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うろほろぞ
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 年始の挨拶も一段落終え、大吾は我が家に帰宅した。年初めの行事の締めくくりを皐月をはじめ、家族みんなで行おうと思ったからだ。
 玄関の扉を開けると、そこに皐月がいた。
 大吾が来るのを待ち望んでいたのだろう、好奇心にキラキラ輝く瞳をそのまま大吾にぶつけている。
「仕度出来てんのか?早くしねーと置いて行くぞ」
「皐月、ちゃんとできてるもん。できてないのは、おばあちゃんとママと薫おねえちゃんなの。お化粧パタパタずっとしてるの」
「何塗ったって変わりゃしねーから、やめとけって言って来い。金と時間の無駄だってな」
「ちょいと、大吾。無駄とはなんだい、無駄とは。こういうのはね、身だしなみって言うんだよ。人様の前に出るのにスッピンじゃ申し訳ない大人としてのマナーじゃないか」
「素顔で歩くには犯罪になっちまうってことだろ?」
「大吾!!」
 弥生の叱責を笑って流しながら、遥や薫、桐生が来るのを玄関先で待つ僅かな間、久し振りの愛娘とのじゃれあいを楽しんでいた。
「パパ、パパ。わたがしなの。わたがしかってなの」
 参道には色々な出店がひしめき合っていた。その殆どがいい匂いのする食べ物屋ばかりで、食いしん坊の皐月は中々前に進まない。
 瞳を輝かせてはやれあっちのたこ焼き屋さんに行きたいの。こっちのりんご飴屋さんの方がさっきのお店より大きいのと、終始食べ物屋に目移りをさせては、その都度大吾のズボンの裾を引いては立ち止まらせる。
 仕舞いには、桐生に肩車をされ強制連行される始末だ。
「桐生のおじいちゃん、高いの!おろしてなの!!」
 急に高くなった目線にさすがの皐月も怖くなったのだろう。桐生の肩にかけた足をバタバタさせ、降ろせと騒ぐ。
「お前に合わせてたら、明日になっちまうからダメだ」
「あ~ん、わたがし屋さん~」
 名残惜しげに振り返り、振り返り言う皐月に、
「お参りが終わったら、俺が買ってやる。だから今は我慢するんだ」
 優しい言葉が下から響いた。見下ろせば、桐生が真っ直ぐな目をして優しく頷く。
「ぜったい?やくそくなの」
「ああ、約束だ。どの綿菓子がいいか決めておくんだぞ」
「わぁい!じゃあね、あのいろんないろがあるやつがいいの!」
 どうやら皐月はカラフルな三色綿菓子がお気に召したらしい。桐生は大きく頷く。
「分かった。お参りが済んだらな」
 約束をして皐月を降ろそうと桐生が屈もうとすると、今度はさっきと反対に降りたくないと駄々を捏ね始めた。
「降りなくていいのか?怖いんじゃないのか?」
「いいの。こっちの方がらくちんなの。それに、ここからだとずっとずっと遠くの方まで見えるの。エヘヘ、桐生のおじいちゃんがいつも見ているのと一緒なの」
「何一人だけ楽してんだよ。桐生さん、こんなガキそこら辺に投げ飛ばしてもかまわねーよ」
「そんなことしたら皐月が可愛そうだろう」
「そやで。皐月ちゃんは堂島家のお姫様なんやから」
 なぁ?と言って、薫は皐月に笑いかけた。
――お姫様。
 その女の子なら誰しも憧れる単語を自分に向けられて、皐月は更に上機嫌だ。満面の笑みでうんっと大きく頷く。
 実際のところ、堂島家だけでなく東城会のお姫様的ポジションだったりするのだが。
 人当たりのいい遥の血を引いているお陰か、本部詰めの構成員どころか幹部にも皐月は中々受けがいいのだ。何と言ってもあの真島とも『お友達』の仲なのだ。人当たりの良さは遥以上かもしれない。
 ようやく拝殿の前に進み出る事が出来た。
「皐月ちゃん、やり方分かるかい?」
 お賽銭用の小銭を皐月に渡しながら弥生が尋ねると、皐月は小さく頭を振った。
「いいかい。二回お辞儀をして、二回手をパンパンッて叩いて、お願い事を言ったら、もう一度お辞儀をするんだよ」
 弥生が説明をするも、皐月はピンッと来ない顔で見つめている。
「分からなかったら俺達がするのを真似すればいい」
「そやで、ゆっくりやるしな。お姉ちゃんの真似するんやで」
「うん」
 大人達がゆっくりとやる動作を一生懸命真似しながらも、皐月は何とか付いて行っている。
「えっと、パンッパンッなの」
 小さなもみじの手で、真剣にお祈りをする皐月の姿を横目で微笑ましく大人達が見守る。
「神さんにちゃぁんとお願い事を言うんやで」
 柏手を打ち終わった皐月に、そっと薫が告げる。
 皐月は力強く頷いて、あらん限りの声を張り上げた。
「かみさま、かみさま、あのね!!皐月、赤ちゃんがほしいの!!くださいなの!!ぜったい、ぜったいほしいの!!できたらおんなのこがいいの!!やくそくなの!!」
「皐月!!」
「パパにおねがいしたらダメって言われたの!だからかみさまにおねがいするの!どうか、皐月に赤ちゃ……」
 全て言い終わらない内に皐月は大吾に横抱えにされて、その場から強制連行させられた。
 何て事を大声で言ってんだ。大吾は走った時に出た汗と冷や汗が混じったものを手で拭った。
 並んでいる後ろの人達から、忍び笑いが洩れ聞こえた。きっと結構後ろまで聞こえていたに違いない。
「大吾さん、はい、お神酒。皐月は甘酒ね。熱いからふうふうするのよ」
「一馬の分ももろうて来たで」
 遅れてやって来た女性群は、神社で配っているお神酒と甘酒を持って来た。それを受け取りながら、大吾は膝上で遥から渡された甘酒をのん気に啜っている皐月の後頭部を軽く叩いた。
「お前なぁ、寿命が縮んだじゃねーか。ああいう事を大声で、言うんじゃねーよ」
 小突かれた皐月は不満気な目で、振り返った。
 皐月にしてみれば、お願い事を言えと言われたから言ったまでの事で怒られる要素はどこにもないのだ。
 パパもダメ、神様もダメ。ダメダメ尽くしではどうしようもないではないか。
 皐月は俄かに顔を曇らせた。
 そんな皐月を見ながら、桐生と大吾は顔を見合わせながらお神酒を口に運んだ。お互い、苦笑いが頬に落ちた。
「じゃあ、皐月が赤ちゃんつくるの!どうやったら赤ちゃんできるの?」
 怒られ、しょげて、甘酒をじっと見つめていた皐月が思いついたように顔を上げた。
 散々悩んだ結果導き出された彼女の結論は、『皆ダメならいっそう、自分で作ってしまえ!』であった。それを聞いた男達は文字通り吹き出した。
 ありがたいお神酒が口から間欠泉のように吹き出る。
「ねぇ、ねぇ。どうやって赤ちゃんつくるの?パパ」
「お、まっ……な、なにぃ?」
 焦って咳き込む大吾に構わず、皐月は問い掛ける。
「桐生のおじいちゃん、どうやったらいいの?」
 自分に振られる前に消えようと思っていた桐生は、浮かし掛けた腰のまま固まる。
 逃げんなよ。大吾は皐月に聞かれぬようそっと小声で悪態を吐く。
 皐月は桐生の心情を知っているのかいないのか、大吾の膝の上から元気に飛び降り、桐生のズボンの裾を掴んでせがんだ。
 キラキラと純粋な瞳を向けられ、桐生は押し黙る。
 何と言って聞かせたらいいのやら……。まさか具体的に教える訳にもいくまい。
 あー。だの、うー。だの声にならない声を出し、もしかしたら最強の敵かもしれない者と対峙している。
 大吾は面倒くさ気に乱暴に頭を掻いた。
 そして、おもむろに立ち上がりスタスタと歩き出した。
「だ、大吾逃げる気か!?」
 一人取り残された焦りからか、大吾の背中に声をぶつけた。大吾は特に慌てる風でもなく、チラリと後を振り返り、
「皐月、綿菓子もリンゴ飴も焼きそばも、クレープ屋も閉まるぞ。買わなくていいのか?」
 ぞんざいに告げた。
 その言葉にハタと皐月は我に返る。
 赤ちゃんも欲しいが、目の前にある出店の食べ物の誘惑の方が強い。
 桐生のズボンの裾を振り解くと、危なっかしい足取りでトテトテと大吾の後を追いかける。
「パパ、かってくれるの?」
「あ~、お前がいい子にしているんだったらな」
 さっきはダメって言ったのに。大吾の変わり身に皐月は歓喜の声を上げる。
 直ぐに桐生達も追い付いた。
 約束通り綿菓子を買って貰い、リンゴ飴もベビーカステラも買って貰った。大事そうに抱え込み車の中で皐月は眠ってしまった。些かはしゃぎ過ぎた様だ。
 大吾の膝を枕にして小さく眠る皐月に、大吾は優しく背中を撫でた。
 皐月を挟んだ向こう側で遥が、思い出し笑いを零しているのを横目で睨み付けた。
 大吾はチラリと視線を下に動かす。小さな寝息を立てて幸せそうに眠る娘。
 なんの夢を見ているのだか、時折口をムニャムニャと動かしている。
「赤ん坊か……」
 大吾は口の中で呟く。
 欲しくない訳ではないが、こればっかりは自然の事でどうにもならない。
 この今はまだ小さい皐月に赤ん坊が宿るのは何時の事か、そしてその相手は?そう考えると何故だか無性に腹ただしくなった。
 思わず、車の中だという事を忘れ前の助手席のシートを蹴っ飛ばした。
「六代目!?」
「大吾さん?」
 運転手と遥が大吾の突然の行動に目を剥いた。
 大吾はその言葉にハッとし、罰が悪そうに口許に手を当て外の景色を見る振りをした。その中でも皐月は目覚めない。
 随分、大したタマだな。心中で苦笑いを零しながら、皐月の将来出て来るであろう顔も分からない男に対して、明確な殺意をこの時抱いた。
 
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