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「意外と白いのだな」
 ぽつりと洩らした言葉は、意に反して相手へと聞こえてしまったようだった。静かな房室だからか、発した言葉は、思いがけもなく大きく響いたようだった。
「何がでございますか?」
 小首を傾げ、李斎は不思議そうに問い返してくる。
 夏というものは、暑いものだ。
 それは知識として知っている。
 戴の夏だって、暑いと感じる時があるし、黄海へと出れば、汗ばむ程の陽気の日だってあるからだ。
 だが、慶国の夏は今まで経験した事のないものだった。
 何もしていないのに、ぽたりぽたりと汗が流れ落ちるのが分かる。それが夏というものなのだ、と現在戴国の住人は実感しているのだ。
「いや、別になんでもない」
「何でもない、という事ではないでしょう」
 幾分、くだけた口調で李斎はそう言って、驍宗に冷茶の入った器を差し出した。そんな李斎の格好はといえば、戴国にいるよりも幾分、涼しげな格好だ。そして、普段結われていない髪が綺麗に纏め上げられている。鈴、という風変わりな名の女御が今朝早く、李斎の身支度を手伝った折に手早く纏め上げていったそうだ。その際、李斎に花釵だの、花だの、綺麗な布だので飾ろうとしたが、嫌がる素振りをすれば、早々に諦めた風情で溜め息を吐いたそうだ。
 李斎がこうして髪を結っているのを見るのは、あまりない。
 戴国の官邸に戻れば、世話をする者がちゃんといるだろうが、髪の手入れにそれほど熱心でない主にかまう奉公人はいないだろう。
 だが、ここには普段から身なりにそうかまわない女主がいて、日々交戦しているのだ。客人の李斎とて、それに巻き込まれても不思議はないし、李斎自身、鈴という女御に親しみを持っている所為か、あまり強く拒否出来ないようだった。
 その結果がこれだ。
 普段、見る事のない結い上げた姿というものは、冷静に直視出来ないものなのだと、今、初めて知った。
 肌があんなに白かっただなんて、初めて知った。
 知っていたつもりだったが、こんなに明るい所で、日焼けしていない肌を見た事がなかったのだ。

 今更だというのに、見惚れてしまいそうになった。








     ~了~


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