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 夕飯を食べ終え、そろそろ風呂にでも入るかと重い腰を上げた時、大吾の膝上に座っている皐月と目が合った。
 何となく言わなくてはいけないような気がして、
「一緒に風呂に入るか?」
 返事はきっと決まっている。
 大きな瞳を輝かせて、『うんっ』と元気に言う筈だ。
 皐月を風呂に入れるのは面倒でもあったが、たまの家族サービス。普段、触れ合いたくとも中々出来ない皐月とのスキンシップだ。
「やっ!皐月、パパと入らないの」
 しかし、返って来た言葉は大吾の予想を大きく外してくれた。
「何でだよ」
 大吾は振り向いた皐月の額を指で軽く弾く。
 その場にいた全員は皐月の急な父親離れに呆気に取られているようだ。固唾を飲んで親子の遣り取りを見守っている。
 皐月は弾かれた額を撫でながら、頬を膨らませた。
「だって、パパきたないんだもん」
「なっ……」
「あしたから、皐月のおようふくパパといっしょにあらわないでね。あらったらメッ!!なの」
 まるで女子高生のような事を言う皐月に、大吾は信じられない者を見るような目で皐月を見つめる。
 今の今まで大吾の後を付いて歩いて、幾ら大吾が邪険に扱おうともチョコチョコと付いて回る。しかも嬉しそうな笑みを浮かべて。
 そんな大吾大好きな皐月が、いったいどんな心境の変化だ?と皆が皆訝しく思っている中、大吾は荒々しく席を立った。
「ああ、ああ、汚くて悪かったな。頼まれてもお前とはもう一緒に風呂なんか入ってやらねーからな!!」
「うん。けっこうなの」
 威勢よく捨て台詞を吐いた大吾だったが、皐月の無情な一言によろけて柱に頭をぶつけてしまった。

 風呂から出て寝酒の一杯でもやろうかと冷蔵庫からビールを出し、リビングへと向かった。その足が、リビングに入る手前でピタリと止まる。
「よぉ、大吾。ひっさしぶりやのぅ?」
 気軽に右手を挙げて挨拶をする、大阪訛りの大柄な男。
 まるでこの家の主だと言わんばかりにソファーの真ん中に陣取って、皐月を膝に乗せて寛いでいる。
どうやってここに来たのか?誰が家に上げたのか?この男も自分と同じで、正月は何かと忙しい筈だ。
「お前、どうやって来たんだ?」
 大股で近付き、男の胸倉を掴んで無理矢理立たせた。
 家の主の様な顔をしてふんぞり返っているのも気に食わなかったが、それよりなにより、皐月をまるで自分の娘の様に膝の上に乗せているのが気に食わなかったのだ。
「パパ、龍司おじちゃんいじめちゃメッ!」
「そやで。未来の息子に対して、あんまりな扱いやんか。なぁ?皐月」
 聞き逃せない単語を拾い、胸倉を掴んだまま力任せに龍司を揺すぶった。
「な、誰が『未来の息子』だ!テメー、っざけたこと言ってんじゃねーー!!」
「いやいやいや、お義父さん。ホンマのホンマにわしと皐月の仲を認めて貰おう思って、こうして新年早々、東京にわざわざ来てまんのや」
「認める訳ねーだろ!!何で俺が、同い年の野郎に『お義父さん』って呼ばれなくちゃなんねーんだ!!」
「パパ、龍司おじちゃんと皐月……みとめてくれないの?」
「誰が認めるか!!」
 冗談にしては性質が悪過ぎる。否、真実であるなら尚更悪い。
 体中から嫌な汗が出て来る。
「大吾。ここで皐月ちゃんと郷田が結ばれれば、日本の極道の頂点にお前はなれるんだぞ」
 どこから入って来たのか、柏木・桐生がいつの間にか大吾の後ろに立っていた。
「ふざけんな!娘犠牲にして、取った頂点なんざ嬉かねーよ!!――大体、桐生さんあんただって、皐月が嫁に行くのは嫌だろうが」
 桐生に話を振ると、桐生は目に手を当て、何かに耐えるように歯を食いしばりながら、
「お、俺は……皐月が幸せならそれで……」
 肩を震わせながら、搾り出すように言った。
 泣いてんじゃねーか。半ば呆れながら、大吾は昔憧れた男の背中を見つめた。
「とにかく、絶対に俺は反対だからな!!反対だ、反対!!どうしてもって言うなら、俺を殺してからにしろ!!」
「パパ、おとなげないの」
「しゃあないなぁ、皐月。ほな、駆け落ちでもしよか?」
「かけおち!?」
「そや、わしと二人手に手を取って大阪の近江本部まで駆け落ちや」
「うわーーい!!かけおちなの!龍司おじちゃんといっしょなの!!」
「こら、待て、皐月。誰が龍司なんかにやるって言った!?」
 大吾の怒号を背に受けながら、二人は仲良くスキップしながら堂島家の玄関から出て行った。
 スキップ?関西の龍が幼女とスキップだって?色々な意味で夢であって欲しいと祈りながら、大吾は消えて行く二人の背中に向かって絶叫する。
「待てコラ、皐月ぃぃぃぃぃぃ!!!!!」

「……ぜ、たい……。嫁になんか、行かせない、からな……」
「パパ、パパ、おきてなの。おこたでおネンネしてると、おかぜひいちゃうの」
 小刻みに揺す振られて、大吾は跳ね起きた。
 目を開けた先に、皐月がいた。自分を心配そうに見下ろしている。思わず、手を伸ばして力任せに抱き締めた。
「夢、かよ」
 ホッと胸を撫で下ろす。
 夢であって良かった。否、あんな事は夢以外に有り得ない。それを現実と思ってしまっていた自分の愚かさに涙が出て来る。
「パパパパ、くるしいの!桐生のおじいちゃんたすけてなの!!」
「桐生の、おじいちゃん?」
 桐生という単語を聞いて、瞬時に頭が覚醒した。ガバッと勢いよく体を起こして辺りを見渡すと弥生に遥、桐生に柏木に薫までいる。恐らく年始の挨拶に来たついでに、皐月の顔を見に来たのだろう。柏木と桐生はすっかり、皐月のおじいちゃん振りが板に付いている。
 皆が何故だか生温い視線を自分に向けているのは気のせいだろうか?
「まぁ、大吾も年始の挨拶やら何やらで忙しかった訳ですし、姐さんここは一つ大目にみてやって下さい」
「娘を手放す気持ちが少しは分かった様だな、大吾?」
「それにしても、うちのお兄ちゃんと皐月ちゃんが結婚やなんて……。お兄ちゃん何気にロリコン設定されてるし」
 いや、まさか。夢の中で言っていた事、まんま寝言で言っていたわけないよな……。額からと言わず全身から嫌な汗が噴出して来る。今度こそ現実に。
「あのね、パパ。皐月、龍司おじちゃんだいすきだけど、もっともっとパパのことだいすきだからおよめには行かないの」
 大吾はがっくり肩を落とした。
 やっぱりすべて寝言で言っていたらしい。それもこの面子の前で。
 新年早々最悪の事態に、最早何を言う気力もない。
「まさか、これが初夢って言う訳じゃないよな……」
 滅相にもないことを口の中で呟き、力なく笑う。が、どうにもこうにも払拭出来ない思いを抱え、大吾は深く項垂れる。
 一体、どこからが夢なのかそこからしてあやふやだ。
「皐月、一緒に風呂に入るか?」
 まさかと思いつつ、勇気を振り絞って聞いてみる。
 これで嫌だと言われた日には、どうしようもない。皐月は桐生の膝の上に座り、窺うように桐生を見上げた。
 何だか分からないが、とてつもなく嫌な予感がする。
「悪いな、大吾。皐月はさっき俺と風呂に入ったんだ」
「そうなの。桐生のおじいちゃんとはいったの。だから、パパとはいっしょにはいらないの」
「さっき、あんたが炬燵でうたた寝している時に入ったんだよ。皐月ちゃんがあんたを一生懸命起こしたのにあんたは起きやしなかったからね」
「またこんど、いっしょにはいってあげるから泣かないでパパ」
「泣いてねーっつーの!!」
 しかもまたもや、上から目線。
 あの夢といい、今年も皐月に振り回されそうな一年になりそうだ。
 
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