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難儀な性格



 おじさんが煙草を買いにいくと言うので、お兄さんは自分のぶんも頼んでいた。
 ついでに“わたし”のお菓子とかジュースとかジャンプとか――いや、ジャンプは最近おもろないから、とりあえず新刊ひととおり。ビール買うならこれとこれ――といろいろ注文が増えていって、おじさんは覚えられないとむっとして結局、メモを持ってでて行った。

 窓から見おろすと、マンションのまわりには同じようにきれいな建物が少しあるだけで、スーパーとかコンビニは見たらない。
 どれくらい遠くなのと聞いたら、山をおりて一番近い駅のまわりに何件かあったような気がするが。たぶん、とお兄さんは言った。
 どうしてこの部屋の窓は開かなくて、ベランダもないんだろう。
 お兄さんは、部屋の位置が高すぎるから、たとえ窓が開けられてもすごい風が吹きこんで、なかのものがぜんぶ飛んでしまうのだと説明してくれた。
 それと、ここから落っこちたらまずまちがいなく死ぬから自殺防止、とつけたされた。

 大阪のテレビはおもしろい。東京や神奈川ではやっていない番組がいっぱいあって、コマーシャルも大阪弁だ。
 でもこの時間はアニメもないし『奥さんたち用』のドラマかワイドショーばかりで、すぐ厭きてしまう。
 ずいぶん時間がたったけれど、おじさんはまだ帰らない。

「道に迷ってんのかもな、携帯かけてみ」

 そのとおりにしたら、どこか別の部屋で呼び出しの音が鳴っていた。
 置いていってしまったのだ。

「そのうち帰ってくるやろ」

 すぐ帰るからと言って帰らなかったことが、おじさんには何度もあるから。
 またやくざとか不良とか、悪い人にからまれて、なにか事件にまきこまれて。
 それで怪我をして帰ってきたり。
 お兄さんも一緒にいけばよかったのに。
 そしたら喧嘩してもおじさんと半分こで、おじさん怪我しないですんだかもしれないのに。

「怪我してるて勝手に決めんな」

 お兄さんは笑うけれど、おじさん、ほんとうによく喧嘩するのだもの。
 どうしてだと思う?

「しゃあないな。おじさんほかのやりかた知らんのや。すぐ手ぇでてしまうんのも癖や、癖」

 怪我する癖ならなおしたほうがいいのに。
 もうなおらないかな?

「絶対になおらんな」

 じゃあやっぱり、これからも怪我して帰ってくるんだ。
 そう考えたら、なんだか悲しくなってすこし涙がでた。
 お兄さんが気がついて、なんで泣くん、と聞いてきたけれど理由なんかわからない。

「まあええか。お前いつも泣きもせんと偉いからなあ」

 聞いたとたん、やっぱり理由はわからないけれど、よけいに涙がでてしまった。
 おじさんの前だと泣けないのは、きっと毎日顔をあわせているから、いまさら泣いたりしたら恥かしいからだと思う。
 それにわたしが泣いたら、おじさんまた心配するし。
 お兄さんだったら、わたしが泣いても心配しないという気がする。
 ただ悲しくて泣いているだけだから放っておいてほしくて、心配されても困ってしまうし。
 お兄さんの胸あたりにしがみついたのは、こんなことをしてもやっぱり特別に心配したり、わたしをかわいそうな子だと思ったりしないのじゃないか。
 なんとなくそう感じたからかも。

「お前もおじさんも難儀な性分やで」

 なだめるみたいに背中を軽く叩かれて、しばらく勝手に泣いていて、そのうち段々頭がぼんやりしてきた。
 エアコンはちょうどいい涼しさで部屋に風を送っていて、お兄さんにくっつけている顔だとか腕だとかのあたりは暖かくて、それがとても気持ちいい。
 人にくっついて寝るのは、あったかくて、なんだかおちつく。
 お母さんともこんなふうにしたことなかった。赤ちゃんの頃、そうされたのかもしれないけれど覚えてなんかいない。
 おじさんとは、ちょっとだけ。

「こっちまで眠うなったな」

 おじさんよりずっと低くて、おじさんよりすこしだけ正直なような声がして。
 それでそのまま眠りこんでしまった。




「なにやってんだ、お前!」

 おじさんの怒鳴る声と、お兄さんのいてて、という声で目がさめた。
 見あげたら、おじさんがお兄さんの髪の毛をつかんで引張りあげている。

「なにて昼寝やろ。見ればわかるやろが」

 ソファでちょっとだけ泣いただけだったのが、いつのまにかお兄さんの腕枕でぐっすり寝てしまったみたいだった。

「子供といったって女の子だろうが。なに考えてるんだ、お前」

 なんだかわからないけれど、おじさんはすごく慌ててるみたいだ。
 うっさいな、とお兄さんはにやにやしていて、怒られてもあまりこたえていないように見える。

「毛もないガキなんぞにどうにかするかいな。あほちゃうか」

「お兄さん、毛ってなんの毛?」

「遥は黙ってろ!」

 わたしまでおじさんに叱られて、なんだか納得いかない。
 怒鳴ることないのに。
 おじさん、お菓子買ってきてくれた?
 キッチンのテーブルにいくつも置かれたコンビニの袋には、お菓子とジュースと缶ビールと週刊誌がたくさんつまっていた。
 おじさんに買い物をさせるといつもそうだけれど、どれを選んでいいのかわからないと言って手当たり次第に買いこんでしまう。
 こういうのはお金がもったいないから、直してほしいな。
 チョコレートとシュークリームの包みをあけて、さっそく食べた。

 居間ではおじさんがまだ怒っていて、お兄さんはやっぱりにやにやして適当な受け答えをしているみたい。
 ――りんきやみ――とお兄さんが言っているけれど、意味はさっぱりだった。
 あとで教えてもらおう。

「ガキてえらいぬくいなあ。誰かと違うてうるさい前置きもないし、素直にしがみついて寝てもうたわ」

 それでまた、おじさんが何か文句を言っている。
 どうしてお兄さんが怒られるのかさっぱりわからなくて、だからお兄さんがかわいそうになった。

「お兄さん、ぽかぽかしてあったかいよ。腕枕もちょうどよかったよ。くっついて寝ると気持ちよかった」

 お兄さんを助けるつもりでキッチンから声をかけたら静かになったから、おじさんは怒るのをやめたのかも。

「わるい女やなあ!」

 お兄さんの声がすごく愉快そうだったので、きっとわたしは良いことをしたんだと思う。





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