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Shall We Dance?

「あれー?」
体育の授業中、遥は首を傾げる。運動は苦手ではない遥に、周囲の女子児童も首をかしげた。
「あれ、できないの?」
「うん……」
困惑したように頷く彼女に、横にいた少女は驚いた顔をした。
「結構簡単だよ。遥にしては珍しいね」
遥は何度も繰り返しその動作を繰り返し、ぴんと来ない顔をする。やがて終業のチャイムが鳴った。彼女は心配している少女達に
ぎこちない笑顔を向けた。
「ごめん、家で練習してくるね」


 本部でも遥は、空いてる部屋を見つけ、体育でやっていたことと同じ動きを繰り返していた。その一連の動きが彼女にはどうも
身に付かないようだ。困った顔で彼女は考え込むと、またそれを繰り返す。当分それを繰り返していた時、構成員がやってきた。
「何やってんですか」
「んー、練習」
「練習?」
遥は頷き、困った顔をした。
「体育がフォークダンスだったの。どうも上手くいかなくて、練習してたんだ」
ダンスねえ、と構成員は考え込む。遥は手を叩いた。
「そうだ、ちょっと付き合って!」
急に白羽の矢が立ち、男は慌てて首を振った。
「お、俺ですか?ダメダメ、そんなの無理ですよ!」
「ちょっと手を取ってくれるだけでいいの、お願い!」
懇願され、断れるわけもなく男は練習に付き合うことになった。遥は笑顔で礼を言い、練習を再開した。
「でね、ここがこうなって……ああ、違うよ~」
「え、こうですか?それとも……」
もたもたと慣れない動きをする構成員は、彼女の足を引っ張るばかりだ。その賑やかな様子に、他の構成員達も集まってきた。
「なにやってんだ、お前」
「ダンスだよ」
「ダンス!お前が?!」
顔を覗かせた男達はお腹を抱えて笑い出す。遥の手を取る男は、自分でも似合わないことをしていると知っているのだろう。
複雑な表情で彼らに怒鳴った。
「仕方ねえだろ!遥さんが困ってんだから!言っとくが、えらく難しいんだからな。お前らやってみろ!」
「そうだよ~難しいんだよ」
遥が彼らを無理やり引き込む。一から彼らに動きを教え、彼女はまた踊り始めた。
「こうでしょ…で、こう。ここまではいいの。ここでくるっと回ると……駄目、音楽に合わないよ~」
「なんだかえらいことになってきたな……」
ぼやきつつ、構成員達は奇妙なダンスを繰り広げている。いかつい男達が手に手を取り合って真剣にダンスをしている様はどこか
滑稽だ。その騒ぎを聞きつけ、更に男達は集まる。
「なんだなんだ」
「フォークダンスだってよ」
「下手くそだな、おめーは」
「しょうがないだろ、初めてなんだからよ!」
ある者は見物に回り囃し立て、ある者は輪の中に無理やり引っ張り込まれ、広かった部屋は何故か構成員達で溢れかえっている。
遥が気づいた時には、部屋の中は男達でひしめき合っていた。
「あれ、人がいっぱい……」
ぽかんとしたようにその異常な光景を眺めていた時、人垣の向こうで怒声が響いた。
「てめえら、こんな所でさぼってないで持ち場に戻れ!」
蜘蛛の子を散らすように、構成員達は部屋から出て行く。残された遥は部屋の外で腕を組んでいる男と目が合った。
「何やってんだ、お前は。仕事の邪魔すんじゃねえよ」
「大吾お兄ちゃん」
彼らを蹴散らしたのは、大吾だった。彼は遥に歩み寄り、不機嫌そうに見下ろす。
「……ごめんなさい。ダンスがうまくいかなかくて」
「ダンス?」
大吾は目を丸くする。遥は頷き、経緯を説明した。学校でダンスの授業があり、その振り付けが上手くいかないこと。そのテストが
明日あって、失敗すれば班全体の減点になること。それに構成員達を付き合わせてしまったこと。
それまで黙って聞いていた大吾は溜息をついた。
「そんなことは家でやれ」
「だよね……ごめんなさい」
遥はしょんぼりしながら頭を下げる。大吾は弱ったように頭をかき、彼女を促した。
「ちょっとやってみろ」
「え?う、うん」
驚いた顔してしていたが、彼女は音楽を口ずさみ、たどたどしく踊っていく。そして、ある部分にさしかかって彼女は動きを止めた。
「あ、また失敗。ここで音楽と合わなくなるの」
「…もう一度、見せてみろよ」
大吾に言われ、彼女は素直にやってみせる。しかし、それもまたいままでと変わりはない。また失敗する、と遥が思った瞬間
彼は遥の手を取った。
「ここだろ」
言い放ち、大吾は彼女をくるりと回す。驚くことに、そのタイミングで彼女の口ずさんでいた音楽に、きちんとおさまった。
「あれ……」
狐につままれたような顔の遥を、大吾は冷ややかに見下ろした。
「とろくさいな、お前」
遥は大吾に詰め寄り、彼の手を引いた。
「え、え、なんで?大吾お兄ちゃん、もう一回!最初から!」
「ああ?さっきのでわかったんじゃねえのかよ。あとは自分で考えろって」
「お願い!もう一度だけ!」
必死で頼みこむ彼女に、大吾は面倒くさそうに溜息をついた。
「やっかいなことに巻き込まれちまったな……」
今度は最初から彼女の手を取って大吾はリードしてやる。彼女の鼻歌に合わせて、何度か踊っているとコツがわかったらしい。
遥は大吾を嬉しそうに見上げた。
「だんだんわかってきた!」
「そうか」
大吾は苦笑しながら遥を眺める。彼女は、先ほどのたどたどしい動きが嘘のように彼の腕の中で楽しそうに踊っている。
元々リズム感は悪くないらしい。
「もういいだろ」
疲れたように大吾が手を離そうとすると、遥は首を振った。
「やだ、もう少しだけ」
「俺にもやることがあるんだよ」
大吾に言い聞かせられ、彼女は渋々手を離す。軽く手を上げて部屋を出ようとする彼に、遥は声をかけた。
「ね、また踊ってくれる?」
彼は立ち止まると、苦笑を浮かべ振り返った。
「なら、10年後にな」
もう、と頬を膨らませ、遥は彼の後を追う。大吾と遥は踊るようにじゃれあいながら、長い廊下を歩いて行った。
10年後に彼女は彼の手を取るだろうか、二人のダンスがまた見られるかどうかは、今はまだ知る由もない。

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