「氣ってのぁ、法力五大属性の中で最も使い手を選ぶ属性だ。
体内に七つ存在すると言われるチャクラを開く事によって大気と通じ……」
「アァ? 俺ぁそんな小難しい事、毅師匠から習った覚えねぇぞ?
気合だ気合っ! 日本人ならまさに『気合』で氣を使いこなせっ!」
「……アナタ日本人じゃないアルよ?」
御津闇慈とチップ=ザナフ、そして蔵土縁紗夢の三人が、
一人の日本人少女に氣の基礎を叩き込んでいた。
少女の名は、不明。
五月(さつき)であるとも、芽衣(めい)であるとも言われているが、定かではない。
孤児であった頃、さる年の五月(May)にジョニーに拾われて以来、
仲間や保護者達からはメイと呼ばれていた。
出自や出身は、アイデンティティ形成に深く関わる。
自らの過去を知らざるメイにとって、かつての聖騎士団選抜大会で
かの最強最悪のギア・ジャスティスに「ジャパニーズ」と呼ばれた事は、
自分のアイデンティティを固めるための一助になるかもしれなかった。
ジョニーは「気にするな」と言うし、実際メイもそれ程気にかけてはいない。
だが、東洋人のみが先天的に素質を保有するとされる「氣」を使いこなせれば
それは憧れの異性であるジョニーに、大いに役立てる可能性を孕む。
アイデンティティ形成の欲求と、好きな人の役に立ちたいという欲求。
そこに共通するのは、自己実現という概念。
彼女が、正直信用出来ない(笑)三人にコンタクトをとってまで
教えを請うには、十分な理由だった。
氣を習うのに、最も適しているであろう人物は、クリフ=アンダーソンだった。
だが、彼はかつての大会で天に召されて以来、家庭用で化けて出てくるのみだった。
ジョニーは炎の法力は使えるが、氣は恐らく無理であろう。
信用出来る上に教え方もうまそうなのはカイ=キスクだが、
彼も氣ではなく雷を使う者だし、そもそも義賊が警察の前にホイホイ姿を現すわけにもいかない。
ディズィーのガンマレイも、その生成要素は氣ではないだろうし、
第一彼女は自力で能力を制限出来ない。教えを請うのは彼女にとっても危険というものだ。
散々考えあぐねた結果、気は進まないが
やはりこの三人に頼るしか無いと、メイは結論付けた。
ところが、である。
三人とも、氣を使いこなせるようになったプロセスが異なるのである。
闇慈は学問的に法力を習得しており、そのため氣のみならず、
最も扱いの難しい雷をも使いこなす秀才だった。
小説版『白銀の迅雷』にも書かれていた事だが、雷を戦闘技術に転用出来るのは、
盛栄揃いの騎士団の中さえ、カイ一人だけだった。
直情的でありながら理知も重んじる彼であればこそ、
がむしゃらに頑張ったからと言って何でも叶うわけではない事を知っていた。
それ故彼は、きちんとした師をもって大系的に氣を習得すべきだと判断していた。
……が、チップは違った。
公式の氣の使い手の中で、故クリフを除けば唯一東洋人でない彼は
闇慈が習ったような理詰めの方法論は、師である毅から聞き及んでいなかった。
毅は、それこそ気合でもって彼に氣を習得させていたのだ。
無論毅自身は、学術的な勉強も重要視しただろうが、相手がチップでは
理屈で教えたところで意味は無い、と判断しての事だろう。
紗夢は、独学に近い方法で格闘技を習得したため、
氣はおろかただの徒手空拳ですらも、人に教えてやれる程体系づけてはいなかった。
呼吸法や間合いの取り方なども、師に習うのではなく、実戦の中で身に着けた。
更に言えば、別段彼女は氣に執着を持っていない。
長い年月の中で、たまたま習得出来ていたから多用しているだけだ。
それが証拠に、彼女は氣ばかりでなく、炎の法力も使いこなす。
確実に勝利できるプロセスを構築するためならば、氣に執着する必要は無いというのが持論だった。
困ったのはメイである。
三人ともが全く異なる方法論を提示してくるのでは、
戦闘術すら満足に身に着けていない彼女には、どの方法も採択出来なかった。
選別基準がわからないのである。
また、ここに揃った三人は全員押しが強いタイプの人間なので
メイ本人の存在を忘れる程の勢いで、それぞれが頑なに持論を展開して討論しあっていた。
紗夢の経営する中華料理屋の客席。
三人が終わりの見えない議論を続けている間に閉店時間がせまり、
従業員は後片付けを始めていた。
「……と、もうこんな時間か。長居しちまったなぁ」
「腹ぁ減ったな。おい空き缶女、何か食わせろ」
「収入の無い男がどうやって飯代払うつもりカ。タダ飯奢る気はさらさら無いアルよ」
「……で氣の話は結局どうなったのさ。僕だけ置いてけぼりじゃん」
ジョニーから小遣いを貰っているメイは、その金で何か注文しようと思った。
が、闇慈がそれを制止した。
「っといけねぇ。飯は食わねぇ方が良いな、嬢ちゃん」
空腹に耐えかねたメイは、苛つきながら理由を尋ねた。
「……何でさ、イジワルぅ」
「意地悪なんかじゃねぇよ。丹田……つまり下腹部だな。
ここに氣を入れさせるためにゃ、空腹の方が都合が良いんだよ」
氣を習得するのに断食が必要とは思わなかったメイは、思わず眩暈を覚えた。
「くっ……くらくらするぅ……」
今にも鳴りそうな腹を押さえて、メイはとぼとぼと夜道を歩いた。
彼女の目の前には、やはり議論を続ける三人の馬鹿達。
彼らは腹が減らないのだろうか、甚だ疑問である。
「ねぇ……お腹すいたぁ」
耐えかねたメイは、懇願するような表情で三人を見た。
「さっきも言ったろ? 下腹部に力をだなぁ……」
「他に方法無いの?」
泣きそうな目で言い寄られて、闇慈は少しばかり思案した。
「そうさなぁ……まぁ、下腹部に力さえ入れば、何でも良いわけだが……」
考えながら道を歩いていると、町医者が目にとまった。
窓の向こう側に、やたら背の高い紙袋をかぶった男が歩いているように見えた。
メイは、その紙袋から本能的に「見間違い、見間違い……」と目を背けた。
闇慈は医者の看板をじぃっと眺めて、一つ妙案を思いついた。
というより、正確には「思い出した」と言うべきか。
いたって真面目な表情で、後ろを振り向きメイの顔を見る。
「お前さぁ、薬局で下剤買ってきて飲んでみる?」
もしこの場でメイがいつもの錨を担いでいたとしたら、思わずそれを地面に落としていただろう。
町中で派手な轟音が響かずに済んだのは幸いだった。
代わりに、町中に聞こえる程大きな声で、メイは目の前の男に
罵声に近い疑問符をなげかけた。
「……はぁあ!?」
「いや、まぁ聞けよ」
闇慈は悪びれる事なく説明を始めた。
「下腹部に氣が入れば良いわけだから、確かに絶食以外にも方法はあらぁな。
俺はやった事無いけど、便意を我慢して腹痛に耐えるってのも
一つのやり方としては間違ってないと思うし……」
メイが、ツッコミの代わりに痛烈なパンチをお見舞いしようかと思って
振りかぶった瞬間、チップも闇慈に同意を示す声をあげた。
「なぁるほど! 修行始めたばっかの頃に、師匠が
俺の食事の中に下剤を混入してた事があったのは、そのためだったのか!」
恐らくそんな筈は無い。
ただの、度を越した悪戯心であると思われる。
だが、師匠を崇拝しているチップの判断に、理知は伴っていない。
メイは、恐る恐る紗夢の方を見た。
「アタシはそんな修行した覚え無いあるヨ、安心するヨロシ」
その言葉に、メイは心の底から安堵した。
もし彼女も腹痛耐久レース経験者であれば、この場でメイも
下剤を飲まされて、悶え苦しむ事になるところだった。
「……ただ、駆け出しの頃はお金無かったからネ。
下剤は飲んでないけど、闇慈の言う『絶食』は、ほぼ毎日だタヨ?」
思い出したように呟いた彼女の言葉に、メイは愕然とした。
結局、どんな方法にせよ下腹部に負担をかけねばならないようだ。
そしてその点で、今日初めて闇慈とチップと紗夢は意見を同じくした。
いくら何でも下剤など飲みたくない。
さりとて、昼からずっと彼ら三人の議論に付き合わされたせいで、腹は減っている。
成長期であるメイに、絶食は不健康以外の何物でもなかった。
「他に無いのぉ? お腹に力ためる方法」
そう言われても、チップには思いつきもしなかった。
何しろ、本当に気合と下剤だけで氣を習得したのだ。
彼にしてみれば、たかが絶食が出来ないような根性の足りない小娘に、
自分が気合によって習得した氣の扱い方が、マスター出来る筈が無かった。
が、闇慈と紗夢の二人は、意味深な表情で顔を見合わせていた。
「絶食でも、下剤でもなく……」
「下腹部に、力をこめる方法……」
ただ一人、童貞のチップが思いつかなかった方法。
それは、食事によって通常通り栄養補給して構わない上に、
多少の運動も兼ねるので代謝を促進し、健康にも良いとされている方法。
女性にとっては、ダイエットに効果的とも言われている。
一説には、三日に一回「ソレ」をする事によって、年間で計上すれば六回、
サッカーの試合にフル出場したのと同じだけの運動量になると言われている行為。
あまり、子供には薦められる手段ではない。
第一、保護者であるジョニーを敵にまわす可能性が高い。
だが、この場で他にぱっと思いつく修練は、他に無い。
二人は、思い切ってメイに尋ねてみた。
「お前さぁ……セ○クスって興味ねぇ?」
少女の驚きようは、筆舌に尽くしがたかった。
最初はぼけっとしていたメイの表情が、次第に赤くなっていき、
それにあわせて目も大きく見開かれていった。
闇慈の言葉の意味を理解するまでにたっぷり十秒はかかったろうか。
そしてその十秒が経った時、メイは声を抑える事もせず
ひたすら闇慈に向かって荒々しい罵倒の声をあげはじめたのだ。
「馬鹿馬鹿馬鹿! 馬鹿阿呆間抜けの眼鏡マッチョ! 変態! 変態っ! 変態っ!!」
耳を聾するその大声に、町の人々は何事かと振り向いた。
紗夢を慌ててメイの口を抑え、路地裏に彼女を連れて逃げた。
その後を、闇慈とチップが追った。
「はぁ……はぁ……」
「落ち着くアルよ、子猫ちゃん。闇慈はセクハラのつもりで言ったんじゃないヨ?」
いきなり大人の男(しかも上半身裸)に卑猥な言葉を口走られたショックは、
さながら電車の中で痴漢されたに等しい辱めだった。
紗夢の腕に抱かれてメソメソと泣くメイに、闇慈が謝罪の言葉を述べる。
「悪ぃ悪ぃ、そんなに拒絶反応起こすとは思わなかったぜ」
後からついてきたチップが、闇慈に事情を尋ねる。
納得のいく理由が説明出来ないようであれば、師匠の教えに従って
弱き者=この場で言うところのメイを守るために、一戦交える覚悟すら彼にはあった。
「説明してもらおうか、あぁ? こんなガキンチョに助兵衛な事のたまった理由をよぉ!」
闇慈は必死に説明した。
交尾行動は、下腹部に氣をこめるのに、まさに適した行為であると。
まさしく下腹部を使った運動なのだから、当たり前と言えば当たり前だ。
フリーセックスを嫌う向きのある東洋では、普通推奨される方法ではない。
だが、メイ自身が絶食も下剤も嫌と言っている以上、他に提案は無い。
もっとも、メイはこれを断っても構わない。
彼女が氣を習得出来なくても別に闇慈達は困らないし、
別にセッ○スに頼らずとも、何度も言っている通り絶食で事足りるのだ。
純潔を散らす事と、空腹に耐える事。
並みの神経をしていれば、どちらを選ぶかは必然だった。
闇慈と紗夢は、それを見越した上で「一応」提案してみただけなのだ。
諦めてメイが絶食を選択してくれれば、それが一番良い形だった。
「……わかった」
「んなにぃ?」
さぁこのゴタゴタも片付いた、後は帰って飯を食うだけだと
団扇で顔を仰いでいた闇慈の耳に、意外すぎる言葉が聞こえてきた。
「おま、もっぺん言ってみ?」
振り向き、俯いたまま顔を上げないメイを見やる。
チップは「Jesus!」と叫びつつ頭を押さえ、
紗夢は口元に手をあてて「アイヤー……」と呟いていた。
「何度も言わせないでよっ……その方法で構わないって言ってんの!」
闇慈と紗夢の二人が、見落としていた点が一つだけあった。
メイには、恐らく人並みの貞操観念が無いという事だ。
何しろ、それなりの年頃であるにも関わらず好んでスパッツを履いて、
何恥じ入る事なく股間のラインを戦闘中にバンバン見せつける、
変態御用達のコスチュームを着用しているのだ。
その意味では、平然とパンチラをする紗夢に近いものがある。
また、親代わりの大人がジョニーとリープおばさんぐらいのものであるため、
誰も彼女に「女の子の初めては、大好きな男性に捧げるもの」
という観念を、教育していない可能性すらあった。
彼女にとってセック○とは、性的にそれなりの覚悟を要するものの、
普通の処女のように、人生全部をかける程の覚悟が必要な行為だとは
認識していなかったのだ。
メイはジョニーに連絡をいれて、朝帰りの旨を述べた。
闇慈やチップは兎も角、女性である紗夢が同行しているという事で、
何とかジョニーの了承と信用を得る事は出来た。
メイは、そんなジョニーの信頼を裏切って○ックスに明け暮れる一晩を過ごす事に
罪悪感さえ覚えた。
だが、全てはジョニーのためだ。
彼の力になるために、氣を習得したい。
三人のお陰で私は強くなったよと、誇らしげに彼の元に帰りたい。
出会い茶屋の一室を借りて、今夜はそこに泊まる事になった。
メイを気遣った紗夢が、彼女にシャワーを浴びる事を薦めた。
彼女がその幼い体に、法力で温められた湯を被っている間に、
三人はベッドの上でひとしきり話し合っていた。
「誰があの子の相手すんだよ。言っとくが俺ぁ子供に手ぇ出す程落ちぶれちゃいないぞ」
「上半身裸の変態がよく言うネ……アタシは女だから、当然無理アルよ」
「なぁ、おい、お前らちょっと待て、この流れじゃ、まるで……」
闇慈と紗夢は、二人揃ってチップの顔をマジマジと眺めた。
精神年齢から言っても、最も適任なのが誰であるか、決まりきっていた。
問題があるとすれば、彼は基本的に女性に気のきく男ではないから、
メイの気持ちを無視して一方的に動いて勝手に果ててしまいそう、という事だけだった。
だがそれも、闇慈と紗夢の二人でうまくアドバイスしながらであれば、抑える事は出来るだろう。
メイが浴室から全裸の状態で部屋に戻ってきた時、
そこには白い陰毛をあらわにした、チップが待ち構えていた。
「うわぁ……」
「んだよ、男の見るの初めてかよ、パイパン」
「そんなわけじゃないけど……っていうかジョニーのよりはちっちゃいし」
「んだとテメェ!」
チップ「ガキは黙ってろ」
メイ「テメーは若白髪だろーが」
チップ「ガキガキガキガキ」
メイ「白髪白髪白髪白髪」
チップ「パイパンは黙ってろ」
メイ「テメーのチンゲ白髪だろーが」
チップ「パイパンパイパンパイパンパイパン」
メイ「白髪チンゲ白髪チンゲ白髪チンゲ白髪チンゲ 」
メイ「お前貧チンだろ」
チップ「なめんなこれでも喰らえ」
メイ「!!・・・・・ざけん、な・・・・抜けぇ・・・・」
チップ「んだその余裕ヅラァ?」
メイ「こんな貧チン何とも思わないもん・・・・ねぇ」
チップ「あの世にいっちまえ」
メイ「いやぁ!!・・・・やだぁ、ふぁあ!」
チップ「はっ糞餓鬼がっ」
メイ「やっやぁ・・・・」
チップ「いつまで喘いでんだよ」
メイ「や、山田さーーーーーん!」
チップ「こ、こんなトロい奴にーー!」
ウィナー・メイ。
メイ「はぁっ・・・はぁ・・・楽勝だねっ!!」
ジョニー「やかましいッ!うっおとしいぜッ!おまえら!」
体内に七つ存在すると言われるチャクラを開く事によって大気と通じ……」
「アァ? 俺ぁそんな小難しい事、毅師匠から習った覚えねぇぞ?
気合だ気合っ! 日本人ならまさに『気合』で氣を使いこなせっ!」
「……アナタ日本人じゃないアルよ?」
御津闇慈とチップ=ザナフ、そして蔵土縁紗夢の三人が、
一人の日本人少女に氣の基礎を叩き込んでいた。
少女の名は、不明。
五月(さつき)であるとも、芽衣(めい)であるとも言われているが、定かではない。
孤児であった頃、さる年の五月(May)にジョニーに拾われて以来、
仲間や保護者達からはメイと呼ばれていた。
出自や出身は、アイデンティティ形成に深く関わる。
自らの過去を知らざるメイにとって、かつての聖騎士団選抜大会で
かの最強最悪のギア・ジャスティスに「ジャパニーズ」と呼ばれた事は、
自分のアイデンティティを固めるための一助になるかもしれなかった。
ジョニーは「気にするな」と言うし、実際メイもそれ程気にかけてはいない。
だが、東洋人のみが先天的に素質を保有するとされる「氣」を使いこなせれば
それは憧れの異性であるジョニーに、大いに役立てる可能性を孕む。
アイデンティティ形成の欲求と、好きな人の役に立ちたいという欲求。
そこに共通するのは、自己実現という概念。
彼女が、正直信用出来ない(笑)三人にコンタクトをとってまで
教えを請うには、十分な理由だった。
氣を習うのに、最も適しているであろう人物は、クリフ=アンダーソンだった。
だが、彼はかつての大会で天に召されて以来、家庭用で化けて出てくるのみだった。
ジョニーは炎の法力は使えるが、氣は恐らく無理であろう。
信用出来る上に教え方もうまそうなのはカイ=キスクだが、
彼も氣ではなく雷を使う者だし、そもそも義賊が警察の前にホイホイ姿を現すわけにもいかない。
ディズィーのガンマレイも、その生成要素は氣ではないだろうし、
第一彼女は自力で能力を制限出来ない。教えを請うのは彼女にとっても危険というものだ。
散々考えあぐねた結果、気は進まないが
やはりこの三人に頼るしか無いと、メイは結論付けた。
ところが、である。
三人とも、氣を使いこなせるようになったプロセスが異なるのである。
闇慈は学問的に法力を習得しており、そのため氣のみならず、
最も扱いの難しい雷をも使いこなす秀才だった。
小説版『白銀の迅雷』にも書かれていた事だが、雷を戦闘技術に転用出来るのは、
盛栄揃いの騎士団の中さえ、カイ一人だけだった。
直情的でありながら理知も重んじる彼であればこそ、
がむしゃらに頑張ったからと言って何でも叶うわけではない事を知っていた。
それ故彼は、きちんとした師をもって大系的に氣を習得すべきだと判断していた。
……が、チップは違った。
公式の氣の使い手の中で、故クリフを除けば唯一東洋人でない彼は
闇慈が習ったような理詰めの方法論は、師である毅から聞き及んでいなかった。
毅は、それこそ気合でもって彼に氣を習得させていたのだ。
無論毅自身は、学術的な勉強も重要視しただろうが、相手がチップでは
理屈で教えたところで意味は無い、と判断しての事だろう。
紗夢は、独学に近い方法で格闘技を習得したため、
氣はおろかただの徒手空拳ですらも、人に教えてやれる程体系づけてはいなかった。
呼吸法や間合いの取り方なども、師に習うのではなく、実戦の中で身に着けた。
更に言えば、別段彼女は氣に執着を持っていない。
長い年月の中で、たまたま習得出来ていたから多用しているだけだ。
それが証拠に、彼女は氣ばかりでなく、炎の法力も使いこなす。
確実に勝利できるプロセスを構築するためならば、氣に執着する必要は無いというのが持論だった。
困ったのはメイである。
三人ともが全く異なる方法論を提示してくるのでは、
戦闘術すら満足に身に着けていない彼女には、どの方法も採択出来なかった。
選別基準がわからないのである。
また、ここに揃った三人は全員押しが強いタイプの人間なので
メイ本人の存在を忘れる程の勢いで、それぞれが頑なに持論を展開して討論しあっていた。
紗夢の経営する中華料理屋の客席。
三人が終わりの見えない議論を続けている間に閉店時間がせまり、
従業員は後片付けを始めていた。
「……と、もうこんな時間か。長居しちまったなぁ」
「腹ぁ減ったな。おい空き缶女、何か食わせろ」
「収入の無い男がどうやって飯代払うつもりカ。タダ飯奢る気はさらさら無いアルよ」
「……で氣の話は結局どうなったのさ。僕だけ置いてけぼりじゃん」
ジョニーから小遣いを貰っているメイは、その金で何か注文しようと思った。
が、闇慈がそれを制止した。
「っといけねぇ。飯は食わねぇ方が良いな、嬢ちゃん」
空腹に耐えかねたメイは、苛つきながら理由を尋ねた。
「……何でさ、イジワルぅ」
「意地悪なんかじゃねぇよ。丹田……つまり下腹部だな。
ここに氣を入れさせるためにゃ、空腹の方が都合が良いんだよ」
氣を習得するのに断食が必要とは思わなかったメイは、思わず眩暈を覚えた。
「くっ……くらくらするぅ……」
今にも鳴りそうな腹を押さえて、メイはとぼとぼと夜道を歩いた。
彼女の目の前には、やはり議論を続ける三人の馬鹿達。
彼らは腹が減らないのだろうか、甚だ疑問である。
「ねぇ……お腹すいたぁ」
耐えかねたメイは、懇願するような表情で三人を見た。
「さっきも言ったろ? 下腹部に力をだなぁ……」
「他に方法無いの?」
泣きそうな目で言い寄られて、闇慈は少しばかり思案した。
「そうさなぁ……まぁ、下腹部に力さえ入れば、何でも良いわけだが……」
考えながら道を歩いていると、町医者が目にとまった。
窓の向こう側に、やたら背の高い紙袋をかぶった男が歩いているように見えた。
メイは、その紙袋から本能的に「見間違い、見間違い……」と目を背けた。
闇慈は医者の看板をじぃっと眺めて、一つ妙案を思いついた。
というより、正確には「思い出した」と言うべきか。
いたって真面目な表情で、後ろを振り向きメイの顔を見る。
「お前さぁ、薬局で下剤買ってきて飲んでみる?」
もしこの場でメイがいつもの錨を担いでいたとしたら、思わずそれを地面に落としていただろう。
町中で派手な轟音が響かずに済んだのは幸いだった。
代わりに、町中に聞こえる程大きな声で、メイは目の前の男に
罵声に近い疑問符をなげかけた。
「……はぁあ!?」
「いや、まぁ聞けよ」
闇慈は悪びれる事なく説明を始めた。
「下腹部に氣が入れば良いわけだから、確かに絶食以外にも方法はあらぁな。
俺はやった事無いけど、便意を我慢して腹痛に耐えるってのも
一つのやり方としては間違ってないと思うし……」
メイが、ツッコミの代わりに痛烈なパンチをお見舞いしようかと思って
振りかぶった瞬間、チップも闇慈に同意を示す声をあげた。
「なぁるほど! 修行始めたばっかの頃に、師匠が
俺の食事の中に下剤を混入してた事があったのは、そのためだったのか!」
恐らくそんな筈は無い。
ただの、度を越した悪戯心であると思われる。
だが、師匠を崇拝しているチップの判断に、理知は伴っていない。
メイは、恐る恐る紗夢の方を見た。
「アタシはそんな修行した覚え無いあるヨ、安心するヨロシ」
その言葉に、メイは心の底から安堵した。
もし彼女も腹痛耐久レース経験者であれば、この場でメイも
下剤を飲まされて、悶え苦しむ事になるところだった。
「……ただ、駆け出しの頃はお金無かったからネ。
下剤は飲んでないけど、闇慈の言う『絶食』は、ほぼ毎日だタヨ?」
思い出したように呟いた彼女の言葉に、メイは愕然とした。
結局、どんな方法にせよ下腹部に負担をかけねばならないようだ。
そしてその点で、今日初めて闇慈とチップと紗夢は意見を同じくした。
いくら何でも下剤など飲みたくない。
さりとて、昼からずっと彼ら三人の議論に付き合わされたせいで、腹は減っている。
成長期であるメイに、絶食は不健康以外の何物でもなかった。
「他に無いのぉ? お腹に力ためる方法」
そう言われても、チップには思いつきもしなかった。
何しろ、本当に気合と下剤だけで氣を習得したのだ。
彼にしてみれば、たかが絶食が出来ないような根性の足りない小娘に、
自分が気合によって習得した氣の扱い方が、マスター出来る筈が無かった。
が、闇慈と紗夢の二人は、意味深な表情で顔を見合わせていた。
「絶食でも、下剤でもなく……」
「下腹部に、力をこめる方法……」
ただ一人、童貞のチップが思いつかなかった方法。
それは、食事によって通常通り栄養補給して構わない上に、
多少の運動も兼ねるので代謝を促進し、健康にも良いとされている方法。
女性にとっては、ダイエットに効果的とも言われている。
一説には、三日に一回「ソレ」をする事によって、年間で計上すれば六回、
サッカーの試合にフル出場したのと同じだけの運動量になると言われている行為。
あまり、子供には薦められる手段ではない。
第一、保護者であるジョニーを敵にまわす可能性が高い。
だが、この場で他にぱっと思いつく修練は、他に無い。
二人は、思い切ってメイに尋ねてみた。
「お前さぁ……セ○クスって興味ねぇ?」
少女の驚きようは、筆舌に尽くしがたかった。
最初はぼけっとしていたメイの表情が、次第に赤くなっていき、
それにあわせて目も大きく見開かれていった。
闇慈の言葉の意味を理解するまでにたっぷり十秒はかかったろうか。
そしてその十秒が経った時、メイは声を抑える事もせず
ひたすら闇慈に向かって荒々しい罵倒の声をあげはじめたのだ。
「馬鹿馬鹿馬鹿! 馬鹿阿呆間抜けの眼鏡マッチョ! 変態! 変態っ! 変態っ!!」
耳を聾するその大声に、町の人々は何事かと振り向いた。
紗夢を慌ててメイの口を抑え、路地裏に彼女を連れて逃げた。
その後を、闇慈とチップが追った。
「はぁ……はぁ……」
「落ち着くアルよ、子猫ちゃん。闇慈はセクハラのつもりで言ったんじゃないヨ?」
いきなり大人の男(しかも上半身裸)に卑猥な言葉を口走られたショックは、
さながら電車の中で痴漢されたに等しい辱めだった。
紗夢の腕に抱かれてメソメソと泣くメイに、闇慈が謝罪の言葉を述べる。
「悪ぃ悪ぃ、そんなに拒絶反応起こすとは思わなかったぜ」
後からついてきたチップが、闇慈に事情を尋ねる。
納得のいく理由が説明出来ないようであれば、師匠の教えに従って
弱き者=この場で言うところのメイを守るために、一戦交える覚悟すら彼にはあった。
「説明してもらおうか、あぁ? こんなガキンチョに助兵衛な事のたまった理由をよぉ!」
闇慈は必死に説明した。
交尾行動は、下腹部に氣をこめるのに、まさに適した行為であると。
まさしく下腹部を使った運動なのだから、当たり前と言えば当たり前だ。
フリーセックスを嫌う向きのある東洋では、普通推奨される方法ではない。
だが、メイ自身が絶食も下剤も嫌と言っている以上、他に提案は無い。
もっとも、メイはこれを断っても構わない。
彼女が氣を習得出来なくても別に闇慈達は困らないし、
別にセッ○スに頼らずとも、何度も言っている通り絶食で事足りるのだ。
純潔を散らす事と、空腹に耐える事。
並みの神経をしていれば、どちらを選ぶかは必然だった。
闇慈と紗夢は、それを見越した上で「一応」提案してみただけなのだ。
諦めてメイが絶食を選択してくれれば、それが一番良い形だった。
「……わかった」
「んなにぃ?」
さぁこのゴタゴタも片付いた、後は帰って飯を食うだけだと
団扇で顔を仰いでいた闇慈の耳に、意外すぎる言葉が聞こえてきた。
「おま、もっぺん言ってみ?」
振り向き、俯いたまま顔を上げないメイを見やる。
チップは「Jesus!」と叫びつつ頭を押さえ、
紗夢は口元に手をあてて「アイヤー……」と呟いていた。
「何度も言わせないでよっ……その方法で構わないって言ってんの!」
闇慈と紗夢の二人が、見落としていた点が一つだけあった。
メイには、恐らく人並みの貞操観念が無いという事だ。
何しろ、それなりの年頃であるにも関わらず好んでスパッツを履いて、
何恥じ入る事なく股間のラインを戦闘中にバンバン見せつける、
変態御用達のコスチュームを着用しているのだ。
その意味では、平然とパンチラをする紗夢に近いものがある。
また、親代わりの大人がジョニーとリープおばさんぐらいのものであるため、
誰も彼女に「女の子の初めては、大好きな男性に捧げるもの」
という観念を、教育していない可能性すらあった。
彼女にとってセック○とは、性的にそれなりの覚悟を要するものの、
普通の処女のように、人生全部をかける程の覚悟が必要な行為だとは
認識していなかったのだ。
メイはジョニーに連絡をいれて、朝帰りの旨を述べた。
闇慈やチップは兎も角、女性である紗夢が同行しているという事で、
何とかジョニーの了承と信用を得る事は出来た。
メイは、そんなジョニーの信頼を裏切って○ックスに明け暮れる一晩を過ごす事に
罪悪感さえ覚えた。
だが、全てはジョニーのためだ。
彼の力になるために、氣を習得したい。
三人のお陰で私は強くなったよと、誇らしげに彼の元に帰りたい。
出会い茶屋の一室を借りて、今夜はそこに泊まる事になった。
メイを気遣った紗夢が、彼女にシャワーを浴びる事を薦めた。
彼女がその幼い体に、法力で温められた湯を被っている間に、
三人はベッドの上でひとしきり話し合っていた。
「誰があの子の相手すんだよ。言っとくが俺ぁ子供に手ぇ出す程落ちぶれちゃいないぞ」
「上半身裸の変態がよく言うネ……アタシは女だから、当然無理アルよ」
「なぁ、おい、お前らちょっと待て、この流れじゃ、まるで……」
闇慈と紗夢は、二人揃ってチップの顔をマジマジと眺めた。
精神年齢から言っても、最も適任なのが誰であるか、決まりきっていた。
問題があるとすれば、彼は基本的に女性に気のきく男ではないから、
メイの気持ちを無視して一方的に動いて勝手に果ててしまいそう、という事だけだった。
だがそれも、闇慈と紗夢の二人でうまくアドバイスしながらであれば、抑える事は出来るだろう。
メイが浴室から全裸の状態で部屋に戻ってきた時、
そこには白い陰毛をあらわにした、チップが待ち構えていた。
「うわぁ……」
「んだよ、男の見るの初めてかよ、パイパン」
「そんなわけじゃないけど……っていうかジョニーのよりはちっちゃいし」
「んだとテメェ!」
チップ「ガキは黙ってろ」
メイ「テメーは若白髪だろーが」
チップ「ガキガキガキガキ」
メイ「白髪白髪白髪白髪」
チップ「パイパンは黙ってろ」
メイ「テメーのチンゲ白髪だろーが」
チップ「パイパンパイパンパイパンパイパン」
メイ「白髪チンゲ白髪チンゲ白髪チンゲ白髪チンゲ 」
メイ「お前貧チンだろ」
チップ「なめんなこれでも喰らえ」
メイ「!!・・・・・ざけん、な・・・・抜けぇ・・・・」
チップ「んだその余裕ヅラァ?」
メイ「こんな貧チン何とも思わないもん・・・・ねぇ」
チップ「あの世にいっちまえ」
メイ「いやぁ!!・・・・やだぁ、ふぁあ!」
チップ「はっ糞餓鬼がっ」
メイ「やっやぁ・・・・」
チップ「いつまで喘いでんだよ」
メイ「や、山田さーーーーーん!」
チップ「こ、こんなトロい奴にーー!」
ウィナー・メイ。
メイ「はぁっ・・・はぁ・・・楽勝だねっ!!」
ジョニー「やかましいッ!うっおとしいぜッ!おまえら!」
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