引いた。


「急げ!」
「あーーーー!ギルトの弟子どもだもんねっ!!」
「ちっくしょう!よくも俺たちを騙しやがって!この上、チェリのお宝の手がかりまで掻っ攫っていかれてたまるか!!」

叫んで、スリムは手近にある観光客の台車着き荷物を奪い、アーメッドの方に投げつける。
荷物は弧を描き、勢い良く彼らの前を遮った。

「うわっ!」
「掴まえたもんね!!」

瞬間足を止めてしまい、スラムに少年の二の腕を掴まれる。その力の強さに、少年の足が宙に浮いた。

「離せ!」
「無駄だぜ!」

アーメッドがその足を蹴るも、子供の力ではびくともしない。
スリムはそれを見、安心したように笑い――



パコーン!!


刹那、景気のいい音がし、スラムの顔面にメリッサが投げた本がクリーンヒットした。

『二人とも!早く来なさい!!』
「メリッサさん、ナイスフォロー!!」
「ああっ、僕の本が!!」
「つべこべ言わないで!!車出しましょう!」


喜色満面で、アーメッドは顔の痛みに思わず手を離してしまったスラムから少年を奪回し、一目散に車の荷台に駆け上がった。

途端、車が急発進する。その勢いの良さに、彼らは思わず荷台に転がった。


「待てーーー!!」

背後で凸凹コンビが喚く声が聞こえる。しかし流石に相手が車には追いつけない。
彼らが遠ざかっていくのを見、アルフレッドは安心したように息をついた。


「…ああ、あの本最新刊だったのに」
「もう、今度弁償するから!…大丈夫?二人とも」


メリッサの言葉に、二人は肩で息をしながら頷いた。
そして、追いかけられていた少年は彼らをかわるがわる見、困惑したような顔になる。それを見留め、メリッサはにっこりと微笑んだ。

『ああ、私達は怪しいものではなくてよ。彼らを完全に撒いたら、家に連れて行ってあげるから』

「…どうも、ありがとうございました!」



彼女の言葉に安心したのだろう。表情を緩めた少年はカタコトの英語で礼を言い、ぺこり、と頭を下げる。
それに、彼らはきょとん、とした顔になった。


「あ、あんまり、早口では無理ですが、すこしなら」
「そっか。でもどうして君はあいつらに追いかけられてたんだい?」

当然といえば当然のアルフレッドの疑問。
しかし、それを聞いた少年の表情はやや曇るのを見、彼は目を瞬かせた。



「ねえ、僕は一介の考古学者だけどさ、できることがあれば力に――」
「…考古学者?」
「うん。紹介がまだだったね。僕は、アルフレッド・ジョーンズっていう考古学者で」
「!!」
「?どうしたの」
「――ジョーンズ博士ですか!?ギルト博士の弟子の!!」

突然の少年の言葉に、彼らは思わず息を呑む。

「あ、ああ。そうだよ」
「僕、あなたたち、まってました。――僕が、Dr.タラールの代理人です」
「ええっ!」

三人の驚いた声に、少年は一つ頷く。
そしてその黒い瞳で、彼らを真っ直ぐ見据えた。





「僕は、カシム。……チェリ村の人間。
――ジョーンズ博士、…Dr.タラールと、あの人を助けてください」






 
 

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             『地平線の向こうへ』<9>


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「な、何で、お前たちが!!」

驚きで震えそうになる声を叱咤し、アルフレッドは叫んだ。
メリッサを庇う様に立ちあがり、彼はきっと二人を睨みつける。

「ギルトのレコードを渡して貰うためなんだよね」
「レコード?ふざけるな!なんでお前たちに」
「落ち着けよ、今回は取引だ」
「お前たちと取引する気は無い!帰れ!!」

「――あの男、行方不明なんだってな」

さらり、と言ったスラムの声に、二人は電撃を打たれたように立ち竦んだ。
それに、スラムはにっと笑う。

「…調査通りみたいだな。おい、スリム」
「はい、スラム」

スラムが彼に手渡したのは、一枚の茶封筒。それを振り振り、彼はアルフレッドの方に示してみた。

「…ボス曰く、あのオンボロ飛行機の手がかりがこれに入ってるらしい」
「!!!」
「これと引き換えだ」

その言葉に、アルフレッドは息を呑んだ。

「…そ、そんなもの」
「欲しいだろう?」

彼の心を見透かすように、スラムはにっと嫌味に笑った。

「…――」



落ち着け。
ともすればヒートアップしそうな心臓の鼓動を押さえつけながら、アルフレッドは深呼吸する。


…あれが本物だとは限らない。
そもそも、ゼロ卿一味が公正な取引などというものをするなんて、信じられないのだ。
あれも中身が空、ということも、十分ありうる。

しかし今は、藁にもすがりたいほどの気分であることも確かだ。どんなにちっぽけな手がかりでもほしい。



それに――今回、レコードは。


「それに、今回お前たちには選択権がないんだもんね」

言って、二人は隠し持っていた銃を構える。
それにアルフレッドとメリッサはじり、と一歩後じさった。

「身体に風穴を開けられたくなかったら、レコードを渡せ」
「悪い話じゃないと思うよ。これを貰えるんだから。ボスって結構気前がいいんだよね」
「……」


――考えろ。
アルフレッドは思い、きゅ、と唇を引き結ぶ。

――考えろ考えろ考えろ。



自分がこいつらに殴りかかって行ったって、絶対勝てない。
モンタナが居たら、また状況は違うかも知れないけれど――彼はここには居ない。


探しに行くんだ。彼を。

メリッサは、走り出した。
だから僕の役目は。


「…――」

彼は顔をあげ、二人を睨みつける。

「レコードは、二階だよ」
「アルフレッド!」
「よし、スリム取りに」
「駄目だ、部屋が散らかっていてね。どれがどれだか僕じゃないと判らないよ」
「…判った、スリムは女を見張れ。手を挙げたまま二階へ」
「アルフレッド!駄目!嘘に決まってるじゃない!」


メリッサの言葉を尻目に、彼は手を挙げたままゆっくり二階へ登ってゆく。もちろん、スラムに銃口を突きつけられたままだ。
彼は本やら大量のレコードやらの積まれた自分の部屋に入り、一個の茶色の紙に覆われたレコード盤を取り出した。

「よこせ」
「駄目だ、一階であの茶封筒と同時に交換する」
「お前」
「…そうじゃなきゃこの場で踏んづけてレコード割るよ。…僕からは博士に連絡して、もう一度送ってもらうって手段もあるんだし。こっちも必死なんだ」

その言葉にスラムは面白くないように舌打ちし、一階へもう一度降りるように目で示す。
そして、アルフレッドは彼と共にもう一度階下に降りた。

「テーブルの上に載せろ」
「オイ、スリム」
「はい」

ぽん、と軽くテーブルの上に置かれる茶封筒。
アルフレッドも黙ってそのレコードを置いた。

「…取引成立だ」

スラムがレコードの包みを取る。

それを見、黙ってアルフレッドも茶封筒を取った。触った感触では、少なくとも中身は空ではないらしい。

「じゃあな、行くぞスリム!」
「待って、スラム~」
「ちょ、ちょっと貴方たち!!」


彼らは即座にレコードを手に、強引に店から出て行った。
慌ててメリッサがそれを追おうとする。――が。

「メリッサ」
「なにやってるのよ!レコードを」
「いいんだ。そもそも、レコードなんて今回無かったんだしね」

――言って、アルフレッドは笑って肩をすくめた。

彼女は呆然とアルフレッドを見た。
同時に彼は手近な椅子にへたり、と腰掛ける。

「…え?」
「…はは…なんか安心したら腰が抜けてきちゃったよ」

笑いながら、彼はテーブルに茶封筒を置く。それにメリッサは驚いたように目を瞬かせた。

「ここ暫く、レコードなんて来てなかったんだ」
「え…じゃ、じゃあ今の」
「ただのクラッシックのレコード。先週買ってきたんだけど、騒ぎで開封するの忘れてたんだよ」



つまり。…どうせ騙されるのなら、こちらもそれを覚悟で騙し返してやれ、と思ったのである。

「まあ、この場で中身を確認されたらどうしようかと思ったけどね。…ゼロ卿本人が来てたらどうだったかはわからないけど。あの二人だけだったのは幸いだった」
「アルフレッド…!」

それを聞き、メリッサは苦笑する。
…と。

「!!」
「何?メリッサ」

ふと彼女の顔から、血の気が引いた。

「…違うわ!来てたのよ!!」
「え?」

叫んで、彼女はばたばたと二階へ登ってゆく。
それを、アルフレッドはぽかん、とした顔でそれを見ていた。が、彼女が階下に戻ってきた時、手の中に埃をやや被った茶色の小包を持っていたのを見、目を丸くする。

「!!め、メリッサそれ!!」
「ごめんなさい、あの日ポストマンから預かってたのよ。…その後のごたごたですっかり忘れ去っていたけれど…チャダの部屋の無線机の下に落っこちてたままで」
「…」

今度はアルフレッドが呆然とする番だった。
そして―― 一瞬の後、思わず噴出す。

「ははははは…」
「ご、ごめんなさい」
「いや、もしかしたら良かったのかもしれないよ。…僕は嘘が苦手だからね。それを知ってたら態度に出て、ばれてたかもしれない」
「…で、でも緊急の用だったらどうしましょう」
「いや…まあ、とにかく聞いてみよう」

言って、茶封筒とそのレコードを持って、二階へ上がった。
そして、蓄音機にレコードをかける。いつもの音楽と共に、やたら渋い男の声――ギルト博士からの肉声が聞こえてきた。

「【“親愛なるわが弟子アルフレッド君と、モンタナ君、元気かね】」

いつもと同じフレーズで始まるレコード。
指令の内容は、エジプトの空港で、さる人物からある書類を受け取ってほしい、というものだった。
待ち合わせの日付は丁度、明日である。

「【彼の名はドクター・タラール。彼は現地のある村、チェリ村の秘密を告発したいと私に内密に手紙を送ってきたのだ。これが本当なら、考古学界にはかなり大きな影響を与えるだろう。詳しい事は現地で彼に聞いてもらいたい。
例によって行く先々には危険が待っている。君を守るのは君自身だ。成功を祈る】」

そこまで聞き、メリッサは慌ててレコードを蓄音機から外し、窓の外へ放り出す。一瞬の後、どかん!という景気の良い爆発音が窓の向こうで聞こえた。

「ねえ、これって」
「…ああ、モンタナが行方不明になった空域の近くだ」

言いながら、アルフレッドは茶封筒を空ける。
中から出てきたのは、一冊のカタログだった。
よくは判らないが――なにかのオークションの出品カタログ。彼の求めていた手がかりとは似ても似つかない。

「…クソ、やっぱり騙される所だった」
「…?アルフレッド」

しかし、ふとメリッサがその白い指でカタログの端を指差した。
そこには一枚のポストイット。

彼らは顔を思わず見合わせ、その頁を開き――

「!!」

そこには、――見覚えのある飛行機の写真が載っていた。
尾翼や羽の一部が欠けボロボロになっていたものの、いつも見ていたふたりにはわかる。

「け、ケティっ!!??」
「アルフレッド!ここ!」

指差されたその頁の端には、流麗な筆記体で文字があった。ケティの出品者に関する、情報が事細かに書き込まれている。
もちろん、それはモンタナではなく、全然知らない赤の他人のものであった。が――

「…チェリ!?この出品者の住所、チェリ村じゃない!!」
「メリッサ!」

アルフレッドの言葉に、メリッサは大きく頷く。



はっきりと、何があったかは判らない。

けれどただひとつ言えることは――エジプト・チェリでなにかが起きている。



 
 

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