「おじさん・・・」
「何だ?遥」
「今日ね、神室町でお祭りがあるんだって。夕方からなんだけど行ってもいい?」
「・・・祭り・・・か・・・」
神室町は、言わずもがな、夕方から夜にかけては然程安全とは言いがたい場所だ。
この時勢に、しかも神室町での小学生の一人歩きは危険だし、何より遥は今までに何度も誘拐されている。
「・・・・・・」
無言になった桐生を、遥は不安そうに見つめる。
「お届けものでーす」
部屋のチャイムが鳴ると同時に掛けられる聞き覚えのある声に。
桐生はドアを開けた。
ほんの最近真島建設に入社した、あの時真島と爆弾を処理した若者だった。
「・・・・・・何の、用だ?」
できるだけ相手を脅かさないように声をかけたつもりだったが、明らかにその若者は桐生に対して怯えを見せていた。
流石に、上司(親)が真島な上に、その真島と対等に渡り合う自分もまた同じような目で見られているのだろうかと
そんな事を思っていると。
「あ、あの・・・!親父が、桐生さんにと・・・・」
「?」
その若者が風呂敷の包みを桐生に手渡す。
「あと、こ、この手紙をと言われてます!」
「・・・・・・・・・・」
封筒を開けて、その「手紙」を見る。
「あの・・・・・・」
「ん?」
「お返事を頂きたいの・・ですが・・・」
荷物を届けるだけではなく、返事を貰ってくることがどうやら彼の仕事らしい。
「分かりました、と伝えてくれないか?」
「あ、有難うございます!」
これで安心して帰れる、と嬉々として彼は戻っていった。
桐生は部屋へ戻り、真島からの包みを解いた。
「これは・・・・・・」
「わーv浴衣だー」
よく見ると、遥のサイズのものと、明らかに長身の桐生のために誂えさせたものと分かる浴衣がそれぞれ入っていた。
遥の分は、ピンクの生地に、花のデザインのもので、早速体に当てて、鏡を見ていた。
「しょうが・・・・ねえか・・・」
遥の嬉しそうな笑顔に、桐生は小さくため息をつき、出かける算段を練った。
可愛い浴衣を着た遥と、濃紺の浴衣を着た桐生は、神室町の中でもやはり目を惹いていた。
勿論、鍛え上げられた身体の持ち主であることは、浴衣の生地を通してもよく分かるが、精悍な顔立ちの桐生には
よく似合っていて、いたるところで注目されていたのだった。
「よ~う、桐生チャン!!」
やっぱり、来てくれたんやな~、と遠くからでも分かる真島の声が響く。
「真島の兄さん・・・」
真島の姿を認めて、桐生は礼を取る。
いつもはジャケットに黒い皮のパンツ姿の真島も、今日は濃い緑の浴衣を纏っていた。
「よう似合うとる。やっぱ、ワシの目に狂いはないなぁ~・・・相変わらず・・嬢ちゃん、可愛いなぁ~」
「真島のおじさん、浴衣有難う」
にっこり笑って、遥は浴衣のお礼とともに頭を下げる。
「どういたしまして。・・ところで、ちょっと桐生のおじさんと話があるんやけど・・・」
「うん、じゃ、このお店で待ってる」
「有難うな~、嬢ちゃん」
「・・・兄さん、有難うございました・・・」
「いいって、ことよ。折角の祭りやからな~楽しまんとな。・・・それに・・・嬢ちゃん、嬉しそうやないか~たまには、外にも出んとな」
「・・・・・・」
浴衣姿の遥を見て、昔は皆で祭に出かけていたことを思い出した。
あの時の自分たちも、年に一度の祭りを楽しみにしていたのだ。
「ホラ、そろそろ広場で踊りが始まるでぇ~」
桐生チャン、はよせんと置いてくで、と真島は足早に広場へと向かった。
「たまには・・・いいか・・・」
突飛な真島の誘いに苦笑しつつも、桐生は祭りを楽しむべく遥と共に広場へと足を向けた。
夏の熱気が抜けつつある風が、神室町に吹き始めていた―――――
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