真島が事務所のパソコンを「何で止まるんじゃこのボケェェエ!!」と画面を殴って破壊して、それにまたキレて壊れたパソコンを窓から放り出した。
ガシャンと殺人的な音がして、ビルの下からは悲鳴。
「親父…今月に入ってもう三台目で…」
言った瞬間、本体からおいていかれたキーボードが大田の頭に直撃した。
「うっさいわボケェ!!あのポンコツが悪いんじゃ!!」
画面がすぐ固まりよる。
そう、ブツブツ呟きながら真島は来客用ソファに横になった。
フリーズしたくらいで毎回毎回画面を殴らなくても。パソコンはブラウン菅のテレビじゃないのだから…とは社員たちも言えず。
黙って数人の社員たちが親父のかんしゃくの後始末をしに事務所を出ていった。
キーボードを投げつけられた大田は額を押さえながら立ち上がると、ため息を抑えてそれを片づける。
灰皿じゃないだけ、今日はマシだ。
「お~い、お前」
呼ばれて、振り向くと真島はちょいちょいと手招きをしている。大田は真島の顔からもう普通に戻っているとみて、特に警戒せずに近寄った。
一旦かんしゃくを起こしても、爆発させれば長引かないのは真島のいいところだ。
「何ですか?」
「酒。あとタバコとツマミ適当に買うてきて。もう今日は仕事嫌や」
仕事中の社員が一人、事務所のドアのプレートをひっくり返しに向かった。
大田はそれを背中に感じつつ、苦笑して頷いた。
「わかりました。行ってきます」
真島がゆらりと差し出した財布を受け取り、大田は事務所を後にした。
近くのコンビニでも酒は扱っていたが、真島の好む銘柄はなかった。だから少し足をのばした所にあるコンビニへと向かう。
コンビニについて、カゴを片手に真島の好む銘柄の酒、ツマミを選び。ついでにジャンプ。確か、まだ真島が買っていなかったはずだ。
あと何か必要なものは…そう、店内を回っていると、チョンと服が引っ張られた。
「あぁ?」
何や、とドスを利かせた声を出そうとし、慌てて飲み込んだ。
「こんにちは」
笑顔で見上げていたのは、桐生の娘の遥だった。
「桐生さんとこのお嬢じゃないですか。こんにちは」
「大田さん、おつかい?」
「へい。親父の…って、俺の名前覚えていて頂けてたんすね」
「うん?事務所のみんな、ちゃんと名前覚えてるよ?」
当たり前でしょ、と不思議そうに首を傾げる遥に大田は苦笑して頬をかく。
遥の器は、本当にでかいと思った。
「あ、お嬢もっすか?」
遥も手にはカゴを持っていて、中には缶ビールとジュース。それとコンビニ弁当が二つ。
遥は大田がカゴの中身を見たことに、少し恥ずかしそうに微笑んだ。
「へへ、たまには晩ご飯、サボろうかなって」
献立を考えるのが面倒臭かったんだよね。そう笑う遥に、大田は首を振る。
「お嬢の年で、いつも偉いっすよ。たまにはいいんじゃないですかね」
「えへへ、ありがとう」
ただ、お嬢はやめてと釘をさされたが。
二人は一緒に店内を回って、カゴに商品を入れていく。
そんなとき、遥がデザートコーナーで足を止めた。
「お嬢?」
「…お嬢はやめてってば」
頬を膨らまして言われたが、大田は聞かない。桐生の娘…正確にはそうではないが、その立場にいる人なのだし。しかも、真島だって娘の如く可愛がっているのだ。
大田からすれば、遥は立派なお嬢で。
遥も、大田の強情さに諦めたようだった。
「あのね、これ」
「これ?」
遥が指したのは、本日発売とポップがついたケーキだった。
ただのショートケーキだと大田は思ったが、遥が言うにはこだわりシリーズとかいって、材料から違うらしい。
最近じゃコンビニケーキとはいっても、侮れないとまで言う遥は真剣そのもので。
「でもね」
「でも?」
「お金が足りないの…予算しか持たないようにしてるから」
財布の紐がしっかりしすぎていたらしい。
悔しそうにその場を離れようとする遥に、大田は考える。
情けないことだが、今月はピンチで自分の財布には三百円しか入っていない。家に帰ればまだあるのだが…
と、そこで思いつく。
「お嬢…おつりって、いくらあまりますか?」
二人はコンビニの近くの児童公園のベンチに並んで座り、遥は膝にあのケーキを置いてニコニコと大田を見上げた。
「大田さん、ありがとう」
「いや、ギリギリ買えてよかったです」
遥のおつりと大田の貧しい財布の中身で、ギリギリ買えたケーキ。
遥はそれをレジでもらったフォークで半分に割り、大田に差し出しす。大田は遠慮しながらも半ば、押し付けられるようにそれを掴む。
「おいしいね」
「はい」
頬にクリームをつけて微笑んむ遥は、やっぱり可愛いと思う。
あと五年もすればいい女になるだろうな…なんて思いながら指についたクリームを舐めて。
ちょっと、遥に惚れてしまいそうな自分に苦笑した。
遥と別れて大田が事務所に帰ると、桐生がいた。
どこから聞いたのか、鬼の形相で奥の部屋につれていかれ…笑顔なのに凄まじい気配の真島までついてきて。
大田は二人の地雷を踏んでいたことに青ざめる。
それから、奥の部屋で大田がどんな目にあったのかは…
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