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筋肉番付(TRIGUN)


 
「ワイは本気や」
 ごつごつした顎を撫でるように手を遣り、牧師は呟いた。
「俺も本気だ」
 ガンマンは拳を握りなおしながら呟いた。

「―――行くぞ」
 二人の男はザッと立ち上がった




「何話してるんでしょうね、二人とも」
「遠すぎて聞こえませんわ」
 曲がり角の壁から、保険屋大小コンビは身を乗り出しすぎるほど乗り出していた。ミリミリと軋む柱に全体重をかけつつ、顰めれば顰めるほどよく聞こえるのだという風に眉根を寄せている。
 後ろを幼い子供が歓声を上げながら通り過ぎていき、
「あ、どこかに向かってるみたいっす」
「追いましょう、ミリィ!」
「はい!」
 どたどたとアンバランスに二人は走り出した。
 長さの違う二人が動く様子は合ったり合わなかったりでセットで見ると操り人形のようにさえ見える。
 こんな具合だが、気は絶妙に合うのが二人のいいところである。
 同じようにピタリと立ち止まり、二人が見上げた空には垂れ幕がはためいていた。


『来たれ、腕に自信のある者!』


「何のお祭りなんでしょうアレ」
「さあ」
「とにかく行ってみますか」
「何か起こってないといいんですけど……」
 刹那、わあっ!と人垣が盛り上がった。
 ごそごそと人並みをかき分けて無理な体勢から顔を出した保険屋二人は少しだけ驚いた。
 屈強な男同士が至近距離で見つめあい腕を絡める。
 向かい合う髭と髭が触れんばかりである。
 それを見守る緊迫感溢れる空気も、いやがおうにも舞台を盛り上げていた。
 真剣な様がなんともいえない光景である。
 横に積まれた$$袋からはみだした札束は賭け金か賞金か。
「―――腕相撲、みたいですわね……」
「……そうですね」
 暫く保険屋は$$袋をじーっと眺める。
「そういえば私達、お金ないっす……」
「腕相撲は社則にはひっかからないですわよね」
 保険屋の目が怪しく光った。
「参加者二名追加ー!!」
 ダミ声が空に轟き、ゼッケンをつけた二人は腕相撲大会への切符を手にしたのである。




「イヤー腕が鳴りますね!」
「勝利は私達のものですわ」
 ボキボキ指を鳴らしていると背中が誰かとぶつかった。
「あら?」
「アリ?」
 牧師とガンマンと保険屋は数秒見つめあった。
「何でキミタチが?!」
「参加者です~」
 ゼッケンを嬉しそうに見せびらかす保険屋に、ガンマンは自分のゼッケンを見おろした。
 牧師は煙草をふかしながら、今まさに熱い男の戦いが繰り広げられている場所を眺めやる。
 さすがに腕力自慢ばかりが集まっているのか小型の樽ほどもある腕をしているものまで居る。
「半端に出たら一瞬で腕折られてまうで……」
 熱さの為ではない汗が牧師の鼻頭を滴り落ちた。
(―――止めなければ)
 二人の男は一瞬アイコンタクトを交わした。
 絶妙のコンビネーションでピコピコと説得を開始する。
「だからさ、女の子にそんな事させられないだろ」
「せや。危ないんやて」
 彼らの言葉もどこふく風。保険屋は軽いストレッチをはじめた。
 もうすっかりやる気満々である。
 次の参加者を呼ぶ声と空砲が響き、保険屋の出番もそろそろのようだ。
「そろそろ行きますか」
「そうですわね」
「嬢ちゃん、考え直せや!」
「ソウソウ、今からでも遅くないヨ!」
「―――大丈夫ですよ」
「心配要りませんわ」
 保険屋は、なかなか説得には応じてくれない。
 こうなれば力ずくしかないか、と牧師とガンマンは苦い顔をする。



「いくら力持ちってったってな。元々の力の差っちうもんが」
「―――あるんですか?」
 がし。

「腕を折られちまってからでは遅いんだ!」
「細くても威力は十分ですわよ」
 ぐい。


 そして男達は石になった。
 男の浪漫とでも言うべき女体の柔らかさはそこには無く、ただ硬い筋肉の弾力だけが彼らの手を押し返していたのだ。
「……!?!?!?!」
「……!?!?!?」
 二人の間を声無き動揺が走り抜ける。
 心配など最早無用。
 言葉をも打ち砕く「強さ」だけがそこにあった。

『WINNER ミリィ・トンプソン!』
『WINNER メリル・ストライフ!』

 口笛が鳴る。
 拍手が沸き起こる。
「ホンマに勝っとるで、あの嬢ちゃんら」
「……イイ腕してるよホント」
 掴んだ感触を信じられないといった風にガンマンは握る仕草をする。
 先ほど掴んだ上腕筋が忘れられない。
 牧師は何本目かの煙草の吸殻を靴裏でにじった。
 先ほど掴んだ肩筋が忘れられない。


 牧師とガンマンは同時に深く溜息を漏らした。



 結局、途中まで順当に勝ち抜き優勝候補だった牧師とガンマンは謎の辞退をとげ、大穴で保険屋が勝利することとなった。
 勝利者の笑みを湛えた二人はガンマンと牧師を引き連れてそのまま近くの酒場へ向かう。
「一杯おごりますよ」
「すまんな……」
「どうぞお気になさらず」
「そうするよ……」
 風でバタバタ開閉を繰り返すドアを肩で押して保険屋が行く。
「マスター!セイロンティーとガトーミルフィーユ5人前!」
「バナナサンデー大盛りで!」


 バスンと重みで底の抜けた袋から$$札が舞った。

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