忍者ブログ
Admin*Write*Comment
うろほろぞ
[941]  [940]  [939]  [938]  [937]  [936]  [935]  [934]  [933]  [932]  [931
×

[PR]上記の広告は3ヶ月以上新規記事投稿のないブログに表示されています。新しい記事を書く事で広告が消えます。

puu
その音色に、多くの女性が夢を馳せる。








 
 幸
 せ
 の
 BELL








ここ数日、何かに取り憑かれたようにブツブツと独り言を呟いていた芹沢が大声で俺に宣言した。
「あたし決めた!!お嫁さん貰う事にする!」
「は?」

そのあまりの突拍子も無い発言に、俺は飲んでいたコーヒーのカップを危うく落とすところだった。
「お前、何言ってんだ?とうとうオツムやられたか?」
額の上で指先をくるくるやってやったら、お返しに素晴らしい肘鉄を頂いた。
辛うじてカップは死守したものの、飲んだコーヒーが鼻にこみ上げてきそうになる感覚に、思わずむせる。
「真面目よ真面目!あたしゃー大真面目なんだからね、この馬鹿!」
さも憤慨したと顔を真っ赤にして怒る芹沢に、俺の口元がひくりと歪む。

「お前、自分の性別分かってるのか?」
「当然!あたしはぴちぴちの乙女よぅ!でもお嫁さん貰うの。もーこれは決定事項ね。」
ふん、と鼻息荒くガッツポーズを決めると、芹沢は帰り支度を始めた。
「さー、準備しないと。あんたにゃ言わなかったけど、式は明後日なのよね。忙しいのよ。
だから溜まってた有給貰うから。ほい、これ有給申請ね。」
顔の前に突き出された有給申請書を引っ手繰るように取って、俺は立ち上がった。
「明後日に式って…女同士で貸してくれる教会なんぞあるのか?」
至極当然な問いにも、勝ち誇ったかのように今度はパンフレットを突きつけてくる。
それにはギリシア的な彫刻の施された柱に囲まれた、豪華な円形ドーム型のチャペルの写真がついていた。
そして、鼻が180度捻ってしまいそうに臭いキャッチフレーズ。

『二人の新しい人生の始発点。二人の愛はこの場所から始まる…。~南条コンツェルン提供~』

「あンの嫁売野郎…何考えてやがるんだ…。」
ふつふつとこみ上げてくる怒りを押し隠しながら、俺は芹沢を睨みつけた。
「お前、結婚したかったんじゃねぇのか?女同士じゃ籍も入れられねぇぞ。第一世間体が…。」
「べッつにー。籍なんて今のあたしにはもうどうでもいいのよね。世間体も然り。
あんたと仕事してる時点で世間体なんて無いも同じだし。大切なのは心なの、コ・コ・ロ!分かる??
それに南条君が『これからの時代は、様々な愛の形が増えていきます。ですので是非Ms.芹沢にその新しいタイプの結婚の最初の式を飾って欲しい』って頼まれちゃったしさ。
あんなに頭下げられちゃったら断れないしー。」
それを聞いて俺は頭がくらりとした。
「要するに実験台じゃねぇか。お前それでいいのか!」
次第に声が荒くなっていくのも止められず、俺は芹沢に詰め寄った。
芹沢はつーんとそっぽを向きながら、俺に目線だけ走らせる。
「人の好意は素直に受け取るタイプなのよね、あたし。どっかの誰かさんと違ってね~~。」
しらっと言いのける芹沢に、俺は拳を握りぐっと息を飲み込む。

「ま、あんたとあたしのよしみだし、式くらい呼んで上げるわよぅ。これ招待状。
いい、来なかったらぶっ飛ばす!」
シシュっとシャドウボクシングを見せてから、ぽいと、真っ白い封筒を俺に投げて遣すとさっさと玄関に向かう。
俺は最後の力を振り絞って、ややかすれた声で尋ねた。
「…相手は誰だ。…天野か?」
芹沢は扉に半分身を隠しながらにやっと笑った。
「ふふふー。それはねー、来てからのお楽しみ!びっくりするわよぅ?
すっごーい、可愛いお嫁さんだから!他の人も見たら確実に驚くわねぇ~!
でもきっとそれであたしが如何に激しい愛に生きる女であるか、みんな理解すると思うわよぅ?」
にっと白い歯を見せ、そのまま芹沢は出て行った。
…俺は頭を抱え込み、がっくりと椅子に座り込んだ。








そして三日後。その日は来てしまった。
芹沢に渡された招待状には、式場と開始時間しか記されていなかった。
お陰でこの三日間というもの、芹沢の相手が誰なのかが気になって気になって仕事どころではなかった。
酒とタバコもいつもの三倍近くを摂取してしまった。
自分が惚れた女が事もあろうかどこぞの女に盗られるなんて!
こんなことならもっと早くに唾なり種なりつけておくべきだった…と思ってもそれはもう後の祭りだ。

重たい足取りで南条コンツェルン所有のチャペルに向かう。
俺の服装が正装ではなく、いつものゴールドスーツのままなのはせめてもの抵抗だった。
ついでに招待状にあった開始時間から15分遅刻してやったのも、芹沢へのささやかな非難だった…。
パンフレットと同じ円形ドームの、鮮やかなステンドグラスで彩られた入り口は当然ながら既に閉ざされ、
その前にはいかついガードマンらしき男が二人、のっしりと立ちはだかっていた。
「失礼ですが、あなた様は…?」
ガードマンのサングラス越しの視線が派手な格好の俺をギロリと射る。
「俺はこの式の招待客だ。…おら、招待状だ。」
俺に手渡された封筒を開け、中身にささっと目を通すと、途端にガードマンの表情が変わる。
「嵯峨薫様ですか?」
「…そうだ。」
表沙汰に出来ない俺の本名を口にされ、やや不審に思いながらも俺は頷く。
「大変失礼いたしました!どうぞ、こちらの入り口にお回りください。」
そう言ってステンドグラスのある入り口からさらに10mほど先にある小さな通用門にゴツイ手を向ける。
遅刻者専用入り口か、と小さく溜息を付きながら俺はガードマンに礼を言いそちらの扉に向かった。


『関係者以外立ち入り禁止』と書かれた扉を開けると、奥の方からパイオプオルガンの荘厳な音色が響く。
やはりもう、式が始まっているのか…と更に重くなる足取りの俺を呼び止めたのは、見知らぬ女の二人組みだった。
当然ながら俺のゴールドスーツに驚いていたようだったが、女の片割れが恐る恐る聞いてきた。
「あの…失礼ですが嵯峨薫様でいらっしゃいますか?」
「…そうだが…何の用だ。」
「ああ、良かった!圭様から聞いていたとおりでしたわ。ささ、お時間が押しています。
どうぞ、こちらへ。」
片方が俺の腕を掴み、片方が後ろからぐいぐいと俺を押しながら、パイプオルガンの聞える部屋から更に奥の部屋に連行される。

部屋の前には『衣装室』と記されたプレート。
…要するに俺がこの格好で来る事を南条は予測済みだったらしい。きちんとした正装に着替えろってことか。ったく、そんな下らねぇことに気が回るなら、人の女を他の女とくっ付かせようとするんじゃねぇ!
爆発しそうな南条への怒りで物凄い表情をしている俺にしり込みながらも、女二人組はてきぱきと仕事を始める。
俺を席につかせ、サングラスを外させ、アクセサリーも没収され今度は目をつぶれと言いやがる。
もうどうにでもなれと言われるままに俺は目を閉じ、身を投げ出した。
20分後、鏡の前には化粧を施され、三つ網にされたいかついオカマが…って、俺ですか!?がいた。
あまりのその酷い姿に目を見開き口をパクパクさせている俺を女達は狭い部屋に押し込める。
「これが衣装です。お時間がありませんので、ちゃっちゃと着てしまって下さいね。
あ、後ろのファスナーは私どもが閉めますのでお化粧と御髪が崩れないように気をつけてください。」
そう言って真っ白い塊を俺によこし、女は扉を閉めた。
まさか…よもや…と思いつつもとりあえずその服に袖を通す。

――――予感は的中した。

「なんじゃこらーーーーーーーーー!」
俺の叫び声に女どもはノックもせずに扉を開けた。
「まぁ素敵!!サイズもピッタリですわね!さ、ファスナー閉めて。
ああもうお時間だわ!はい、これ持って!ささ、行きましょう!!」
ちんまりとした物を押し付けられ、必死になって騒ぐ俺を完全にスルーし、女どもは俺をぐいぐいと押しながら大きな門の前に連行する。

門の前にはマイクを持った男と、ただぼんやりと立っている男。
そして、門の向こう側から、パイプオルガンの音色。
「止めろ、止めてくれ!これは一体何のつもりだ!!」
血管から血が噴き出そうになっている俺の、その口に女の一人が指を当てる。
もう一人は俺の髪を軽く直し始めた。
「お静かに、もう式は始まっていますのよ!ああ、それはこう持つんですのよ!」
ギロッと俺を睨んでから、髪を直していた女に目線を預ける。
女は満足そうに頷き、俺を黙らせた女はマイクを持った男に向かって大きく頷いた。
マイクを持った男はにやりと笑うと、ぼーっとしていた男に合図をする。
途端、男は表情が変わり、門のノブに手をかけた。


「お待たせいたしました。皆様、新婦の登場です。」
その悪夢のような言葉と同時に大きな門は、重たい音を立てながらゆっくりと開いた。
俺の目の前に現れたのは埋め尽くされた席と、真っ赤なバージンロード。
その奥に立っている神父、十字架に、俺に背を向けているスーツ姿の人間。
思わずしり込みしていると、先ほど入り口でガードマンをしていたはずの男の一人がそっと俺の背中を押す。
「前に進んでください。お客様も新郎もお待ちですよ。」

ギクシャクしながら前に進みながら客席についている顔をちらちらと見る。
天野に始め、諸悪の根源南条、黛、上杉、城戸、園村、トロ、青髪のボーズに黒髪のボーズ、金髪の娘っこ、それに達哉まで…。ついでに見知らぬピアスの男に顔にペイントした男、お下げにした金髪もいるが、どれもペルソナの気配がしている。…この街のペルソナ使いが総出ですか?
そんな事を考えながら、周防がいないことを神様に感謝しながらさらにバージンロードを歩く。
驚いた事にパイプオルガンを奏でていたのは桐島だった。
そして、俯いている神父の前に辿り着く。
俺の隣には、紫かかった紺のスーツをきちんと着込んだ、赤い髪が一人。
そっと俺の顔を見て、顔を赤らめて心底嬉しそうに目線を落とした。
…それだけで、この茶番も悪くはないか。と、思ったが!!

「…芹沢うらら。汝は病める時も健やかな時もこの者と共に生き、この者を終生愛する事を誓いますか?」
その言葉に俺は一気に冷水を浴びせられた気がした。
―――――!なんでお前が神父なんぞやってんだ、周防!!
そこには芹沢以上に顔を真っ赤にした周防がカチカチ震えながらバイブルを片手にこちらを見据えていた。

「誓います。」
ゆっくりと芹沢がそう言うと、周防は満足げに頷いて今度は俺を見た。
「嵯峨薫。汝は病める時も健やかな時もこの者と共に生き、この者を終生愛する事を誓いますか?」
そして、じっと、俺を見つめた。芹沢も俺を見ていることだろう。
いや、この場にいる全ての人間が今俺を見ているはずだ。背筋がぴりりとする。
あうあうと酸欠気味の金魚のように口を開閉していたが、俺は腹を括った。
「…ち、誓います。」
周防の顔が、ほっと弛んだ。芹沢は顔を両手で覆った。
会場の空気が一気に穏やかになり、俺の全身から力が抜けていった。
「それでは、指輪の交換を。」

渡された指輪を芹沢の左手の薬指に嵌めようとして、俺の指先が震えていることに気付く。
そして、それ以上に俺の薬指に指輪を嵌めようとした芹沢の手が、体が震えていることに気付いた。
目も赤くなっている。さっき、少し泣いたのだろう。俺は不思議な満足感で胸が一杯になった。

指輪の交換もすみ、やれやれだな…と一息ついたところに、最後のエアポケットは仕掛けられていた。

「最後に誓いのくちづけを。」
ぶふぅっと唾を噴かなかったのは、一重に日々の鍛錬の成果だと思いたい。
「ふ、ふざけるな…ッ」
と叫びかけた俺のこめかみをジャスティスショットが掠っていった。
「これは神聖な神への誓いの儀式だぞ。静かにしないか。」
そのまま出っ放しのヒューペリオンは俺に銃口を向け続ける。
俺は見世物じゃねぇ!と憤慨していたらぐいっと顔を引っ張られ、
瞳を閉じ、背伸びした芹沢の顔が俺に近づいて来た。
どうぞと言わんばかりに近づいて来たもんだからつい、つい……。

…これ以上は俺が恥ずかしいので勘弁してくれ。








結局、どうにかこうにか無事に式を終え、客に祝福されながらチャペルの正面玄関をくぐりぬける。
「うららっ!おめでとう!」
途端、飛びついてきた天野に抱きしめられて芹沢はすすり声を上げた。
「マーヤ…。あ、ありがと…。」
抱き合いながら震えている二人の姿から目をそらそうとした俺は、トントン、と肩を叩かれて振り返った。
そこにはいつものヘルメットと1番マフラーのお坊ちゃん、南条がいた。

「楽しんでいただけましたでしょうか、Mr.パオフゥ?」
心底楽しそうに口元を弓なりにし、俺の表情を伺う。
「悪くは無い余興だったが…何のつもりなんだ。」
わざと不機嫌そうに答えてやると、酷く生真面目な顔で南条は俺を見た。
「Ms芹沢が、桐島とこの前飲みに行ったのをご存知ですか?」
「あ?ああ、先月だっけか。」
「そう。その時にMs.芹沢は桐島に『今のままでは不安、けじめが欲しい』と言ったそうだ。
俺はそれを桐島から聞いて、南条コンツェルンで行き詰まっていた、とある新事業を思い出したんです。」
「それが、これなのか。」
南条の目線はまだ抱き合っている天野と芹沢に注がれた。
「その通り。これは立派なビジネスなんですよ。
Ms芹沢は何かけじめが欲しいと言った。俺はその手段の一つを提示した。
そして、互いの損得、発生するリスクを話し合った結果、今回の式が執り行われたわけですからね。」
悪くはなかったでしょう、と言う南条に、俺は俺自身がずっと考えつづけていた言葉をぶつける。
「結婚する気以前に、籍は無い。姿も怪しい。こんな男に女を幸せにできると思うか?
それは、あいつが…あいつの為になるとでも本気で思うのか?」
その言葉に、南条は軽く首を振る。
「俺には分かりません。でも、不安なのはあなたの気持ちでしょう。あなたが持っているコンプレックスだ。
Ms.芹沢はあなたに幸せにして欲しいから式を挙げたわけじゃありません。
それは―――あなたもご存知ではありませんか?」
「……」

フラッシュバックするセリフ。

いつのまにか芹沢は天野と離れ、俺に向かって手をこまねいていた。
「さ、そろそろブーケを投げないといけませんよ、Mr.新婦。新郎がお待ちです。」
「…その言い方は止めろ…。」
「新婦さーん、お嫁候補たちがこぞってブーケをお待ちよぅ!」
笑っている芹沢に近付き、その手の中に俺はブーケを押し付けた。
「何?」
「ブーケはな、本物の花嫁が投げないと意味がねぇだろがよ。」
「え、あ…それって…。」
「さっさと投げろ。」
「……うん。」
顔を赤らめて俯いている芹沢に俺は背を向ける。
「パオ。」
「何だ。」
「折角格好つけてるのに、ウェンディングドレス姿じゃ決まらないね。」
プフッという笑い声に俺の血液が一気に上昇する。
「いいから投げろ、阿呆!!」
「はいはい、分かってるわよぅ!」

ブーケは蒼天に吸い込まれるよう、うららの手から離れた。
チャペルの鐘は、ただ二人の未来の為に鳴り続けていた。








なんて素晴らしい、幸せの音色だろう。
PR
ppu * HOME * ppuu
  • ABOUT
うろほらぞ
Copyright © うろほろぞ All Rights Reserved.*Powered by NinjaBlog
Graphics By R-C free web graphics*material by 工房たま素材館*Template by Kaie
忍者ブログ [PR]