忍者ブログ
Admin*Write*Comment
うろほろぞ
[940]  [939]  [938]  [937]  [936]  [935]  [934]  [933]  [932]  [931]  [930
×

[PR]上記の広告は3ヶ月以上新規記事投稿のないブログに表示されています。新しい記事を書く事で広告が消えます。

ppu
秋も終わりを告げ、既に冬といえる季節の夜。そして深夜11時を回った時分。
ろくに明かりのない薄暗い道路を、一人の女が家路へと向かっていた。


「まったく、今日は本当についてないったらありゃしない。」
赤らんだ顔は、既にかなりの酒が入っている事を示している。
足元もふらふらよろよろの千鳥足で、どうにもこうにもおぼつかない。
それでも、電柱や所狭しと並んでいる路上駐車中の自動車の間をうまくすり抜けて行きながら、女はなにやら一人ごちていた。
「だいたいみんな薄情なのよぅ。今日が何の日かも忘れちゃってさ。」
グスンと鼻が鳴る。
「いいんだー、ふ~んだ。みんなが忘れててたって平気だもん。
アタシにはこれがあるもんねー。…どうせアタシなんてお酒とタバコが友達よぅ。」
その右手には、いつも彼女が愛用している仕事用バック。
左手にぶらさげた袋からは、ワインのビンが数本顔を覗かせている。
かなり酔っているように伺えるが、まだ飲み足りないらしい。
「随分といいワイン奮発しちゃったし、今日はこれ飲んで、寝るかぁ。」
小さく溜息をつき、女はひきずるような重い足取りでルナパレス港南へと消えていった。




静まり返ったルナパレス港南のエントランスには、酔ったうららの声が響き渡る。


「そもそも、克哉さんは仕方ないのよ。アポなしで声かけたアタシが悪かったんだもんねぇ。
モミアゲ長いけど、刑事だし、仕事忙しいし、マーヤと達哉君とニャンコ命だしさ~。
アイラービュゥーー!天野くぅ~~んvなんてぇー。お、似てる!あはははーーー。」
きゃっきゃっと楽しそうに笑いながら、酔いも手伝って悪口は徐々にエスカレートしていく。


「パオは・・・まぁ、いつものことよねぇ。
アタシなんてぇ眼中にないのよ、きっと。だけどぉ、阿呆ってのは失礼じゃないっ!?
あいつにとって大事なものなんてどうせ、半神グッズとかそんなもんぐらいなんだわ。しょうもない。
半神なんてどうせ今年も最下位よぅ。ザーマーミロよ、ばかったれー。」
見えないパオフゥに向かってあっかんべーをすると、少しすっきりしたように息を付いた。
そしてすぐに今度は頬を膨らませて、憮然とした表情になる。まるで百面相だ。


「でもね!マーヤまで!マーヤまで用事があるってどういうことなのよぉ~!
頼みの綱がこんなんじゃーアタシだって救われないわーー!愛はそこにはないのよぅ!
8年来付き合いなのにーーー。マーヤのばかあああああ。」
頭を振りながら、泣きに入ってしまったと同時に。


チーーーン。
タイミングよく、エレベーターが到着。
またもため息をついて、うららはエレベーターに乗りこんだ。












ゴゥンゴゥンと音を立てながら、ゆっくりとエレベーターは階上に向かっていく。
壁にもたれかかりながらふと、うららは今日の出来事を思い出していた。










事の顛末は、朝、舞耶から告げられた一言から始まった。

「うらら、ごめん!今日はちょっと編集長から呼び出しくらっちゃって。
どうしても一緒にお祝いできそうにないの。だから他の人、誘って?」
そう言って舞耶は手を合わせてきたのだった。
「えーー!ずいぶん前から約束してたじゃないのよぅ!
この日の為にアタシ休暇取ったのよぅ!」
舞耶のドタキャンにうららは大いに焦った。
「アタシ一人で過ごすの?崖ッぷち記念を?悲しいわよぅ~~!ひどいー!」
こんな急では他の人間が捕まるわけもない。
「ごめん!本当に御免うらら。埋め合わせは今度するから、ね?
それに一人くらい捕まるわよ!レッツポジティブシンキング!」
駄々をこねたところで、舞耶も仕事だから仕方ない。
文句をいってもどうにもなりはしない事をうららは良く知っている。
「…分かったわよぅ。他の人、誘うわ。」
力なく答えたうららは、頭の中で誘えそうな人間を数えていた。






「パーオ!」
甘えるようにうららはパオフゥに抱きつく。
「…なんだ?今日は休暇とってたんじゃねぇのか?」
キーボードを叩きながら、いつも通り、不機嫌そうに呟く。
「今日、暇じゃないかしら?」
精一杯の猫なで声で、うららは恐る恐る尋ねてみる。
「おめぇは馬鹿か?俺が暇なわけねぇだろう。こんなに仕事が山積みでよ。」
指差す先には資料の山。
「…」
「大人しく、家に帰ってな。」
「…」
何も答えることも出来ず、うららはすごすごとオフィスを後にした。








警察はあまり好きではないが、今回は仕方ない。
今日という日をたった一人で過ごすのはあまりにも寂しい。
勇気を出して、うららは受付の警察官に声を掛けた。
「あのぅ、周防警察官、いらっしゃいますか?」


…やはり、克哉も駄目だった。
今日は暇か聞いてみたんだけれど。やっぱり忙しいらしく。
どう断ろうかと、顔色が青くなったり赤くなったりする周防兄。気を使ってくれてるのが良く分かる。
しかもなぜか妙におどおどしていて、見てるだけで可哀想になってしまった。
早々に克哉を誘うのをあきらめて、うららはまた他の人間を探しに行った。




だが。




声をかけた人間はことごとく用事があり、エリーも仕事。南条君は不在。
結局、一緒に祝ってくれる人がいなく、うららはパラベラムでマスターを相手に
寂しく飲んで、この時間に至ったのだ――――。





以上、回想終わり。









チーン。


どこまでもタイミングよく、エレベーターが止まる。
静まり返った廊下には、彼女の声と足音とが響き渡った。
エレベーターの中でぐるぐると頭を使ったせいか、少しだけ酔いが覚めてきたようで。
うららは先ほどついた、たくさんの悪口に罪悪感を感じていた。
途端、今日の克哉の慌てふためいた表情が目の前を掠めていく。


「でも、なんだかんだ言って克哉さんてぇいい人よね~。
優しいし、誠実だし、ケーキ作るのうまいし、安定してる公務員だし!
ブラコンとネコフェチが玉に疵だけど…。まぁ、そんくらいは良しとして。
あーゆー人に愛されてるマーヤったら幸せ者よねぇ。うーらやーましぃー限りぃぃ~よぅ~。」

本当、可愛いわよねぇ、克哉さんて。
それに比べて、パオときたら…。誠実じゃないわ、酒呑みだわ、家事はしないわ!
そこまで考えみて、思わず笑いがこみ上げてくる。
それは、自分自身に対してだった。

「あ~あぁ~、そうですよぉーー。あんなヤサグレちゃった半神男でも好きなんですよぉー。
惚れちゃったんですよぉー、ごっめんなさいねぇーーーー」


そう。そんな男でも心底惚れている。他の誰よりも、自分はあの男を愛しているのだ。
それこそ、家族よりも友達よりも。
…友達、かぁ。マーヤは既に家族の位置付けよねぇ。

「マーヤなんてぇ、美人だし元気だし胸大きいしー。
この世の誰よりも愛してるのにーーー。ドタキャンなんてぇぇひどいったらないわよぅ。
きっときっと、アタシを置いてお嫁にいっちゃうんだわ。マーヤに捨てられるんだわ。
…ふん。それでもマーヤが結婚するまでは、ずーーっとずぅーーーーっと傍にいるもんね…。」




うららは大げさなほどのため息をいた。
そして、思い返してみる。
家事に疎いルームメイトを。
心優しい乙女刑事を。
皮肉屋の恋人を。その他、声を掛けてみた人々を。
何だかんだ言っても、全員、自分にとってこれからも大切にしていきたい掛け替えのない存在。
「まぁ、今回は独りでも仕方ないかぁ。」
くすっと笑うと、うららはバッグの中からキーを取り出した。


















かちりと軽い音を立てて、玄関の鍵が開く。
キィィ。ゆっくりと扉を開ける。
うららの頬を冷たい空気が触れていく。明かりも火の気も一切ない。
「あれ?電気ついてない。…ってことはマーヤまだ仕事なのかしら。
編集長にまーだ絞られてんのかしらね。まったく、かわいそうに。」
舞耶に同情しながら真っ暗な部屋に一歩足を踏み入れた、そのとたん!

カッ!!

わずか一瞬でうららの視界は光で満たされていく。
「えぇっ!?」
同時にパーンパパーーンと何かが爆発する音。
「なななななな!?」
驚きと酔いが手伝って、うららは床にへたりこんでしまった。
良く見れば体中になぜか糸が絡み付いている。
い、糸??蜘蛛系悪魔!?ああああ悪魔!?戦闘開始!?
慌てふためいて、思わずペルソナを呼びそうになった瞬間。
「おめでとーーーー!!」
聞きなれた声のハーモニーがうららの耳に辿り着いた。
「え?え?…ええ???」
ようやく目も光に慣れてきて、眉間にしわを寄せながらも部屋の様子をなんとか伺う。


HAPPY BIRTHDAY


そう書かれた垂れ幕が、壁にぶらさがっている。
テーブルの上には湯気の上がるご馳走、ワイン、ウィスキー、バーボン、あらゆるお酒。
精巧なデコレーションの施された美しいケーキ。
窓と花瓶には色とりどりの花、花、花。
床にはなぜか割れたグラスとバーボンと氷。
驚きと喜びで目を白黒させながらあたりを見回せば、微笑んでいるなじみのメンバーの顔。
マヤ、克哉、パオフゥ、南条、エリー。…還ってしまった一人を除いた、あの時のパーティ。
全員が火薬臭いクラッカーを持ち自分を囲んで、笑っている。
「お誕生日おめでとう、うらら。」












―――うららは目頭が熱くなっていくのを感じた。






結局、パーティーは3時過ぎまで盛り上がりを見せ、疲れた人間から眠りにつくことでお開きになった。
最初にダウンしたのは克哉。その隣に舞耶がくっつくようにして眠っている。
南条君とエリーも並んで仲良く眠っているし、パオフゥはソファーに転がっている。
「うふふ。」
その様子を見るたびに、うららの顔に笑みが走る。
嬉しさと酒とでほてった顔を冷やすために、うららはそっとベランダへ出た。
程よく冷たい夜風は、優しく頬をなでていく。
タバコに火をつけて、ゆったりと夜空を見上げているとカタリと後ろで窓を開ける音がした。


カラン。
今度はグラスの中で氷が踊る音。
ちらりと左隣をうかがえば、そこにはうららが予想したとおりの人物が立っていた。
「あれ、パオ…起きてたんだぁ。」
パオフゥはバーボンを呷りながら、フッと笑う。
「あんくれぇの酒じゃあ、俺は酔わねぇよ。」
確かにねぇ。答えたうららはゆっくりと紫煙を燻らす。




やわらかな沈黙を破り、うららは口を開いた。
「今日のパーティー、ずいぶん前からマーヤと企画してたんだって?」
「パオって、そんなにマーヤと仲良かったかしら?」
意地悪そうに言ううららの顔も見ず、受け答える。
「あー、色々あったんだ。とにかく天野がうるさくて、なぁ。」
眉間にしわを寄せながら答えるパオフゥを尻目に、うららはけらけらと笑った。
「本当、アンタが祝ってくれるなんて思いもしなかったわよぅ。…凄く嬉しかった。」
心底嬉しそうなうららを、ひとしきり困ったように見つめてから、パオフゥはスーツのポケットから何かを取り出した。
「…どうかしたの?」
うららの問いには答えず、それを軽く握り締め、意を決したように呟いた。
「…ささやかだが、俺からのプレゼントだ。受け取りな。」
うららは、ポンと投げられた小さな包みを慌てて受け取る。
「あ、ありがとう。な、何かしら?」
早速、包みを解こうとしたうららをパオフゥは制止した。
「今開けるのは勘弁してくれ。柄にもねぇことしてこっちも恥ずかしいんだ。」
そう言って背を向けたパオフゥの顔は今までにないほど赤くなっていた。
つられてうららの顔も真っ赤になる。
「じゃ、後でゆっくり見させてもらうわ。」
もごもごと言ううららを振り返ったパオフゥの顔はだいぶ赤みがうせていて。
「まぁ、なんだ。崖っぷち突入おめでとう。」
バーボンのグラスを掲げ、にやりと笑ったパオフゥの腹に見事なストレートが収まる。
「崖ッぷちは余計よッ!」
憤然としていても、うららの顔はどこか嬉しそうで。
「っイテテテ…。あ、相変わらず、キレの良いパンチだ事で…。」
鳩尾をさすりながら皮肉を垂れるパオフゥの顔も、どこか嬉しそうで。
冷たい夜空を流れ星が一つ、そんな二人の目の前を通り過ぎていく。
「あ、流れ星!…キレイ。」
どちらからともなく、お互いの手は握り合われ重なってゆく。
そしてそのまま二人は寄り添うように空を見上げていた。
やがて、暗闇に溶けてしまいそうな小さな声。



「HAPPY BIRTHDAY うらら」
PR
p * HOME * puu
  • ABOUT
うろほらぞ
Copyright © うろほろぞ All Rights Reserved.*Powered by NinjaBlog
Graphics By R-C free web graphics*material by 工房たま素材館*Template by Kaie
忍者ブログ [PR]