2月14日。
メイシップはメンテナンス材料の買い付けに向かっている途中、大吹雪にみまわれて停泊を余儀なくされていた。
メイにしてみれば、この日にジョニーが外に出られない状態な事は非常に嬉しかった。
山のように貰ってくるものに嫉妬しなくても良いのだから。
今年の今日は、彼女だけのもの。
「ジョニー。今日は、何の日か知ってる?」
メイは悪戯っ子のような瞳でジョニーを上目遣い気味に見上げた。
彼女の珍しく下ろしている長い髪の毛がふわりと揺れる。
昔に比べ、格段に大人っぽくなった。
大人に近づいても、その純粋さだけは一向に衰えることが無い。
ジョニーは彼女に視線を合わせた。
両手は後ろに組んでいて、見えない。
今日の日付を思えば、そこにあるものは唯1つ。
彼女の意図にジョニーは早々に気が付いているが敢えて彼女の望んでいない答えを返す。
「俺様の日。」
「何でっ!」
即座に反応を返すメイ。
両手は相変わらず後ろに組まれたまま。
ジョニーはタバコをひと吸いすると、続けて云った。
「じゃあ、にいしの日。」
さすがのメイもこの答えには呆れたのか、半眼でジョニーを見据える。
「・・・・・・そんな日無いよ。しかも訳わかんないし。」
「そうか。・・・じゃあ、何の日なんだ?わからんなあ。」
わざとらしく首を捻る。
出来ればこのまま終わらせたい。
メイが呆れかえってこの場を離れることを期待したが、どうやら無理らしい。
「・・・・・・じょにー・・・・。」
彼女の目は完全に据わっていて、今にもクジラさん辺りを召喚しそうな勢いだ。
つまりは此のまましらばっくれていても、痛い思いをし尚且つ誤魔化しが効かない、というのであればそれは有効な手立てではない、ということだ。
ジョニーは嘆息し、仕方なしに答える。
「バレンタインデー、だろ?悪いがチョコだったら受け取れないぜ?」
・・・・・・・・・・。
きっぱりと断るジョニーに、メイは暫し言葉を忘れた。
冗談かと思ってその顔を覗き見ても、いつもと何ら変わりの無い顔。
少なくとも冗談を言っている顔ではなかった。
「・・・・・・どーしてさ。」
受け取らない、といったら彼は受け取らないだろう。
去年までは貰ってくれたのに、何故今年は駄目なのだろう?
せめて理由が知りたかった。
ジョニーは笑いながら答える。
「いい加減『父親』にチョコをやるような年齢でもないだろ。も外に目を向けてだなあ・・・・。」
(そんな言葉、聞きたくないよ!)
この何年間、メイは何時だってジョニーのことを想って行動を起こしてきた。
誰よりも何よりも大切で、大好きで。
この世の、自分の全ては彼を中心に周っていると言っても過言ではなかった。
『父親』なんて感情だったら、こんなに心が求めたりはしなかっただろう。
ジョニーの一言一言に一喜一憂することも無かっただろう。
何も伝わってはいなかったんだろうか?
あくまでメイという存在を、その中に入り込ましてくれないのだろうか?
何処まで行けば。
何時まで待てば。
一人の『女性』として見てくれる?
メイの瞳に透明な雫がつうっと伝う。
「ジョニーの・・・・・、馬鹿ああああああああ!!」
叫び声といっしょに手に持っていたもの―チョコレートをジョニーに向かって投げつけた。
ジョニーはそんなメイの怒りの行為すら片手でキャッチしてしまう。
それが悔しくて、メイはそのまま外に飛び出した。
外は猛吹雪。
メイの格好はそれに耐えられるものではない。
「メイ!・・・・・・・・クソッ。」
彼女に関してはどうもうまくことが運ばない。
ジョニーは舌打ちをかましながら、メイを追いかけるべく外に飛び出した。
(ジョニーの馬鹿っ!)
ざくざくと雪を踏みわけつつ、何処へ向かうわけでもないけれど、走った。
雪からの冷気が頭を徐々に冷やしていく。
「へくちっ!」
くしゃみがでて、ようやく彼女は自分の体が冷えきっている事に気がついた。
格好を振り返れば、どう贔屓目に見ても吹雪の中を歩く格好ではない。
自覚した瞬間、一気に寒さが押し寄せてきた。
「へくちっ!うう~、これもぜんっぶジョニーが悪いんだから!」
そして、あの憎い愛しい人はなにくわぬ顔で上着などを持ちつつこの場に現れるに違いない。
余裕の笑みを持って。
それでも帰る所はあそこだけだから。
きっと、また彼の後を追ってしまうのだろう。
そして、また何も変わらない日々が待っているのだろう。
分かっているけれど。
分かっているけれど。
(ムショーにムカツクよね・・・・。)
ピュウと風が吹き付ける。
メイは悴んで全く動かなくなった手に息を吹きかけた。
そんなとき、彼はきた。
「メイ!」
掴まれる肩。
ふわりと揺れる髪
振り向かされる身体。
その反動のまま、その人を見やる。
・・・・・・・何時も通りのジョニーだった。
「・・・・・・・・寒くないの?」
黒いロングコート(?)を直に着込んでいるジョニーに対して思わず呟いた。
「ああ、寒いさ。だからさっさと帰るぞ。」
にこりともせずジョニーは云う。
「・・・・・・・・ボクの上着は?」
「・・・・・寒いんだからさっさと帰るぞ。」
その疑問には答えることなく、ジョニーはメイを抱え上げ、帰路につく。
さっきまではあんなに寒かったはずの気温が、何処か、温かく感じられる。
ジョニーの腕の中、メイは思う。
少しは、余裕が無かった、のかなあ?
外の寒さを忘れるほど。
余裕の笑みが消えるほど。
導き出された結論にメイは顔をほころばせた。
ジョニーの首に腕を絡ませつつ云う。
「少し自惚れちゃうからねーだっ!」
「・・・・・・・歩きにくい・・・・。」
上機嫌のメイとは裏腹にジョニーは憮然とした顔のまま嘆息した。
やはり彼女に関しては事がうまく運ばないのだ。
それを心の何処かで喜んでいる自分にも気がつきながら。
・・・・・書き直したは良いが、これもこれでどうかと(汗)。題名をつけるのが苦手です。いっそ無題で出そうかと思いました。えと、sora様5000HIT申請どうもありがとうございます!リクエストして頂いた「バレンタイン・ジョニメイ」です。リク、とても嬉しかった・・・のに、何故僕はこんなものしか書けないのでしょう・・・。精進します・・。これからも見捨てないで「ぱらろす」に遊びに来て頂けると嬉しいのですが・・・・・。やっぱり駄目、ですか(泣)?
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