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1章☆カッツィ乱入





「いい天気だ…。」

窓から差し込む春の日差しに目を細めながら、パオフゥはソファーに転がっていた。

テーブルの上の酒瓶はすでに数本が空になり、氷の入ったグラスは陽気に負けうっすらと

汗をかいている。

「今日はぎゃあぎゃあ文句言う奴もいねぇし、久々に穏やかな休日だよなぁ…。」

ぐで~っとしながらパオフゥが本日何杯目かわからないバーボンをグラスに注ごうとした時、

麗らかな部屋にドアチャイムが鳴り響いた。

ピンポーン

「あああ~~?」

ソファーに横たわったままパオフゥは視線だけを扉に向ける。

ピンポーン

少し間を開け、チャイムは再び鳴った。

「なんだぁ?本日休業の張り紙が読めねぇってのか。」

ボトルとグラスを握り締め、眉間にしわを寄せる。

ピンポーン

更にもう一度。どうやら休業と知ってなお用事があるらしい。

「仕方ねぇ。」

ヨイコラショとまでは言わないものの、パオフゥはフラフラとソファーから立ち上がり、

飲みすぎておぼつかない足を引きずるようにして玄関へ向かった。

ピンポーン

チャイムはしつこく、けれどどこか申し訳なさそうに鳴り続けている。

「誰だ。」

がちゃりと音を立てて扉を開ければ、目の前には大きな紙袋を携えた克哉が立っていた。

「や、やあ嵯峨!げ、元気かい?あははは。」

どうにもわざとらしい笑顔を振り撒き、克哉はぎこちなく片手を挙げた。

「お前か…珍しいな。一体何の用だ?」

世にも珍しいものを見るような表情でパオフゥは克哉の頭からつま先を何度も何度も見る。

パオフゥのやや失礼な態度にも動じず、克哉は頭を掻いた。

「い、いやね。たまにはお前と一緒に飲もうかな~なんて思ったんだが…。

もうすでに飲んでいるみたいだな。しかもその分じゃかなりの量を飲んでいるんじゃないか?

…顔が真っ赤だぞ。」

サングラスを手で軽く上げ、克哉はよれよれの黒シャツと金のパンツスーツを着た、

赤ら顔の男をまじまじと見つめた。

「…文句あるか。」

パオフゥは余計なお世話といわんばかりに、やや不機嫌な表情を見せる。

すると克哉は、そのまま首が飛んでいってしまいそうな勢いで強く激しく首を振った。

「い、いやいや!そんなことはないよ。文句なんか一切ないさ。あるワケがない!

ほ、ホラ…さ、誰にだって、まぁ、飲みたい気分の時があるものだからね!」

そして問題ない問題ないと繰り返し、抱えていた紙袋から酒瓶の頭を少しのぞかせた。

「僕も飲むっていっただろう?これは手土産だ。今日は僕も非番だから、じっくりと

二人で飲み明かそうじゃないか。」

そう言って克哉に渡された紙袋の中に入っている数本の酒瓶の銘柄に表情をわずかに

緩ませると、パオフゥは入れと顎で促し、そのまま自分は奥の部屋へと向かう。

少しほっとしたように息を付くと克哉もまたオフィスに向かった。



パタン。

閉じられた玄関の扉に張られた『本日休業』の張り紙が春風になでられ、軽くたなびいた。


2章☆挙動不審刑事(25)





「こ、これはまたひどい有様だね。」

部屋に一歩足を踏み入れた途端、克哉が後ずさった。

室内にはタバコの煙が充満し、まるで燻製でも作っているかに煙っている。

床にはくしゃくしゃに握りつぶされたタバコの空き箱と、吸殻が山盛りになった灰皿。

読み終えた新聞もそこいらじゅうにばら撒かれ散らかり、パソコンの様々なコード類も

のび放題である。

さらに、酒の肴とおぼしきチータラやかっぱえび○んなどの食いカスが、テーブルの上を

所狭しと占領し、その隙間を埋めるように氷の入れ物やピッチャーが置かれ、

空の酒瓶が転がる散々な様相である。

舞耶のおかげで多少の部屋の汚さには慣れた克哉ではあっても、この不健康極まりない

汚れ方にはわずかならぬ不快感を示していた。

けれど、たいてい部屋を汚す人間にはその自覚があまり無いものだが(舞耶含む)、

パオフゥにしてもその例外ではなく克哉の反応に全く気付かない。





「ああ?そうか?」

と言い放った後、またソファーにどっかと座り込んだ。

「まぁ、お前も座れや。」

ちょいちょいと自分の正面のソファーを指差す。

「そ、それじゃあ失礼して。」

克哉は新聞や吸殻などを踏まないようにうまく避けながら、正面のソファーに腰をおろした。

パオフゥは克哉の手土産の紙袋から酒瓶を取り出し、テーブルの上に無理矢理のせていく。

当然、酒瓶に追い詰められた食べカス等のごみは行き場を失って床にぼとぼとと落ち、

克哉はその様子にあからさまに顔を歪ませた。

「グラスはこれを使え。」

「あ、ああ。ありがとう。」

渡されたグラスを握り締めながら、克哉はきょろりと部屋を見回した。

「なぁ、嵯峨。」

「なんだ?」

パオフゥは自分のグラスになみなみと酒を注ぎ、そして克哉のグラスにも酒を注いだ。

「差し出がましいかもしれないが、その…この部屋は片付けたほうがいいんじゃないのかな。

衛生上、どう考えてもいいとは思えないのだが…。最後に掃除したのはいつだ?」

ちらりと上目遣いにパオフゥの様子を伺う。

「余計なお世話だ。俺はコレが気に入ってんだ。」

眉間にしわを寄せたものの、やがて少し考え込むように天井を見上げ、パオフゥはぼそりと

呟いた。

「そうだな…この前芹沢が掃除したのが最後だったはずだ。」

そして自分のグラスに口を付け、ごくりごくりと喉を鳴らしながら一気に呷った。

「!!」

克哉の顔色がわずかに青ざめる。

その変化にパオフゥは気付かず、ぷふぅーと大きく酒臭い息をつく。

「だがな、ここは俺の部屋なんだ。汚かろうと文句言われる筋合いはねぇ。」

サングラス越しに克哉を軽く睨みつけた。

「す、すまない。変なことを聞いたね。」

もじょもじょと小声で呟く克哉の姿に、パオフゥはぼりぼりと頭を掻いた。

「別に構わねぇよ。」

「そ、そうか…なら良かった…。」





会話はそこで途切れ、克哉とパオフゥは互いのペースで酒を飲みだした。

静まり返った部屋にはムサい男二人がかもし出す、居心地の悪い空気が流れ出す。

克哉は始終グラスを弄んだり、溜息をついたり落ち着かないことこの上ない。

挙句貧乏ゆすりまではじめ、何か口を開こうと顔を上げるものの、思い直したようにまた

俯いてはグラスを空ける。

パオフゥはひたすらグラスを空け続けていたが、数杯目の酒をグラスに注ぎながら、

克哉のその様子を見、軽く首をすくめた。





先に口を開いたのは、パオフゥだった。

パオフゥは酒瓶をやや乱暴にテーブルの上に置き、その衝撃で、もそりと音を立てて

ごみが床に落ちる。

「お前よ、さっきからなんなんだ??辛気臭ぇ思いつめた面しやがって。

溜息付いたりモジモジしたり、言いたいことがあるならはっきり言え!

気持ち悪ぃったらねぇんだよ!」

そして腕と足を組み、克哉の顔を不審そうに眺める。

「あ、い、いや…。」

その言葉に克哉は戸惑ったような表情を見せたが、軽くかみ締めていた唇を開いた。

「そうだな、いつまでも避けられる話題じゃないしな…。」

また小さく溜息をつく、克哉。

「…なんと言うか…今回はその…はっきり言わせてもらうと……残念だったね。」

ぼそっと言って克哉はグラスを握った両手を、額に当てた。

「??」

パオフゥは怪訝そうに眉をしかめながらも、黙ってグラスを口に運ぶ。

「お前の見た目は確かに一般人には見えない。性格も生活態度も決していいとは言えない。

服のセンスが悪い上に酒呑みだし、半神ジャガーズなんて弱い球団も好きだ。

頭はいいくせにダジャレセンスが悪いし、髪も長いし、愛想も悪い。

イベントにも疎いから、ほんの少しの気の利いたことを言うこともすることもできないことも

分かっている。

到底、世間一般に言う好青年、もとい好中年には見えはしない。

だがな、僕としてはやはりその辺がネックだったのではないかと思う。」

「…」

「高めあいながら前に進める人間に出会えることができたなら、それは素晴らしいことだ。

そんな相手とずっと一緒に居ることができるならばなお、素晴らしいと思う。

しかし人とは支えてもらわなければ生きてゆけない脆弱な生き物だ。

ただ前へ押してくれるだけではなく、倒れそうなときに優しい言葉の一つが欲しいものなんだよ。

お前の場合なんか特に、支え合いなんて言葉はとても考えられたものじゃない。

ましてや愛情とか優しさとかそういう類の感情は似合わなさ過ぎて逆に笑えるし、

お前に求めようがないのもまた頷ける話なんだが…。」

「…周防。」

変な展開になってきたと、パオフゥはグラスを傾ける手を止めた。

すると克哉は慌てたように手のひらを振り回した。

「だ、だが!僕は決してお前だけが悪いと言ってるわけではないんだ!

人は常に移り変わるものであり絶対的不変な存在であり得はしない。

時間の流れに合わせて少しずつ変化していく事は自然の理で、なんて言うか、こう、

歯車は常にうまく噛み合うものではなく、時にズレも生じれば調整もするし、それでもダメなら

パーツを替えることも考えられる。

今回はそれがたまたまお前だったって言うだけあって、いつか僕もそうならないとは言い切れ

ないし、例え『これは!』と思っても数週間後には、やはり勘違いだったということなんか

多々あり得るものだから、まぁ、今回のパターンはそんなかんじに受け流して…って、

ああーもう!言いたいことはそうじゃなくって……ならば僕はなんと言えば!!」

そう叫んで克哉は髪の毛をもしゃもしゃとかき混ぜた。

バリリと整ったモミアゲがとたんに乱れる。

「つーか、お前一体何言って…」

ピンポーン

意味不明な克哉の発言にパオフゥが身を乗り出したとき、またもドアチャイムが鳴り響いた。

二人は反射的に玄関に目線を向ける。

ピンポーン

「お、お客じゃないのかい?出迎えないといけないだろう!」

克哉が勢いよく立ち上がるのを、パオフゥは手で制止する。

「今日は休業なんだよ。お前も張り紙見ただろうが。放っておけばいい。」

面倒くさそうに答えるパオフゥに克哉は掴み掛かりそうな勢いでテーブルをまたぎ越え、

詰め寄った。

「何てことを言うんだ!いいじゃないか、客商売なんだから出て損はないだろう。

客の目を見ながら今日は休業と言えばいいだけじゃないか、そうだろう?

さぁ、僕の事は気にしないでくれて構わない!むしろ愛想笑いくらいかましてやれ!

…それに…もしかしたら芹沢君かも…しれないだろう?」

そう言って克哉はパオフゥの肩をぐいと掴んだ。

あまりにも真剣な克哉の表情に押され、パオフゥはたじろぎながらも答える。

「な、お前…、どうしたんだ?第一、芹沢なわけがねぇ。アイツは…」

「そんなの分からないじゃないか!分からないだろう!?

……いいから出ろって僕が言ってるんだ!行け!」

上ずった声でまくし立てる克哉にグラスを奪われ、半ば追い立てられるようにしてパオフゥは

玄関に向かった。

あまりにも不審な克哉の態度に首をひねりつつも、

『何考えてやがる、あンの乙女野郎。訳が分からねぇ。あとじっくり問い詰めねぇと。』

と心に誓い、パオフゥは訪問者を追い返すために扉を開けたのだった。




3章☆TV局メンバァ突入





「…俺の仕事…俺の家…なのに、なんで周防の顎で動かされてるんだ?」

腕組みをし、歩きながらパオフゥは考える。故に、パオここに在り。

「アイツにゃー何の貸しも借りもねぇってのに、やたら態度がでかすぎる。」

ブツクサ文句を言いながらパオフゥは面倒くさそうに玄関のドアノブに手を伸ばした。

『ちくしょう~~。何処のどいつかは知らんが折角の休日を邪魔しやがって。

ぶっとばして丁重にお帰り願ってやらんと気がすまねぇ!』

鬼気迫る意気込みでノブを回し、扉を開けようとした時。

――扉とは多くのものが外から開ける場合は押し、中から開ける場合は引くものである。

パオフゥのオフィスの扉もまた、例に違わず。

引き開けようとした扉は、外部からの力も加わり恐ろしいまでの勢いでパオフゥに向かってきたのだった。

「おあ!?」

とっさのことで避ける間もなく、パオフゥはしばしの空中浮遊を堪能し、数メートルの距離を飛行した。

ぶっ飛ばすつもりが逆にぶっ飛ばされてしまった、ありがちなパターンである。

「ぐぼっ!!」

蛙が潰れたような呻き声をあげ、パオフゥはそのまま床に頭から叩きつけられた。

と、同時に開け放たれたドアから何者かがオフィスに侵入してくるのを、パオフゥは走馬灯が駆け巡る脳内で感じとった。

『―――この俺の隙をついてくるとは…悪魔か!?』

よくよく考えてみれば隙もへったくれもありはしないのだが、しかし、次の瞬間パオフゥは自分の考えが外れたことを知る。

「でひゃひゃひゃ~~!ちわ~~~っス~~!」

扉で隔たれパオフゥからは顔が見えないものの、窓ガラスがビリビリと怯えるほど響き渡るその大きな声は、

侵入者が何者であるかを嫌と言うほどにパオフゥに知らしめた。

「パオフゥさーん、いないんスか~~?」

ドカドカと大きな足音を立ててその人間はオフィス内に入ってきた。

続いて足音がもう二つ、トストス、ドスドスと続いてくる。

「Oh!Brown.人様のお宅に勝手に入ってはいけませんわよ。Maner違反でしてよ?」

引き止めるような甲高い声。

「桐島のいう通りだよ、上杉。こういう時は家主が出てくるのを待つもんだろ。

お前も立派な社会人なんだから、しっかり常識を弁えておくべきじゃないのかい。」

非難するドスの効いた声。パオフゥはどの声も聞き覚えがあった。





そう。

入ってきたのはブラウン、その後に続いてエリー、ゆきのと、つまるところTV局メンバーであった。

三人とも、ドアの陰の床に倒れているパオフゥに全く気付く素振りすらみせずワイワイとやっている。

ムカっ腹を立てたパオフゥは飛び起きて一発食らわしてやろうと考えたが、彼が長年にわたり培ってきた六感が、

『もう少しここで話を聞いていたほうが得策である』と判断した。

なんと言っても、彼には何が起きているのか全く分からなかったのだから。

『盗聴』は彼の最も得意とする事の一つであるし、ひとまずパオフゥは気付かれるまでは床に居ることにした。

「まぁまぁ、いいじゃないッスか、姐御!ほら、今日はそう言うカタ~イ事は言いっこなしなし!

こういう乱入の方がネタ的にも気分的にもオイシイもんじゃないっスか!…ね、ね?」

必死で自分をフォローするブラウンに、ゆきのが溜息混じりに呟いた。

「ネタって言うのは引っかかるけど…そうだねぇ。流石に今日はね。」

ゆきのの意見に同調するようにエリーもまた続ける。

「確かに…。今日という日は、少々seriousになりそうですものね。

Brownくらいのcheerfulさが無ければいけないかもしれませんわ。」

「でしょでしょ、そーでしょー?たまにはこういうノリもあの人には必要っスよ。

あの人のことだから沈み込んで酒でも呷ってるに違いないし。

だからこそ、こうやって俺達が来たんじゃないの。」

エリーの助け舟も得て、ブラウンはここぞとばかりに鼻を膨らます。

「でもねぇ…あたし達がでしゃばるべきじゃないんじゃないのかい。

こういうことってやっぱり―――」

言葉を濁らすゆきのに、エリーが声を掛ける。

「ですけれどYukino。コレは頼まれたことですし、やれるだけやらなくてはなりませんわ。

細かいことはKeiが上手くやってくれるしょうから問題ありませんし。そして何よりも…。

いいえ、私達は信じるだけですわね。」

そして一同は無言のままに頷いた。





? 信じる?何をだよ。事態は更にパオフゥには不可解な方向へ向かっているようだ

パオフゥは、なかなか真相の出てこない会話に半ば苛立ちを覚えた。

それでも、会話に乱入はできない。できることといったら、そのまま話を盗み聞くことだけだ。





「ん、まぁ、このブラウン様がやってきた以上、どんな難事件も茶っ茶っと片付けチャウけどね。」

「相変わらずお前の冗談は寒いね。どうにかならないのかね。」

呆れ声のゆきのに、ブラウンは遺憾とばかりに返答を返す。

「なんと!姐御~~、分かってないなぁ。俺様はコレで食ってるんすよ~~?見よ、この美貌を!

ハートフルでポータブルで冴えきったジョーク!まるで風呂上りのビールのようなコクとキレ!

なんたって俺様ときたら、スーパーマルチタレントアイドル☆ブラウ…」

長口上を止めようとにエリーはすかさず言葉をはさむ。

「さあさ、急ぎましょう。Mr.Baofuの元にいきませんと。きっとMr.Suoも待ちかねていらっしゃるはずでしてよ?」

ぐいぐいとブラウンの背中を押す。

「確かにそッスねぇ。おし。パオフゥさんはたぶん奥の部屋だと思うんで、一気に行っきましょう~~なんちて。

でひゃひゃひゃ~~。」

ジョークに返事を返さず、ゆきのとエリーはさっさとオフィスに向かう。

「いやーん、無視しないでー。無視されたら俺様、サムシィ、なんちてー。」

ばたばたと二人を追う、ブラウン。

ドカドカ、トストス、ドスドス。

三者三様の足音を立てて、オフィスに続く扉を三人はくぐっていった。





「開けた扉は閉めろっての。」

結局気付かれずにやりすごしたパオフゥは、立ち上がった。

そして扉を閉めながら文句も漏らす。

「どいつもこいつも俺に気付きもしねぇしよ。」

グラグラと未だ衝撃でフラつく体と頭に軽く活を入れ、三人の入っていったオフィスに眼を向ける。

「それにしたって…今日ってなぁ…何か特別な日なのか?」

話を聞いていて分かったことは、どうやら俺の預かり知らないところで、何かが起きているらしい事。

しかも俺がナーバスになって尚且つシリアスで酒をがぶ飲みする状況であるらしい事。

周防もグルである事、南条が鍵を握っている事と、誰かがこの状況を意図的に創り上げた事だ。

―――確かに酒を飲んではいたが、俺は別に沈んじゃあいねぇのにな。

一体俺の身に何が起きているのだというのだ。

さっぱりわからないパオフゥは、ただただその場に立ちすくむばかりであった。

彼の受難はまだ続いたりする。


4章☆下水道メンバァ乱入





「何にしてもあいつらに話を聞かねぇとな。」

扉の前でじっと考え込んでいたパオフゥであったが、結局のところ1人で悩んだところで何の解決にもならない。

ならば、事情を知っているに違いない克哉・ブラウン・エリー・ゆきのに聞く事が最も確実で。

「問題はどうやって口を割らせるか、だ。」

パオフゥが気合を込めて首や指をバキボキ鳴らしながら、オフィスに入ろうとしたその瞬間。

ジャジャジャジャ~ンと言わないまでも、バターンと運命の扉は勢い良く開かれた。

「はぶっ!?」

壁と扉から猛烈なラブ(?)アタックを受け、パオフゥは消えかけていく意識の内に本日の自分の不運さを嘆いた。

…今日は厄日だ。大凶だ。天中殺だ。仏滅だ。何か憑いていやがるに相違ない、と。

彼はそのまま事切れた。





『サマリカーム』



何処からか、聞きなれた呪文を唱える声がした。

…………………………

……………………

……………

…??あれ、俺は――?

「Mr.パオフゥ、お目覚めですか?」

「オイーーッス!」

「…気分はどうだ。」

しゃがみ込み自分の顔を見下ろしている南条、マキ、レイジの下水道チームの面々。

一瞬、自分の置かれた立場が分からなくなる。が、持ち前の頭の回転のよさでパオフゥは何もかもを思いだした。

「お前らなーーーーーッ!!」

『飛びあがる』という形容そのままに、パオフゥは跳ね起きた。

その不意打ちをひょいと慣れた風に三人は避け、頭から激しく湯気を立ち上らせるパオフゥをぽかんと見た。

「Mr.パオフゥ。何を怒っていらっしゃるのですか。」

南条がいつもの淡々とした口調で問い掛ける。

「怒るも何もなぁ、どいつもこいつも俺を殺す気なのか!?そうなのかよ、オイ!!」

真っ赤になって怒鳴り喚くパオフゥに、マキは不思議そうに小首をかしげた。

「ええー何言ってるんですか?殺す気も何も、パオフゥさんたら瀕死で扉と壁の間に挟まってたんですよ。

だから私が慌ててサマリカームかけたんですから。一体何のために挟まってたんですか?」

「園村。何のためかなんて無粋な事聞くんじゃねぇ…単に狭い所が好きなんだろ。漢のマロンてぇ奴だ。」

「何言ってるの、城戸君。それを言うならロマンでしょう?…城戸君もベタなボケするようになったのね。

ビックリしちゃったー。あ、上杉君の寒いジョークが移ったのかな?」

ズレた会話をするマキとレイジにパオフゥはいっそう声を荒げる。

「お前らが挟んだんだろ、俺を!扉と壁の間に!!こう、勢い良くよぉ!!!

人の家来て、いきなりドア開けるんじゃねぇ!そして俺を挟むなよ!」

その言葉にマキは頬を少し膨らませる。

「それってただの言いがかりですよ。私たちにはパオフゥさんを挟む必要なんてないですもん。

ドアはちゃんとノックしましたし、パオフゥさんが聞いてなかっただけですよ。

…パオフゥさんって記憶不全と対人不信の傾向があるみたいですね。サイコセラピーをお奨めします。」

「な…!」

「そう興奮すると鼻血が出ますよ、Mr.パオフゥ。頭を打ったばかりなのですから少しは落ち着いて下さい。

全く、いい大人が情けない。現実と思い込みとを混同していらっしゃるようだ。

虎なんぞ信仰しているからではないのですか。いいかげんにNo.1たる嫁売を崇拝するべきですね。」

「ぐ…。」

「こういう時こそ、この『よく切れる包丁~ブリリアントXYZ~』の出番だ…じゃねぇ、出番です。

何もかもぶった切ってスッキリだ!今なら安くしとくぜ?」

「…」

(一部関係ないが)怒涛の暴言。ボロクソに言われてパオフゥはちょっぴり泣きたくなったりした。

だが、ここで泣いたら漢が廃るので額のたんこぶに手を当てて溜息を付く。

「チィ…今日はどうなってるんだ。甘ちゃんに絡まれるわ、馬鹿に吹っ飛ばされるわ、阿呆に挟まれるわ。

これでタライまであったら、完全にド○フのコント状態だぜ…。」

これはパオフゥにすればただの独り言だったのだが、なにぶんその場に居た人間は通常よりも大幅に優れた能力を持つ

ペルソナ使い。聞こえない訳がない。

「ドリ○?それは一体どのようなものですか。トリュフの一種か?」

「…南条、お前ぇ○リフも知らねぇのか。○リフってのはな…」

世間知らずな南条の発言に、真面目な返答をするレイジ。

さらに突拍子もない発想をするのはもちろんマキ。

「へぇー、パオフゥさんはタライが欲しいんですか?それじゃ、リクエストにお答えしますね?」

「あん?」

眉間にしわを寄せたパオフゥに、嬉々として答えるマキは空に向かって手を伸ばした。

青白い光を放ち、斬りつけてくるような風が沸き起こる。無意識の海からペルソナがその姿を現す。

白い顔に赤いペイント、緑色の着物に黄色い襷をした、パオフゥには見慣れないペルソナ。

「おお、懐かしいな園村。お前はまだこれを持っていたのか。」

「…3年前を思い出すぜ。」

「なんだぁ、こりゃ?」

懐かしそうな南条とレイジに対し、素直な驚きを述べたパオフゥにマキはにっこりと微笑みかけた。

「私を助けて!」





ひゅーーーーーーん

パオフゥに空からの素敵な贈り物、ポーピー君が届いた。

「チィッ!」

パオフゥは71のダメージ!

「あれれ?タライじゃないね??失敗失敗!!」

えへへと笑うマキにパオフゥはポーピー君の直撃した後頭部を押さえながら抗議をした。

「な、何だよ今の魔法はよ!!しかもそのペルソナなんだ!!」

一瞬きょとんとしたものの、直ぐにマキは納得顔になる。

「あ、そっか。パオフゥさんって最近のペルソナしか知らないんですよね。

今の魔法はスイートトラップ。空から素敵な贈り物の届く魔法なんです。いいでしょ?」

にこにこと話すマキをパオフゥは唖然と見つめる。

「それとこのペルソナは、FOOLテンジクトクベイです。とは言っても3年前のタイプですからこの魔法は使えませんし、

このタイプも今はもう召喚も降魔もすることもできません。

3年前と今では、ペルソナの種類、見かけ、魔法もほとんどタイプチェンジしちゃってるんですよ。

でも私は種類、魔法、姿のどれをとっても前のほうが好きなんで、3年前のままのペルソナを使ってるんです。

合体魔法は出来ないけれど、とっても使い勝手が良くって重宝してるんですよー。

そうそう、さっきのサマリカームも彼の魔法ですから。」

一気にそこまで言うとマキはペルソナを無意識の海の中に還した。

「ご理解いただけました?」

マキはパオフゥを見る。眉をひそめていたパオフゥだったが、顎鬚をいじりながらマキの目を見た。

「もう召喚できないってぇなら、何でお前さんがそんなの持ってるんだ?」

「私が望んだからですよ、決まってるじゃないですか。」

当然のごとく言うマキに、パオフゥはさらに眉と眉の距離を縮める。

「? お前さんが望んだからって、どうしてもういないペルソナが召喚できるんだよ??」

「えー?知らないんですか?だって、悪魔もペルソナもそもそも私が……」

それまで黙って話を聞いていた南条とレイジだったが、悲鳴に近い声を上げる。

「うわーーーー!」

「園村――――!!」

その声にパオフゥの肩がびくりと震えるのと殆ど同時にレイジと南条の手がマキの口を塞いでいた。

「ニャ…もごふごふ…」

「ニャ?何のこっ…」

パオフゥは突っ込もうとしたが、マキの口を押さえこみながら鬼気迫る目で自分を見る南条とレイジと目が合うと

思わずその先を飲み込んだ。

「はっはっはっは、何でもありませんよMr.パオフゥ。大した事ではありませんから気になさらなぬように。」

「全くもってその通りだ、人生、知らぬが仏ってもんだぜ…?」

どう考えても疑ってくださいと言わんばかりだったが、南条にいたってはPERSONAヤマオカが半分漏れ出ていたので

パオフゥは一先ず自分の身の安全を懸念する事にした。

この場に居ると(てゆーかこの3人の傍に居ると)間違いなく危険だと、例の第六感が告げたのだ。

つまりは三十六計逃げるに如かず。

「そうだな、俺はくだらねぇ事は気にしねぇ主義だ。安心してくれて結構。

…ところでだ、今日俺は出かける用事があったんだよ。すっかり忘れてたがな。

そんな訳だから、お前ら勝手にやっててくれ、な?それじゃあな。」

チャッと右手を挙げ、別れを告げると走り出したいのを堪えながら、パオフゥは扉に向かった。

と、いつの間にやら南条とレイジの手から逃れたらしいマキが声を上げる。

「そんなこと言って、逃がしはしませんからね!!城戸君!」

マキがパチンと指を鳴らすと、待ったましたとばかりにレイジが唇を歪ませた。

「おうよ。久しぶりだからな…鈍ってねぇか心配だぜ…。」

レイジは外に出ようとしたパオフゥの前に素早く身を滑りこませる。

「な、なんだぁ城戸。退けよ、俺ァ用事があるんだ、邪魔すんじゃねぇ。」

パオフゥがレイジを押しのけようとした途端、レイジが天に向かってその手を伸ばした。

青白い光を放ちながら、赤い燃える様な髪と翼、そして尻尾を持つナイスバディのペルソナが姿を現した。

「GO!!」



刹那の閃光。

何か魔法を使ったようだったが特に異変も無いのでパオフゥは逃走を再び決行した。が。

次の瞬間、パオフゥは自分の体の異変に気がついたのだった。

「あああ!?動けネェ!?どうなってんだコリャ!」

必死に動かそうとしても、まるで根が生えたかのように地面に張り付いて動かない自分の足を見やる。

嫌な予感がしてマキを見れば、マキはかつて無いほどいい笑顔でパオフゥを見上げていた。

そしてご丁寧に説明までしてくれる。まさに至れり尽せり。

「さっきのペルソナはサキュバス。この魔法はルナトラップって言うんです。

三ターンの間敵を逃げられなくする魔法なんですけど、便利でしょ?私のお気に入り魔法の一つなんです。

これも三年前のペルソナと魔法ですけど…こんなこともあろうかと城戸君に降ろしてきて正解だったみたい。」

あっけらかんと笑うその姿に、パオフゥは舞耶を重ねずにはいられなかった。

「他にも色々と使い勝手の良い魔法があるんですよ。そうだなぁ、私のお奨めの魔法は――」

マキが長くなりそうな話を始めるのを止めたのは南条だった。

「園村、時間が押している。説明は後でやってくれないか。」

そう言いながら南条は自分の腕時計を指し示てみせる。促されたマキもまた自分の腕時計を見やった。

「わ、本当大変だね、急がないと!さぁ、城戸君、南条君、ちゃっちゃと運んじゃって!」

マキの命令に南条とレイジこくりと頷き、パオフゥに向き返る。

一人の凶悪なペルソナ使い、二人の屈強なペルソナ使いに囲まれ、逃げ場を失ったパオフゥの叫び声は、

鳴海区中に響き渡ったと言う…。







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