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鬼炎彫

最近、夜にトイレに起きるのが怖いと風呂あがりに遥がぽつりともらした。
遥はもう10歳だし、親を起こしてついてきてもらわないとトイレに行けない子供じゃない。
それに人一倍大人びた遥がそんな弱音を吐くなんて、とても珍しい事だった。

「怖い夢でも見るのか?」

桐生は風呂あがりのアイスを渡しながら腰を屈めて聞く。
心配されるのは、やはり昔の…由美の夢だ。
あの日、目の前で母親を亡くしたことがこんな小さな少女のトラウマになっていない筈がない。
だが遥は桐生の心配に首を横に振った。

「あのね…なんていうか…リビングが…」

「リビング?」

「うん。嫌な感じがするの…なんだかモヤモヤして…凄く空気が冷たく感じるから」

遥の言わんとすることは、桐生にも伝わった。
だがそれは桐生が最も苦手とする分野で…少し青ざめる。

「それは……気配、だけか?」

もし何かを目撃しているのなら、即刻このマンションを引っ越そうと思う。
引っ越してきて一年以上になるが、今更怪奇現象なんて冗談じゃない。
しかし幸運にも桐生の問いに遥は頷くだけだった。

「でも!気のせいとかじゃなくて!絶対に何かいるよ!」

「………絶対に、か?」

「うん!!だから…今晩、一緒に寝てもいい?夜中起きるとき、ついてきて欲しいの…」

上目使いで頼まれては…桐生はどうしようもなかった。









バラエティー番組で笑って、二人は嫌なことは忘れようと頑張った。
しかしリビングにテレビがあるため、どうにも居心地が悪くて直ぐに部屋に引き上げる。

桐生と一緒のベットに入った遥は、ここ数日この事で悩んでいたと恥ずかしそうに笑う。
そして、桐生のおじさんがいるから頼もしいと…布団の中でしがみついてきた。

「おじさん、おばけが出たらやっつけてね!」

「やっつけてって……」

おばけに物理的攻撃は効かないと思う。


遥が寝て、数時間がたった頃。
なんとなく寝れない桐生は、自分たちがおばけがいることを前提で一緒に寝ていることに苦笑する…振りをする。
正直なところ…遥の気のせいだと信じたい。

「……おじさん……」

「ん?なんだ?」

胸の中の遥が、ぺちりと桐生の胸を叩いた。

「変な、音がする」

「……気のせいじゃないか?」

「………見にいかないの?」

「…………わかった、行けばいいんだろ」

泣きそうになるのを隠して、桐生はベットから起きあがる。
そう、確にさっきからリビングから変な物音は聞こえていたのだ。





リビングへの扉を開けるまでに、たっぷり五分はかかった。
桐生の後ろでは心配そうな遥がいて、扉の向こうの物音は激しくなるばかり。

(ねずみ…なんてオチはないよなぁ?)

ここまでくると恐怖よりも、ヤケクソが勝ってくるらしい。
桐生は遥を背にかばいながら、勢いよく扉を開け……








「うぉっ?!!!」





桐生の絶叫にも近い声が、窓を揺らした。





次の日、桐生家に呼び出された真島は二人の鬼のような形相に困惑した。

「な、なんや二人ともえらい怖い顔して…」

笑ってみるも、遥すら笑顔を返してくれなかった。
桐生は真島を睨みながら、お茶も出されていないテーブルに布でくるまれた細長い何かを置く。
真島は二人の顔を伺いながらそれを開け…おや?と声をあげた。

「これ、ワシのドスやないか!無くした思てたら、桐生ちゃん家にあったんかいな!」

真島は実に懐かしそうにドスの刃を撫でるが、二人の顔は険しくなるばかり。

「帰りは直行でお寺に行ったほうがいいよ、真島のおじさん」

「…寺ぁ?」

桐生は頷いた。

「それ、昨日の晩、うちのリビングを暴れ回っていました」

あの光景を思い出して、桐生は青ざめた。


扉を開けた瞬間、この妖しい輝きのドスは桐生向かって飛んできたのだ。
桐生でなければ、喉に突き刺さっていたかもしれない。
間一髪で押さえられたドスは朝まで部屋中を飛び回り…朝日が昇ると同時に床に転がった。


「それ、絶対呪われてますよ。お寺に供養してもらって下さい」

桐生の言葉に、遥も激しく同意した。
しかしそんな二人に…真島はあっけらかんと言ってのける。




「なんや…そこが気に入っとんのに…」



二人して、硬直した。


「なんや持ち主殺す呪い、かかっとるらしいで?これ。裏じゃええ値がつくいわく付きのもんや」

「あ、あんた知ってて持ってたのか…?」

「おお。ほら、刃に鬼炎が彫っとるやろ?これがあかんらしい。でもワシにとったら鬼はシンボルやからなぁ!気に入っとる!」

カラカラと笑う真島に同調するように、ドスが妖しく光った。

幾人もの血を吸ったドスに、狂気の男…
これ以上ない組み合わせに、二人は腰が抜けそうになった。






以来、真島が家に遊びにくる際は頭から山ほどの塩をかけられ、玄関には徳の高い坊さんが書いたお札が貼られるようになったという。

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