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             『地平線の向こうへ』<5>


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…恋とは、陣地取りゲームなのだとある友人が言っていた。

メリッサも、今までそうだと思っていたのだ。
上手く立ち回って、楽しく勝負。どうやって自分の陣地を増やせるか。それだけを追求する。




ただ、周りの友達がなんでそこまで熱中するのかは、メリッサにはさっぱり判らなかったけれど。

笑顔と物腰、軽快なお喋りとウイットを武器に。陣地を増やして、相手の顔色だけ伺って。

相手だって、ニコニコしている顔の面を一皮剥けば、自分にとってどうやったら有利になるかしか考えていない。

ゲームといっても、至極退屈。それに溺れるよりかは、まだショッピングや観劇をしていた方が楽しかった。


ゲームに誘ってくれた紳士は、沢山いたけれど。実際付き合ってみた人は何人もいるけれど。 ――その悉くはつまらない結果に終わって。




だから、ショッピングにも観劇にも、旅行にも退屈した彼女には「楽しいこと」が見つからなかったのだ。







だけどある時、それは空から降ってきた。
至極、――この上なく彼女をドキドキさせることは。


最初は自動車泥棒だと思ったのだ。
けれど、話を聞けばとても楽しそうなことをしていることが判って。



冒険!

その言葉は彼女の耳には非常に魅力的に響き、今迄のどんな物より彼女をドキドキさせた。

それからは、退屈という言葉とは一切無縁。
次から次へと色々な事に巻き込まれ――逆に、少しは退屈で平凡な生活を長く送りたい、と思うほど。
危険な目にも遭ったし、辟易するような体験もした。けれどそんな日々をちっとも苦にしていない自分も確かにいるのだ。




しかし、そんな日々には、おまけもついていた。
それは結局――おまけとすら言えない大きな形で、彼女の中に根付いてしまったけれど。







飛行機のことしか頭に無くて。
平凡で堅実な日々より綱渡りのような冒険を好む様な、とんでもない男。
いい大人の癖にいつも子供みたいに無茶ばかりやって、皮肉交じりの冗談を飛ばす。

…彼はメリッサのいままで知っていた「男の人」とはまるで違っていた。
実際、彼女も話だけで彼のことを聞けば、「とんでもない」と否定したに違いない。


けれど、――目でみた真実は、字面だけで並べた単語とはまるで違う様相を呈していた。

たしかに、子供っぽさはかなりある。けれど、それはきちんと大人として、人としてやるべき事を踏まえていないのではない。
それどころかどんな時だって、友人である自分たちをさりげなく助けてくれた。

自分だって、けして実際は大した余裕があるわけではないのに。
基本的にかっこつけで、…優しすぎるのだ。あの男は。
あえてそれを周りに吹聴したりはしないが、その頼もしさには、窮地に陥った時に何度助けられた事か。

悔しいけれど。本当に、悔しいけれど――そんなときは他の誰より素敵に見えて。
腹が立つ男ではあるけれど、…なぜかどうしようもなく魅かれて。



一時は、ただの気の迷いかと思っていた。冒険のスリルに感覚がただ麻痺させられたのだ、と。
けれど、現実に戻ってきたときにも、一度感じた引力は続いていて。その引力は単なる気の迷いでは済まされないことを悟らせるには十分強く、持続性を帯びていた。

…さすがのメリッサもそれが単なる勘違いではないことが判らないほど、子供ではなくて。


…全く、世の中と言う物はままならない。
恋というものはいつでもつまらないゲームで。だけれどもいつかはその辺の適当な男と打算的な結婚をしなくてはならないのだ、と思っていたのに。


打算や適当、などという言葉とは程遠い――反対の局地にある男に、恋をしてしまったのだから。








だから、無かった事にしようと思ったのだ。
彼が――そう望んでいるのだから。


…覚悟、決めなくちゃ。
思って、メリッサはアガサのイタリアンレストランへの道を歩き始めた。
どんなに逃げ回ったって、絶対一生会わない、というわけには行かないんだから。

そうして、彼女は角を曲がり、いつもの桟橋の所へゆっくり近付いて行き――

そこにいつも停めてあるはずのオンボロ飛行機が無いのを見、目を見開いた。

「……」

アルフレッドの話では、いるという話だったのに。
それにどこかほっとしながら、彼女はレストランに向かい――

「??」

窓ガラスを通して、店の中に誰も人が居ないのが判り、彼女は首を傾げた。
この時間は、まだ営業しているはずなのに。見ると、ドアには早々とCLOSEDの看板が掛かっていた。
しかし、その看板もどこか急いで掛けられたように、大きく傾いている。

…と。


「あっれ~、このお店、こんなに早く閉まりましたっけ」
「え?」

突然かけられた声に後ろを振り向くと、そこには夕方の最終便を届けに来た、ポストマンの姿があった。

「…いえ、そんなはずないんですけど」
「困ったなあ、お届け物が…あ、貴方、この店の関係者の方とお知り合いですよね。何度か見かけたことが」
「ええ、友人です」
「じゃあこれ、渡して置いてください」

言って、ポストマンは小さな茶色の紙に包まれた小包を彼女に渡した。
見慣れた大き目の――だが軽くて薄い正方形のアルフレッド宛の箱。…送り先はフロム・ギルトとだけ書かれている。

…おなじみ、ギルト博士からの指令レコードだ。

「じゃあ、宜しくお願いします」

一礼してポストマンは店の入り口に止めていた自転車のスタンドを蹴るや否や、メリッサの返事も聞かずにそれに飛び乗り、走り去っていった。
彼女はぽかん、と暫しその背を見送っていたが、やがてふう、と息をつく。


しかし、本当に何故こんな時間に店を閉めてしまったのだろう。
彼女は不思議に思い、裏口の方へ回り――

「モンタナ!聞こえますかモンタナっ!!」
「ちょっとお貸し、チャダ!」
「ああ、ママ、静かにして、聞こえない!!」

騒ぐ声が聞こえ、彼女はそっと中へ入った。無用心にも、鍵は開いている。

「ねえ、何があったの!?」
「あ、メリッサ!!」

皆が集まっていたのは、チャダの部屋の無線機の前。
三人は蒼白な顔で、無線に齧りついていた。
無線から聞こえるのは、砂嵐のような激しいノイズだけ。聞こえてくるはずの声は、嵐の向こうにかき消されている。

「ケティが、嵐に巻き込まれたみたいで…」
「!!今どこなの!」
「それが、スエズの辺りらしいんですが、詳しい事は無線の調子が悪くて」
「貸しなさい!」

言うが早いか彼女はチャダを無線機の前から押しのけ、椅子を奪い取った。
そして必死に耳を凝らす。

“ザザザザ…ガ――…ザザ…”
「モンタナ!返事を!」

しかし、帰ってくるのはただの雑音だけだった。
彼女は歯噛みし、無線機を叩く。

「ちょっと!聞いているの!?モンタナ!」
「め、メリッサそんな乱暴な!」
「モンタナ!!」

――と。

“…ダ、は……ザザ…現在…”

微かに聞こえた声に、一瞬にして皆は色めきたった。

「モンタナ!」

“…ャダ、マズイ……尾翼が…”

「尾翼?!」

“風にあおら…っ!!!”

「!!…もしもし!」


“…うわぁあああっ!!”


瞬間、ゴウッという音と共に、大きく鈍い衝撃音が聞こえる。
重い、金属が強く殴られるような音。

同時に、――無線が途切れる。

「――モンタナっ!!」

しかし、無線は沈黙したまま。
…一同は呆然と無線機を見る。

「…タナ…」


いつのまにか足元に放り出されていたギルト博士からの小包が、かたん、と微かな音をたてて傾く。




――呟いた声は、これ以上無いほど掠れていて。





そして結局――その日から丸10日。
…ケティ号との無線は、一切通じなくなってしまった。



 
 

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