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ppp


「・・・ッぅぐ」
 桐生は苦し紛れに、体を動かした。だが首を固定している太腿はびくとも動かない。ただでさえ意識は半ば朦朧としている中、その力すら出すのがやっとなのに。込めた力で男の足を叩いたところで、跨る男の顔は涼しく痛みすら感じていないようだった。
「桐生ちゃん、終わりやなー・・」
「・・・兄、さ」
「楽しかったで?」
 懐からゆっくりと取り出される、刃が煌いた。購いようのない絶対的な力、冷たく光る小さな刀が、この人生をあっけなく終了させるのかと思うと。だが十年前の決着が今つくのかと思うと、抵抗していた力が自然と抜ける。終わらせるのが、この男でよかったと。そう思ってしまうから。
「じゃぁ、な」


       ビュッ―――!


                ッ!!


 振り下ろされた刃、凶器に歪んだ顔。最後に焼きついたのは。










Shangri-La









「・・・」
「・・・?」
 その瞬間確かに男の後ろに、死者の河が見えた。だが手招きされることなく、桐生は自分の心臓がまだ動いていることを理解する。信じられなかった、狂気も、殺意も本当のモノだったのに。どうして今、自分はまだ生きている。
「・・・な」
「・・・・」
 だが桐生以上に信じられないという顔をしたのは。殺意の持ち主であった真島吾朗だった。自分の刀と桐生の顔を交互に見て、また刀を振り下ろす。


    ガキン、ガキンガキンガキンガキンッ!


 容赦なく戸惑いなく。だが刀は桐生の顔すれすれ通り過ぎ床に刺さる。何度したって同じ、本人には当たらない。
「ハッ・・・ハハハハハハッ!!」
 十数回と地面を突き刺しやがて、真島は突然狂ったように笑い始めた。何を思ったのか何かを感じ取ったのか理解したのか。何もわからない彼は、苦しみに紛れて声を上げる。
「何が、おかしい・・ッ。殺るなら、早くっ・・・」
「十年」
「・・・?」
「十年、俺この日を待っとってんや」
 力を込めすぎて震える手が、見えた。そして抑えられている力が抜けていくことにも気づいて、ますます桐生は混迷する。
「なぁ、桐生ちゃんは十年離れてて、どうやった?」
「・・・・」
「俺はずっと。夢の中で何度も殺したし殺されたで。でもやっぱり本物にはかなわんなー・・・ほんまに楽しいわ」
 すぐ隣で聞こえる刀の抜く音。そしてずるずるとその体を下へとずらしながら眼帯の男は皮手袋の手でつっと、桐生の首へ添える。愛しさと、殺意を混ぜた感情が向けられる。
「それやのに。もう終わるんか?」
「兄、さん・・」
「せっかく十年経って再会して、もう終わりか?桐生ちゃんこのあと死んで、俺一人残されるんか?」
「何、が」


「そんなん、困るわ」

         ―――パツンッ。


「っ!!」
 心底悲しげな顔に掻き消され、最初は聞こえなかった音。だが視界の箸に移る転がるボタンに、目を見開く。
「真島、兄さん・・ッ!」
「今動いたら、腹切れるで?」
 パツンパツン、刃で糸を切り飛ばされるボタン。赤いシャツの下から現れる肌を、首元に添えていた左手がゆっくりと撫ぜていく。体が震えたのを、男も、本人も感じ取る。
「もっと、もっと遊ぼうや?な、桐生ちゃん」
「ぉ、俺、には・・ッ」
「柵なんて、どうでもええやん。お前には俺がいればええ。俺にも、お前がいればええやんか」
「駄目。なんだッ、今は、今は・・!」
「十年分、今から。昔みたいに、な?」
 自分の体が震える、恐ろしい今から起こることに心の奥底で喜んでいる自分が、どうしようもなく恐ろしい。
「兄ぃ、さん・・・ッ」
「どうしてや?嬉しいやろ、開いてた穴。今から埋めたんのに」
 慈悲さえ含んだ優しい声。向けられる殺意と愛情の比がわからない、純粋な殺意だけならば返せた無視できた。だけど開けられた穴に埋められる愛情には抵抗できない、十年間。求めてたからずっと欲しかったから。


 十年、穴が開いてたそれがようやく埋まろうとしている。
 それをもう一度開けてどうすると、どうしようもない心が訴える。


「・・や、め――ッ」
「止めへん。そんな顔見て、止めれるわけないやんか」
 ない力で本気で抵抗する桐生の唇を、真島は塞ぐ。上唇を吸いながら甘く、優しく。一度、二度。薄い彼の唇を舐め或いは噛んで、鏡張りの部屋に音が響き、自身の姿が晒されていく。
「つ・・・っ、ふぁ」
 ちゅぅと、音を立てながら何度目かの口付け。唾液が口端を伝って床に流れる、求めている自分の姿をはっきりとその目で刻み込んだ瞬間、必死で耐えていた糸が切れた。
「兄さ、ぁ・・・ッ」
 だらりと力なく伸びていた手が真島の背中に回り、自分から求めればもうそこは戦場ではない。後ろに見えるのは、死者の河ではなく淫らに求める自分の姿。




「・・・楽しもうや。ここは桃源郷、モノには事欠かんし?」




         焼きついた男の表情は、欲しい物を手に入れた子供と同じ。






















その頃の外。
「だから嫌な予感がすると言ったんだ・・・!どうしてもっと早く助けてくれなかったんだっ」
「その前にアンタが錦山に捕まらなかったらよかったんだろ。俺だってこんな所、早く逃げてぇよっ」
「ねぇ伊達のおじさん、どうしてあたしの耳塞いでるの?おじさん助けなくていいのッ?なんか変な声が聞こえるんだけど・・ッ」
「あー・・・今風呂入ってんだよ、二人で。あぁ畜生俺も耳塞ぎてぇ・・!」
「一馬、どうしてよりによってソイツなんだ・・!」
「おじさん?おじさんがどうしてアイツと今お風呂入るの?わけわかんない・・・ッ」



        男二人と子供一人、部屋の外で絶賛出歯亀のまま動けずにいた。







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