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誓いの言葉

普段何かと忙しい桐生はいつも日曜日、遥をどこかへと連れていってくれる。
家族サービスなんて顔じゃないけれど、遥が少しでもたくさん、家族というものを感じられるように。
この日だけは流石の真島も二人の間に割り込むことはできなくて。
日曜日は、二人だけでのお出かけの日と決められていた。

そして今日は、近くの大きな公園の中にある薔薇園へ行ってきた。
薔薇の花が綺麗に咲いているらしいと聞いてきたのは桐生で、じゃあお弁当を持っていこうと言い出したのは遥。
先週は動物園だったから、今週は近場でのんびりしようとそこに決めた。
薔薇園では花に詳しい遥が、薔薇は赤しかないと思っていた桐生を引っ張り回し、花言葉も交えて説明してやった。
それからベンチを見付けて、そこでのお弁当タイム。

いつもの日曜日がいつもと違ってくるのは、その帰り道のことだった。







「あ、おじさん、あれ」


手を繋ぎながら帰っているとき、遥が急に立ち止まって桐生の袖を引っ張った。
遥が指差すほうを見ると、そこには小さな教会があって。
教会のベルが、清らかな音を鳴らしていた。

「あれがどうした?」

「もう!気づかないの?結婚式だよ」

言われて、桐生はやっとこの鐘の音が結婚を祝福する鐘だと知った。

二人が見ていると、教会の扉が開いて新郎新婦の親戚や友人たちが姿を現した。
その手には色とりどりの花びらやライスシャワーが用意されていて、これから新郎新婦が出てくるのだとわかる。
遥は初めて見る結婚式の様子に頬を上気させ、桐生と繋ぐ手にも力がこもった。

そんな遥を見て、桐生は不思議な気持ちになった。
この子も、まだ花嫁に憧れる年代なのだ。
白いウエディングドレスに、まだ見ぬ旦那様。
二人腕を組んで歩くバージンロードを、大切な人たちに祝福されながら歩く…
そんな、憧れの結婚式に。



「おじさん!出てくるよ!」

わっと歓声があがる。
二人のように偶然いきあたった通行人たちも歓声をあげ、手を叩いた。
祝福の声とともに降りしきるライスシャワーに、新郎新婦はこれ以上ないほど幸せそうで…
めじりに涙を溜めた花嫁はファレノプシスの花束を掲げ、放り投げた。

もちろん、単なる通りすがりの遥がそれをキャッチすることはできなかったけれど、そこを離れてからも遥の目はずっと輝いたままだった。
女の子の気持ちには疎い桐生ですら、好きなやつと自分をあの結婚式にあてはめているのでは、と心配してしまうほどに。








夕飯は、遥のリクエストでファミレスで食べる事になった。
遥がこの年でクーポン持参だったことには少しばかり恐ろしい気がする。
稼ぎが少ない…絡んでくるチンピラから巻き上げてもいるが…自分が悪いのか。
けれどもう少し、子供らしくいて欲しい。
だが遥もけちってばかりではないらしく、

「おじさん、デザートに苺パフェ頼んでもいい?」

得した分を、好きなものにあてるらしい。
桐生は妙に安心して、頷いた。
遥は嬉しそうに追加注文して、メニューを桐生へ渡す。


「そういえば、昼間の花嫁さん、綺麗だったね」


遥が、昼間の話を持ち出した。
正直な所、お父さんな桐生はあまりこれに触れたくなかったのだが、あんまり遥が嬉しそうに、楽しそうに話すから。

「そうだな」

頷いてしまう。
遥は桐生が話にのってくると、ますます目を輝かせて身を乗り出してくる。

「私ね、町の小さな教会で結婚式を挙げるのが夢なの!もちろんジューン・ブライドで、呼ぶのは真島のおじさんとか伊達のおじさんとか、一番仲のいい友達だけ!人数は少ないほうがいいの。ブーケはやっぱり白のファレノプシス!」

「…そうか」

「で、ライスシャワーを浴びながらお姫さま抱っこで階段を下りて…そのまま新婚旅行に旅立つの!行くんなら、オーストラリアだよねぇ…」

「………」

「おじさん、聞いてる?」

「…あ、ああ」


聞いてはいるが、娘のような遥の口からすらすらでてくる未来の結婚式に、意識が遠のきかけていた。
まだ十歳とはいえ、あと六年もすれば結婚できる年なのだ。
それに女の子の成長は早いと聞く。
あっという間に遥は大きくなって、誰かの元へ嫁いでいってしまうのではないか…
父親ならば一度は心配するそれに、当然桐生のテンションは下がっていく。
次の遥の言葉を、聞くまでは。

「おじさんもちゃんと考えてよ?私たちの結婚式なんだから」

「………は…?」

遥の言葉に、桐生は固まった。
だが遥は当たり前でしょ?と、ひどく綺麗に笑う。

「私はおじさんのお嫁さんになるんだもん」

あきらかに、お父さんのお嫁さんになってあげる、とは違う遥の笑顔に桐生としてはほっとしたような、逆に悩んでしまうような…
だが、嬉しくもあったりして、なんだか自分でもどんな反応をすればいいのかわからない。

「遥、お前なぁ?これからたくさんいい男が出てくるんだぞ?」

「そう?おじさんよりかっこいい人、なかなかいないよ」

「……フッ…ありがとな。じゃああと十年してまだそう言ってくれるなら、遥と結婚するか」

「ほんと!!?約束だよ!!絶対だからね!!」


あと十年。
長いようで短い年月のさき、ずっと好きだと言ってくれるなら。

いつか、自分の中でこの少女の位置が動くなら。




「ああ、約束な」





ずっと一緒にいようと、誓いの言葉を交そう。


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