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             『地平線の向こうへ』<6>


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最後の交信は、スエズ運河近くの海上。
そこで彼の行方は途絶えた。
その日、珍しくその海域では大きな嵐が発生したらしい。何隻もの船や飛行機が被害にあったという。

翌日のラジオでそれを聞いたとき、全員の顔から一気に血の気が引いた。
ショックを受け、アガサは店を暫く休業する事を決めてしまったほどだ。

慌てて現地の博物館の知り合いに頼み込み、即座にケティらしき機体を探してもらったが、それらしきものは一切発見できなかった。
そして、…そのパイロットも。

つまりは、ケティも――モンタナも。その日以来、行方知れずになってしまったのだ。


そして、最悪な事に。

「…向こうの警察から、これが届いたよ」

夕焼けの赤いが差し込む店内で。
アルフレッドが沈痛な面持ちで、テーブルの上にあるものを置いた。
…白い、塗料の禿げかけた大き目の金属片。

「これは」
「…ケティの、尾翼の欠片の一つだよ。本当はもっと大きいものもあるらしいけど、とりあえず小さいものを一部ってことで」

アルの言葉に、メリッサは息を呑んだ。

「でも、これがケティって証拠は」
「近くの海岸に流れ着いたんだそうだ…ほら、このあたりに前の修理の痕がある」
「…」

「10日も…連絡が無いんだ」

普段なら、何かしらの手段でつなぎをとってくるはずなのに。

「地元警察も、あの嵐でこの機体損傷じゃ、って…」

「いいたく、ないけど…モンタナは」
「やめなさいよ!」

彼女の悲痛な叫び声が、彼の言葉を遮る。
その声に、思わずアルフレッドは口をつぐんだ。

「あのしぶとい男がそんなわけ無いでしょう!!100回殺したって死なない男じゃない!」
「メリッサ」
「そのうちけろっとした顔で帰ってくるわよ!絶対、…決まってる!」
「…」

彼女の声に、彼は黙って俯く。
それに、メリッサも目の奥が熱くなるのを感じ、きゅ、と唇を噛んだ。

生きている。そう信じたい。
だけど、――この機体の破片を見てしまっては。







……空ばかり見ている人は空に魅入られて、その青さに取り込まれてしまう。
だから、空は見上げすぎてはいけないのだ、と。



昔、読んだ本に、そんな事が描いてあった。
初めてそれを読んだ時、彼女は「怖い」、と思った。



けれどそれを聞いた彼は――「羨ましい」、と言ったのである。






“空と一つになれたら、最高だろうなあ。…そうだろう?”







――そう言って少年のように笑った彼の横顔は、酷く彼女の心を奪って。















…どこまでも、遠く。高く。
彼は、空に連れて行かれてしまったのだろうか。






「………」

アルフレッドが、ぎゅ、と膝の上で握り締めた拳に力を入れたのが判る。
メリッサは黙って、そのケティの尾翼を見つめた。




「…私、帰る」



「…」

ゆっくりと立ち上がり、メリッサは言った。
それにアルフレッドは顔を上げる。

「…メリッサ」

ドアの直前で声を掛けられ、彼女は動きを止める。



「…あの日、なにがあったの?」






息が―― 一瞬止まるかと思った。



――…

メリッサは、そのままドアのノブに手を掛けた。

「…メリッサ」



「『まずった』」

「え」

「あの人が開口一番、言った言葉よ」
「何が…」



「あのひとは、私のこと、好きじゃなかったの」



「メリッ―――!!」



「――」

からんからん…。

メリッサは答えずに、そのまま店を出た。

キティが無い桟橋が、夕日に赤く染まっている。
泣きたくなるほど、綺麗な赤。

寂しげに、赤い水面が揺れていた。




 
 

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