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うろほろぞ
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はっきり言って、僕は嘘が苦手だ。
すぐに顔に出てしまうし、何よりも公僕たる者清廉潔白でなければいけない。
だが、今回ばかりはどうにかしてポーカーフェイスをキープしなくてはならない。
嘘を、付きとおさなければいけなくて。

…なぜなら僕はある約束をしたからだ。

















Surprise Typhoon



side"k"






























そもそもこんなことになったのは、先週の土曜日、天野君から電話があったことから始まったわけで。
あれは…12時くらいだったか?
そろそろ昼食に行こうかと思っていたところに、ケータイが鳴ったんだ。
どうせ電話を掛けてくるのは同僚くらいだと思っていたから、僕は相手の確認を怠ってしまったのだけれど、これは少々まずかったようで。
「はい、周防。」
意気込んで答えると、柔らかな声音が響いた。
「もしもし、克哉さん?天野ですけど、わかります?」
僕はうれしさで卒倒しそうだった。天野君から電話がかかってくるなんて!!
「もももももちろんだよ!!ききき今日はどうかしたのかい?」
仕事中だということも忘れて、僕は舞い上がってしまった。
周りから受ける冷たい目線と、あたりに響き渡る黄色い嬌声なんて気付きもしなかった。
声が上ずっていた挙句、挙動不審だったと、あとで仲間に冷やかされるなんて思いもしなかった。
…僕にとって、そんなことは心からどうでも良かったんだ。
天野君が言うには、
「実はね、30日はうららの誕生日なのよ。それで、お願いがあるんだけど・・・」
あああああああ。
どうして天野君のお願いを僕が叶えられないわけがあるのか。
言ってくれ、言ってくれ。ジャンジャン言ってくれ!!
そう叫びたいのを必死にこらえ、平静を保ちながら僕は尋ねる。
「一体、なんだい?」
「実はね…」




話を聞いてもちろん、僕は二つ返事でOKしたさ!ああそうさ!
計画自体、とても素敵なものだったし、僕自身ホームパーティーが好きだったからね。
天野君のリクエストに応じたケーキを3つほど焼いて、達哉にも別に2つほど焼いて(えらく嫌がってはいたが)食べさせもした。
準備は万端!!味ももちろん自信アリ!!
けれど、僕はすっかり忘れていたんだ。一番、重要な問題を。
僕は嘘が苦手な事を、それがすぐに顔に出てしまうことを!!



30日当日。やはり12時頃だったかな。
署に芹沢君がきたんだ。


最初、なぜ彼女が署に来たのかが分からなくて、
「珍しいね、どうかしたのかい?」
って、聞いたんだ。
そうしたらものすごく申し訳なさそうに、
「今日、暇?」
と僕に聞いてくるじゃないか。
それで、僕は理解したんだ。
けれど天野君とのあの約束がある手前、うかつに答えられはしなくて。
だから、はぐらかすように答えたんだ。
「え、僕かい?急にどうしたんだい?」
今日が何の日か分かっててこんなことを言う僕は、なんて白々しくていやらしいのだろうと思ったよ。
「え、あ、なんか一緒に飲みたいなー、なんて思ってさ。」
困ったように、ぼそぼそと芹沢君が言う。
…やっぱり。
でも、計画の事を考えるとはっきり断るわけにはいかなくて。
仕方なしに僕は素知らぬ振りで、尋ねた。
「ぼ、僕がお相手でいいのかな。嵯峨は一緒じゃないのかい?」
ああ!僕の発言のなんとわざとらしかったこと!
「や…そのぅ、パオは『おめぇは馬鹿か?俺が暇なわけねぇだろう』って…。」
そう言って、彼女は苦笑いをした。
そりゃそうだ。ナイショで彼女を驚かせる準備があるんだから。
けれどそれを言うことは出来ないし、でも一人にさせるのは可哀想だし、どうしたものかと思案していたら、彼女は慌てたようにこう言ったんだ。
「あ、あ、ごめんごめん。そんな悩ませるつもりはなかったのよぅ。無理しないで!…ご免ね?」
それは本当に寂しそうな声と表情で。
全身に罪悪感が走ったよ。僕は叫びたかったよ。顔にも間違いなく出ただろう。




嘘ついてごめんなさい!!すいません!勘弁してください!!!!




ってね。…なのに、その言葉は言うのを許されないわけで。
芹沢君が小さくため息を付いたのを僕は見逃さなかった。
「忙しいトコ、ごめんねぇ。…それじゃーねぇ。」
そのまま彼女は帰っていってしまったけど、その後ずっと僕は申し訳ない気持ちで一杯だった。仕事もろくに手がつかなかったよ。
犯罪を犯したあとってこんな風に感じるのかな…と思ったよ。



そして、夜。


芹沢君を待つ部屋の中で天野君と嵯峨が、なにかごそごそとやっているじゃないか。
桐島君と南条君は飾り付けに気を取られていて気付いていなかった様だが。
あの二人が共謀して何かやっているなんて珍しいな、と思ったから僕は声を掛けたんだ。
「天野君。嵯峨と二人して、一体何しているんだい?」
振り返った彼女の手にはヘッドフォン。そこから聞こえるのは…芹沢君の声??
そして、嵯峨のジュラルミン製のいつものケースの中にはなにやらものものしい機材が溢れ返っている。
「そそそそれは、一体???」
僕はびっくりして天野君に尋ねた。
少しだけ、困ったように、そしていたずらが見つかった子供のように彼女は答えた。
「実はね、――パオフゥと共同っていうのはすっっっごく不愉快だったんだけど。
今日のうららの行動をどうしても知りたくって、うららのバックに盗聴器、仕掛けちゃったv」
てへっ☆っと天野君が爽やかに笑う。


な、なんていうことおおおおおおおおおおおお!


僕は、自分の目が丸く見開いていくのを、感じた。
「そっ、それは犯罪じゃないのかい!?」
あたふたと、天野君に問う。
「レッツポジティブシンキング~~♪克哉さんv」
軽く、その質問を流す天野君。
「いや、でもね僕はその、ほら、現役の刑事だし…。」
言いよどむ僕の顔に天野君の唇が近づく。
「まあまあ、いいじゃないの、克哉さん。そんなカタいこと、い・わ・な・い・で?」
僕の耳の辺りに彼女の暖かな吐息が掛かる。
…はい。もう言いません。この口が裂けても。








そう思っていた矢先、ヘッドフォンから溢れ出したのは大音量での芹沢君の声。
それまで気付いていなかった南条君と桐沢君もこちらを振り返る。

『でも、なんだかんだ言って克哉さんてぇいい人よね~。
優しいし、誠実だし、ケーキ作るのうまいし、安定してる公務員だし!
ブラコンとネコフェチが玉に疵だけど…。まぁ、そんくらいは良しとして。
あーゆー人に愛されてるマーヤったら幸せ者よねぇ。うーらやーましぃー限りぃぃ~よぅ~。』

いいいいきなり、なんてこと言うんだい、芹沢君!しかもミュージカル調で!
僕は体中の血の気が一気にひいてしまった。
南条君と桐島君は顔を見合わせ、困ったよう笑いながら僕を見ている。
嵯峨はあの皮肉ったらしい笑みを浮かべたまま、目線だけ僕に向けてくる。
…か、肝心の天野君は??
おそるおそる、右隣にいる天野君に視線を向ける。
うつむいている彼女の顔は…赤い?照れている?
ま、満更じゃない!?




やふーーーーー!!!
と叫びたい気持ちを抑えて、でも何かしたいからこっそりとガッツポーズ。
芹沢君の愚痴は更に続く。

『あ~あぁ~、そうですよぉーー。あんなヤサグレちゃった半神男でも好きなんですよぉー。
惚れちゃったんですよぉー、ごっめんなさいねぇーーーー』

もはや、愚痴なのかノロケなのか。相変わらずのミュージカル口調で。
左隣の男を覗き見ると、こちらも顔が赤い。驚いた!嵯峨が照れているのか。
―――いいね、微笑ましいね。幸せそうだね。僕らもそうなりたいね。
そう思って、もう一度天野君に目を向けると今度は顔色がよくない。
なんだか握り締めた拳がぶるぶると震えている気すらする。一体どうしたんだろう?








徐々に部屋に近づいているためか芹沢君の声がよりクリアーに聞こえてくる。




『マーヤなんてぇ、美人だし元気だし胸大きいしー。
この世の誰よりも愛してるのにーーー。ドタキャンなんてぇぇひどいったらないわよぅ。
きっときっと、アタシを置いてお嫁にいっちゃうんだわ。アタシ、マーヤに捨てられるんだわ。
…ふん。それでもマーヤが結婚するまでは、ずーーっとずぅーーーーっと傍にいちゃうもんね…。』

そのセリフに、天野君が心底嬉しそうに笑う。
「…うららったら。うふふ。私も愛してるわよー!傍にいてくれるなんて、大歓迎よー!」
女性の友情は美しいんだなぁ。僕はハンカチでそっと涙を拭いた、その途端。


ばきり。…ガチャン。
グラスの割れ落ちる音。
驚いて発生源を目で追うと、うつむいた嵯峨の手から血が溢れていた。
その周りの床には、砕けたガラスの破片と琥珀色のバーボンが散っている。
一体全体、なんでグラスが割れたんだ??何が起きたのかは分からなかったが、とにかく手当てをせねば。
「さ、嵯峨?大丈夫かい?」
慌てて、尋ねてみれば
「…うるせぇ。」
いつも以上に、ぶっきらぼうな返事。
「そんなこといったって、その手は大丈夫じゃないだろう!」
僕がさっきまで涙を拭っていたハンカチを渡そうとすると、
「平気よ克哉さん。私がディアかけるわ。」
そう言って微笑んだのは、なんだか上機嫌な天野君。
あぁ・・・君は間違いなく女神だよ。アルテミスだよ!僕は彼女の優しさに確信を抱いた。
彼女はそのまま嵯峨の方へ歩いていった。
嵯峨が嫌がっているのかなんなんかは分からなかったが、二人はなんだか悶着していて。
その合間に、靴の音が部屋の前に辿り着き、やがて鍵をがちゃがちゃとさせる音が聞こえた。
「Be quiet!お静かに!Ms.うららがいらっしゃいましたわ!」
桐島君の一声で天野君と嵯峨を含め、皆がいっせいに押し黙る。












僕らはそれぞれ、クラッカーを携えて彼女がこの部屋にやってくるのを待った。
キィィと、軽い音を立ててドアが開く。そして、人の気配。
いよいよと、僕はクラッカーの紐をきつく握った。
驚かした後、嘘をついたことを謝ろう。




さあ。
パーティーのはじまりだ!!

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